第十三話
優子は空色のブラウスに動きやすいジーパンに着替えた。
汗ばんだ裸足で廊下を歩くのは気が引けたので、しっかり靴下も履く。
部屋を出る前に起きてからそのままになっていた布団を畳み、朝ごはんの支度をしている最中の台所へ向かった。
家の中は迷ってしまう程の広さはなく、一般的と言うことのできる広さだ。
けれど、まだまだ慣れない勝手に優子は少しだけ戸惑いながら台所までたどり着いた。
すでに優子の祖母はお味噌を注ぎ、花子は食器や箸の用意をしている。もうすぐ朝食にありつけそうな様子だ。
台所に着いたものの入ることができず廊下に佇んでいた優子は、母である花子に向かって声を掛けた。
「おはよう」
優子に気付いた花子はいつもの明るさを持って答える。
「おはよう。朝食の準備、手伝って」
言われた通り手伝う優子は片手に卵焼き、もう片方には箸を持って隣の部屋に入ると、そこにはすでに座って新聞を読む祖父がいた。
祖父母がわざわざ朝食に使う野菜を取りに行っていたことなど、その時はまだ眠っていた優子は知る由もないのだろう。
「おはようございます」
祖父にそれだけを言うと、優子は机に視線を落として手に持っていたものを並べはじめた。
「おはよう」
優子の言葉に返ってきたその祖父の声は、優子の想像よりもずっと穏やかなものだった。
優子は表情を変えなかったものの、心の中で少しは祖父に対しての印象が変わったに違いない。
その後、祖母、母、娘の三人で炊きたての白米に豆腐の入ったお味噌汁、他にも醤油などを運び終えると、皆一緒に食卓についた。
食事をしながら食べ物の味は口に合うかといった他愛ない話をしていた。
「そうだ優子ちゃん、このあと何かすることはあるんかい」
そう問われた優子は、白米を口に運ぶ手を止めると少し考えていたが、優子が答える間もなく花子が提案してきた。
「優子、食べ終わったら、この村で有名な神社に行かない? 」
学校の宿題を除いて特にすることもないのであろう優子は、この村の土地勘も全くないので母の提案をあっさりと承諾し、祖母の方を向いて「そうします」と答えたのだった。