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規格外な悪役令嬢は領地を救いたい!〜恋愛?そんなものよりも領地を救う旅に出ますわ!〜  作者: ぶるどっく


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第三十一話



 波乱の舞踏会が終幕した王の寝室。


「……陛下……パトリックさま」


「ミリアンヌ……我が王妃よ……」


 寝台に二人で入ってからというもの、横になることなく座ったままのパトリック。

 何かを考え込んでいる姿に、アルフレッドに似た美しい面差しのミリアンヌの顔も曇る。


「……今宵の舞踏会は、様々な思惑が交錯し……大変なものとなったね。」


「そう、ですわね。

 ジャンドラ大臣も……裁きは免れません。」


 他国の王族への非礼だけでなく、その娘が王太子の婚約者へと行った嫌がらせ。


「……やっと……アルフレッドも、向き合い始めましたのに……」


 完璧だと謳われながらも、婚約者への対応は欠陥だらけだと知っていたミリアンヌ。

 一歩進んだかと思えば、それ以前の問題ですらあった。


「……ヴェノム侯爵がいなかったんだよ」


「……え?」


 ポツリとこぼしたパトリックの一言が嫌に響いた。


「子息であるハロルドは居たのに、侯爵であるバーバリアンは居なかったことが気になっているんだ……」


「……それは……」


「欠席の知らせもなかったのに、所詮はヴェノムと他の誰もが気にも留めなかった。

 …………ヴェノムに、"何か"が起こったのだ。」


 戸惑うミリアンヌに、パトリックは表情を固くする。


「その通りでございます。

 ……その程度は察して頂ける理解力は有ったのですな。」


 静かに開いた窓から夜風が吹き込み、カーテンが揺れる。

 窓の外に立つ大柄な男が月明かりに照らされ、室内に


「っ……だれっ」


「ヴェノム侯爵、かい?」


 叫びそうになったミリアンヌを制して、パトリックが大柄な男へと声を掛けた。


「夜分に失礼します、陛下。」


「…………」


 バーバリアンの姿をはっきりと見た瞬間に、パトリックは心を引き締めた。

 

「(……違う。

 今までの彼とは……何かが、違う……)」


 相変わらず熊のような体格に、モジャモジャの髭は変わらない。

 しかし、穏やかな山男のような……悪く言えば、呑気で人の良さを食い潰されるような愚かさが消えていた。


「ヴェノム侯爵……何が起きたのか、聞いても良いかい?」


 ……何かが、変わる。

 王であるパトリックの預かり知らないところで、変わってしまう。

 

「"何が起きたのか"」


 パトリックとミリアンヌが知っているバーバリアンは、人の良い笑顔を浮かべている人物だった。


「そう、お尋ねになりますか……王よ。」


 無感情に……いや、その瞳は怒りが燃え滾っている。


「……っ……ヴェノム侯爵……?」


 パトリックは、バーバリアンが放つ怒りに息を呑む。


「パトリック王よ、貴方様は我がヴェノム侯爵領に難民を押し付けることを"是"となさりました」


 ヴァイオレットが旅を経て得ることが出来た金銭は、ヴェノム侯爵領民が厳しい冬を越えるための貴重な資金となった。

 

 不必要な金銭のすべては、国庫へと返したというのに……ヴェノム侯爵家に、支援金という名の首輪を嵌めるために難民を押し付けた王国の首脳陣。


「押し付けられた難民達が、我がヴェノム侯爵領民を害しました。」


 厳しい冬を越すために節約をするヴェノム侯爵領民達。

 

 食料を分け合い、有事に備えて木の根や昆虫も食料として考えているヴェノム侯爵領民達。


「我が領民達にとって、木の根も、虫も、トカゲも、ご馳走です。

 人間の食べ物を寄越せ、腹が減ったという難民の男に、自分の食べる食料の木の根を差し出した幼子を突き飛ばし、怪我をさせる。」


「っ……」


「……そんな……」


 ヴェノム侯爵領にやって来た難民達は、木の根や昆虫を食べる領民達を馬鹿にし、卑下した。

 領民達の貴重な食料や住居を奪おうとした挙句の果てに、領民の幼子に暴力を振るったのだ。


「我が娘、ヴァイオレットへの非礼の数々は……まだ耐えましょう。」


 本当ならば、それも怒りたかった。

 だが、建国時より王家に仕える一族として、貴族の一人として耐え忍んだ。


「だが……我が領民への加害は決して許しませぬっ!!」


「ひっ……!」


「……!」

 

 苛烈な覇気にミリアンヌは小さな悲鳴を漏らし、パトリックは目を見開く。


「建国の王と、我がヴェノム侯爵家の初代当主は無二の親友だった。

 それゆえに、光の魔力をサンライト王国の国土に遍く届くように調整する役割を承りました。」


 光の魔力が強い歴代の王族達が魔力を注ぐ魔法陣の入り口が王家。


 光の魔力がサンライト王国全土に均等に広がるように調整する出口の役割を担ったヴェノム侯爵家。


「年月の経過と共に減少した光の魔力。

 それを補うために、我がヴェノム侯爵領は光の魔力の恩恵を手放した。」


「…………そう、だね。

 余は……知っていた。

 いや、余だけではなく……数代前より続く王家の魔力低下。

 その尻拭いをヴェノム侯爵が担ってくれていたことも……」


 光の魔力を持って生まれるサンライト王国の王族達。

 しかし、光の魔力を持つ王族の数も、質も、どんどん低下していった近年。

 足りない光の魔力を補うために、ヴェノム侯爵領の光の魔力が犠牲となった。


 そして……ヴェノム侯爵領の犠牲は何年も、何十年も、百年以上も続き、どんどん貧しい土地へとなっていったのだ。


 そんな状況で、百年以上ぶりに強い光の魔力を持って産まれたアルフレッド。


「……サンライト王国が誇る豊かな大地を維持するためには、アルフレッドの魔力だけでは焼け石に水。」


「王太子殿下の魔力だけでは、到底足りませぬ。

 ……陛下が我が娘との婚約を反対しないのは、我らへのご機嫌取りも有ったのでしょうが…………逆効果でしたな」


「……貴族たちの悪意が……此処まで育つとは……」


 ガックリと項垂れるパトリックを、バーバリアンは冷たく見据える。


「知ったことではありませんな。」


「っ……」


「我が領地に難民を送り込む……その案に反対し切れなかったことも。

 貴族の顔色を窺い、貴族の力の均衡を保つと言いながら、御し切れ無かったのは陛下御自身だ。」


 舞踏会が始まる数時間前に届いたヴェノム侯爵領よりの一報。

 それには、難民にヴェノム侯爵領の幼子が傷付けられたことをが書かれていた。


 そして、その一報をまだ知らないハロルドとヴァイオレット。


 ……だが、聡い子供達は既にヴェノム侯爵領で何かが起こったことは悟っているだろう。


「サンライト王国、パトリック国王」


 バーバリアンは、腹を決めた。


「今宵、今この時を持って、我らヴェノム侯爵家は、建国の誓いを破棄させて頂く。」


「ヴェノム侯爵っ……!」


「っ……!」


 パトリックが狼狽し、ミリアンヌは息を呑む。


「我が娘と王太子殿下の婚約も破棄する。

 公式で発表されずとも、我らは破棄したと認識し、そのように動きます。」


「待てっ、待ってくれ!」


 背中を向けたバーバリアンに、パトリックが手を伸ばす。


「今後は、王国のツケは自分達自身で支払うが宜しかろう。」


 闇のなかに溶けて消えるように、バーバリアンの大きな体が消え去ってしまう。


「ヴェノム侯爵っ!!」


 慌てたパトリックが、縺れそうになる絵師を叱咤してバーバリアンを追い掛ける。


「…………っ」


 だが、窓の外には静かな夜の闇だけが広がり、人の姿など見えはしなかったのだった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


ヴァイオレットの領地再建と、アルフレッドとの恋の行方を「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや☆☆☆☆☆評価で応援していただけると嬉しいです。


皆さまからいただく応援が、続きを書く力になります。


これからもヴァイオレットたちを見守っていただけましたら幸いです!!

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