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セレスティア人の手記  作者: 五月雨
最後の日 ~????年~
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まず船室の窓ガラスに、

 まず船室の窓ガラスに、淡い焦げ茶の色がつく。それから甲板の床材が剝がれて宙に浮かび、シールドの外へ飛び出した。そして船の周囲を回りはじめる。あの質感は金属製ではない。だから動きを阻害されない。最初からこの状況を想定して造られたかのよう。


 ここから空賊達の顔までは見えない。減速もしておらず、驚いたにせよ操縦に反映される間もなく気を取り直したのか。


「ヒィヤッハァ―――!ここは俺達のシマだあ!帰れ帰れぇ~~~!」


 こちらは最初のものより演技が上手い。声の裏返り加減とか、もうノリノリだ。あるいは本物だったのかと心配が蘇りかけるも。それは敵の思うつぼなので耐えた。


 だが事情を知らない乗客達は、そうもゆかない。頭で大丈夫だと分かっていても、生で声が届く距離になると不安が高まる。


「安心してくださーい!今見てもらったとおりですからー!空賊の対処が終わるまで、しばらく船室でお待ちくださーい!」


 乗客の対応はパシひとりで大丈夫そう。その間、マルヨとアメリアは軽くお喋り。


「…何も起こらないね?」


「ああ。ダイチのことだ、どうせ碌でもねーモン作ったと思うが……」


 言葉と雰囲気は真逆だが、二人の真意は同じ。ダイチのやることは、必ず自分達の助けになる。頑張ればできる範囲まで物事を楽にしてくれる。


 空賊達が顔を見分けられる距離まで迫った――半ば予想どおり。どうも品というか、育ちがよすぎる。あまり卑しさを感じない。と、そのとき更なる変化は起こった。


 船の外を飛んでいた床材が淡い光を帯びる。そこから発した閃光が敵飛行艇を一瞬で貫き、一、二、三、四、五……全て爆散。跳ね飛ばされた空賊がシールドを素通りして甲板へ――ジャガイモのようにゴロゴロと。意識はあるが前後不覚に陥っている。正気に戻られたら、この人数をアメリアひとりで捌ききれない。


「こういうの得意な奴!ちょっと手伝ってくれ!」


 ここまで大勢来るとは思わなかった。それも本物の空賊ではないからだろうが……いずれできもしないことに意地を張って怪我するのはやめた。泣き落としに近いパシの説教によるところが八割、彼女も少しは成長したというのが残りの二割。


「オラぁ!大人しくしやがれ」


「ぐぁっ!わ、我々は空賊では……げはっ」


「るせぇ!自分で空賊っつったろうが!」


 年長の男子数名が助力を申し出たが、実際のところ戦いのほうは十分だった。アメリアが昏倒させた『空賊』を縛り上げるイスモとヘイノに手を貸しただけである。


 全員の拘束が完了した。改めて、今しがた起きたことを思い出す。


 まず船室の窓ガラスの色が変わった。原理はともかく遮光シールドだろう。


 次は甲板の床材が剝がれて船の周りを飛んだ。原理はともかく一種の防衛端末だろう。


 最後にその防衛端末から光が出て、空賊の飛行艇を全部撃ち落とした。原理はともかく対空砲台だろう。旧世紀の大国でさえ造れなかったと言われるレーザー兵器。


 どれもこれも滅茶苦茶だ。一体いつの間にこんな仕掛けを。


 そういえばこの船室は、ダイチが特別にしつらえたもの。ノアトゥン軍の貨物船を民生転用するにあたり、ユホら先方の市民達から許可を得て。そのとき甲板の床全体にも、何か怪しげな処置を施していたような気がする……


「…相変わらず、無茶しやがるな」


「お客さん達の目の前で、使ってしまってよかったのでしょうか……?」


 捕虜達のこともある。このまま生きて帰したら、大変なことになりそう。さりとて金属選別式シールドなどという面倒な仕掛けまで拵えたのだから、ダイチに敵を殺すつもりがないのは明らか。この世に存在しないはずの高度な技術を使ってまで。


 外部スピーカーを内輪の無線に切り替えたエイラが呟く。


《……だ、大事にされてるよね。私達……》


「…ふへっ。うへへへへへぇ……」


 マルヨは上の空だ。光の消えた瞳で「ダイくんの愛が重いよ……」とか何とかのたまっている。それが事実かどうかはさておき――妻の奇矯な言動にも慣れたもので、イスモは隣のヘイノと困惑した顔を突き合わせている。


「……それで済むような話かよ?」


「絶対ヤバいっしょ。こんなん積んでるって国にバレたら」


 よくて逮捕。武器準備集合罪とか。最悪、国家反逆罪で死刑。


 マズい。本当にマズい。自称空賊はともかく、乗客の口を塞ぐわけにも。


「「「「「《……………》」」」」」


 民生転用、とは。


 一度言葉の定義について、恩師を交えながらダイチと話したほうがよいと。話すべきだと。心に決める『ゆらかぜ』乗組員達だった。

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