この場に居合わせる人々のことを、
この場に居合わせる人々のことを、改めて考える。
ユホ。彼はノアトゥンの復興を目指しているだけ。地上のエウロペ生まれだが、そこに帰るのまでは高望みと思っているようだ。死ぬ前に故郷の土を踏ませられれば。
ヨアキムは問題あるまい。ダイチがミレニアムの神の末裔ではないかと、最初に言いだしたのが彼。末裔ではなくそのものなのだが、ダイチを正しく畏れている。
警察局長。利権より安定、とにかく職責を果たすこと。よくも悪くも現実主義。
配給局長。やや俗物か。得られる物資を増やして権限拡大、とか考えていそう。
上下水局長。今のところ発言はない。地上の復興が進めば、最も影響を受ける人物だろう。とはいえ重要なことに変わりはないし、配管工事の手配などで多忙を極めるはず。
それとリク。国境警備隊長の職にあるが、今この場にいるのはそれと無関係。ダイチとレフィアがユホの護衛と称しているゆえ、一応カウンターパートとして。話を聞かせて問題が少ないだろう救国の英雄として。彼は無欲だ、異常なほどに。
「エルフを見つけて、どうするつもりなの?」
あえて訊く。ヨアキム達がエルフそのものには興味がないと知っていて。
「優秀な術者が多いのは確かだけど。二年くらい前に僕が降りたスオミの一部以外、完全に凍結してるよ。それでも解凍した途端、また迷わせられるんじゃないかな」
「そこを、あなたに何とかしていただきたいので。おできになるのでしょう?」
「無理だね」
本当は、可能だ。この宙域の統制者たるセレスに頼めば、できないことはほとんどない。支配宙域が地球で重なる姉ミカゼも同じ。適性レベルが2と推奨より低くて暴走しがちなセラフィナを含めて三体問題に発展してしまったため、今は眠りに就いているが。
セレスティアの適性レベルは4、ミカゼは3。この二人だけなら、統制者領域が重なっていても暴走せずに協力して動くことができる。
黄金樹以上の秘密であるこのことを、部外者に教えるつもりは全くない。ただひとりリゼだけは、もうアレクセイが教えてしまったので例外だ。実に不詳の弟子である。
「僕はクォーターなんだよ。ミレニアムの末裔って言ってもね。術者としての素養は、純血種のエルフに及ばないんだ」
だから細々と技術を繋いでる、と付け加えた。レフィアに至っては現生種のクォーターゆえ、なおのこと無理だと――もちろん嘘で、本当は原種人類の仙人なのだが、実際彼女はマナを扱う素養がほとんどない。
「さっきの質問に答えてないよ。隠れ里の結界を解かせたいのは分かったけど、それで何をしたいのかな?まあできないんだから、聞いても意味ないけどね。この話は終わり」
またあえて誤解しておく。黄金樹のことに触れられたら、交渉決裂せざるを得ない。そしてそれはダイチの望むところでもない。
もちろん、いつかは排除しなければならないが。地球上で造られたとはいえ、黄金樹と現生種クリメアはプレゼンター設計100%の存在である。特にもエルフは、侵略の拠点になり得る黄金樹を無意識に防衛する洗脳を施されている惧れさえ。殲滅や皆殺しといった凄惨な手法を取るのではなく、黄金樹を枯れさせたうえで徐々に数を減らしていってくれればと――そのときはダイチも、彼らと一緒に引きこもるつもり。
ちくり、と胸が痛んだ。
何によるものなのかは分かっている。だが、この歩みを止めるわけにはゆかない。
対面するヨアキム達に、現実へと向きなおる。
「皮算用より、今は目の前の話をしよう」
ダイチの地上復興計画は、おおよそ次のようなものだった。
鍵となるのは、ダイチが発明した四角い金属の箱。『ゆらかぜ』にも積まれているブラックボックスと同じものである。これを飛行艇に載せて飛びまわり、まずユラネシア周辺空域のマナ平準化を行う。
それが済んだら、次は徐々に高度を下げてゆく。並行して水平方向にも範囲を広げる。広がった横軸も、順次縦軸を掘り下げる――この繰り返し。
高度を下げてゆく作業は、やはり専門の潜航士達に頼みたい。地上へ辿りついたら、そちらからも水平方向に広げてゆく。文明の復興に直接繋がるゆえ、ある程度指向性を持たせたほうがよいだろう。具体的には、どこの凍結解除を優先するか。
人類の復興はエフリカ、人類発祥の地から。
とはいえ別に、文化人的なノスタルジーに駆られたわけではない。文明と生物種は別物であり、そもそもダイチは日系アメリカ人だ。アルフやライオネルのこともあるし、本音を言えば日本――ミレニアム本部の解凍を優先したい。ユホや『ゆらかぜ』メンバーのために旧スオミ大公国領を。あるいはリゼのために、旧ライン連合王国領も。
「大国や先進国は後回し。先に周りを固めて、勝手な真似を許さないようにする。計画どおり運べば、数十年後にはエフリカ大陸全土が復興しているはずだよ」
「それは……マナの平準化が終わった、廃墟と荒野が広がっているという意味で?」
「ううん。普通に人が住んで、都市生活を営めるという意味で」




