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ご!

 セドリュカ王子にエスコートされながら廊下をしずしずと歩く。警備で配置されている騎士さんの目が痛い。何故こっちを見るのか。あ、あの騎士さんは知ってる!あたしの部屋の前に立っててくれてる人だ!

 …………笑って小さく手を振っただけなのに狼狽えられた。しかも目が落ちそうなぐらいかっぴらかれてる……。何故そんな驚く。この前お菓子のお裾分けしたでしょ!その時と反応がえらい違うんですけど!?あ、今あたしアフターだ。ビックリもするか。すっかり忘れてた、てへっ。

 見知った騎士さんから目を離して前を向く。キョロキョロしすぎるのはダメだからね。怒られちゃう。視界の端でその騎士さんが青ざめてくのを見て疑問は沸くんだけどね。今はそれよりもフェルナンド王子とか腹黒宰相様とか軍服が……騎士さん達はいつも通りだから、軍服の正装っていうのが気になってるの!早く見たい!


「……護衛と仲が良いのか?」

「え?」


 ぽつりと落とされた言葉に思わずセドリュカ王子を見上げる。身長差のせいでほぼ真上見上げる形になるから首の負担が激しい。

 セドリュカ王子は真っ直ぐ前を見ているんだけど、何故か険しい顔つきをしていた。

 言われた言葉を反芻してみる。仲が良いか?


「仲が良いというわけでもないです。この前お菓子をお裾分けしたぐらいで」

「……そうか」


 いけない、言葉遣いがよろしくない。きちんとしなくちゃ。怒られる。


「本当なら護衛してくださる皆さんに何かお礼がしたいのですけれど……私に出来ることはありませんから、心苦しく思っております」


 く、口が、舌が回らない。ひーん、言葉遣い難しいよぉ!


「彼らはそれが仕事だ」

「いつも有り難いことです。セドリュカ王子のお心遣いにも感謝しております」


 内心四苦八苦、ついでに足も止まらない。セドリュカ王子の険しい顔つきもそのままだ。くっ、つらたん。

 セドリュカ王子に連れられて移動した先には大きな扉があった。漏れて聴こえる音楽に、お披露目会が既に始まっていることがわかる。まあ、あたしの登場は宴半ばって決められていたから当然なんだけどね。本当はあたし1人でお披露目会会場へ向かう予定だったんだけど、セドリュカ王子が気を使ってくれてお迎えに来てくれる話になったのだ。ありがたい。練習はしたけれど、ドレスって動きづらいんですよ。1人だったら転けてたかもしれない。いや、転けかけたのをセドリュカ王子に支えられた後なんで、かもしれないじゃなくて、確実に転けてた。


 目の前に聳える扉を若干睨みつけてから、深呼吸をする。あー、緊張してきた。少しぐらい失敗してもセドリュカ王子がフォローしてくれますよ、とエミリーヌさんは言ってたけど、ミスは少ない方がいいに決まってる。取り返しのつかないミスも困るし。く……、一般ぴーぽーにはきっつい。

 扉の前で待っててくれる騎士さんもどことなく視線で応援してくれてるみたい。目が合うと小さく頷いてくれた。

 それに頷き返そうとしたら、腰に回された腕に力が入った。今でも近いのに、更にセドリュカ王子に寄り添う形になって、見上げる。


「私もいる。大丈夫だ」


 さっきまでの険しい顔つきじゃなかった。真っ直ぐあたしを見つめてくれる真剣な眼差しは、あたしが凭れても大丈夫だと告げていて、肩から力が抜けた。


「ありがとうございます」


 微笑んでそう言えば、セドリュカ王子も優しく微笑んでくれた。うん、大丈夫。よし、いざ戦場へ!

 開かれた扉をくぐり抜け、目の前にある玉座に座る王様達の側へ向かう。背筋は伸ばし、だけど目線は少し下……数メートル前の床へ向ける。

 何故ならあたしが潜った扉は本来ならば王族専用だから。1人で会場入りするという最初の予定だったなら、あたしが入る入り口は違う扉だったんだけど、セドリュカ王子がお迎えに来てくれるという話になった時、だったらこっちの扉から入っておいでと王様と王妃様に言われ、決定してしまったのだ。これはちょっと悩んだんだけど押し切られてしまった。

 1人で会場入りするのなら真っ直ぐ前を向いていても段上になる王族の方々を真正面から見つめることにはならない。だけど、王族専用扉を潜った今は真正面を見つめてしまうと、王族、それも王様と王妃様と視線が交わってしまう。『王族の方々をぶしつけに見つめてはいけない』らしいのだ。

 まあようするに、『お声を掛けられるまでは目線を合わせるな』と学びました。

 なので床を見つめて歩いているのです。

 セドリュカ王子のエスコートに身を任せながら玉座の側へ立つ。ちらりと目線を動かせばこちらを見ていた王様と王妃様は優しく微笑んでくれていて、ちょっと嬉しい。1段下にはフェルナンド王子と腹黒宰相様もおられる。こっちの2人は確実にアフターあたしに驚いてる。どやぁ。

 あたしとセドリュカ王子が並んで立てば、玉座から王様が立ち上がる。そして会場を見下ろして口を開いた。


「さて、今日は皆にも紹介したい者がいる。トーコ=サガラだ」


 簡潔な言葉にざわめく会場が打って変わって静かになった。緊張に喉が渇くし手が震えてくる。なんせあたしに向けられる視線が多い。突き刺さるようだ。だけどここで負けられない。しっかりしなくちゃ。

 そう思っていると腰に回されていたセドリュカ王子の手が外され、背中をぽん、と叩かれた。

 その手に感じた温かさに後押しされ1歩踏み出すとドレスを摘み、軽く腰を落とした後、真っ直ぐ立ち、そして会場をしっかりと見下ろし、引き攣りそうな頬を叱咤して微笑む。


「皆様お初にお目にかかります、トーコ=サガラと申します。どうぞお見知り置きくださいませ」


 あたしの言葉はこれだけだ。細かいことは言わない。

 何故なら貴族とは噂話が娯楽といわんばかりで、あたしに関する噂は既に回っているらしい。一体どこからだ、と思うけれど、これ以上余計な情報を開示するつもりはあたしも王様達もない。そして既に噂となっている話は情報操作されている。王妃様や腹黒宰相様が手を打ってくれているのだ。今齟齬を作るのは悪手である。なのであたしの説明などは王様、王妃様におまかせだ。

 だって王様も王妃様もいい人なんだもん。為政者としての考えもあるだろうけど、別にあたしという人間を悪用しようとしているわけでもないみたいだし。これから先はわかんないけど、今のところ不都合があるわけでもない。

 聞かされている話では、『トーコ=サガラはとある国の重要人物であり、王族が後見している』という暈したものを元にしているらしい。これだけでもあたしに仇なそうとする者は減るとか。後見が王族だしね。暈したといっても、あたしが異世界人である、ってぐらいだからこちらがはっきりと言葉にしなければわからない。向こうが勝手に想像するだけだ。

 まあ、これからは大変だろうと言われてはいる。なんせ王族が後見なんだから、王族と懇意にしたい人達が群がること請け合い。そういう面では面倒だけど、王族に逆らう人はまずいないというから有り難いことだ。命の心配はそこまでしなくていい、ってことだからね。


 ざわつく眼下の人達を気にすることなくセドリュカ王子が再びあたしの手を取り腰に手を回して、そしてゆっくりと階段を下りる。

 階段近くに立っていた人達がさーっと道を開いてゆく。モーゼか。

 しかしこのモーゼ状態、あたしとセドリュカ王子の歩く道だけでなく、もう一方の階段から下りる王様と王妃様の方でも起きている。王妃様が可愛らしく王様へと向かって微笑んでいて若干和む。

 周囲から見えない壁で囲われて隔離されたような状況で、音楽が変わった。ここからはダンスが始まるのだ。嬉しくもないが先陣を切るのが王様と王妃様、そしてあたしとセドリュカ王子だ。

 会場にいる全員から注目される、こんな死にそうな状況で踊らなくちゃいけないんだから王様達も大変だよね。今はあたしもだけど。ホント足ガクガクしてるよ。

 セドリュカ王子に支えられ、必死に覚えたステップを踏む。間違えてセドリュカ王子の足を踏むわけにはいかないのだ!踏むのはステップであり足ではない。


「……ふ」


 セドリュカ王子の胸元を見据えて踊っていたあたしに、上から小さな音が降ってきた。なんだ、と上を見上げれば苦笑するセドリュカ王子が映った。


「え、何か間違えましたか?」

「いや、……真剣だなと思ってな」


 まだ始まったばかりなのにもう失敗したか!?と、小さな声で問えばどうやら違ったらしい。


「真剣にもなりますよ」

「そんな強ばらなくともいい。いつも通り踊れ」

「そう言われましても……」


 間違ったら大変じゃないか。いつも通り踊れと言われてもどうすればいいのだ。困ったようにセドリュカ王子を見上げれば苦笑いから一転して優しく微笑まれた。


「堅苦しく考えずとも良い。笑え」

「む、無理なことおっしゃいますね」


 セドリュカ王子の言葉に頬がひくりと引き攣ってしまった。これだけ注目されている中でどうしろと言うのだ。

 確かにダンスはあたし的には楽しいものではある。筋肉痛に悩まされたけど。だけど、今、この状況では楽しめないのは仕方ないだろうと思う。練習の時は相手をしてくれたセドリュカ王子とも、何かくだらない話をしつつ踊った記憶もある。今それをしろと言われても出来るわけがない。

 そう思い見上げるセドリュカ王子にジト目を送ってしまったのは仕方ない話だろう。いや、本当は良くないけど。


「周りを気にしすぎなのだ」

「そう言われましても……きゃっ!?」


 話しながらもステップを踏んでいたのに、急に床から足が離れて驚いた。腰に回された腕だけで持ち上げられてしまったらしい。なんという筋肉!というか浮いちゃったらステップ踏めないんですけど!?


「せ、セドリュカ王子……!?」

「軽いな」

「そういう話じゃ、あわわ!」


 ステップを丸無視して、あたしはくるくると回された。いや、セドリュカ王子があたしを抱えたまま回り始めたのだ。おおい!ダンスはどうした!?

話がすすまなーい((└(:3」┌)┘))

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