第二十二話
南国の海を思わせる透き通った青い髪。
珊瑚のように赤い頬。
海の宝石のように輝く翠の瞳。
「ヴィー!
お会い出来て嬉しいです!
歓迎のパレードとか、色々ありましたけど!
ボクは、ヴィーの姿がなくて悲しかったです!」
「マリーナ!
国の行事にはあまり呼ばれないとはいえ、出迎えも出来ず申し訳なく思っておりますわ!」
「良いのです!
舞踏会にもヴィーが来なければ、王城など飛び出して会いに行くつもりでしたから!」
アルフレッドとスコルピオスを押しのけて。
ヴァイオレットと少女がしっかりと抱き締め合う。
「だって、ボク!
この国の人間の大半が嫌いですから!」
笑顔でサラリと爆弾発言をした美少女。
シーナ海底王国の末の王族。
マリーナ・ペルル・シーナ。
「まぁ、そうですの!
私と一緒ですわね!
でも、私の悪友は胸を張って素敵な人間だと紹介できますわ!」
「あは!
その悪友とは、第二王子殿下のことですよね?」
「まあ!どうして分かりましたの?!」
人間嫌いの人魚たち。
その人魚達の王国。
シーナ海底王国の中でも人間嫌いで一、二を争う末の王族マリーナ。
可愛い顔して毒を吐くマリーナに、ヴァイオレットは悪友であるカーマインを紹介するつもりだった。
「実は……その方のことで相談もあると言いますか……」
「マリーナ?」
可愛らしい顔を薔薇色に染め上げ、瞳を伏せるマリーナにヴァイオレットは首を傾げてしまう。
「ヴィーは、知っているでしょう?
人魚の王族は、海神の加護を受けて性別を持たずに生まれることを!
そして、成人後に番を定め、初めて性別を選ぶんだけど……」
「ええ……だからまだ、マリーナは便宜上姫と呼ばれることが多いですけど、王子でもあるのですよね?」
「そうです!
ボクはヴィーと出会って、ヴィーを番とすれば楽しいだろうなって!
ヴィーと一緒なら、雄を選択しようかと思っていました!」
明るい笑顔のマリーナの言葉に、アルフレッドの眉がピクリと動く。
「マリーナ姫、ヴァイオレットは私の婚約者です。
貴女の番になることは有りません。」
「え?
ヴィーをずっと放置して、好感度ゼロ以下なのに?」
ヴァイオレットとの会話に割り込んできたアルフレッドに対し、マリーナから明るい笑顔が消える。
感情が抜け落ちた真顔で呟かれた言葉が、アルフレッドの胸にグサリと突き刺さった。
「てゆーかさ。
大好きなヴィーとの会話に割り込んでこないでよ、人間。
番も大切に出来ない野郎は、お呼びじゃないんだよね。
ボク達、人魚族は番を大切にする生き物だからさ…………番を放置する奴とか、有り得ない。」
「………………言い訳はしない」
一番痛い部分を突き付けられて、アルフレッドは撃沈する。
過去に戻れるならば、あの頃の自分を殴りたい……!
「その辺にしといて下さいませ、マリーナ。」
「ヴァイオレット……」
まさか……ヴァイオレットが己を庇ってくれたのか、とアルフレッドの顔に光が差す。
「一応、七年前から婚約者では有りますが、互いに恋愛感情など皆無でしてよ。
最近は頭でも打ったのか言動が可笑しいですが、どうせすぐに戻りますわ。
万が一にでも、婚姻を結ぶことになっても世継ぎは側室が産めば良いですから。
私のことは放っておいて欲しいので、白い結婚を望みますわ!」
「………………側室……白い、結婚……」
控えめに言って、絶望した。
「…………自業自得とはいえ、光の皇太子が形無しだな。」
「………………」
顔色を青くして、ガックリと項垂れるアルフレッドにスコルピオスが憐れみの目を向ける。
「人間の恋愛感はよく分かりませんが……?
子孫を残す目的でのみの関係ならば、番では無いにも関わらず、表向きは番を演じなければならないなど……拷問ですか?」
「人間というよりは、王侯貴族などの権力を有する者の特徴と言えるかもしれません。
恋愛感情など無くとも、お互いの家の利害が一致すれば子孫を残す行為を行う。
もしくは、下の立場の相手ならば一方的に搾取しても構わない。
まさに、海の生態系における弱肉強食ですわね!」
「それならば、納得がいきます!
ヴァイオレット個人は強くとも、家柄的なもので逆らえないから従っているに過ぎないということですね!」
笑顔のヴァイオレットとマリーナの会話が、鋭い矢のようにアルフレッドへと突き刺さる。
「まあ、光とは名ばかりの皇太子も、王国もどうでも良いです!
ボクやシーラ海底王国は、ヴィーと親交を持ちたいだけで…………それ以外の人間に興味などありません。
必ずしも、国家間の親交を必要としていませんし。」
そちらも同じでしょう、とスコルピオスをチラリと見るマリーナ。
「同じく、だな。
我がオリースト帝国も、サンライト王国と親交を結びたいのでは無い。
そんな物は、愛しの砂漠の乙女と親交を結ぶ序でに過ぎん。
砂漠の乙女、ヴィーと親交を結べるならば、サンライト王国など必要ない。
……………最も、サンライト王国側からすれば……そうではないだろうが、な?」
「ですね!
サンライト王国の経済は行き詰まり傾向です!
何処か、新しい経済圏を見つけたい所に振って湧いた二つの国との貿易!
渡りに船とばかりに乗り込もうとしてますけど…………その船が迎えに来たのは、お前達じゃねえよって感じですね!」
まるで息の合った兄弟のように、スコルピオスとマリーナか鼻で嗤う。
「ま!
サンライト王国の未来なんて、人魚の私にはどうでも良いのですが!
そんなことよりも!」
翡翠の瞳を輝かせたマリーナが、ヴァイオレットへと身を乗り出す。
「先ほどの続きです!
ヴィーは、その……悪友の第二王子殿下に対して、恋愛感情は抱いておりませんか?!」
「第二王子殿下に対してですか?
恋愛感情ではなく、友愛ですわね!」
キッパリと答えたヴァイオレットに、マリーナの頬が薔薇色に染まる。
「それでは!
ボクが第二王子殿下へ求愛しても構いませんね!」
「まぁ!マリーナ!
第二王子殿下のことを……!」
「もうすぐ成人なのに、ビビッと来なくて……。
皆の言う、本能が番を知らせてくれるということが分からなかったのです!
だがら、ヴィーのことを大好きになった時に、これが本能なのかと思っていたのですが……」
恥ずかしそうに。
嬉しそうに、マリーナは恋する乙女の表情で微笑む。
「第二王子殿下を一目見て、ビビッと来たのです!
ボクの運命の番は、サンライト王国の第二王子カーマイン殿下だと!」
「マリーナ!おめでとうございます!
第二王子殿下の素敵さは折り紙付きですわ!
家族や領地の者達を除いた、このサンライト王国で一番大好きな悪友です!
それこそ、この王国一の良い男ですわ!」
マリーナと両手を繋ぎ、友人の恋に飛び跳ねそうなほどに喜ぶヴァイオレット。
「(…………ヴァイオレットにとって、カーマインが王国一の良い男…………)」
恋しくて堪らない。
振り向いて欲しい女性の評価がもの凄く高い実弟が羨ましくて堪らないアルフレッドだった。




