第9話 幸運の招待状
――数ヶ月前
男が追われており、突き当たりまで走る。
角を曲がったあたりで、銃声が聞こえる。
重苦しい音が響きわたる。
男に数ミリで当たらずに済んだのだ。
靴の音か、それとも心臓の音か。
心臓は悲鳴をあげ、顔から汗が吹き出る。
視界の中には、青い扉が開いていた。
太陽の光は、輝いているのにもかかわらず、今の状況では、希望と絶望が入り混じる。
外に出られるように、さらに足の負担をかける。
足がズキズキと血液の圧力が状況を物語っていた。
走って、船の広いところに出たあたりで、船は爆破された。
男の行方は知れず、闇に堕ちていく。
何も知らないまま、乗客は見知らぬ人と運命を共にすることになった。
もしもこの話と似た未来を知ったなら、貴方は、どうしますか?
これは……守護霊と少女、その母親がどう解決していくか、あるいは出来ないのかを見守っていく、そんな話――。
朝の日差しが友香里の部屋に差し込む。ドアが開き母が声をかける。
「友香里ー、朝ごはんですよ、起きてください」
母が、私を起きるように、カーテンを開けて、暗闇から脱する。
「お母さん、おはよー、あれ? そんなに寝てた?」
「そうですよ、今日は出かける予定だったでしょう?」
母は、寝ぼけてるのね、と先に階段を降りる。
「あ、待ってー」
母を急いで追いかけて、リビングに着いた。
守護霊様な気がするうちのペット、ハクがご飯を食べている。
母特製らしいが……大丈夫だろうか。
ハクが母と視線を合わせないようにチラチラ見ていた。
何かあったのかな。
リビングには、母が蓋を開けると味噌汁の匂いで充満する。
幸せな匂いだ。
『友香里、大事な話があるんです。よければ、船へ行ってみませんか? 合格祝いです。大学へ受かったので……。それに、うちの家には、そんなお金がない、と思ったかもしれませんが、安心してください。なんと、くじ引きで当てちゃいました! ですから、2人で行きましょう』
『お母さん……本当? いつ行けるの?』
『そうですね、1週間後ぐらいです』
『分かった……楽しみだー』
……というやり取りをしたのは、数日前のことだ。
まさか、こんな早く過ぎ去るとは。
そして今日、私たちはその船に向かおうとしている。
ハクがこちらを見て、何かを訴えるかのように羽をバタバタさせていた。
何かを予感する。
「ハクも連れて行ってもいいー?」
母に同意を求め、母も頷く。
「いいですよ、友香里の肩にでも、乗せていきましょ。だいぶ懐いたようですし」
母は明るい表情で、ハクのことは警戒していない。
「はーい」
一同は準備を始める。
ハクは、キラキラとした目をして、羽を大きく見せた。
緑色の目はエメラルドのようで、羽は、水辺にいる白鳥のように美しい。
まさに、遠くから見る海のように、反射して光っている。
「それにしてもさ、お母さん、どこのくじ引きで当てたの?」
不思議そうな顔でお母さんの顔を見つめる。
「ああ、それは……スーパーでね」
紅茶を飲みながら、優雅に答える。
「おおー! 確かに、あそこのスーパー時々そういうことやるもんねー」
同意してくれたことに内心、母は安心し、私は尊敬の眼差しを向ける。
「そうなんですよ、それに……友香里にとっては意外かも知れませんが、私が当てるのは稀なんですよ。なにしろ、私は運が悪いです。だからよく言われるんです。私は……死神だと」
私は母のことを心配し、母は自虐の様子だ。
紅茶を飲みながら、どこか遠くを見るような目を母はしている。
「まじか……そんなことないからね! しっかりしてー。まぁ、お母さんは死神じゃなくて、エンジェルだから。多分」
なんとかフォローするが、空気は静まったまま。




