表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セレスティア人の手記  作者: 五月雨
最後の日 ~????年~
153/210

マルヨ達の家は、

 マルヨ達の家は、意外にも前に来たときと変わりなかった。


 いや正確には花やら飾りつけやらが家の外まで溢れ、ピンク色の気配が周囲を汚染……もとい漏れ出していたけれども。政府から怪しげな働きかけを受けていたら、何の力も持たない二人のこと。もっと動揺するはず。


「杞憂、だったかな……?」


 そのまま帰ろうとするダイチを、無言のリゼが腕を摑んで引き留める。ダイチは別のほうの手でマナを込めながら虚空に文字を描いた。法創術のほうが慣れているが、今はこちらのほうが都合がよい。声を出さずに使える奇蹟、真言法である。


(君の姿は見えなくなったよ。正確には認識されない、ってところかな。僕はライブラリに名前がないから、そのままだけどね)


 初めて会ったときに使った、情報を相手の脳内に直接飛ばす方法で話しかける。リゼはダイチを見て頷く、これは一方通行でリゼからダイチへ言葉を飛ばすことはできない。


 何か見つけたのだろう、リゼはすぐさま行動を開始する。ダイチもセレスに頼めば情報を得られるが、迅速さの点で冒険者の勘に負ける。もしも敵が潜んでいるなら、そんな悠長なことはやっていられない。ヴァルマ=ルースアと戦うため研究所に戻ったとき、まだ法術王になる前のアルフから言われたことだ。


 家の前の電力柱で、何やら動きがある。かつては魔力柱だったとかいう話はどうでもよいが、これのせいで街の景色は西暦時代や旧世紀の地上と驚くほど変わらない。いつの世も不審者は、路傍の柱に隠れて女の子の家を見張っているものらしい。


「痛っ!いててててて」


「何をしていたの?白状なさい」


 三十路の男だった。年齢はリクと同じくらい、そういえば服も似ているような。


 マルヨのストーカーではなかったわけだ。ダイチとレフィアの顔を見るなり「げっ」とこぼし、慌てて自分の口を両手で塞ぐ。イスモとは方向が違う天然のアホ。


「……接触五秒で目的をゲロってくれたわけだけど……リクに頼まれた?その制服、国境警備隊のやつだよね」


「ち、違う!俺は国境警備隊なんかじゃない!これは……趣味のコスプレだ!」


「「……………」」


 言い逃れにしたって、もっとマシなのがあるだろう。捕虜の戯言は無視して、さっさと尋問を続ける……と、その前に。レフィアが何やら耳打ちしてきた。その内容を聞き、自分の想像が当たっていると確信する。


「幹事会の命令を受けて、リクは僕達を調べないといけなくなった。研究所スタッフも含めると一人じゃ手が回らないけど、警備隊の仕事じゃないから部下を巻き込みたくない。それで個人的な友人の君に、一緒に泥船に乗ってくれるよう頼んだ。違う?」


 恐らく、リクの考えはこう。


 ダイチとレフィアにバレたって構わない。非道な真似さえしなければ、殺されたりはしないはず。頼んだ友人――カイとソラは、人を傷つけるようなことはしない。これ見よがしに監視者を配置して、むしろダイチ達のほうに出せる情報を決めてもらおう、と。


「…ど、どうして分かるんだ……!?」


「だって君、僕達が初めて上陸したときリクの後ろにいたじゃない」


 気づいたのはレフィアだが、ここはそう言っておく。相手に敵わないと思わせること、尋問を効果的にする大切な一歩。


「それにさ、ちょうどよかったんだ。幹事会の連中には困ったものだけど、復興スケジュールを提案しようと思ってたとこだから。市民掲示板を見るように言っといて」


「わ、分かった。分かったから放して。俺には嫁さんと、まだ小さい息子が……」


 ようやく解放。そしてカイというらしいマルヨのストーカーを連れたまま、スタッフ達の家を回って面通しする。エイラの家の前で似たようなことをしているストーカー2号と遭遇、同じく武力で制圧した。カイの口からソラに事情を説明させ、同類かと思いきやソラのほうが頭はキレることを確認する。


「カイはもういいや。ソラ、リクとの繋ぎよろしく」


「ああ……」


「…仲間でもない奴に棄てられた!?」


「二度手間だよ。ソラがいること黙ってたから、また全員の家を回らなきゃいけないじゃないか……ちなみにエイラはフリーだから、狙うなら適法にね」


「俺も妻と娘いるっての!それ以前に○リコンじゃない」


 身長と雰囲気から13歳くらいに見られるが、エイラは立派な成人女性だ。


 とんでもない奴だとか何とか、自分の行いを棚に上げて愚痴る二人。まあ悪人ではなさそうだし、リクと直接会わなくても繋ぎが取れるようになったのは収穫か。とりあえず今日のところは、こんなものだろう。


「じゃあもう帰るけど、僕達がいないからってマルヨやエイラを襲わないように。それと一応忠告、アメリアは絶対ダメ。単純な喧嘩ならレフィアより強いし」


 二人がかりの搦め手なら勝てるのかもしれないが、路上に転がった二人の死体が目に浮かぶ。できることなら、可愛い従業員を刑事犯にはしたくない。


「あとパシはアメリアのだけど、ヘイノもフリーだから」


「「その趣味はねえ!」」


 適宜、個人情報を流しつつ。まあこれくらいのことは、あえて教えなくとも知っているかもしれない……という情報をダイチのほうが確認した。


「ああ、ああ。明日、報告する……何だよあれ、化物か」


 遠話の相手はリクだろう。それはさておき。


「やっぱり気になる?」


「…他意はないと思いますが。それでも」


 自分で言っておいて?――喉まで出かかったが、これは禁句。ますますリゼを追い詰めるだけ。己を貶めてまで、造られた怪物であるダイチを思いやってくれたのに。


「僕は気にしてないから、心配しないで」


「……………」


 誰が何と言おうと、リゼは化物ではない。ダイチは、そう思う。


 自然に発生した生き物だからだ。どんなにかけ離れていようと、彼女は人間。説明できないとしても、その言葉を持たない自分達が愚かなだけ。


 一抹の不安はある。ライブラリは、人の願いを具現化する力を持つ。ライブラリはプレゼンター由来の技術だ。その影響下で生まれたのなら、やはりプレゼンター技術の産物である黄金樹によって創られた現生種エルフと大差ないのではないか?


(それでも、やっぱりリゼは化物じゃない。種または亜種として、形質が遺伝するようなものじゃないから)


 仙人の体質は、技術である。スポーツ選手のテクニックや格闘家の体捌きと同じ。


 願望混じりだとしても。それがダイチの導き出す結論だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ