私はエイラ。社会的引きこもりの十八歳。
私はエイラ。社会的引きこもりの十八歳。
念のため言っとくと、物理的引きこもりとは違うよ。欲しいものがあれば配給所には行くし、学校だって病気のとき以外は大体通ってた。成績だって悪くなかったはず。
大学には行かなかった。興味の湧くものがない、加えて指導教官と頻繁に話さなくちゃダメとか何て拷問?そもそも働かなくていいのに進学する理由が不明。大昔は就職に有利だからって半分近くが行ったらしいけど。面白おかしく話すお祖父ちゃんお祖母ちゃんを見てるとね。もしかしたら働かないこと自体が目的だったんじゃないかな。たぶん。
そんなわけで、高等科卒業後の私は絶賛引きこもり中だった。何物にも邪魔されない、私の眠りを妨げるものは存在しない。一日中家から出ないことも可能――そう、まさしく『ノーバディ キャン ストップ ぐうたら生活』。この言葉考えた古代の人は偉い。
……はずだったのに。青天の霹靂どころか、一瞬で曇天を通り越し暴風の中に叩き込まれる。雨が降るならまだしも、ただの空っ風。得るものが何にもないやつ。
高等科時代の担任がわざわざ家までやってきて、両親にこんなことを言った。これで娘さんも社会参加できますね、よかったですね……いや4ね○×△□♨(自主規制)。
次の日から、元同級生が四人迎えにくるようになった。
朝からうるさいしウザい。せっかく卒業したのにこれじゃ同じことの繰り返し。思わず物理的な引きこもりにクラス進化したくなったほど。家から私を引きずり出すと、もう興味を失くしたみたいにバカップルどもは馬鹿っぷりはじめた。ヘタレえろガキは陰気な私が眼中にないのか無視。もう一人は……誰だっけ。妙に親近感込めた視線やめれ。
翌日から、朝早くひとりで出るようになった。一緒に仲よくとか寒気が走る。
学校もとい普通の家にしか見えない場所に行くと、もう一人いた。明らかにガンつけてくるそいつも同級生。ここまで揃うと、十二年続いたあの地獄の日々が蘇ってくる。
幸いというか当たり前なんだけど、担任は出てこなかった。同じ方向に並べられた机も椅子もない。代わりに私より背の高い棚がほとんど壁を取り払われた家中にびっしり。部屋らしいものは奥に一つだけ。クリーンルームとか書いてある。
何をしてるところなのかは、何となく分かった。ていうか棚に並べられた鉢植えの群れを見て、全然分からなかったらいろいろやり直したほうがいい。
「はい、みんな揃ったわね」
知らない女の人の声がした。ドアを開く音はしなかったから、クリーンルームから出てきたわけじゃないらしい。それにしては、人がいるような気配はなかったけど。こんなんだけあって、私は人の気配に敏感。なのに何にも感じなかったなんて。
「私はレフィア=エディル。最近避難してきたって言えば、知ってるわよね」
「……………」
誰も答えない。理由はそれぞれだろうけど、私は単純に知らない。家の外のことに興味ないから。加えて言うなら、みんなが答えない理由にも興味ない。
「そう?意外と噂が広まりにくいのね。では自己紹介から」
それはさっき聞いた……とは言わない。注目集めそうでめんどくさいし。ていうかこの人、目力がすごい。力んだり怒ったりしてるわけじゃないんだけど。何ていうか……こう、直視できない。見てると疲れる。存在感の塊。明らかに私とは別の人種。
「改めまして、レフィア=エディルです。ビフレストから避難してきました。二十七歳クォーターエルフ、家族はいません」
……ホントに人種が違った。外見は若々しいのに雰囲気は三十代、もしかしたら相当サバを読んでるかも……百歳とか?ううんまさかね。でも避難民ってことは、ミサイルが撃ち込まれる前の生まれ。さすがに地上ってことはないと思うけど。
それに家族がいないっていうのも特徴的。ミサイル後の私達は、普通に家族がいる。ていうか親がいなきゃ生まれてこない。運よく生き残った人達の子供が私達だから。親世代の感覚に近いのかもしれない、なるほど何となく分かりました。
自称二十七歳レフィアさんの話は、まだ続いてる。
「得意なのは身体を使うこと。正直あまり頭はよくありません」
「は?じゃあなんで植物の研究なんかしようと思ったんだ。水とか資源の無駄遣いだろ」
さっそくツッコミが入った。できれば早く終わってほしいけど、これで仕事自体なくなるならラッキー。そうそう、確かに変だよね。
対するレフィアさんの答えは、想像以上にアレだった。
「…なので、名目上の責任者は私ですが実際の運営は別の人がします。その人は今の時間だと、学校に行ってるの」
「はぁ!?」
更に喚く。今度のは不満と、威嚇も混じったやつだ。割と強烈。
「歳下かよ!?高等科のくせにタメ張ろうってのか」
「ううん、十三歳。中等科です」
ガン、と壁を叩く。あまり大きな音を立てないでほしい。
「帰る!」
そのまま出ていこうとする。続いて一人、また一人……となって、三番目か四番目くらいだと目立たず出られるかな。そう期待したんだけど。いつ動いたのか、レフィアさんが出口の前に立ってた。まあ要は帰るな、働け、ってこと。
「んだよ。邪魔すんな」
「働かざる者、食うべからず。そう教わらなかった?恩師の方からは、厳しくしていいって言われてるの」
「いつの時代の標語だよ、それ……とにかく邪魔すんな。どこの坊ちゃんか知らねえけど、ガキの道楽に付きあってる暇はねえんだ」
レフィアさんを押しのけようとした。でも次の瞬間、床にひっくり返ってたのはあの喧しい馬鹿のほう。
「……なんっ……!?」
「こういうことが、得意なの。だから不用意に逆らわないほうがいいと思う」
それから喧しいのは静かになった。アレだけじゃなく私達も。迂闊なことを言ったりやったりして、投げ飛ばされたら適わない。さっきやって見せたのは、そういう格闘技の一種だと思う。私達も簡単な自己紹介をして、とりあえず一日目は終わった。
…なんか、めんどくさいことになっちゃったなあ……
「ノーバディ キャン……」のくだりは、漫画家・藤崎竜先生のオマージュです。
「封神演義」コミックス版のあとがき漫画「断崖絶壁今何処」から拝借しました。




