最終話 祭りが終わって
フェスタが終わった。
昼間はあれだけ賑やかだったのに誰もいなくなった夜の大広場に、二人の人間がいた。
ミラベルとエルトランである。
「どんなお祭りも終わる時は来るし、終わっちゃうと寂しいものねぇ」
「うん……あれだけ人がいたのが噓のようだ」
「嘘のよう、といったらあなたの正体も嘘みたいだったわ。昨日まで一緒に酒場で働いてた人が王子なんだもの」
「ビックリさせちゃってごめん」
苦笑するエルトラン。
夜空を見上げながら、独白する。
「嘘のよう……と言ったら、今までの自分の気持ちも嘘のようだ」
「え?」
「僕はずっと自分が嫌いだった。自分は生きてちゃいけないと思ってた」
幼い頃からの弟との確執。仕掛けられる謀略。それに巻き込まれ、家を勘当されたミラベルのような目にあった人間は他にもいたのだろう。
「だから……死にたかった。そして、『猛毒令嬢』とも言われ、僕のせいでひどい目にあった君の手で死にたかった。それが自分に最後にできることだと……」
「エルト……」
「だけど、そんなのはただの逃げだった。非情な手段で弟が王になったら、きっと非情な統治をするだろうし、なにより君に殺人という重い十字架を背負わせてしまうことになる。僕は自分のことばかり考えて、他の人のことなんか何も考えていなかった」
ミラベルに振り返る。
「そして、今は違う。今は生きるのが楽しくて仕方ない。こうして君と話すのが楽しくて仕方ない。僕は必ず立派な王になってみせる」
「うん……あなたならきっとなれる!」
「ありがとう」
まっすぐにミラベルを見つめるエルトラン。
「そして、このことに気づかせてくれたのは他ならぬ君だ。君との一ヶ月がなければ、今の僕はなかった」
「そ、そんな……大げさよぉ」
「ミラベル……今こそ君に伝えたい。この僕、ファシール王国第一王子にして次代国王、エルトラン・ヘリオドールをどうか支えてもらえないか。僕の……伴侶として」
「……!」
エルトランの告白に、ミラベルは令嬢として答える。
「殿下のお気持ち、ありがたく受け取りたいと存じます」
礼儀正しくお辞儀をした後、いつもの顔に戻る。
「ただし、悪い王様になっちゃったら、今度こそ本当に毒盛っちゃうから!」
「その時のメニューはシチューで頼むよ」
二人は見つめ合い、そして口づけを交わすのだった。
その後、ミラベル及びクレーディア家の名誉は回復された。
勘当した娘が第一王子と結婚することになったことを知った父や母は大いに驚いたという。ミラベルは「あんな驚き顔が見られてスカッとしたわ」と語った。
第二王子ディゴスは全てを自白した。
仮にミラベルが会場で毒殺をためらったとしても、シチューを食べさせてさえいれば、エルトランを毒殺して「婚約破棄された令嬢がシチューに毒を仕込んだ」とその罪を被せる予定であったという。
ディゴスは継承権を剥奪されたが、エルトランの温情で命は助けられた。後の人生は厳しい監視下の元で送ることになる。が、自分より遥かに劣るはずの兄に完敗したショックで、彼は抜け殻のようになってしまった。もはや立ち直ることは難しいだろう。
程なくして、ミラベルとエルトランは結ばれることとなる。
王子の妃となってからも、ミラベルは相変わらずであった。
毒の研究をし、時にはシチューを振舞い、カレンの酒場に遊びに行くことも珍しくなかった。
「さあて、今日はカレンさんのところにでも行きましょうかねぇ」
「ああ、それなら僕も行くよ」
「お城での仕事はいいの?」
「もちろん済ませたさ。たまには息抜きしないとね」
「じゃあ、二人で一緒に!」
エルトランは後に強さと優しさを兼ね備えた立派な王となった。
ミラベルはそんな夫を常に支え、常に毒々しいドレスを着て、毒々しい笑みを浮かべていたとされる。
~おわり~
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