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セレスティア人の手記  作者: 五月雨
最後の日 ~????年~
129/210

水を植物研究に使う許可は、

 水を植物研究に使う許可は、思いのほか簡単に取れた。皆あのレーションに飽きているのと、本当に暇だったから。厄介なことに、ヴァルハラの政府は他の住民達も参加させることを条件に出してきた。


「…その割には、やる気なさそうだけど」


「犯罪予防。暇になると妙なことを考える、そんな連中はいるからね」


「体のいい押しつけですか」


「そうとも言う。まあ社会貢献のひとつだよ」


 レフィアは理不尽が嫌いだ。権力を敵視しているわけではないのだが、二つの国に翻弄される村を救ったことで終いには教祖様に祭り上げられてしまった過去がある。無政府主義者達にまで解放の象徴みたいな扱われ方をしていたのには閉口した。理不尽を押しつけてくる相手が誰であれ、そこから逃れたいと思う。


 そういう生き方をしてきたせいか、友人は少なかった。それこそ両手で数えるくらいしかいない。ルーナ、アレク、エリザ、ドラッド、メリル、サイラス。アマンダ、コタロウ。土産物屋の……そういえば十八年の付き合いなのに、名前も聞いていなかった彼女。それら全部を見捨ててリゼだけ助けた、合理主義者を装いつつ理不尽の塊みたいな彼。


「……分かりました。できることはします」


 諦めて降参する。とはいえ、彼女にできることは二つ。率先して働くことと、逆らったり逃げ出そうとした手合いを暴力で従わせること。


 ダイチの研究室は隔離されている。完全な無菌室ではないが、それに近い環境は必要だ。せっかく望みの形質が得られても、コンタミネーションを起こして生育条件や種子が特定できないようでは意味がない。


 それともう一つ。研究の責任者はレフィアということにされていた。理由は至極当然、ダイチが子供にしか見えなかったから。クォーターエルフだと言い張ったが、歳を取りにくいだけで成長が遅いわけではないでしょうと一蹴。明日から中等科の学校へ通うことに決まった。十八歳という大いに鯖を読んだ年齢も、十三歳に書き換えられてしまった。


 すなわち育苗試験室の監督はレフィアひとり。放課後はいるが研究室のドアを頻繁に開けるわけにもゆかないため、彼女が大活躍せざるを得ず。


《…アメリアが休憩場所から逃げた。西方面、整備倉庫へ向かってる》


「はい!」


「なんで分かるんだ!?壁に目でもついてんのか」


《…パシがパシらされてる。お使い途中で悪い知り合いに絡まれたみたいだ》


「はい」


「……あ、ありがとうございます」


「どういたしまして」


《…エイラ何もしてないよ。植木棚の間を歩きまわってるだけ》


「…はい」


「え、レフィアさん?…や、やだなあ。ちゃんとお仕事してますよ」


《…ヘイノがサボり。出勤日なのに港で油売ってるな》


「……はい」


「うわっレフィアさん!…へへ、天気いいし一緒に飯でもどうです?」


「天気なら毎日いいでしょう。さ、行きますよ」


《…マルヨとイスモが……いや、これはいい。僕が自分で行く》


「…?何ですか?私が行きますよ」


《いいから。こういうのは子供のほうが気まずくできるんだ》


 犯罪予備軍というか、怠けているだけだった。むしろパシに絡んできた連中のほうを、どうにかしたほうがよいくらい。


 発想を変えてみる。もしかしたら、この六人は政府がつけた監視役。


「マルヨさん、鉢はそこを持たないで……ああっ」


 べにょん、と軽く床で跳ねる。割れていないが、腐葉土や小さな芽がぶちまけられた。


「やっ、コレどうしたらいいんですかぁ?」


「大丈夫だぜハニー。俺が片づけてやるから」


「乱暴に掃かないで!まだ使えるから!」


「レフィアさん、怒った顔もいいよなあ」


「……へへ。よかった、誰もこっち見てない」


「あわ。あわわ、あわ。あわ」


「…あ~?うるせえな。眠れねえじゃねえか」


 マルヨとイスモはバカップル。ヘイノはモテない女好き、ただしヘタレなので害はない。エイラは半分引きこもりの怠け者。パシはパシらされていたことからも分かるとおり、気が小さくて押しに弱い。アメリアは見た目と似合わず低血圧で朝に弱いが、午後三時を過ぎるとテンション上がってきて蒸発する。


「……………」


 よくぞこれだけの逸材を集めたものだ。


「…うん。違うな、絶対」


 なら、どうして働こうなどと考えたのか。今のヴァルハラは、基本働かなくとも暮らしてゆける。たまの物資運搬当番を真面目にやれば、配給だけで食べられるのだ。


 訊いてみたところ、彼らは全員同い年だという。高等科を出てからずっと何もせずダラダラしているのを恩師に見つかり、かといって大学に進めるほどの学力もないため、渡りに舟のタイミングで現れた『レフィアの』研究室にぶち込まれたのだとか。


「どうしてかな?別にダラダラしててもいいと思うけど」


「だよね?だよね?さすがダイくん先生は話が分かるぅ」


 マルヨは妙な呼び方をする。研究室を実質仕切っているのが分かったゆえ『先生』、でも見た目は子供だし十三歳ということになっているから『ダイくん』。最初はちゃん付けだったが、さすがにそれは拒否した。全力で。


 ヘイノは『ダイっち』、アメリアは普通に『ダイチ』、エイラとパシは『ダイチさん』、イスモは『ダイチ君』。彼の場合は、視線に少し殺気があるようだ。


「でも来た以上は、しっかり働いてもらうよ」


「…そんなぁ。イスモくんとのらぶらぶタイムがぁ~」


 とマルヨ。イスモはうんうん頷いている。バカップル改めダメ男&ダメ女。


「じゃあ来なければいいんだな?」


 とはアメリア。さも名案、といった様子できらりん☆としている。


「特別配給券が要らなければね」


 へにょりん★と萎れた。


 アメリアは見た目の印象どおり浪費癖がある。何をどうしているのか、月の半ばには配給を使い果たしてしまうらしい。


 唯一まともに働いているのはパシ。彼の場合、外に出して運搬当番を押しつけられたりしなければ大丈夫だと分かってきた。むしろ役立てることを喜んでいる節がある。


 その次に比較的マシなのがエイラ。彼女は基本怠け者だが問題を起こさないし、手先は器用でそこそこ働く――あくまでそこそこ。他人と顔を合わせなければ大丈夫。


「まるで学校の先生だね」


「誰のせいですか。同じ手間なら本物になったほうが得です」


「枠があればね……本当の目的、忘れないでよ」


「分かってます。言ってみただけ」


 マナと食糧の供給を安定させるまでは、この乱痴気騒ぎを続けるしかないようだった。

マルヨのキャラ変がありました。おばかギャル風だったのが、私の中で徐々にイメージが固まって……最終的に〇ュタインズ・〇ートのま〇り風に。幸せになってくれるといいんですが……この作品、割とみんなろくな目に遭わないので。

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