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セレスティア人の手記  作者: 五月雨
最後の日 ~????年~
168/210

「ダメだよ、目立つ行為は控えなきゃ」

「ダメだよ、目立つ行為は控えなきゃ」


「……ごめんなさい」


「本当に分かってる?乗組員の人達、一番印象に残ってるのたぶん君だよ」


「うううう……」


 船室の片隅。アクがヘタにお説教している。


 実は、あの後にもひと悶着あった。甲板に転がる空賊の顔に見覚えがあり、衝立の向こうをこっそり覗きに行って……捕虜のひとりと、思いきり目が合った。ヘタがよく邪魔しにゆく採水部隊の偵察機パイロットだと、直感的に確信する。


 マズいって何がマズいの話を聞くだけでしょだからそれがマズいんだって――甲板で押し問答していたらアメリア達に見つかって、挙句にヘタが「すみませんあの人知ってるんですけど」の馬鹿正直発言。アクが頭を抱えたのは言うまでもない。


 まあ軍の関係者だろうと『ゆらかぜ』側も薄々感づいており、その影響はなきに等しかったが。わざわざ父親の古巣の立場を悪くする必要はあったのか疑問である。


 いずれ捕虜達の待遇は改善されたことだけが、変化と言えばそうかもしれない。知り合いの知り合いということで、犯罪者であれ顔の見えない存在ではなくなったゆえ。


「落ち込んでたよ?パイロットさん」


「…うん」


「ここは知らないふりをしてあげるべきだったんじゃないかな」


「うん……」


 でも空賊は悪いことだよ――いつものヘタなら、そう反論してくるところである。もうすぐ二人目の子供が生まれると話していた男に、況してや生活が安定した軍のパイロットに。そんな悪事を働く理由などあるはずがない。


「やっぱ、おかしいよね。これ」


 ヘタ、体育座りの膝から顔を上げる。


「このツアーに何があるの?他の島へ渡るのって、そんなに悪いことなの?」


 アクも並んで壁に寄りかかった。


「困る人がいるんだろうね。正確には、今まで得してたことがなくなる」


「キトクケンエキってやつ?」


「うん。ヴァルハラの外までいっちゃうと、それじゃ済まなくなるかもだけど」


「済まなくなるって?」


 軽い調子で訊く。


「戦争。だからあんな武器も造ったんじゃないかな」


 びくり。隣の肩から、大きな震えが伝わってきた。そのことにはさして驚いた顔もせず、アクは意外と大きな掌を赤いアンテナ二つの上に置いた。


「…アク……」


「大丈夫。そのために来たんだろ」


 左右に手を動かしながら、反対の手を胸元に当てた。そこには、父親から預かった一通の手紙が入っている。そしてその差出人は、たぶんソラ=エロマーではない。


(誰のものかは分からないけど……リクおじさんが関わってないことはないはずだ。あの人がやることなら、少なくとも悪意はないって信じられる)


 ユラネシア救国の英雄、リク=ハラッカ。かつて地上のテロリストがユラネシア全体をミサイルで狙ったとき、地上から生還してその情報を持ち帰った。ミサイル攻撃の一部を阻止した従兄のヨエル=ラウタサロは帰らぬ人となったが、そのことを知る者は少ない。一方で緘口令が敷かれなかったリクの功績は、知らぬ者がいないほど。


 アクとヘタそれぞれの父親は、同じ採水部隊にいたリクの戦友。入隊以前からの腐れ縁でもあり、友人が少ないことを思えば親友と言ってよいかもしれない。


 政府関係者の身内でありながら、自分達は『ユラネシアの風』やノアトゥン復興会議にさほど警戒されず接近できる立場にいる。それは父親達が間抜けだったからだが、そのお蔭で英雄リクを介せば国の中枢の意思を届けることも。二人は思うのだ――両者の間には、対話が極端に不足していると。


 またノアトゥン復興会議の表の代表とは別に、やはりヴァルハラの外から来た謎の人物が二人。植物生産研究所の子供所長と、研究所の職員相手に毎月喧嘩試合を披露していた所長代理とでもいうべき女性。研究所を解散した後、この二人もノアトゥン復興会議に加わっている。表向きは何の役にも就いていないが、重要メンバーなのは確かだ。


 そして『ユラネシアの風』――略して『ゆらかぜ』の面々は、植物生産研究所の元スタッフでありノアトゥン復興会議代表ユホ=アロネンの教え子。研究所に入ったこと自体が恩師の勧めだったらしいから、どの繋がりが先かは分かりかねるが。


 そういうことを明らかにはできなくとも。とにかく対話のきっかけを摑める立場にいるのは自分達だけ。自分達が頑張らなくては。


「…まだ誰も死んでない。だから、きっとだいじょぶ」


「うん」


「見知らぬ黒幕さんに感謝だね!」


「それは……ちょっと違うような気もするけど」


 アクとヘタは、手紙の中身を知らされていない。しかしリクが絡んでいる以上、今回軍の兵士を使って雑な威嚇をした人物の脅迫状ということはないはず。そういう意味では、事を荒立てずに済む可能性を残してくれたと言えなくもない。しかし。


「あんな武器を持たせる人だからね。どう見ても行き過ぎてるよ」


 結局そこへ戻ってしまう。


 ダイチ=アトジマとレフィア=エディル。話が通じる相手なのか。

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