表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
願いの外交官  作者: トコトコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/9

第7話 黒塗りの本

「友香里、起きたのね。実は……本によるとね、七節鳥は、神格を持つ存在が姿を変えて現れたものだそうよ。昨日は何だか眠そうだったし……私一人で調べておいたの」

 母は本のページを開き、「ここ」と指を指す。確かに、七節鳥に関する情報が書いてある。そこには、警察や事件の資料のように黒塗りがほとんどだった。ところどころが黒く塗り潰された、異様な資料だ。まるで、誰かにとって不都合な事実を隠蔽したかのようだった。

 「やばくない? ……黒塗りが多いけど、何かの資料なの?」

 「ふふ、高かったのよー、これ。わざわざ知り合いのつてでこれを持ってた人に会って、譲ってもらったんです」

 「ふーん、嬉しかった?」

 「それは、もちろん」

 愛おしそうに本を見つめる母は、少し埃を払った後、本を棚に戻すと、そのままリビングへ向かった。私も気になることが多くて、その後ろを慌てて追いかけた。母にこんなスピリチュアルが好きな一面があったなんて意外だ。

 「まさかお母さんがスピリチュアルを好きなんてー」

 「そんなに意外でした?」

 「そりゃあねー」

 母は意外そうに目を丸くしたが、すぐにいつもの穏やかな表情に戻った。リビングに戻り、ハクはこちらを待っていたかのように、よく鳴く。

 「ハクって可愛いねー。よしよし」

 「私も触りたいですね」

 母の言葉に反応したのか、ハクは羽を膨らませる。母によーし、よーし、と撫でられると心なしか嬉しそうだ。

 『何も……得られなかった。何も出来ない自分が嫌いでした。誰かのことを想いながら……いつまでこんなことを続けなきゃいけないんだろうって。でも、気付いたんだ。明日香さえいてくれれば……■■■■は』

 ――え? 今、誰かの声が聞こえた?

 ハクがピタッと動きを止めた。

 お母さんが一瞬だけ鋭い目つきをした……ような。

 

 明日香にもはっきり聞こえていた。

 自分の夫の声……まだ居るのか、と明日香は呆れ気味だ。

 

 「友香里……友香里? どうかしたのですか、ぼーっとして。まだ眠り足りないのなら昼寝でも……」

 「あ、ああ、大丈夫だよ。お母さん……あのね、私、鳥籠と、餌を買いに行きたい!」

 「ええ? 良いですけど……一緒に出かけましょうか」

 「わーい」

 ははは、やったー! お母さんとお出かけだー、とテンション上げ上げな私を見て、母は目を細める。口角が上がっているのか、口をきゅっとしているのか……。母が喜んでいるのは間違いなかった。

 「はっはっはっー、ついに来たぞー、ペットショップ! やはりね、こういう専門店的なところで買うのがいいんですよ、分かるかな、ワトソン君」

 「そうね、ホームズ君。ホームセンターの方が近くて良い気がしますが……」

 とお母さんが苦笑いしながら返してくれた。お母さんはいつもこういうノリに乗ってくれる。

 「いやいや、何をおっしゃいます?? ハクのためなら、最高級のものを用意しなきゃ」

 「ふーん、何かあったのですか?」

 母は口を尖らせ、ジーとコチラを見ている。

 「いや、えと、なんか神聖な存在に失礼あったらやばいし」

 「へぇ……」

 「買いに行かなくっちゃー」

 話題を逸らしつつ、中に入った。ペットショップは初めてだった。母はチャラそうな店員を見て冷ややかな視線を向けている。意外と顔に出るタイプなのだ。

 私が必死に探している姿を見て、母は財布の残金を確認する。


 明日香は、夫のことは今はあまり好きではないけれど、娘のことは愛している。


 私が尾羽の長いハクのために悩んでいるのを見て、母が口を開いた。

 「鳥籠! あったけどさ、尾羽が長いから、動けなくなりそうだよね」

 「まぁ、そうね。でも……放し飼いにするわけにも行きませんからね……それなら、私が作りましょうか?」

 「え? 作れるの!?」

 「ええ……頑張ってみます」

 ホームセンターに寄り道をして帰宅。数日後――

 「おはよう、お母さん……って、鳥籠が出来てるー!」

 「作ってみたわ、どうかしら……縦長にして、留まれるところを中に作ってみたけど……」

 縦長の鳥籠に、木で作られた家のようなもの。素晴らしい出来栄えだった。

 私の背丈ほどもある特大サイズだ。

 「すげぇ。これが母の力か。実質、ハクの育ての親になったわけだ。家主――それすなわち大家さん」

 「何を言っているの?」

 「いやはや、母に図工の才能があったなんて……このこの」

 「……実は昔、こういうのが趣味だったの」

 母は無表情ながら、どこか嬉しそうだった。私が「お母さん、ありがとうー」と伝えると、母は視線を逸らして床を見つめる。頬が少し赤らんでいる。照れているのだ。

 「こ、こほん。別にこれぐらい、なんて事ないです。というか、出来るようにしなくていいですからね。こんなこと」

 そっぽを向く母を私はジーと見つめる。ハクは不思議そうに遠くを見ていた。


 明日香はハクの正体に見当がついているようだった。

 「友香里がどうなっても、私が貴方を必ず助けて見せますからね」と心に誓う。

 

 「お母さん、良い顔してる?」

 後ろから声をかけられ、母はそのままの表情で振り返る。

 「どうして、分かるの?」

 「いや、なんとなく」

 母はやはり、穏やかな顔をしていた。空気が柔らかくなる時は、だいたい隠しきれずに出てしまうのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ