表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セレスティア人の手記  作者: 五月雨
最後の日 ~????年~
181/210

捕虜の取り扱いについては、

 捕虜の取り扱いについては、あまり揉めることなく解決した。全員即時帰国、その代わりヴァルハラ側が『遭難者』救助の謝礼と長期滞在の対価として様々な物資の一括供与。当初、ヨアキムが不定期の継続供与を申し出て疑念を抱かれたりもしたが。こういうことは、相手を自分に依存させたほうの勝ちである。


 もっとも、ノアトゥン側も手放しの勝利というわけではない。対価として求めたものが不足していること、自給できても非効率であることを知られてしまったのだから。情報というものは、本当にままならない。


 表向きの主題を脇へ追いやり、話は裏のほうへ。ノアトゥンを足掛かりにダイチとレフィアがやろうとしていること――そろそろ幹事達も理解している。技術を握っているのはダイチひとりで、レフィアは特別親しい間柄に過ぎないと。二人の実年齢を考えれば、このような誤解も生まれるわけで。


 発言を控えていた警察局長が、遠慮がちに訊ねる。


「……不躾ながらお伺いするが。アトジマさんとエディルさんは、その。パートナー、でいらっしゃるか……?」


 ダイチとレフィアが同郷のビフレスト出身で、ミサイル事件を偶然生き延びた者同士として知り合った。その説明を彼は信じていない。研究所を引き払ってから、ビフレスト出身者に話を聞く時間は十分にあった。調査結果は予想どおり、終末戦争のとき一緒に避難してきたどころかユラネシア以外の場所でやり過ごしたとの結論に至ったのである。


「……………」


 レフィアは俯いて無言。ダイチに任せる、という意思表示か。有利になる上手い答えをするべきだが、不老長寿を公言した今なら既成事実化することも。


「いや……そういうのとは違うよ。僕達はエルフの特徴が強く出てるから。同病相憐れむ、といった感じかな」


「そう、ですか。では、そのエルフについて詳しくお聞きしたい」


 終末戦争の前までは、少数にせよ純血のエルフも当たり前に存在した。普段はどこかに隠れていて、時折外に出てくる。そのどこかに心当たりはないかと。


 警察局長の言葉を、配給局長が引き取る。


「隠れ里があったことは、ほぼ確実です。そのことは今更ごまかさなくて構いません……ただ問題は、それが地上を歩いても空から探しても見つからないことで」


 黄金樹の仕業だ。ほぼ知られていないが、あれは意思を持っている。でなければミレニアム時代は普通に存在し、終わった途端に惑いの領域を生じた説明がつかない。加えて西暦時代の日本政府が製造を見送った、試験管チャイルド型のエルフ。黄金樹は、どう見てもそうとしか思えない人種を生み出した。


 エルフ・ドワーフ・ホビット・獣人などの亜人種を、昔は総じてクリメアと呼んだ。製造技術を最初に発見した、ダイチの母ユルハらILC研究所の命名である。


 クリメアは種族以外に製造方法でも分類され、天然の人間を人工進化させるタイプとプレゼンターの設計図から直接合成するタイプの二種類。後者のクリメアは、性能と姿形がある程度画一化されている。


 エルフであれば高いマナ適性と繊細な美しさ、ドワーフであれば筋肉ダルマ、ホビットであれば器用さと小柄さ。獣人はこれらを参考にして地球人が発明したものだが、獣じみた外見にドワーフとホビットのいいとこ取り。ただし原種人類より寿命が短い。


 黄金樹は、人類に無限のエネルギーを供給する。しかし、それにあたっての判断基準は謎だ。ダイチが隠し持っているもの以外の黄金樹は、完全になりを潜めている。そのうえ地球側の関与なく新たな人種を生み出すなど。これが恣意的でなくて何か。


 配給局長の発言は、その信用ならない黄金樹の現存を前提にしている。自分達は知っているぞ、あとでバレるくらいなら自発的に喋ったほうがよいのではないか。植物の形をした異界のエネルギー源と、植物生産研究所。無関係ではあるまい――と。


(…狙いは黄金樹か。そりゃそうだよな、ユミズノゴトク……とは言わないけど、結構派手にマナを使ってみせてるし)


 終末戦争前の基準で言えば普通だが、時間凍結の拡大に怯える今の感覚では大盤振る舞いだった。計算上の均衡がどうあれ、つけ入る隙を与えたのなら迂闊。


 即答しなければマズい。ただでさえ秘密主義と不信感を抱かれている。ここに至っては、ある程度の説明が必要だ。問題は……どこまで本当のことを教えるか。


「地上を歩いて、って……?」


「ああ、すみません。もちろん文献上のことです……我々は放射線や高濃度マナを防ぐ技術を失っておりますからな」


 できればその技術も欲しい、と考えているのが丸分かり。一部でも地上との時間速度差が解消されるなら、拠点を作って歩いてゆける。人海戦術で調べられる。


 ゆくゆくはエルフの隠れ里を見つけ、黄金樹を手に入れて。ダイチの技術で復興した世界の主導権を握りたいのだ――そう好き勝手にはさせないが。


(確かに人手は欲しいんだよね。復興会議の連中だけじゃ、今の生活を維持するのがやっと。人手があれば時間の解凍は捗るし……でも)


 信頼に足る相手か。人格的に、能力的に。また、状況的に。


「……ドーアがいればな」


 その呟きは、誰にも聞こえなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ