最終話 猛吹雪の有馬記念
本馬場へ出ると、大歓声が俺とフブキを迎えてくれた。
返し馬に入ると雪がチラついてきて、一段と風が強くなってきたと感じる。
(雪で前が見づらいな。フブキは大丈夫か?)
(うむっ、今のところは大丈夫であるが、さらに雪が強くなると、視界が悪くなるであろうな。だが、それは全馬同じ条件である。問題ない)
俺はゴーグルを付けるが、少しマシになるというくらいで、視界が悪い事に変わりはなかった。
ゲート前で輪乗りを行うが、刻一刻と雪が強くなってくる。
誰もが『これ以上、雪が強く降る前にスタートしてくれ!!』と願う。
ゲート入りが始まる。
フブキは大外16番、最後まで待つ。
15頭のゲートインが完了して、最後にフブキがゲートに入った。
ゲートが開く。
全馬が3コーナーに殺到すると同時に、猛烈な雪が馬郡に襲いかかってきた。
(真白!!前が見えんぞ!!どうするんだ!?)
フブキが叫ぶ。
(落ち着け。とにかく、内ラチを頼りに進むしかない)
俺はフブキを内に内にと誘導し、内ラチピッタリを進んでいく。
直前を走る馬の姿は確認できるが、その馬より前の馬は姿も見えない。ただ、後ろから来る馬の気配もない。
どうやら、フブキは最後方を、走っているようであった。
(フブキ、俺たちは最後方のようだぞ!!)
(最後方は問題無いが、先頭を走る馬との差が分からん。どうするんだ?)
(問題ない!!)
(問題ない!?分かるのか?)
(普通に考えて全馬、恐る恐る走っているに違いない。そんなに差はないはず。フブキ、お前は平常心を保って、のんびりと走っていればいいよ!!)
(ふふふっ、今日の真白は何やら頼もしいな!!)
俺とフブキは4コーナーを回り、正面スタンド前へと入っていった。
おそらくファンも状況が把握できていないのだろう。 歓声…というより、どよめきが巻き起こる。
(ふふふっ、観客も戸惑っておるわ!!)
(はははっ、たぶん何も見えてない!!)
(JRAも入場料を返さんといかんぞ!!)
(圧倒的一番人気で、ファン投票一位のフブキが勝てば、ファンも許してくれるさ!!)
(っであるな!!)
そんな会話をしながら正面スタンド前を駆け抜け、1コーナーから2コーナーを回り、向こう正面に入っていく。
向こう正面では、強烈な向かい風が吹き荒れる。短時間で積もった雪が舞い上がり、さらに空からは猛烈に雪が降るという、まさに猛吹雪。
(全く見えん!!真白、どうするんだ?)
フブキがじれ始める。
(どうもしない。今はじっと耐える時間だ)
(耐えるって…お前!!目を閉じているじゃないか!?)
(どうせ見えないんだから、目を閉じても問題ないだろ?逆に雪に惑わされず、冷静な判断ができる。フブキも目を閉じてみな。俺には全馬の姿が見えてるよ。手に取るように他馬の息遣い、手ごたえまで分かっている)
(………真白よ、成長したな!!)
(ふふふっ、その言葉、勝ってからもう一度聞かせてくれ!!)
(心得た!!お前の指示に従おう。我はハミに集中する。いつでもゴーサインを出してくれ!!)
最後方のまま、3コーナーに入る。
(フブキ、4コーナーに入って4のハロン棒を通過したら、徐々にスピードを上げてくれ。いいか、一気に上げるなよ。徐々に、徐々にスピードを上げて4コーナーを回りきったところで、大外に進路を取るんだ)
(了解した!!)
フブキはハロン棒を過ぎたところから、少しずつスピードを上げていき、持ったままで内の馬を交わしていく。
そして4コーナーを回ったところで、大外に進路を取る。
(よし!!真白、行くぞ!!)
(まだだ!!あとワンテンポ待て!!三秒待つんだ!!)
(くっ!!じれったい!!)
(3・2・1、行け!!フブキ!!末脚を爆発させろ!!)
(おうよっ!!!!!)
フブキが中山の直線を、まるで飛ぶように駆け抜けていく。それは、天まで昇るように、地の果てまで駆けていくように、大外を突き進み、他馬を置き去りにしていく。
急坂を駆け上がると、猛吹雪が嘘のように収まる。
突然、ゴール前にフブキが姿を現し、大歓声が巻き起こる。
俺とフブキの前には馬はいない。少し振り向くと、7馬身後ろに二番手の馬が見えた。ゴールまでの僅かな距離でさらに差を広げる。
フブキは二着の馬に大差をつけてゴールを駆け抜けた。
(勝ったぞ!!フブキ!!)
(うむっ!!素晴らしい騎乗であった)
(全部フブキ、お前のおかげだよ!!)
(そんな事は無い!!お前はすでに一流の騎手である。自信を持つがよい!!)
(ありがとう。俺の事を認めてくれるんだな)
(当然である。これで我も思い残す事もなく、種牡馬生活を送れるというものである!!)
俺とフブキは正面スタンド前に戻ってきた。
雲の隙間から日が差し込み、フブキの馬体を照らす。
フブキの馬体は白金のように、キラキラと輝く。
静まり返る中山競馬場 。誰もがその美しい馬体に見惚れている。
「…フブキ」
「吹雪!!」
『フブキ!!』
『吹雪!!』
『フブキ、吹雪!!!!!』
静寂の後、割れんばかりの、大フブキ(吹雪)コールが巻き起こる。
(わはははっ!!真白、我を称賛する声を聞くがよい!!)
(何を言っている?これは俺の苗字、吹雪を称賛する声だよ!!)
(馬鹿を言うな!!我への声である!!)
(いや、俺だね!!)
(まあ、良かろう。我とお前は一心同体、無二の親友である)
(…あぁ、そうだな。セクシーボイスとの子。楽しみにしているぞ!!)
(うむっ!!よろしく頼むのである!!)
フブキは7戦7勝の戦績を残して、ターフを去ったのであった。
完




