40話「騎士には経験を少年には反動を」
「……」
何も見当たらない白い空間の中で椅子に座っている少年がいた。
「俺はさ、ぶっちゃけ自分は強くなってるって思ってたんだ。これは決して自惚れとかじゃない。そういった自信が欲しくて友達の前で張り切ってた」
学校の制服を着崩して、椅子の背もたれに寄りかかって自身の話をしていく。
「でも、欲しい欲しいってないものねだりしてちゃ…この世界では生きられないんだと改めて理解したよ」
少年は目の前に座っている黒い靄に包まれた『何か』に話していた。
それは初対面ではあるが、どこかで会ったことがある様な――。身近な人の様な――。そんな距離間の関係だったから本音で語れていた。
そんな黒い靄に掛かった人から声が発せられ、エコーが掛けられているのかこの空間が響き渡る様になっているのかは定かではない。
そんな声が少年の脳に響き、耳に塞ごうとしても意味は無い。
『それで?お前は満足したのか?』
「満足かぁ…正直してないよ。だって何も出来てないからな。後悔しかない死に方してその質問はどうかと思うよ」
ここでは楽しいとか怒りとかの感情は一切湧いてこない。何を言われても乾いた笑いしか生まれない。
『まああんな幕引きじゃあ、誰だって満足はしないだろうな。でも安心しろよ――。』
黒い靄に掛かった人間は前屈みになって少年の顔を覗き込む。
「どういうことだよ?」
『お前…奇跡的に生きてるぜ』
「は――。」
「アラタァァァァ……!」
燃え盛る木々の中で傷ついた身体から血が流れ、倒れている少年に向かって叫ぶ少女が1人。
藍色髪をした少女で黄色のカチューシャに、鉄製の防具で上半身には黄緑色の装飾品や足元まで伸びた布。両手には前腕まで隠す黒色の手袋で左腕には甲の部分にカバーが付いた軽装備を身に付けたリオという少女。
座り込んでその場で涙を浮かべ、何度も倒れている人物への名前を叫んでいる。
「いくら叫ぼうとも、この結果は変わらない。彼は敗北し…この世を去った。それだけの事だ」
残念そうにそう吐き捨てるのは、白銀の鎧を着たオレンジ色の髪色で七三分けされトラッド風な髪型をした男性が地竜を操り迫る。背中には大きな剣を携えており、その名はクロイアという男。
「はあああああああっ!!」
銀色に輝く剣でクロイアに斬りかかっていく人物はフードが付いたローブを着て可愛らしい容姿をしていて首までかかったピンク色の髪、そして頭部から獣耳が生えた中性的なカランという少年。
「ガギイィン!」とカランとクロイアの持つ剣同士がぶつかり合う。
「リオ!速くここから逃げろ!」
「…で、でも!アラタが…」
「あの状態の人間がまだ生きてるって言うのか!それに誰がアイツの願いを叶えられる!?もうお前しかいないんだよっ!」
倒れている少年を見ながら走り去っていこうとするリオ。するとカランを押し退けたクロイアはノコギリの様な見た目で植物のツルが巻かれている大剣を地面に着き刺すと木の根がドーム状にリオ達を囲いだす。
「あのお方の為にも一応逃がす訳にはいかない」
「そう……なら好都合ね。すぐにアンタを倒せるなら逃げられなくていい!」
黒く光る弓が赤く燃えながら、騎士に向けられる。
「銀の輝きを持つ少年よ。それは君如きが持っていい代物ではない…渡してもらおう」
「銀の…。『銀月』のことか。わざわざ王国の騎士様からのご忠告だ。そうそう返す訳にはいかなくなったね」
銀色に輝く剣を構えて、2人は戦う意志を見せる。その姿を見たクロイアは突き刺した大剣を抜いて歩き出す。
そして1歩。クロイアが歩き出そうとした瞬間。「ジジ…」とこの空間にノイズが走った――。
3人に重圧がかかる。それは一瞬呼吸を忘れ、自身が過ごしてきた走馬灯が一瞬だけ脳裏によぎる。
リオとカランはクロイアの背後に倒れていた少年の方に視線を移すと、黒色のシャツを着た少年が血を流しながらヨロヨロと立ち上がっていた。
その少年は髪色が茶色寄りで短く少しツンツンして逆立っている髪型をしている少年。輪道新太が今までの様子とは打って変わって、そこに存在していた。
「ア、アラタ…!?」
「ジジ…」とノイズが走る――。
クロイアが新太を見つめていたが、空間が歪んだ様に見えた瞬間斬られていた傷が消えていた。
クロイアは新太の身に何が起きているのかを理解している。感情が昂り常人とはかけ離れた力を得ることが出来る状態。
だが激情化によって自身の身に起こる犠牲もある。それは感情を失ってしまうことなのである。怒りや喜びなどを失い一つだけの感情を持って生涯を終えることになる。人間性を失ってしまうかもしれない危険な状態。
(激情化自体そのものはこの世界にはバグの様な物。激情化は誰にでもなれる物ではあるが…成る為のハードルは高い。一つの感情だけを昂らせる事は難しいのだと言われている)
感情によって魔力には補正が掛かる。喜びの感情によって掛かる補正は『防御力』。怒りの感情は『攻撃力』。哀しみの感情は『感知力』。楽しみの感情は『回復力』。大まかに分けられているのはこの4つ。
だがこの激情化になった者は魔力の出力すらも上がっている。油断せずにクロイアは力強く大剣を持つ。
クロイアは下から剣を振り上げると、木の根が新太の足下に生えると体を打ち上げる。落下している新太の胴体に剣を打ち込むと新太は吹き飛ばされ、木に衝突する。
しかし剣で胴体に斬ったのに対し、新太の体は斬られていないことにクロイアは驚いていた。
(激情化になった者は、一つの感情に囚われる。怒りならばその感情を剥き出しにして向かって来る。喜びならばその感情を出してやって来るという話なのだが…今のリンドウ・アラタの感情は『哀しみ』である可能性は高い。しかし全体的魔力の水準が上がっている)
感情によって補正が掛かるのだが、激情化に成った者は平均的に力が増すのに加え一つの能力が上がるのだとクロイアは推測する。
(さて、どう出るか――。)
クロイアはもう一度剣を構えて新太を見続ける。そして無意識で行う瞬きをしていたらノイズが走った瞬間に新太がクロイアの目の前に現れる。
それと驚く所はもう一つ。先程斬り飛ばした腕が治っていたのだ。地面に転がっていた腕が無くなっているのを見ると再生したのではなく、腕を無理矢理くっ付けたのだと理解する。
「ッッ!?」
一瞬。一瞬だった。特に油断をしていた訳ではない。寧ろ警戒はしていたのだが、この新太はクロイアの瞬きをしたタイミングで素早く移動しクロイアの前に立っていたのだ。
「く――。」
不意を突かれたクロイアは大剣を横に振ろうとした時、無感情なまま新太はクロイアの腹部に拳を打ち込んでいた。
「ごはあっ!?」
新太の拳がクロイア当たった瞬間。その衝撃で周辺に燃えていた木々の火が搔き消される。凄まじい衝撃に耐えきれなかったクロイアは何度も木にバウンドしながら新太との距離が離れていく。
(何という重さだ…!一撃で意識が飛んでしまいそうだ…)
勢いが弱まって来たところで体勢を整える。そして新太の立っている方向を見つめようと顔を上げる。
そして空間にノイズが走る。
「っっ!?」
目の前に怪物が立っている――。
見下ろしてくる目は冷たく。何も語ることは無い様な目でクロイアを見つめていた。クロイアの手は緊張で汗が走る。
鎧に魔力を込め、防御力を高める。クロイアの身に付けている鎧は魔道具の一つであり、纏わせた魔力に比例して防御壁を作り身を護れるという代物なのである。
(防御し続け、付け入る隙を伺い勝利を掴む!)
ここからは耐久戦になると意気込んだクロイアは前屈みの体勢で両腕を交差して身を護る。
一方新太は何を考えているかは分からないまま、片脚を上げる。そしてそのまま大振りな蹴りでクロイアの腕に攻撃を当てる。
「が、あぁ!?」
「ズドンッッ!!」と一撃の重さが防御壁を軽々と粉砕されクロイア自身にダメージが走る。
(何てことだ…!護るという考えはコイツには通用しない!)
護るのが駄目ならば攻撃に転ずるしかない。クロイアは痺れる手で剣を構え新太に斬りかかる。
「んなっ!?」
だがクロイアの剣は新太には届かない。片手で受け止められてしまっていたのだ。その光景を目の当たりにしたクロイアは「ピシッ」と心の中で何かにヒビが入った気がした。
剣を奪われたクロイアは後ろずつゆっくり下がっていく事しか出来ない。それに続いて新太は片手に持っている剣をその場で投げ捨てクロイアに近づいていく。
拳を真っ直ぐに突き出してくる新太の腕を掴んだクロイアは自身の方に引き寄せると、新太の腹部に膝蹴りを喰らわせる。その後に新太の項に肘鉄を打ち込み、その場でダウンさせる。
ダウンした新太は直ぐにクロイアの足首を掴むと、その場で回転をし始めクロイアを勢いよく投げつける。
ゴロゴロと転がっていくクロイアが行き着いた先はリオとカランが座って待機していた箇所。戦っていた場所まで流れ着くように飛ばされていた。
「クロイア!?」
思わず立ち上がり警戒をする2人は武器を構える。だがクロイアの意識は完全に2人には向けられていない。
(こう変化してしまった者はここまで強くなってしまうものなのか?)
「ザッ…ザッ」と茂みの方からゆっくりとこちらに向かって茂みを掻き分けてくる物音が聞こえてくる。
「今どっちが押してるんだろう」
「吹き飛ばされてきた方がクロイアなら攻めているのはアラタだろうね」
そして新太の姿が見えるとクロイアは思わず後ずさる。攻めるのも護るのも通用しないため、まともに戦っては勝てないと答えを出す。
(負ける訳にはいかないのだぁ!!)
クロイアはリオの方に向かって走り始めていた。こちらに向かって来る姿を見たカランは剣を構えて待ち構えるが、距離を詰められておりカランは横腹を蹴られてしまう。
そのまま距離を近づけたクロイアはリオを羽交い締めにして拘束し、人質にして新太の方に向かって叫ぶ。
「止まれっ!止まらなければお前の仲間を殺す!」
「ぐ…アラタ!私は大丈夫だから――んぐっ!?」
クロイアはリオの喉を締め上げ声を出させない様にする。
その光景を見ていた新太の足は一瞬だけ歩みを止めるのだが、それでも新太の足は止まることは無かった。
(これでも止まらないのか…!)
締め上げる力を強めるとリオの呼吸が止まり掛ける。冗談ではない所を見せてみるのだが歩みは止まらない。
リオは薄れていく意識の中で新太を見ようとしたが、目の前を歩いていた姿が視界から消えていた。
そして新太はいつの間にか真横に立っており、その姿を見たクロイアの力は弱まっていく。そしてごく自然に新太の手はクロイアの顔面に伸びてそのまま力強くクロイアを押し倒す。
「ごあっ!?」
頭から地面に強く押し付けられてしまったクロイアはリオの拘束を解いてしまう。リオは邪魔にならないように息を整えながらその場を離れる。
クロイアは顔面を手で押されながらも抵抗をしてみるのだが、虚ろな目をしたままの怪物はまた更に力強くクロイアを抑え込む。
「がああああああああっ!!」
痛みに耐えきれず叫んでいるクロイアを見ていたリオは倒れこんでいるカランに率直に質問を投げかける。
「ねえカラン。仮にさアラタがこのままクロイアを殺すことになっちゃったら…どうなるの?」
「どうって…目的を達成したら戻るんじゃないのか」
「それってさ…アラタの感情は無くなっちゃうってことなのかな。そしたら、二度と一緒に笑えなくなるのかな…?」
激情化に成った者の代償は『感情の損失』。もし新太が目的の為クロイアを殺し、元に戻らなければこの先の新太に未来は無いだろう。だが今ここで止めてしまえば確実にクロイアは新太を殺しにかかるだろう。だが問題はこの2人が今の新太を止められるかどうか。
「多分力づくじゃ僕達だけじゃあ止められない。止めるタイミングは相手を殺す瞬間に抑え込む」
全ての人間に必ず共通している訳ではないが、目的を達成する目前に油断という一瞬が入る。その瞬間を狙って見ようと思っているのだが、果たして今の新太にそんな隙があるのかどうかは分からない。
「舐めるなあっっ!!」
頭部から血を流しながら声を出すクロイアは片手を地面に「バンッ!」と叩くと魔法で土が形成し盛り上がり新太の腹部に当たり、新太の手から離れられる。
「ゴホッ!ゴホッ!!ウオエエッ!」
咳をすると血と唾液が混ざった吐瀉物を吐いたクロイア。力強く頭を押さえられた為か頭痛に襲われているクロイアは立ち上がれず四つん這いのままで呼吸を繰り返す。
(どうすればいいのだ…何をすればこの怪物を止められる!?)
痛みに耐えながら自身の手で起こせるありとあらゆる策を考えるが、怪物の足がすぐそばに見えていた。
「う、ぐぐぐおおおおっ!」
意地で立ち上がるクロイアは目の前立つ怪物に向けて手を向け、詠唱をし始める。
「土よ命令する!我に在りし力を使い、目の前の敵を貫き通せ!!」
『進む硬質の石』
両手から放たれたのは土で形成されたドリル状の魔法が新太に向けられる。『ギイィィィン!!』と回転しながら新太に迫っていく。
音を立てながら近づいてくるのに対して新太は微動だにせず、ゆっくりと魔力を込めた片手を伸ばすと『ギィンッ!!』とクロイアの魔法が完全に止まってしまった。
そしてそのまま止まってしまったドリルに対して新太はパンチで粉々に粉砕する。
「ぐっ…」
分かっていた。分かっていたことだった。それでも自分の方が上だと証明したかったから最後まで抗いたかった。だから自身の身分に合わないような行動もした。
「ジジ…!」と大きなノイズが空間に走ると同時に新太はクロイアの前に拳を構えて立っていた。
新太の纏っている魔力は濁った緑色で、激情化前の新太と比較すると殺気に満ち溢れた冷酷無比な人間となってしまっている。
そんな殺意に溢れた拳がクロイアの腹部に打ち込まれる。
「ドッゴオッッ!」とクロイアの体が浮き上がる程の威力を喰らい、その場で大量の血反吐を吐いた。自身が身に付けている鎧の効力を無視されてしまっている点もクロイアはちゃんと理解していた。
体がグラつきその場で両膝を地面に着いたクロイア。そこに歩いて背後に回る新太はクロイアの両腕を掴み後ろに強く引っ張る。それとクロイアの背中に足を置くとさらに力強く引っ張る。
「が、あああああああっ!!」
腕を後ろに引っ張られているため、骨がミシミシと嫌な音を立てていく。肩から骨が外れそうになり悲鳴を上げている。
(確実に、丁寧に…私を殺しに掛かってきている…!)
意識が薄れていく様子を見せるクロイア。ここであと一息だと思ったのか引っ張る手を一瞬だけ緩めると新太の拘束が解かれクロイアは前に倒れる。
恐る恐るクロイアは後ろを振り返って見ると、カランとリオが新太を取り押さえていた。
(全力で押さえなきゃいけないと思っていたけど、やっぱり僕達に危害を加える気はないみたいだ)
リオも最初に力一杯押さえていたが、自分達に殺意すらの感情を向けられていないことに気付く。激情化は一つの感情が昂った時に起こる状態。ならば目的以外には一切興味が無く、一つの目的を達成するまでは止まらないのだと理解する。
「な、何のマネだ…?」
「アラタを死なせないためよ!こんなよく分からないままで!何も約束を果たせていないままで大切な物を失わせないっ!」
「それにこの行動は取引なんだ。今のアラタはアンタを殺せる程強い…でもこっちはこのままのアラタを野放しにするわけにはいかない」
「私に情けを掛けるというのか」
「その通りよ…今ここで無様に、王に何も役に立つことなく死にたくなかったら…今すぐこの場を離れることをオススメするわ」
この情け。そしてこの自身の命と新太の人生を天秤にかけた取引。クロイアの心は小さく揺れ動いていた。
(私がこれを受けると言えば逃がしてもらうのは確実。だが王からの期待は裏切ってしまうことになる――。しかし私がここで『死』選べば家柄に傷を付けてしまうという結果に繋がる――。)
自身の両腕と両肩は強く引っ張られた事により、少しだけ脱臼寸前まで行っていると理解していた。
つまりこれ以上戦っても勝ち目は無く。自身の敗北により名を汚すことになってしまう。
クロイアは唇を強く噛み、少しだけ血を流し――。結論を出す。
「分かった。その提案を飲もう。私はこの場を離れる」
よろめきながらクロイアは立ち上がって歩き出す。2人はそのゆっくりと歩いていくその背中を見続けている中、しっかりと怪物の体を押さえ続ける。
そしてその背中が見えなくなると、恐る恐る新太を押さえつける力を緩めていく。すると目的を失ったためなのか新太はそのまま死んだ様に眠りについた――。
「……」
戦ったあの場所から離れたクロイアは木々の中に投げ捨てられた自分の剣を取りに戻っていた。
痛みに耐えながら拾い上げ、剣を鞘に納める。そして親指と人差し指を輪っかの形状にして指笛を吹く。
「ピイィィィー!」と高い音を立てると新太達を追いかけるために乗ってきた地竜を呼び寄せる。静かに跨ると手綱を引っ張り王都へと戻る。
(負けてしまった――。だが何故なのだろうか…悔いが無いと言えば嘘になるが寧ろ清々しさを感じる)
痛む肩を片手で押さえながら日が沈みかけている空を見上げている。
「己を見返す時が来たか…リンドウ・アラタ。再び相まみえる時、互いに強く成長していよう」
帰路に着いていこうとしていた際に前方から3体のイグイースが走ってきている。その3体のイグイースには見覚えがあり、クロイアはそのイグイースに何もすることなく揺れに身を任せて睡魔と戦いながら王都へ目指す――。
そして戦い抜いたもう一人は水色の上着を布団替わりにして置かれ、寝かされていた新太は2時間経っても目を覚まさないままだった。
辺りは完全に日が沈み森の中は暗闇と静寂に包まれていた。
すぐ側でジッと座って周囲の警戒をしているリオは頭の中で先の戦いについて反省点を挙げていた。
(クロイアとの戦いで、私に足りなかったのは何なんだろう。技に関しては即席だったというのもあるけど自分の中ではいい出来だと思ってる。じゃあ足りていないのは技の威力?でも…私じゃあ――。)
座ったままの姿勢で片手を前に出す。その腕に魔力を纏わせると殆どが透明な色で、ほんの少しだけ赤色が混ざってあるぐらい。
この世界の魔力には『質』というものがある。魔力を扱う際に自身が得意とする属性によって色濃く反映されるという現象。これは自分が戦いの中で得た経験などによって変化していく。
だがリオにはその『魔力の質』が色濃く反映されていない。この色が反映されていないと自身が放つ魔法の威力が左右される。
「……」
あれこれ考えながら首元を摩っていると、暗闇の方から「ガサガサ」と茂みを搔き分けてくる音が聞こえてくる。リオは側に置いてあった弓を手に取り立ち上がろうとするが、直ぐにその警戒は解いた。
暗闇からは3体のイグイースを引き連れたカランが姿を現してきたため、弓は地面に置いて再びその場に座り込む。
「意識は、戻ってないのか」
「うん。あの状態の反動なのか寝返りすらも全然しないね」
「それにしてもよかった。イグイースが遠くまで行かず僕達の戦いを見てたから呼び戻せた」
イグイースの習性には自身より強いものにしかいう事を乗せない。仮に乗せていた人物と離れてしまった場合、イグイースは乗せていた人物を見守るという習性を持っている。
負けてしまう人間には興味が無いという何とも贅沢な動物なのだ。
「ひとまず今日は休みましょう。明日になったら新太も目を覚ますでしょうし」
「じゃあ見張りは交代交代でしていこう。最初は僕からやるからリオは休んでおくといい」
「ん~じゃあそうさせてもらおうかな」
本音を言ってしまえば体が怠く重くなっているのを感じている。恐らくこの状態はカランもそうなっているのだろうとリオも理解する。
そんな順番で言い争いをしているのも時間の無駄になってしまうのなら、ここは素直に相手のご厚意を受けた方が良い。
リオが立ちあがり寝る準備に入ろうとすると、灰色のイグイースが新太に近づいていく。一体何をするのだろうと少し様子を見てみると、灰色のイグイースは凄い速さで嘴を新太に何度も突き始めた。
「急に何をしてるの貴方は!」
「ガガガガッ!!」と素早い連打で突いていたため、流石にリオは手綱を引いて無理矢理にでも止める。
「痛ってえっ!?」
あまりにも痛みに耐えられなかった新太は起き上がる。その表情は何故か笑っていた。
「アラタ!大丈夫なのよね?」
「え?何が?」
「何がって…だってアラタ――。何で泣いてるの?」
起き上がった新太は額を押さえて少し悶えていると目から涙を流し哀しそうに泣いていた。
「は?泣いてませんけど?」
「いや、だって涙流してるし…」
「ん?」
目元を手で摩ってみると冷たい液体の感触に触れる。新太自身も何故涙を流しているのかを分かってはいなかった。
「何で泣いてんの?俺」
「それはこっちが聞きたいんだけど、今度は何で怒ってるの?」
「え?」
思わず新太は自分の顔を手で触り続ける。自分の表情筋が強張っている事に驚く。
(もしかして、今のアラタは自分の感情が滅茶苦茶になってるのか?)
強すぎる力には何かを犠牲にしなければならない。そんな言葉をどこかで聞いた事がある。そんな新太はしばらく呆然としていた――。
どうもオオモリユウスケでございます。
またしても1ヵ月以内に投稿出来なくてすみません。何回言ってんだよって思っているでしょうが、本気で落ち込んでいるんです。
さて今回はクロイア戦終了ということですね。本文にもあったとは思いますが激情化になった者は魔力の水準は跳ね上がります。回復力も上がってしまうので新太は爬虫類のように再生ではないですが、腕は治るということです。無感情で肩の骨を外しに掛かる主人公はいかがなものでしょうか…確実に殺しに掛かっていくので途中でクロイアごめんなって思いながら書いてました。
さて今回はここまでになります!それではまた次回お会いしましょう!




