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お華の髪飾りⅡ  作者: 本隠坊
10/65

⑩最後の気散じ

(1)


「え! 今度はどっち?」

 様子を窺いに来たお華だったが、おさよからまた頼まれた。

 小春に授乳させている、おさよは笑いながら、

「今日はね、新ちゃん」

「お、ご嫡子様か。小春には笑われちゃったからな。新ちゃんなら大丈夫でしょう」

 と、お華が言った途端、おさよが驚きの顔になる。

「ほ、ほんとだ。春ちゃん怒ってる!」

 彼女は、乳を飲みながら、難しい顔でおさよをポンポン叩いている。

 お華は顔をしかめ、

「こ、こいつめ~。優斎先生も全く分からないって笑うんだけどさ。何故、分かるのじゃ。この子は」

 すると、今度は寝ていた新之助が泣き出した。

「おうおう、わかったわかった。今連れて行くからね~」

 お華が抱き上げると、玄関口から声が上がった。

「はい~」

 と言い、お華は、新之助を抱き上げたまま玄関口に行くと、なんと大奥からの使いの者であった。部屋者のその男は、お華と面識がある。

 ところがその者も、赤子と一緒に出てきたお華に、一瞬たじろいだ。

 とは言え、直ぐに気を取り直し用件を話した。

「え? 姉様が来いって?」

 新之助を抱きながらお華は、礼を言って頭を下げ、使者を送る。

 お華がそのまま居間に戻り、おさよに、

「姉様が、来いって言うんだけど、どうしよ?」

「え? 姉小路様? それは行かなきゃ。でもねぇ使いを頼んだおきみは、当分、帰らないだろうし、新ちゃんは、早く飲ませなきゃ可哀想だし……」

 するとお華は、

「だとすると、この子にお乳上げて、そのまま大奥よ。良いの?」

 さすがにお華は、些か笑って言うのだが、おさよにしてもどうしようも無いので、

「仕方無いわね。そうして頂戴。ただそれなら襁褓(むつき)なんかも持って行かなきゃ」  しかし、おさよは笑って、

「こりゃ、また妙な騒ぎになるわよ。だって、若様やお姫様じゃ全く無く、ただの奉行所同心の、それも赤ん坊連れて行くんだから」

 小春を撫でると、なんと小春もニコニコしている。

 お華も心配なのか、少し困った顔をしている。


 という訳で、お華はまず、例の御家人同心奥方のところに行った。

「あら!」

 と、また歓迎してくれる。

「今日は、新ちゃんか。さ、おいで」

 お華は、奥方に新之助を渡し、

「奥様。小春の事が、みんなにバレちゃって兄上に怒られましたよ」

 奥方は、大笑いだ。

 そしてお華は、

「まあ、この子は男の子だし、こまっしゃくれてはいないと思いますから、その点安心ですよ。大体うちの兄は、細かい所に煩いから、本当に困ってしまいますよ。でも、この子はあの兄の息子ですからね~同じようにならないか心配でございます」

 などとブツブツ言っていると、奥方は微笑んで頷き、

「そう? あの方も来られるけど、とても子煩悩なお方だもの。良いお父さんよ」

 しかしお華は、眉を顰め、

「でも、あの兄の息子ですからね~」

 などと、浩太郎の噂をしていると、またその奥方は、目が大きく開いた。

「あら! お華さん。この子も怒ってるみたいよ! ほら」

 なんと新之助も、バタバタしているのだ。

「お父様の事言っていたからかしら、凄いわね、お宅の双子」

 お華は驚愕の顔で、ガックリとしている。



(2)


 授乳も済み、お華は新之助を抱きながら江戸城平川門に向かった。

「新ちゃん。これからお姉ちゃんが沢山居るところに行くよ~」

 と話しかけると、新之助はお腹が一杯で、気分も良かったのだろう。

「キャキャ」と笑っている。

 お華は眉を寄せ、

「あんた。まさか女好き? それはこれから心配ねぇ……」

 などと言いながら、門を潜る。

 門番は、お華は知っていたが、赤子を抱いているから、大きい目で驚いている。

 そして梅林坂を昇り、七つ口の正面に来る。

 ここの門番も驚かせながら、七つ口入り口に行くと、顔見知りのおるいが、いわゆる受付として座っていた。

 男子禁制であるし、滅多な品物も入れない大奥であったが、さすがに赤子と一緒のお華を見て、るいは一瞬たじろいだ。

 しかし、さすがおるいだ。気を取り直し、挨拶をする。

 このるいは、通常鍵番なのだが、一方で大奥の警備、別式女をやっている関係でお華が、危ない所を救った事があるのだ。

 それはともかく、

「お華様! 赤子をお生みになったの?」

 と、笑っている。

 お華も笑って首を振り、

「姉の子よ。姉様に呼ばれてね、ちょっとワケがあって連れて来ちゃったのよ」

「あ~おさよ様のお子ですか~。でも、赤ん坊連れて大奥に上がるなんて、前代未聞ですよ。さすがお華さんだな~」

 などと、るいは妙な事に感心している。


 大奥は、男子禁制。

 例外として、お年寄や留守居の許可がある者。又は九歳以下の子供であれば、自由に入る事ができる。

 しかし、お華の場合は、将軍や幕閣の親戚でも無く、赤子を連れてくるなど、るいの言う様に、大変珍しい事である。

 そしてるいは立ち上がり、新之助の顔を覗き込み、

「まあ、可愛い」

 と満面の笑顔で、ほっぺたをちょいちょいつつくと、新之助も満面の笑みだ。

 そして中に入ると、年寄について列を作って進んでいた女達にちょうど出会う。

 赤子を抱いてるお華を見て、途端に列は消え去り、バタバタとお華の側に集まってきた。

 若い中臈や女中たちが歓声を上げて、新之助にあちこちから、可愛い可愛いと触られまくる。

 彼は、本当に嬉しそうな顔だ。

 彼女達はお華が抱いているから、若様やお姫様でない事が分かっているので、安心して騒いでいる。

 その年寄は、その時の大奥ナンバー2であった、滝山であった。

 彼女は、姉小路引退の後、最後の大奥を司る実力者である。

 彼女は、余りの混乱に、

「これこれ、何をしている!」

 と怒る様に近づいて行くと、それがお華だと分かり、

「なんじゃ、お華ではないか」

 笑顔で近づき、さすがに赤子を見ると彼女も驚いた。

「そ、そなたの子か?」

 お華は、滝山も知っていたから、

「いえいえ、これは姉の子です。こちらの姉様に呼ばれたんですけど、ちょうどお乳を他で飲ませておりましたので、仕方無く」

 と、申し訳無さそうに笑う。

 すると、滝山も笑って、

「こっちも姉様か。ああ、そう言えば双子と言っていたな」

「そうなんですよ。だから今、私は芸者何だか乳母なのか、よく分からない事をしております」

 と頭を下げる。

 しかし当の新之助は、大勢の若い女に囲まれ、満面の笑みである。


 さて、それをくぐり抜け、お華と新之助は、ようやく姉小路の部屋の前に辿り着いた。

「失礼致します。お華。只今参りました」

 しかし、襖は動かない。

 すると、

「申し訳ありません。綾瀬様、開けて頂けますでしょうか?」

 などと声がしたので、姉小路の局、綾瀬は、慌てて立ち上がり開けると、

「ど、どうしたのじ……」

 赤子を抱いて座っているお華を見て言葉が止まる。

 見ている姉小路と綾瀬は、背中を後ろに反りながら驚いた。

 姉小路が、少々慌てて、

「ど、どうしたのじゃ!」

 お華は、少し頭を下げ、

「先日、ご報告致しました、これは姉おさよの子にございます」

「ああ、双子という」

「はい。ちょうど貰い乳しに行くところにお召しのご連絡を頂きましたので、仕方無く……」

 綾瀬は慌てて、もう一つ大きめの座布団を持ってきて、

「ほら、ここに寝かせなさい。赤子も大変でしょう」

 するとお華は、

「いえいえ、若い女達に囲まれて、この子はご満悦の様でございます」

 と苦笑いだ。

 それには、姉小路も、

「今来ても、ただのおもちゃであろう。おばさんは酷い事するな~」

 などと大笑いしていると、なぜか新之助も奇声を上げて喜んでいる。

「さすがに、ここまで連れてくるとは思っていなかったんで、疲れました~」

 と、右手を振っているお華。

 すると、新之助を和やかに眺め、身体を撫でていた綾瀬が眉を寄せ、

「お華さん、濡れてるみたいよ~」

「げっ!」

 お華はさすがに慌てて、手提げ袋から新しい襁褓を取り出し、換え始めた。

 それを見ている姉小路は、

「全く、大奥に襁褓(むつき)換えに来たのは、そなただけじゃ」

 と、大笑いする。

 するとお華は、襁褓を変えながら、

「もう、兄の屋敷は大変ですよ。一人でも大変なのに、二人もいるものだから、障子開けても外が見えないんです。あまりに襁褓が干してあるから、障子だか襁褓何だか分からない状態で、庭なんざ一切見えませんから」

 それには二人、声を上げて笑ってしまう。

 既に慣れた様子で、素早く襁褓を変えたお華は、それをしまいながら、

「で、姉様? 本日のお呼び出しは何なんです?」

 と言うと、姉小路は苦笑し手を振り、

「赤子なんか連れてくるから、忘れてしまうところじゃわ」

 笑って言っていると、綾瀬が眼を大きく開け、

「お!」

 と大声を上げた。

 なんと新之助が、大きく身体を捩っている。

 お華は「えっ!」

 と手を出そうとすると、綾瀬が止め、

「この子、寝返りしようとしてるのよ」

 などと言うものだから、お華は驚き、

「でも、まだこの子は……」

「そう言えば、もうすぐ半年になるんじゃない?」

 今は五月だから、

「そうです。そんなものですか?」

「そうよ。だいたいそれぐらいだって言うわよ」

 新之助は、一所懸命身体を動かしている。

 そう聞いたお華は、思わず、

「がんばれ、新ちゃん!」

 と声を掛ける。聞いてる姉小路は、

「なんだか分からないが、何しに来たのじゃ」

額に手を当て、半ば呆れた様に笑っている。

 すると新之助は座布団の段差も手伝ってか、とうとうクルッと寝返りに成功した。

「やった!」

 お華が手を叩いて喜ぶ。

 姉小路は、頭を傾けながら、

「よくやった。もしお前さんが大きくなって、私がまだ居たら出世させてやる」

 と言わざるを得ない。

 綾瀬も、

「これは、それぐらい良い見世物ですよ」

 と笑うと、なんと新之助は、這いずりながら姉小路に近寄って行く。

「お! もう動けるのか?」

 姉小路は、ニコニコしだし、

 とうとう新之助は、姉小路が座っている足に辿り着いた。

 それを、微笑む姉小路は抱き上げてやり、

「この子はお礼しにきた。驚いたわね」

 するとお華は、

「これで、決まりましたね。交渉成立です」

 とこちらも笑う。

 しかし、姉小路は新之助に頬を寄せ、

「だが、上様次第じゃな~早く大きくなってくれれば良いが……」

 それにはお華が、途端に深刻な顔で、

「あの? 上様はお具合が?」

 それには姉小路は首を振ったが、

「今の所は大丈夫だと思うがな。それより問題なのは、その次じゃ」

「次って、若様ですか?」

 姉小路は頷き、

「あのお方次第で、出世も考えても良いが、どうもな……」

 姉小路の不安な様子は、そう遠くない将来、的中した。

 次期将軍と決まっている家定は、幕閣は勿論、大奥でも不安視されている。

 何より、健康面である。

幕閣の方では、早くもその次の将軍が話題となっているぐらいだ。

 姉小路は話題を変えた。

「それでな。今日来て貰ったのは、十日後、増上寺に参詣と歴代将軍様にご挨拶をせねばならん」

 お華は頷き、

「ああ、ご警護にございますか?」

「うん。それもそうなのだが、今回は増上寺だから、帰り、一休みして城に帰りたいのじゃ。じゃが、あの辺は二十人ぐらいで休める所が思いつかぬのじゃ」

 お華は大きく頷いて、

「なるほど、それでお呼びになったのですか」

 姉小路は、新之助をあやしながら、

「どうじゃ、どこかないか?」

 お華は、天井を見詰め、

「そうでございますね~。そうしますと、お昼にお休みになって、お食事を取りお休みになると言う事ですよねぇ……」

 すると、お華は目を大きく開いて姉小路に、

「あの? それはお武家のお屋敷でも構いませんか?」

 姉小路は、新之助の頭を撫ぜながら、

「それは構わん。だが、何か良い所があるか?」

 するとお華は、少し前に出て、

「あの~。一つお伺い致します。以前、お願いしておりました、伊達様のご昇進の件。どの様になりましたでしょうか?」

 姉小路は突然の質問に、

「伊達様?」

 と言って、横の綾瀬に、

「あれはどうなったかな?」

 すると綾瀬は、

「はい。あれは他の件も含めて、(みかど)様代替わりで些か伸びておりましたが、先日、京からのお知らせでは、今年……いや遅くとも来年には正式に許可となるとの事にございますが……」

 姉小路は頷き、

「お華。今日のわらわの実家、京の橋本家から毎回この様な事は連絡を頂いておるのじゃ。来年の秋には、お許しになるようじゃ。だが、それで伊達様にお願いするのか?」

 お華は、大きく頷き、

「それは助かります。お願いし易くなります。あそこは丁度、道順と言って良いですし、何より、あそこには能舞台があります。お昼を取って頂いて、少々、舞台をご見学頂き、お城に。と言う事で如何でしょう」

 それには、姉小路と綾瀬は顔を見合わせ、笑顔になる。

「それは、良い考えじゃ。下手な所で休むより安全じゃからの」

 姉小路も、

「そうじゃな。しかし、お華。見学とは何するのじゃ?」

 それには、お華は満面の笑みで、

「私も芸者の端くれ。お昼の短い時間ではありますが、姉様初め、皆様に喜んで頂けるような出し物をご用意致します」

 深く頭を下げる。

「ほ~。で、一体、何する積もりじゃ?」

 それには、お華の片頬が上がる笑顔で、

「それは、当日まで秘密と言う事にさせて頂きましょう。そのかわり、姉様も驚くような芸をご用意致しますので、それまでお楽しみに」

 姉小路と綾瀬は、口を押さえて大笑いだ。

「言うたなお華。よほど自信がありそうじゃな。よし。楽しみにしておこう」

 と姉小路が言うと、手元の新之助が急に憤りだした。

 綾瀬が驚くと、新之助は、姉小路の腕をポンポン叩き出した。

 さすがにお華は慌てて、

「こ、これ。新ちゃん!」

 と言うのだが、綾瀬は大きく頷き、

「この子は、私も連れて行けと言ってるのではないですか?」

 笑いながら言うと、姉小路も、よしよしと言いながら嬉しそうに、

「きっとそうじゃ。その話をした途端だったからの」

 お華は呆れながら、

「この子も、もう一人小春も、何か私が言うと怒るんですよ。新ちゃん。あんたはまだ小っちゃいから駄目でしょ。もうちょっと大きくなって、歩けるようになったらね」

 言い聞かせるお華に、新之助は、まるで口を尖らせた顔で、おとなしくなってしまった。

 それを見て三人は、大笑いだ。



(3)


 お華は、新之助を抱いて、八丁堀まで帰ってきた。

 居間に入ると、小春が楽しそうに、完全なずり這いという程ではないが、移動している姿を見て、お華は驚いた。

 帰っていた浩太郎とおさよは、それを見ながら、幸せそうに笑っている。

「お華ちゃん。小春が今日、寝返りが出来たのよ」

お華は、新之助をおさよに渡すと、彼女も少々疲れた様に座ったが、

「姉上。新ちゃんも今日寝返りしたのよ!」

 それには、浩太郎夫婦も驚いた。

「何だと! 新之助もか?」

 お華は、笑顔で、

「しかも、大奥姉様の目の前で。そのまま這って姉様に抱いて貰ったのよ」

 浩太郎もさすがに驚いた顔で、

「へぇ~新之助も。その辺はさすが双子って感じだな」

「大きくなる頃までわらわが大奥にいたら、出世させてくれるってさ」

 それにはおさよは大喜び。浩太郎も嬉しそうに、

「それはありがたい。是非、そうなってほしいものじゃ」

 するとお華は、後ろに笑顔で座っているおきみに、

「ねえ。おきみちゃん。今日は、サブちゃん居るの?」

「あ、はい。いらっしゃる筈ですけど。お呼びしましょうか?」

 お華は首を振り、

「ううん。あのね、今から伊達様上屋敷に行くから、一緒に来るように用意してって言ってくれる?」

「上屋敷ですか。はい承知しました」

 とおきみが出て行くと、浩太郎が、

「なんだ今度は?」

 お華は立ち上がり、

「姉様の言いつけでね。伊達のお殿様、昇進がお決まりになったからお知らせと、お願いがあってね」

 浩太郎は、

「おお。あの件か。それは良かった」

笑顔で頷く。

 お華は、ニヤっとして、

「どうぞお二人は、我が子の成長をお楽しみください」

 と言いながら、玄関先に向かう。

 外に出ると裕三郞が、少々怯えた顔で立っていた。

「上屋敷って、一体何なんです?」

 さすがに、伊達家の事と言われては、真面目に聞かざるを得ない。

「ま、歩きながらね」

 お華達は、品川方面に向かって歩き出した。


歩きながら、お華は、

「一つお願いがあってね。今、お殿様はいらっしゃるのよね?」

「はい。おいででございますが」

「じゃね。直接、姉小路様のお言葉をお伝えしなければならないから、あなた。留守居様とご本人の許可をお願いしたいの」

 それには裕三郞も驚き、

「え? 殿にですか?」

 お華は頷き、

「そうなのよ。いらっしゃるならお殿様ご自身に申し上げないと、ご無礼になるからね」

 裕三郞は目を大きく開け、

「は、はぁ~」

 と言う事で上屋敷に着くと、裕三郞は早速、留守居の許可を取り、

 お華と裕三郞は、留守居に殿様自身の居間に導かれた。

部屋にて、暫く待っていると、

 当主、伊達陸奥守義邦が奥方と娘を伴って現れた。

 お華と裕三郞は、次の間で平伏している。

 座に着いた義邦は、お華達に「義邦じゃ。近う近う」と笑顔で呼び寄せた。

 留守居が、手で指し示すと、お華達は頭を下げながら、同室に入って再び平伏した。

 まあ裕三郞もいる事だし、何より姉小路の使いと言われれば、歓待しない訳にはいかない。

 頭を下げたままのお華は、

「大変、恐れ入ります。初めてお目にかかりまする、北町奉行所同心、桜田浩太郎の妹、そして、柳橋の芸者を勤めます、華にございます。留守居様、そしてこちらの裕三郞殿にはいつも大変お世話になっております。本日はお寛ぎの所、突然押しかけまして、どうかこのご無礼、お許し下さいませ」

 と、お華は挨拶したのだが、義邦は破顔し、

「同心の妹、柳橋の芸者、そして大奥の使いとは、そんな挨拶聞いた事無いわ」

 奥方、姫と一緒に大笑いした。

 お華も少し笑い。

「はは、誠に持って。私自身も時々不思議になります」

 などと言うと、正面の三人はまた笑う。

すると、姫が、

「お父上、お華様には、私の方こそお世話になっております。申し訳ありませんがお礼をお願いします」

それには奥方も一緒になって、大きく頷く。

「おう。そうだったな。わしが居ないときに、姫が迷惑掛けてるそうじゃな。かたじけない」

 軽く頭を下げると、お華は大きく手を振り、

「と、とんでもございません。お姫様には、私の妹芸者おみよが三味線を一緒に弾かせて頂いている。というだけにございます。むしろ、ここに居る裕三郞殿の兄上、ゆ……いや裕次郎殿が、以前、お身体がお弱かった頃の姫様には、ご一緒に三味線を弾きながら色々お話するのが一番と言われまして。しかし、久しぶりにお目にかかると、まるで別人の様にお元気になられました。さすが、あの方も殿様の御家来と感じ入ってる次第にございます」

 するとお華は続けて、

「姫様、相変わらず、お庭の散歩は続けていらっしゃるので?」

 これには、奥方と姫は大きく笑って、姫は、

「もう。日課のようになってしまいましたよ」

 奥方は和やかに頷く。

 若干、後ろに座っている裕三郞は小声で、

「兄上は、また御家来にされちゃったよ」

 と笑うが、お華に振り向かれ、怖い顔をされ慌てて頭を下げる。

 すると義邦は、

「そこの裕三郞の件。それもそなたが取り計らってくれたそうじゃな」

「あ、その件でしたら、お詫び申し上げねばなりません」

 と一旦、頭を下げ、

「私の兄も、殿様の命に敵う様な場所を探していたのですが、申し訳無い事に全く見つかりませんでした。申し訳ございません。やはり先日の改革で、その様な所は全て無くなってしまいまして。ただ、だからと言って、この人を江戸で遊ばせておくのも意味がありません」

 すると裕三郞が、また小声で、

「お華さんに監視されて、遊ぶどこじゃありませんでしたよ……」

 それにはまた、お華は振り向き、

「やかましい」

 と言われてしまい。

 殿様も奥方達も大笑いとなった。

 すると、横の留守居が、

「殿。このお華どのは、女ながらそれは武芸達者で、なんとお上にご褒美を貰うぐらいの女子です。お陰で、お旗本に教えを受けるのも簡単に決まりました」

 三人も、それには目を大きく開けて驚く。

 しかしお華は、笑いながら首を振る。

「殿様、実は私。どうも信濃の草の者を祖にしているようでして、その武芸を受け継いで居る様でございます。最も、私がそれを知ったのは最近の事なのですけど」

 それには義邦が驚いて、

「まて、草の者というと、あの幸村殿の?」

 お華は頭を下げる。

「これは驚いた。あの方は、いわば我らの親戚筋ではないか。その家臣だったというのか」

「あの、大坂の戦いで、こちらの家祖、正宗公にお褒め頂いたそうにございます。私もそれをお伺いして、敵味方とはいえ、縁とは恐ろしいものと思っております」 当主と奥方はも、大きく頷き、

「そう聞いたら、無下には出来ん。裕三郞! 茶を出せ、茶を!」

 これには裕三郞は多少呆れたものの、主君の言葉に逆らう訳にもいかない。

「は、はい只今……」

 と言うと、お華は振り向いて満面の笑顔だ。

裕三郞が、憮然とした表情でお華にお茶を出すと、お華は殿に向かい、

「それで、今回。こちらに参った訳なのですが、一つはご報告、もう一つはお願いがあっての事にございます」

 と、頭を下げる。

「ん」

 と、こちらもお茶を飲みながら頷くと、

「まずは、ご報告にございます。数年前から、お上にお願い申し上げておりました、お殿様、従四位下中将へのご昇進、正式に決まった様にございます」

 それには、義邦は勿論、そこにいる全ての者が声を上げる。

「なんと。ようやく決まったか!」

「誠か! お華どの」

 と、留守居も声をあげる。

「はい。遅くなりまして、誠に申し訳ありません。ご存じの通り、京の帝様も代替わりなどで些か伸びてしまった様にございますが、本年末までには正式のお沙汰が出ると京からご連絡があった様です」

 同時に、奥方と姫、そして留守居が義邦に頭を下げ、

「おめでようございます」

 と、涼やかな声を上げ、義邦は笑顔で、二度三度、うんうんと頷く。

 裕三郞も当然、頭を下げるのだが、

(しかし、この様な事、報告できる芸者って何なんだ?)

 首を傾げながら、不思議そうな顔をしている。

 すると、義邦は、

「良い知らせを運んでくれた。礼を申すぞ」

 一同、軽く頭を下げる。裕三郞は何が何だか分からないままであったが、吊られて頭を下げる。

 そして、義邦は、

「で、願いというのは何じゃ?」

 機嫌の良い義邦を見て、お華は頭を下げ、

「はい。これから十日後、こちらの上屋敷をお借りできないかと……」

「何? ここを?」

 お華は微笑み、

「いえいえ、お殿様に出てけという訳ではございませんよ」

 と笑う。義邦と奥方、姫も、それには笑ってしまった。

「実は、十日後、上臈年寄姉小路様が、品川の増上寺にご法要に参ります。してその帰り道、お昼時分に少々お休みさせて頂けないかと。このお願いにございます」

「おお、増上寺に姉小路様が? なんだその様な事か。全く構わんぞ。なあ?」

と留守居に聞くと、

「はい。おそらくその日は、取り立てて何も無いと存じまする」

 その言葉には、お華も笑顔で、

「これは、早速のお許し。誠にありがとうございます」

 と、平伏する。

 そして、

「あの~。その際でございますが、こちらにありまする能舞台。これも使わせて頂いても宜しゅうございましょうか?」

 さすがにそれには、

「能舞台? 別に構わんが、何するのじゃ?」

「はい」と、お華は頭を上げて、

「お年寄様と大奥の中臈達。そしてお殿様ご家族もいらっしゃいますので、何か、お喜び頂けます芸を、ご披露したいと考えております」

 それには、奥方の方が喜び、

「何か、やってくれるのか?」

 と聞くので、お華は笑顔で、

「はい。さすがに伊達様のお屋敷でいい加減な事は出来ません。我が国で一、二と言っても良い芸をご披露したいと存じます。ただ、大奥も門限がございますので、余り長い芸ではございませんが、如何でしょうか?」 

 義邦は嬉しそうに、頷き、

「ああ、そうだったな」

「はい。ですが、特にお嬢様」

 姫が、目を大きくしてお華に顔を向ける。

「お嬢様には是非ご覧になって頂きたいと思います。ご自身の三味線にきっと役立つ、そして驚きの音をお聴きする事が出来ます」

 それには、姫の方が喜び、

「それはほんに楽しみな。ねえ、お父上。構いませんよね」

 義邦は、さすがに姫には、

「お、おお。大体、姉小路様の仰せなら、断る訳にはいくまい。わしも楽しみじゃ」

 というわけで、お華の伊達家攻略が成功した。


 座を立った、お華は裕三郞と能舞台を確認して、

「ああ、花道があったのか……これは良い」

 喜ぶお華は横に立つ裕三郞に

「サブちゃん。綺麗に掃除しておいてね」

 と、冷たく言い放つと、裕三郞は情けない顔になって、

「え! わたしが!」

 悲しそうに肩を落とした。



(4)


 さて、上屋敷を離れた、お華と裕三郞は岩本町に向かって歩いていた。

 裕三郞は、

「私も一緒に、どこ行くのです?」

 と裕三郞は、些か怯えながらお華に聞くと、

「これから、出演交渉に行くのよ!」

 何故か、力一杯答えた。

 裕三郞は驚き、

「交渉って……なぜ私も行くのです?」

 するとお華は、

「当たり前でしょ。伊達様のお屋敷でやるんだから、誰か伊達様に関わる者を連れていかなきゃ。まさか留守居様を連れて行くわけもいかないし」

 裕三郞は驚愕し、

「え? それで?」

 彼の肩は、ますます下がっていく。


 最初は、そのお華自身の屋敷だった。

 お華は、おみよを呼び、そして一緒にノブの小屋に行った。

 お華が、その次第を話すと、ノブは驚き、

「私が? お大名様の前でですか?」

「そう。頭にね」

 ノブはお華の言葉に、いつもと違った意味での恐怖を感じていた。

 さすがに身分が違うし、下手したら簡単に斬り捨てられてしまう。

 しかし、お華は、それを察したのか笑って、

「大丈夫よ。ノブさんに危ない事なんか絶対無いから」

 ノブは少し笑って、

「まあ、お華さんが居るのなら、そこまでにはならないとは思いますけど……」

「当然よ!」

 胸を張ってお華は言い、

「そうよね、サブちゃん」

 いきなり振られた裕三郞は驚いたが、

「ええ。ノブさんには何も責任はありませんから。何かあったらこの人ですよ」

 と、苦笑いでお華を指差す。

 おみよは話を聞いて、彼女も芸者。お華の言う事はすぐに理解したが、

「でも、姉さん。ノブさんに何をやって貰うんです?」

 お華は頷き、

「ほら、あそこのお嬢様も一緒にご覧になるって仰るし、大奥の連中も三味線得意が多いからね。驚かせてやりたいのよ。それに奥深さも知って貰いたいし……」

と言って、お華はノブに演目を指定した。

 それには、ノブとおみよが驚いた。

「お華さん。そんな事やって構わないんですか?」

 ノブの言葉にお華は大きく頷き、

「何より、ノブさんの音を聞かせたいのよ。これは誰が何を教えるよりも一番、修業になるからね」

 ノブは、その言葉に大きく頷き、

「そういう事でしたら、やらせて頂きます」

 と、頭を下げた。するとお華は、

「三曲めは、私とおみよちゃんが、この人を中心に踊る。お大名様は、芸者の踊りなんて見た事ないからね。柳橋……いえ、深川の芸者として踊って見せましょ」

 おみよも、深川芸者という言葉には和やかに承諾した。

 すると、おみよは、

「でも、お姉さん。お昼からお見せするなら、いくら門限があると言っても、ちょっと早すぎない?」

 さすがに、おみよも一度は大奥に行っているので、その辺は見通せる。

 するとお華は、少し笑って、

「そう。もう一人これから交渉に行くのよ。ノブさんも私の奥の手だけど、もう一人の奥の手も使う」

 そう言われたおみよは少し考えると笑顔が浮かんだ。

「それって、もしかしたら亀ちゃん?」

 お華は大きく頷き、

「さすが、おみよちゃんね。その通りよ」

 しかし、その名前にはノブと裕三郞は首を捻った。

 裕三郞はお華に、

「それって誰なんです?」

 と言うと、お華は二人を見て、

「猿若町の三代目中村仲蔵よ」

 それには、目の見えないノブも眉を上げて驚いた。

「へ~。そんな人もですか。こりゃ、力が入るな~。でもお華さんそんな役者とどうして……」

 お華は笑い、

「ノブさんにそう言って貰うと嬉しいわよ。実は、私の踊りの弟子なのよ」

 それには、ノブも頭を捻って、

「こりゃ驚いた。お華さん、何でもありですね~」

 驚いて感心している。目の見えないノブでも、名前ぐらいは知っていた様だ。

 しかし、裕三郞は仙台の男。芝居小屋と言われてもピンと来ない。

「お華さん。その人って有名な人なんですか?」

 と聞くと、おみよの方が笑って、

「団十郎さんの様に大看板では無いけど、無くてはならないって言われている役者よ。恐らく、そんな人上屋敷に連れて来たら、女は大騒ぎって人よ」

「へ~。私は芝居なんぞ、仙台でも見たことありませんでしたが、いきなりそんな有名な人にあえるんだ~」

 裕三郞は、意外な出会いが出来ると喜んでいるが、お華は冷たく。

「その交渉に、私と一緒に行くのよ。あなたはちゃんと伊達家の勘定方としてシャンとしてね」

 とか言われ、彼は再びガックリとしてしまう。

 しかしお華は、些か厳しい顔で、

「でもね~。あいつ最近、遊び歩いているって話だし、どうなのかな~」

「お母さんが言ってたの?」

「そう。楽屋の前に女の人が一杯だってさ」

 おみよは微笑みながら、

「さ~。姉さんにどう言われるんでしょ。ちょっと気の毒だな」

 大笑いとなってしまう。


 と言う事で、二人今度は猿若町に向かった。

 彼は、今月芝居に出演中だった。

 演目は、「京鹿子娘道成寺」

「本日は見逃せません、三代目中村仲蔵によります清姫にございまする~。舞の名手、仲蔵の安珍清姫。お早くお席の方へ!」

 と、呼び子が大声で客引きをしていた。

 お華は、その客引きが立ってる呼び込みの下から、

「仲蔵はこれからなの?」

 と聞くと、些かおちゃらけた男は、

「へい! 姉さん。これから出番でございますよ。ご覧になりますか」

 お華は仏頂面で、

「じゃね。この人と二人。二階正面辺りは空いてる?」

「へ? 鉄砲じゃなくていいんですかい?」

 鉄砲という席は、一階正面から十列目一帯の席の事。

「いいのいいの。ちょっと確認するだけだから」

 その男は妙な顔で、

「かぁくにん? 変わったお客さんだ。まあ、そこなら空いてますよ。さあどうぞ!」

 二人は、芝居小屋二階正面の席に座った。

 すると裕三郞は、

「こんな奥で良いんですか?」

 お華は頷いて、

「いいのいいの。別にお贔屓って訳じゃないからね。ちゃんと教えた事やってるかどうか広く見たいのよ」

「へ~そういうもんですか……」

 道成寺は、紀州道成寺を舞台にして展開される、安珍清姫の物語。

 お華には都合良く、踊りを主体とした物語だ。

 拍手と歓声の中、仲蔵がいよいよ登場した。

 そして、舞が始まる。

 前述の通り、この芝居は、殆ど娘踊りが中心になる。

 彼の舞を見ている裕三郞は、初めての観劇ということもあってか、目を輝かせて見ている。

 ところが、お華の表情は、どんどん厳しいものに変わって行く。

 あげくには、「全く! あの亀!」と独り言を言っている。

 どうやら気に食わない様だ。

 裕三郞には、横に居るお華の不機嫌さの圧力が、どんどん大きくなって行くのを感じた。

 しかし彼には、それが自分に向けたものでは無い事は理解しているので、別の意味で、何が起こるのか楽しみにしている。

 さて、鐘に飛び込み、大蛇が出てきて終演となる。

 お華は、すぐに立ち上がり、

「サブちゃん! 付いておいで!」

 と言い放った。

 とても、侍と芸者という関係ではなく、末の弟に命令する鬼姉という感じだ。

 裕三郞は、その様な事は今更、分かり過ぎる程分かっているので、「はい」と素直に付いていく。

 劇場を一旦出て、楽屋口から入り、香盤表(いわゆる出演役者の出欠簿)の前にいた係の者に、

「あのね。柳橋のお華と、こちらは伊達様の御家来だけど、仲蔵に会いたいから、ちょっと取り次いでくれる?」

 と、むすっとした顔でお華が言う。

 当然だが、役者に会いたいなど見知らぬ者が言っても、今も昔もそう簡単に通してくれる訳がない。

 ところが、お華の勢いに、係の若い者も怯えたのか、

「へい。いますぐ」

 と走って行ってしまった。

 話が通れば案内され、劇場二階にある、準主役クラスがいる楽屋に通された。

 化粧を取った仲蔵は、久しぶりに来てくれたお華に笑顔で、

「これは、お華姉さん。ようこそいらっしゃいました」

 と、役者らしく柔らかに歓迎したのだが、お華は仲蔵の歓迎の声を横に振り払って、いきなり、

「こら! 亀!」

 と、怒鳴りながら仲蔵の前に、ドンと座った。

 裕三郞はおかしくて堪らず、口に手を当て、声を出さずに笑っている。

「あんた! さっきの踊りは何なの!」

 もう、怒鳴り声が部屋中に響く。

 いや、他の楽屋中にも響いている。

 途端に、仲蔵は青い顔をして、

「姉さん。な、何が……」

 と怖々聞く。

 するとお華は、ああだこうだ、

「あの踊りのどこが若い娘なのよ! あんた。何も勉強してなかったでしょう! 指先に気持ちが、全く入ってないわよ!」

 もう、散々である。

 仲蔵は、盆の窪に手を当てシュンとしてしまった。

 他の連中は、この異常事態に目を大きく開け、ジッと見詰めている。

 充分な場所は確保していて、単なる大部屋と言う訳では無いのだが、仲蔵も大看板と言うほどではないから、他の連中と同じである。

 しかし、客が来てこんなこと言われる役者も珍しい。

 まるで、簪の速射攻撃の様な言葉に、抵抗する間も無く磔にされている様だ。

 いい加減、さすがに裕三郞も気の毒になり、

「お華さん。お願いに来てるんだから、もうその辺で……」

 と言うのだが、お華の怒りは収まらず、

「この亀は、小さい時から私が踊りを教えてきたのよ。全く、皆さんのおかげで、あんな大きい役を頂いたのに、あんな踊りをしている様じゃ、師匠のお母様だってあの世できっと怒ってらっしゃるわよ!」

 仲蔵に、言い返す言葉が無い。

 本人にも、些か思い当たるところがあったのかも知れない。

「亀はね! 最近、人気があって女にちやほやされて、のぼせ上がってるのよ。あんた!分かってるの!」

 ますます、仲蔵は小さくなっていく。

 すると、そこに如何にも大御所らしい風格の役者が、満面の笑顔でやって来た。「どこかで聞いた声だと思ったら、やっぱりお華さんか!」

 と、彼は、仲蔵の横に座った。

 お華も、その言葉には途端に顔が変わり、

「これはこれは、歌右衛門さんではございませんか。お久しぶりにございます」

 深く、頭を下げた。

 これには、裕三郞も吊られて頭を下げ、

(こ、これが、歌右衛門……)

 と呻いた。

 そう天保の改革で、お華と関わりがあった四代目中村歌右衛門である。

 芝居を知らない裕三郞でも、さすがにその名前は知っていた。

 するとお華は、歌右衛門に、

「いやね。成駒屋さん(屋号)。こいつがね、余りに情けない踊りなんぞやるもんだから頭に来ちゃってね」

 それには歌右衛門が大笑いした。

「私も今、それを言いに来たんですよ」

 と大笑いし、

「しかし、お華さんに言われたなら、もう必要ないですね。この子はまだ若いから、まだ大事な事が分かって無いんですよ」

 それには裕三郞が、

「大事な事ですか」

「ええ。役者にとって舞台はいつでもありますが、今日の芝居は今日だけのもの。生涯二度とは無いのです。たとえ同じ役でも。これを一言言わねばと思っていたんです」

 そこで大いに笑い、

「ところが、そこにお華さんです。私も聞いてましたがこれだけ的確に言われてしまったら、言う事は無いなってね」

 それには、裕三郞も大笑いだ。

 しかし、仲蔵はお華に睨まれたカエル状態だ。

 すると、歌右衛門が、

「それはそうと、お華さん。今日は見にいらっしゃったのですか?」

 それにお華は、我に返った様に笑い出し、

「あ、そうでした。実はね、この子に、私の大切なお客様の為に、踊りか寸劇でも披露して貰えないか頼みに来たんですよ。今日は出だと言う事で、どれくらい上達したのか見てみればこの始末。頭に来てしまいましてね……」

 歌右衛門は笑い、

「なるほど、そういうことでしたか。それはまた悪い時に当たりましたねぇ~。でも、この子もまだ若いから、たまにはトコトン叱られた方が良いのですよ。むしろ、叱られなくなった時が一番危ないって言いますからねぇ」

 すると、お華は今、気が付いた様に、

「このお侍は、仙台伊達様の勘定方の秋月裕三郞と申します」

 いきなりの紹介で、裕三郞も慌てて頭を下げた。

 歌右衛門は、姿勢を正し、

「これはこれは、伊達様の。お初にお目にかかります中村歌右衛門にございます」

 同じく、仲蔵も頭を下げる。

「でね。こちらのお殿様のお屋敷で、こちらの殿様と、大奥の姉小路様の前で、是非お願い出来ないかと思いましてね」

 ようやく本題に入った。

 その名前には、歌右衛門も大層、驚いた。

「ほう! 姉小路様もですか。これはこれは、さすがお華さん。もの凄いお方々じゃないですか」

「ええ。まあ。幾ら姉小路様と言っても、さすがにお芝居は観た事が無いと思いますし、伊達のお殿様も同じだと思います。しかし、江戸にいらっしゃるのなら、一度はお見せしたいと思いましてね」

「それは有り難いお言葉。いや我々にも、とてもありがたい事にございます」

 と歌右衛門が頭を下げる。

「ちょうど、舞台も跳ねている月末ですし、ほんにチョンの間ですから、亀は私の弟子で、人気も高いと言う訳で頼みに来たんですがね~」

 とお華が困った顔で言うと、歌右衛門が、

「分かりました。仲蔵。もう大丈夫だよな」

 やっと助けの言葉が飛んだので、仲蔵は勢い良く、

「はい。是非ともお引き受け致します!」

 と、頭を下げる。

 すると、歌右衛門は、

「そういう事なら私も手伝いましょう」

 それには、お華も驚き、

「え、成駒屋さんも? 宜しいのですか?」

 笑顔で頷く歌右衛門。

 それでは。とお華は演目の打ち合わせを始める。

「能舞台であるなら、下座の連中と弟子達、そして衣装さえあれば何とかなるでしょう」

 お華は笑顔で、

「お道具や皆さんの移動は、この裕三郞殿が船で運ぶよう、全て手配致しますので、ご準備の方、よろしくお願い申し上げます」

 と、頭を下げた。裕三郞は妙な顔で頭を抱える。

 すると歌右衛門は、

「それはそうと、近頃。お上の方は我々に何かご不満の様なお話になってないでしょうか?」

 彼は、天保の改革で、散々大変な目に遭っている。

 木挽町から猿若町に芝居小屋が移転させられたのもそれが原因だったからだ。

 しかしお華は 、

「今の筆頭老中、阿部様はその様な事一切お考えではありません。お安心を」

 歌右衛門と仲蔵は安心したように、笑顔で顔を見合わせる。

「でも……」

 と言うお華に驚いて、

「何か問題が?」

 歌右衛門が聞くと、

「いえね。芝居がどうと言う事ではありません。成駒屋さんもご存じでしょう。今、江戸の海に外国船が、時々来ている事」

 歌右衛門は頷いて、

「ああ、はい。それはお聞きしております」

「今はそれをどうするのかという話で、芝居をどうするのかなどより、むしろ、戦にでもなったらどうするのか、と言う方が問題です」

 その言葉には、二人とも驚いた。

 仲蔵が、

「姉さん。こっちの方にも被害があると?」

 お華は笑って、

「さすがにここまでは来ないと思うよ。ただね。ここには届かなくても、お城中心が、大変な事にでもなったら、とても小屋を開くわけにはいかないでしょ」

「はい。それはそうです」

「仮に何もないとしたら、どうなると思う? その外国の物が江戸に入ってくるかも知れない。それが、むこうのお芝居やらそんなものも入って来たらどうなると思う?」

 仲蔵は首を傾げる。お華は続けて、

「いい。人は新し物好きなのよ。私たちが見たことが無い物が次々入って来たら、ここのお芝居なんか、そっぽ向かれる事になるかもよ。今は言葉が通じないから、すぐにはどうとならないだろうけど、油断すると取って代わられるかも知れない。そうなると、お上がどうこうより、もっと大変な事になる。ねえ、サブちゃん」

 裕三郞は苦笑いだが、大きく頷く。

 歌右衛門も、大きく頷いた。

 お華は仲蔵に向かい、

「亀。遊んでる場合じゃ無いのよ。しっかりやりなさい。後で悔やまないように」 仲蔵は、頷き、そして頭を深く下げた。



(5)

 

 十日後の当日、朝早く。

 お華は、城には入らず、平川門外で待っていた。

 すると、いくつかの駕籠と、女中達の一団と護衛の侍が門を出てくる。

 年寄用の豪華な駕籠が来ると、お華は近づき声を掛けた。

 止まった駕籠の中から、姉小路が顔を出したので、お華が片膝を付き、

「姉様。おはようございます。準備の方、全て調っております。あとは姉様、お経なんぞ早口で、サッサと終わらせちまって下さい」

 などと言うものだから、

「これ! そんな事、頼める訳なかろう」

 とは言いながら姉小路も笑う。

 するとお華は、

「失礼致しました。でも姉様。なるべく早く来て下さいね。伊達のお殿様そしてご家族もお待ちでございますから」

「おお。それはその通りじゃ。急ぐとしよう。ところでお華。例の件はどうなっておるのじゃ?」

 お華は、満面笑みで、

「そちらも全て準備は調っております」

「皆も、それを聞いて喜んでおってな。ほれ、後ろに滝山まで来ておる」

 それにはお華も驚き、後ろを見ると、滝山が駕籠から顔出して笑って、手を振っている。

 さすがにお華は大笑いして、

「大丈夫にございます。本日は皆様、驚きますよ~」

 と笑って、皆を送り出した。


 さて、送り出した後、お華は暫く後を付いていって、途中で、道を変え、伊達家上屋敷に向かった。

 すると途中、今の銀座。この当時尾張町あたりでおみよとノブに行き会った。

「姉さん!」

「おう。二人とも。悪いねノブさん。歩かせて」

 ノブは、頬を崩し、

「いえいえ。大した事はございません。この辺りまで来ると、潮の香りがしてきまして、何だか嬉しいですよ」

 お華は、微笑み、

「さすがに鼻が利くわね~。そうよ、もうすぐ海だからね」

 三人は、伊達家の上屋敷に揃って入っていった。

 

 庭に回ると、仲蔵が舞台で稽古をしていた。

「お、亀。ちゃんと来たな。準備万端かい?」

 と稽古している仲蔵に話しかけると、白塗りの仲蔵は、

「もう。大丈夫ですよ。わざわざ成田屋さんの所まで行って、お稽古を付けて頂きましたよ」

 それにはお華は驚き、

「え? 成田屋さん? よく許してくれたわね」

「事情をお話しして、内容を申し上げれば怒りはしませんよ。ただ、本物は猿若でとちゃんと言う様にとか釘を刺されましたがね」

 と笑う。

 お華は頷いて、

「どうだった? 少し違った風景が見えたでしょう」

「はい。普段まったく関わりの無いお稽古して、何か少し分かった様な気がします」

「そうよ。子供の頃、炎の舞とか言って一生懸命稽古していた時の事、思い出すのよ。それが出来れば、どうなっても大丈夫」

 仲蔵は、笑顔で頷き、頭を下げる。

 さて、お華とおみよは、伊達公の奥方とお姫様にご挨拶して、裕三郞を呼び出す。「サブちゃん。舞台、綺麗になってるね~」

 とお華は少し意地悪そうな笑いで言うと、

「だって、お殿様にまで言われてしまいましたもの」

「食事の用意も大丈夫ね」

「ええ。言われた通りです。お酒も用意してしてます」

 しかし、それには、

「お酒はね~。お付きの若い衆は酔わない程度にね。女中達は、一杯ずつ程度でいいわ。こういうのは、後で文句言わると困るからさ。あの江島・生島見たいな事もあるし」

 それにはさすがに、裕三郞とおみよは大きく頷いた。

「まあ、姉様と滝山様もご一緒だから、それ程の事は無いと思うけど、羽目は外さないようにしとかなきゃね」


 さて昼近く、ようやく姉小路一行が、伊達家に到着したようだ。 

 式台には、御台様、お姫様が並んでお迎えし、その後ろにお華も頭を下げている。 それから、姉小路を筆頭に奥方の案内で、能舞台のある大広間に行き、当主が笑顔で迎え、様々な挨拶の後、伊達家の女中だけで無く、裕三郞は勿論、家臣一同で食事を運び、宴が始まった。

 さすがに隣の浜離宮程では無いが、それでも海風が漂い、珍しいとも言える宴が始まった。

 正面左側に、姉小路を初め、大奥の連中二十人程が、箸を進め、右側には当主義邦を中央に、奥方と姫が両方に座り、寛いでおり、留守居初め、伊達家の家臣が並ぶ。

 そして、義邦のお許しを得て、大奥の陸尺(駕籠持ち手)やお付きの警固の者も左右廊下の下に腰掛けを設け、伊達家らしい大規模な宴会となった。

 酒も行き渡り、いよいよ能舞台の中央に、お華がしずしずと進んだ。

 大奥の お華を知る女中らは、大きな拍手で出迎えた。

 お華は中央に座り、それこそ芸者の様に頭を下げる。そして、

「本日は、ようこそのお越し、誠にありがとうございます。特に、伊達のお殿様には、断るにも断り切れぬお立場に追い込まれ、快くお屋敷をご提供された事、誠にありがとうございました」

 それには、義邦も苦笑する。

「さてこの度は、姉小路様初め、皆様ここまでいらっしゃったのですから、少しの間ですが、お楽しみ頂いて大奥にお戻り頂きたく、多少の芸をご用意させて頂きました。私は手裏剣だけじゃないというところを大奥の皆様に知って頂きたいと存じます」

 これには、女達は大笑いだ。

「では、ご紹介させていただきます。まず最初の登場は普段、柳橋芸者を指導しておりますノブにございます」

 すると、おみよの袖を手に反対側に三味を持って、ノブが舞台中央にやって来た。

 おみよは真ん中に座布団を置き、お華は少々、横にズレる。

 女達は、少々ざわめいている。

 さすがに目が見えない男である事に、姉小路でさえ驚きの表情だ。

 そして後ろの方には、下座の笛をもった男が一人、舞台奥に座った。

 お華は、回りを見渡し、

「皆さん。驚きましたか? ご覧の通り彼は目が全く見えません。しかし、驚くのはそこではありません。伊達のお嬢様。お嬢様は普段、三味線をお稽古されていらっしゃいますが、きっと御役に立ちまする。本当の音と上手さという事が分かるはずです。それではこのノブによる二曲、そして踊りを加えまして三曲演奏させて頂きます。踊りは、今は無き深川芸者の私。そしてこのおみよで勤めさせて頂きます。それでは、どうぞごゆっくり」

 とお華とおみよは舞台袖に引っ込んだ。

 するとノブはいつもの様に、第一音を屋敷中に響かせる。

 もうそれだけで、お姫様の目は丸くなった。

 そしてなんと、一曲目は「六段」である。

 これには見ている者達に衝撃が走った。

 そう。これは代表的な箏曲である。

 それを三味線で、しかもノブが弾いている。

 そしてこの美しい音色だ。

 お姫様は両手を前に付き、耳を傾ける。

 大奥で三味線をやってる女達も、膝を立てて盃を持ちながら立ち上がって聞いている。

 男の連中からは、「あれ、三味線だよな~」と目を大きくして聞き入る。

 姉小路に至っては、腕を組み鋭い視線で、演奏しているノブに視線を送る。

 さすがに猿若町の下座の者と一緒の六段は、些かの隙も無かった。

 舞台後ろで、化粧も終わって聞いていた、仲蔵と歌右衛門も驚いていた。

「さすが、お華さんが連れて来た者だ。一級品だよ」

 と歌右衛門が言うと、仲蔵は、

「困ったな~。こういう者の後ですかぁ~」

 情けない顔で、頭を抱える。

 さてこの六段は、いわゆるお遊び。

 腕を証明した曲であった。

 そして、二曲目。

 笛が下がり、ノブの独演が始まる。

 同じく、一音を高らかに響かせ、始まった。

 これには、姉小路が眉を頂点に上げ、微笑んだ。

 そうこの曲は、姉小路が好きな「河東節」であった。

 皆もその音っと声にお聞き入っていた。

 当主、義邦もその芸に酔いしれていた。

 聞き入っているその姉小路は、大きな涙を一つ流す。

 よほど、感動したらしい。

 横の滝山がそれに気付き、そっと懐紙を一枚渡す。

 そしてその後は、舞台にお華・おみよが登場し「深川節」で一差舞う。

 言うまでも無く、これはお華達のおはこ。

 その舞に、奥方やお嬢様も目を輝かせる。

 舞終わると、お華とおみよ、そしてノブは平伏である。

 見ている者全て、大きな拍手で彼女達を讃える。

 するとお華が、義邦に向かって、

「お殿様? 普段、芸者の踊りなんぞ、ご覧になった事ございませんでしょうから、明日から、他のお大名様に自慢しても良いかも知れませんよ」

 と言うと義邦は、口を押さえて大笑いしている。

そしてお華は、

「さて、本日の出し物も次が、最後でございます。これは江戸に居るものなら一度は見なければならない物をご用意致しました。それでは仕度も調ったようですからお願いしたいと存じます。本日は猿若町から、私の弟子と素晴らしい方にお越し頂きました。演目は、「勧進帳・安宅の関」でございます。出演は弁慶に、中村仲蔵。そして富樫左衛門に中村歌右衛門にございます」

 それには、回り、いや女性達は一斉に大歓声だ。

 まさかこの様な所で歌舞伎を見るとは思わなかったからであろう。

 特に、奥方とお姫様は、公儀に見ることを禁じられているので特に大喜びである。


拍手の中、二人。仲蔵の弁慶と義経一行、歌右衛門演じる富樫左衛門らが現れた。

 そして現代でも有名な、弁慶・富樫の山伏問答から始まる。

 さすがに歌右衛門もいる事で、見事に丁々発止の危機感を演じている。

 仲蔵にとっては、初めての立ち役代表作だ。だが彼なりに懸命に演じている。

 お華が見ているからと言う訳ではないが、懸命に演じ切った。

 やがて、延年の舞に続く。

 そして最後の最後である。

 仲蔵は、団十郎よろしく回りを笑顔で見回し、頭を下げ、そしてツケ打ちに身体を反応させ、派手な飛び六方だ。

 もう、観客の喜びは最高潮となった。

 終わった仲蔵は、正面を向いたまま後ろに下がり、お華と歌右衛門が再び舞台中央に出てきて、それに加わり一列に座った。

「皆様。本日の出し物。如何だったでしょう?」

 それには、脇の陸尺の連中まで、大声で歓声をあげる。

「この度は、こうした機会が上手くかみ合いまして、皆様に楽しんで頂けることとなりました。このお二方にも一言、お願いしたいと存じます」

 すると、仲蔵が頭を下げ、

「ありがとうございます。先日、安珍清姫の清姫を踊っておりましたら、お華さんに、女の魂が籠もってない! とさんざ叱られまして、魂と言えば弁慶か? と言う事で、今回演じさせて頂きました。とは言え、私ではまだまだ。どうか機会がございましたら、猿若町の団十郎さんの弁慶をご覧になって下さいませ。しかし、本日は私も大変勉強になりました。ありがとうございました」

続いて歌右衛門が、

「私も、まさか富樫を演じるとは思っていませんでしたが、お華さんの迫力に負け、演じさせて頂きました。どうぞ仲蔵も申します通り、機会がございましたら、皆様、猿若町にお越し頂きますよう、伏してお願い申し上げます」

 大きな拍手と歓声が、屋敷を包む。もしかしたら隣の浜御殿にも大きく伝わっただろう。

 最後にお華が、

「え~仲蔵は叱られたとか、歌右衛門さんは迫力がなどと仰っていましたが、私のそれは、ご老中でさえ後ずさりする、そちらの姉様仕込みにございます」

 これには、皆、大笑いである。

「これ!」

 と、姉小路も恥ずかしげに叱りつける。

「今回は、姉小路様、伊達のお殿様初め、皆様に喜んで頂き、私としても嬉しゅうございます。どうか、このお二方の申す通り、今後も猿若町の方もよろしくご贔屓の程お願い申し上げる次第にございます。では、加えて皆様方のご多幸、そして、今後も変わらぬご指導ご鞭撻を、隅から隅まで、ず、ずい~と、宜しゅうお願い申し上げ奉ります」

 と、一斉に三人、平伏して終わりを告げた。

 姉小路は、また涙を流す。


 そして、お華に「よくやってくれた」との言葉を残し、大奥に帰って行った。

 実は姉小路にとって、上臈年寄として最後の大奥での遊びとなった。

 いや、大奥二百五十年余りの歴史にとって、最後の遊びになったと言えるだろう。



~つづく~


 今回もお読み頂き誠にありがとうございます。


 さて前回に引き続き、「BABY Talk」で始まりましたが、今後二人はどのようにお華に戦いを挑んでいくのでしょうか?

 もっとも、お華は小さな双子達と戦っている場合では無いのですが……。


 今回は姉小路、久々の登場でした。

しかし、戦いがあるわけでも無く、こんなに長い小説になるとは思いませんでしたよ。短編小説公募作品並みの量となってしまいました(笑)

 今回の宴は、全く史実ではありませんが、大奥の平和な時。最後の宴を描いたつもりです。

 そしてこの後、江戸は怒濤の展開になって行きます。

 どうぞ、江戸の終焉を見守ってやって下さい。


  それでは、

 隅から隅まで、ズ、ズズイ~ト、御願い奉りまする。

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