41話「獣が笑うと、旅人は騙される」
ある激闘を乗り越えた3人の少年少女達は大地を走る鳥類の上に乗って移動している。
思ってもいない足止めを喰らってしまったため1日1日を大事にしなければならない。昨日は殆ど休憩せずに走らせている。
先頭を走っている赤色のイグイースに乗っているのは藍色髪をした少女で黄色のカチューシャに、鉄製の防具で上半身には黄緑色の装飾品や足元まで伸びた布。両手には前腕まで隠す黒色の手袋で左腕には甲の部分にカバーが付いた軽装備を身に付けたリオという少女。
リオは度々後方を確認しながら着いてきているかどうかを見ている。振り向いた際に一番後ろを走っている人物が手を上げているのを見てから前を向く。
その一番後ろを走っているのは青色のイグイースに乗った人物が手を下ろす。その人物はフードが付いたローブを着て可愛らしい容姿をしており首までかかったピンク色の髪、そして頭部から獣耳が生えた中性的なカランという少年。
(クロイアとの戦いからもう一日。いや時間的に夕方だからもう2日経つ事になるのか)
王国からの刺客でやってきたクロイアという相手を撃退したのだが、リオとカランは大きく貢献出来ていない。
その戦いで撃退まで追い込んだ人物が灰色のイグイースに乗っている。リオとカランの間に挟まれているその少年は水色の上着を着て下半身にはグレーの半ズボンを履いた服装を着て首元には黄色のマフラーを巻いた。髪色が茶色寄りで短く少しツンツンして逆立っている髪型をしている輪道新太。
その新太は今。顔に狐の仮面を着けている。
本人は不服なのだが、何故仮面を着けているのかはクロイアとの戦いで起きた反動によるものを隠すために付けている。
その反動とは――。自身の感情が滅茶苦茶になってしまっているのだ。
「ねえ。これそろそろ外してもいいんでしょうか?」
「じゃあ今どんな表情と感情なのかを言ってみなさい」
「えーと外せない悲しみで多分表情はなんか笑ってる」
「じゃあまだ治ってないじゃない。寝て起きてもこの異変が治まってないなら他の人と話すとややこしくなるからまだ駄目」
「はあ~何でこんな事に…」
溜息をついてガッカリしている様子を見せているが、新太の表情は口元が強張っていて怒りの顔になっている。
(激情化の反動が感情の不一致によるものなら大したことは無いだろうけど、これが2度3度起こってしまった場合はどうなるのか…それは新太の存在はこの世界に居て良い者なのかは分からないな)
激情化とはこの世界にはバグの様な物であり大きな反動で感情を失ってしまうことであり怒りや喜びなどを失い一つだけの感情を持って生涯を終えることになる。人間性を失ってしまうかもしれない危険な状態だが激情化になった者は魔力の出力すらも上がる諸刃の剣なのである。
「もう日が沈んでる…私はそろそろ野営の準備に入りたいと思ってるんだけど2人はどう?」
「俺もそれでいいよ。ずっと走りっぱなしでそろそろ魔力が危ないかも。カランは?」
カランは何も言わずただただ無言で片手を上げるだけなので、肯定と捉えていいのだと理解する。
3人はイグイースを止めさせて野営の準備に入り始める。そこから火を起こし夜食を作ろうと道具を出し始めていく。
「う~ん」
道具を探している際に新太は自身の顔を触りながら唸っているのを見ていたリオは様子が気になって近寄っていく。
「何やってるのよ?」
「ん~?いや、早く戻って欲しくてめっちゃ触ってるの」
感情がぐちゃぐちゃになってしまっているので、何も哀しいことなのに新太は満面の笑みで笑おうとしているためまだまだ元に戻る気配は見えない。
(まあ私が同じ状況になっちゃっても同じ事をするだろうしなあ…そうだ!)
何かを思いついたリオは急いで王国を旅立つ前に用意した食材を取り出す。
「どうしたん?そんなガチャガチャ音出して」
「え?そういえば野営で私料理作ってないから作ってあげようかなって」
「「えっ」」
リオの言葉を聞いたカランも道具を地面に「ガタン」と落としてしまう。これまでリオと旅を続けて経験してきた事がある。
リオのセンスは何処かズレているのか、何も入れなくてもいいのに変な具材を入れたりと服のセンスがおかしかったりと目を離したら危ないことになると身を持って知っている。
新太は冷静に狐の仮面を着けリオの方を見てから口を動かす。
「いや。この先の事を考えると節約をしていかないといけない。ある程度はここら辺で食料を取っていく必要があると思う…そこでリオは取ってきて欲しいんだ」
「え?でもさ――。」
「適材適所だ。お前は集落で自然に囲まれた所で暮らしていたなら俺達が探すよりも多くを見つけられる。なあそうだよなあ!カラン」
「それに動物なんかいたら遠距離攻撃出来るリオの方が効率が良いからね」
「え~じゃあ…行ってくるけど…ちゃんと作っててよね?」
渋々リオはランタンを持ってこの場を離れていく。その背後で新太とカランは両手で「バチン」とハイタッチを交わしていた。
「まったく…人がせっかく優しくしてあげようと思ってたのに」
地面を見ながら食べられる野草などが無いか見渡していた。暗くなっていく中でそこまで遠出は出来ないため近辺で探すしかない。
「動物とか入れば良かったんだけど、流石に高望みしすぎかな」
落ちている木の実を拾い上げている最中、リオの鼻にツンとした血の臭いが鼻に付く。
リオは静かに立ち上がり灯りを前に出して暗闇の中を照らしてみるのだが、特に怪しい生物は見当たらない。
(この辺りで魔物が居たとするなら、動物を食べている。もしくは人間かのどちらか…少なくともこの辺りは離れた方がよさそう)
ランタンの炎を消してこの場を離れようとすると前方から何かが小走りで近づいてくる。
(足音的には2本足。魔物であっても人型である可能性は高い)
暗闇の中で黒く光る弓を取り出し構える。そして耳をすませていくと段々と息遣いが聞こえてくる。魔力で矢を生成して炎で辺りが照らされると左腕を失った青年が現れる。
そしてその青年は安堵と焦りを見せてその場に座り込む。
「た、助けてくれ!」
「何があったの?」
「ま、魔物が!俺達を襲ってきたんだ!!」
「一先ず私の仲間の所まで行こうと思ってるけど、歩ける?」
「た、頼む…早く仲間を…!」
「分かってる。でも貴方が本当の事を言ってるならね。それに私が勝手な行動して仲間に迷惑が掛かってしまったら元も子もないから。それでもいい?」
「ああ…分かった」
リオは青年の右側に周り肩を貸して歩き出す。しかしリオはいくら怪我人だろうとも警戒は怠らない。
この世界で旅をする者は、何を起こすのか分からない。彼が以前何処かで片腕を失くして、その状態を悪用して人を騙しているという事もあり得る。
「それで、貴方達を襲った魔物は?」
「暗くて分からなかったが、2本足や4本足で歩行してた。恐らく獣型の魔物だ」
「獣型…暗い…ねえ」
青年の目は興奮しているのか瞳孔が開き続いている。戻る道中でも宥めながら歩いていく。出来れば襲われた時の事を思い出せないようにしていく。
歩いていく先から料理のいい匂いがしてくる。それに伴って辺りも明るくなっていくので新太かカランのどちらかが視界をクリアにするためにしたのだろうとリオは理解する。
「アラター!カランー!ちょっとこっちに来て欲しいんだけどー!」
他の魔物に襲われるかもしれないが横に立つ青年はほっておくことは出来ない。
「そんな大声出したら襲われるかもなんだけど…誰?隣で怪我をしてる人は」
「カランか。私が探しに行ってたらこの人が現れたの。魔物に襲われたらしいんだけど」
「…見たところ片腕が無くなってるね。何で連れてきた?」
「まあ、出会ったのが私達の運の尽きってね。こんなの見たら後味が悪くなるし、何とかしておかないと私達の身も危ないでしょ?」
リオの言っている事は一理ある。遅い時間に襲われれば人より魔物の方が戦況は有利になる。
「まあアラタも同じ状況に出会ったら連れ帰ってくるだろうし。とりあえず戻ろう」
怪我をした青年を尻目に見ながらカランは進んでいく。そうしていくとしゃがみ込んで鍋をかき混ぜている新太がそこにいた。
「んあ?おかえり~リオ。その人誰?」
こちらに気付いた新太が上着の袖を伸ばして火傷しないように鍋を手に持っていた。リオの肩に片腕を失くした青年を見て『ギョッ!』とした驚いた様子で、手から鍋がするりと地面に落ちる。
「ああああっ!!しま――熱っ!アッチィ!」
手をブンブンと振って自分の手に息を吹きかけている新太の背中に蹴りを入れるカラン。自分達の夜食がたった今目の前で消えたことに苛立ち、新太の首を締め上げたりしている。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ…!」
「この人は魔物に襲われてこの有様なんだって。多分だけどこの付近の魔物をどうにかしておかないと私達も危ないかもなんだけど」
「な゛るほどねぇ゛…そんでもってごめんなさいカラン様~!」
「さっき言ってたけど暗闇の中で襲われたのよね?それは外で?」
「あ、ああ。外だったな。いきなりだったから正直記憶が曖昧になってて…」
リオは怪我をした箇所に包帯を巻きながら、その時の状況を聞きだす。落ち着いた雰囲気になりつつあるが、未だに目の瞳孔は開いたままだった。
「時間はいつ頃襲われたの?」
「い、1時間前ぐらいか。うん…それぐらいか」
「1時間前か。てことは夕方頃にならない?森の中だから日が差し当たりづらいかもしれないけど、まだ灯りが無いと見えない程じゃないと思うけど」
「……」
リオが笑顔のままで話しかけていくと空気が変わっていくのを感じていく。いつの間にか新太とカランの取っ組み合いは無くなって聞くことに回っていた。
「それに1時間前って言ってたけど片腕が無くなって1時間も応急処置もせずに歩き回れるかな?」
「……ぃ」
「それに。包帯とか巻いてたけど傷口から一切血が染み込んでいないし、ここまで来るのに一切血が地面に落ちている様子も無い。本当の事を言ってくれたら、何もしないけど?」
「……グォ!」
青年は沈黙に耐えきれずに右腕をリオに向けて突き刺そうと動きを見せたが、リオは軽く翻して避けると同時に回し蹴りを青年の顔に打ち込む。
「ミシィ!」と何かが砕ける音を発せられながら青年は回転しながら吹き飛んでいく。青年は舌を出して倒れていると、姿が変わっていく。
姿が歪んでいくように変形していくと、体毛が伸び始めていくと同時に体格が変わっていく。やがてその姿は人から獣へ。見た目は狼になり体長は2m程にまでなっていた。
「狼男!?」
カランが言う狼男は新太にも聞き馴染みのある単語だった。簡単に言えば狼が変身したりして騙す様な存在。
「よく気付くことが出来たな…リオさんパネェっす!」
「ここに来るまでにアイツの目が変だったのよ。それに1時間前って言ってたのに片腕を怪我して応急処置もしてないって無理があるでしょ」
「…騙すためにここに来たって事は奴らの仲間。群れが辺りに居るのか」
「なら急いでここから離れようぜ。暗くなってたら俺らには不利な状況になるぞ」
新太が止めてあるイグイースの元に近づいていこうとすると、暗くなっていった木々の中から「キラリ」と光る何かを見たカランはローブの中から武器を引き抜き、新太に近づいてくる投射された物を叩き落とす。
地面に落ちた物は10cm程の細い針で、それが新太の頭部目掛けて発射されていた。
「もう近くまで来ているらしい」
3人はイグイースを繋いでいる紐を切り離し、その場から逃がす。イグイースの習性には乗せていた人物と離れてしまった場合、イグイースは乗せていた人物を見守るという習性を持っておりその人物が倒されてしまった場合は逃げ去ってしまう。
今この場でこちらに向かって来る魔物を倒せば、自身達の元に戻って来るのだ。そしてリオとカランは自身の武器を手に持ち3人は背中合わせで身構える。
「なあ。狼男って奴は群れとか作る魔物なのか?」
「目撃例とかじゃあ基本的に5体程で形成されてるとは聞くけどね。だけどこいつらは姿を真似て直ぐに襲って来なかった所を見ると群れの中に切れ者がいるかもしれない」
「切れ者ね…」
身構えていると辺りを照らしていた照明が「パリン!」と砕かれ更に視界が悪くなる。そしたら直ぐに魔物の方から行動を起こしてきた。
「ズゴンッ」と地面から手が伸び始めリオの足首を掴み取ったと同時に姿を3人の前に現す。
「ああああっ!?」
足を持ち上げられ逆さまに吊るされた状態になったリオは、そのまま力強く投げ飛ばされる。
「リオ!」
地面にぶつかってバウンドしながらリオは木に打ち付けられる。新太とカランはリオを投げた者の方に視線を向ける。
そこに立ち構えていたのは先程リオが倒した狼男よりも体格が大きく。栗毛色で見た感じ4m程はあり、口からは生暖かい息を吐いている。
「まさか下から来るとはね」
「大丈夫か?リオ」
背中に痛みが走りながらも体を起こすリオ。呼吸を整えてから片手を上げて無事だと2人に伝える。
「こいつがリーダー各か。倒せば他の奴らは散っていくんだよな?」
「コイツがボスならね!」
「グオオオオオオオッ!」
栗毛色の狼男は魔力を込めた両手を地面に打ち込むと、地面が隆起し3人の中心まで進むと地中から姿を出し、サボテンの様に鋭利な針を無数に携えた球体が現れる。
3人は警戒をしようと視線をその球体見た瞬間、その場で回転し針を勢いよく飛ばしてくる。
カランは手に持っている剣で叩き落とす。リオは自身の前に炎を創り出して防ぐ。新太は足に魔力を込めて風を出し、上空に逃げる。
(魔法が使えるのかコイツ!)
上空に回避した新太は栗毛色の狼男を見ていると、左肩に痛みが走る。
「う゛っ!?」
視線を動かすと左肩に針が突き刺さっていた。新太は枝の上に乗ってから、動かすのに邪魔にならないように針を引き抜きその場に捨てる。
(別方向から撃たれた!?やっぱり遠距離で撃ってくる奴が居る!)
下の方ではあの大きな栗毛色の狼男が暴れている。ここで新太が遠距離で攻撃している方に向かうべきか3人で倒すべきか迷っている。
だがその答えが直ぐに出た。新太は枝から飛び降り栗毛色の狼男に飛び掛かって背中に蹴りを入れる。
栗毛色の狼男は少しよろけるだけであまり有効打にはなっていない。身体の一部を掴まれる前に新太は風の魔力を出して離れてカランの隣に移動する。
「大丈夫?肩から血が出てるけど?」
「ああ。問題はねえよ。それよりこの暗闇の中から撃ってくる奴をどうにかしたい」
「方角は分かる?」
「最初に撃ってきた方とは違う角度で攻撃されたから、もしかしたら移動してるかも。今からそいつを見つける」
新太は狐の仮面を着け直しつつ、自身の周りに風を出し『風域』を展開し始める。
「少しの間リオと一緒にあのデカブツを頼む。出来ればあまり離れすぎず戦ってくれるとやりやすくなる」
言われたカランはローブからもう一本剣を手に取り、リオの近くまで移動する。
「ズガッ!」「ドガッ!」っと聞こえてくる戦闘の音が耳に入って来るが、戦っている2人を信じて目を瞑る。今新太がすべきことは遠距離攻撃をしてくる敵を見つけること。
その場で体勢を低くしつつ、意識を周囲に向ける。潜水艦に備わっているソナーの様に風を走らせる。そして近くに転がっている石を手にもっておく。
そして約10秒程経過したタイミングで新太の『風域』が感知する。自身の体内に細い針が入り込んでくる感覚を先に体験する。その攻撃はリオに向けられてどんどん近づいていく。
自身から半径3m以内に侵入した攻撃に耐えながら、新太は手に持っている石に魔力を纏わせてその攻撃に向けて投げる。
互いの攻撃が衝突して針は地面に落ち、石はガラス細工の様に簡単に砕かれた。新太は息遣いを荒くしながら、カランに向かって叫ぶ。
「カラーーン!ここから2時の方向から攻撃が来た!」
クロックポジションの要領で相手の方向をカランに伝えると、ローブをなびかせてこの場を移動し後にしようとする。
栗毛色の狼男が移動するカランに攻撃を仕掛けるが、新太は風を巻き起こしながら移動し栗毛色の狼男の拳を両腕で受け止める。
動きが止まった栗毛色の狼男にリオは炎の魔力で作ったスコープを通し、黄色の炎で矢を形成する。そして放たれた矢は途中で分裂して散弾銃の様に栗毛色の狼男に迫り、攻撃が当たると後ろに仰け反って煙が巻き起こる。
「カランに任せて良かったの?」
「多分大丈夫だろう。それに俺が行っても遠距離で攻撃され続けたら勝ち目が薄くなっちまうし、色んな攻撃手段を持ってるカランが良いと俺は思ったんだ」
「そうね。私が行っても長引いて直ぐこっちに戻れないかもだし…じゃあ2人でこいつを倒しましょうか」
新太に教えられた方向に向かって走っていくカランは暗闇の中で目を凝らしながら、怪しげな動きが無いか気配を探る。
カランは新太の様に魔法で相手の位置を探れる様な技は持ち合わせていない。だから今までの経験だけで乗り越えていくしかない。
「ん?」
カランの位置からやや左端。『キラリ』と光る何かを見た。その輝きは一瞬で思わずカランは足を止める。手に持っている剣を構え、こちらに近づいてくる攻撃を迎撃しようとするのだが――。
『ガギイィンッ!』
攻撃がカランの持つ剣に直撃すると簡単に砕かれる。体勢を崩して剣を貫通して近づいてくる攻撃を回避すると、砕かれた剣を捨てて再びローブの内側から武器を引き抜く。
その手に掴んだ武器は長槍で若干カランの身の丈には合わないが、出てしまった物は仕方がない。それに相手には自身の能力は完全に知られたくはない。
両手で持ちながら一瞬だけ光った箇所に向かっていく。
(引けた武器は槍か…こんな森の中で振り回せる物じゃないから何とも言えない)
カランの持つ神代器は『収納』。様々な代物をローブの中に入れられる物なのだが、問題点は取り出す物はこちらから選べないという点。
(こっちも遠距離武器を引けるまで待つか?いや、これで敵を見失うという最悪な展開になってしまう)
走りながら槍を回し、先に居るはず敵に視点を向ける。やや遠くで聞こえる「ガサッガサッ!」と草むらを搔き分けている物音を聞き取っていく。
「ん?」
視界の端に捉えた姿を見て、足を止めてしまったカラン。その先に映ったのは堂々と立っている狼男。
「簡単に姿を現すなんて、余程自信があるんだね」
「インヤァ?自信ガ無イカラ、姿ヲ出シタンダゼ?」
「?」
その白色の毛並みを持った狼男の言っている意味が分からない。注意を引きつけるためだとしたら優先準備はそのままで、コイツに構わないようにするべきと判断したカラン。
無視しこの場を離れるように急いで歩みを進めようにしたが、背後から輪っか状の雷が回転しながら向かって来る。槍で横に振り払い、こちらも迎撃しようとするが雷が形を変えて小さな4速歩行の獣の様な形に変化しカランの両肩に噛みつき、そこから電流が流れる。
「う、ぐうぅぅぅっ!」
身体がブルブルと震えながら耐えるカラン。流れる電流が治まった瞬間、白色の狼男から距離を取る。しかし離れた地点に水が溜まっており、足が全部水の中に入ってしまった。
(何でここに水が!?)
この辺りに雨が降った形跡は無い。近くに川や池などがある訳でもない。それなら導き出せられる答えは敵からの『魔法』だと。
(目の前の魔物が魔法を放った感じは無い…それに背後からのあの雷。ならこの場には2体以上…いや3体はいるかも)
恐らくはここまで誘導されたという可能性もある。仮にそうだとしてもどこまでが相手の策略なのか。
だが自身のやる事は変わらない。目の前に障害が来ても一つ一つ壊していくだけだ。
思考を巡らせていると頭上に無数の氷が出現し、一個一個がカラン目掛けて降り注いでくる。
槍を振り回して氷を弾き返していくが、足場が不安定な水場であるため全ては防げず、カランの肌が氷を掠めて傷を付けていく。
(急いでここから出ないと!)
槍に魔力を込めて薙ぎ払うと、前方に魔力が飛んでいき氷が弾かれていく。だがここで攻撃に気を取られていたことにより、あの白色の狼男が姿を消していた。
(どこに行った?)
バシャッ!と勢いよく水溜まりから飛び出し周囲を再び警戒する。
しかしカランから姿を消していた白色の狼男は目の前から姿を消した訳ではない。ちゃんとカランの前に存在しているのだ。
(姿ヲ消ス魔法。『屈折スル我ガ体毛』。奴カラハ見エナクナッテイル。後ハ爪デ首ヲ掻キ切ル…!)
静かに足音は立てずに背後から詰め寄る白色の狼男は、鋭利な爪を出す。まだカランは首を横に振って見つけようとしている。
殺せると思って踏み込んでいく白色の狼男は近づいていくが、「ピチャ」と音を立ててしまう。その物音を聞いたカランが速い反射で槍をそこに突き刺す。
「運ガ良イ奴ダナ」
先程カランが勢いよく飛び出した水場から飛沫が飛び散り、地面がぬかるんでいた。そこを踏んでしまい物音を立ててしまい、カランに位置がバレてしまった。しかし槍は白色の狼男の腹部を掠めとっているだけで、致命傷は与えられていない。
「まあ…運は良い方なんで」
魔物から流れる血が槍を伝って、カランの手を汚していく。生暖かい液体が徐々に冷たくなっていく感覚は、それに伴って自身の体温が下がっていくのを感じる――。
どうもオオモリユウスケでございます。今回は久々に魔物との戦いになりますが…申し訳ないのがキリが悪いタイミングで1話終了になってしまいました。今回狼男にしたのは、嘘つきの動物って言ったら狼かな~っていう先入観で登場しました。魔物にも知性がある物語なので人間らしくかつその魔物にしか出来ない方法などで、今後とも作っていきたいなと思っております。
それではまた次回お会いしましょう!




