第五十三話 リョーガと新たなる試練
…ある日の朝のこと。
「おーい、リョーガぁ!朝だぞー、もう起きろよぉ」
「ん?ユラ…?あぁ、おはよ…」
「おはよ!ほれ、おはようのぎゅーっ!」
起きるなり俺に抱きついてくるユラ、付き合うようになってからというもののあれから遠慮もなく俺に抱きついてくるようになった。
「すぅー…ハァ、イイ匂い…たまんねぇ、しゅき♡」
と、こんな調子で超甘えてくる…コイツ、恋人に対しては甘えん坊になるタイプだったのか…ギャップがエグい
「ユラ…一先ず着替えたいからそこどいてくれ」
「ん、分かった…」
着替えて食卓へいく、するとユーリがメイド服を着てテーブルに食器を並べていた。
「あ、リョーガさんユラさん!おはようございます!」
「あぁおはよう…何してんだユーリ?てかその格好…」
「はい!実は今日からこのお屋敷でメイド見習いとして働くことにしました!どうですか?私のメイド姿?似合います?」
「そりゃ似合うし可愛いけどさ…なんでまた急に?」
「私は、ユラさんや他の皆さんと違って戦う力はありませんから…でも少しでもリョーガさんのお役に立ちたくて…」
「まぁ、その気持ちは有り難いが…医者の仕事は大丈夫なのか?」
ユーリはこの屋敷で一緒に住むことは了承したが、エルフの村での診療所での仕事も変わらず続けている
まぁ、ウチには転移術使える奴も何人かいるし空飛べる奴もいるからそこは問題ないとして…。
「問題ありません、メイドの仕事は週に三日だけなので…本業の医者としての仕事には差し障りありません」
「そっか、ならいいや…」
本当に頑張り屋さんなんだなユーリは…
…と、朝食を食べ終えてギルドへ行く支度を整えていた時だった。
「旦那様、ギルド本部の方から旦那様へ使者の方がお見えになられておいでです」
「本部から使者?なんだ?」
「おはようございます、リョーガ殿」
「おぉ…一体何の用だ?」
「はい、実はアルカイル総ギルド長殿より至急リョーガ殿に本部へ来るようにと…」
「アルカイルさんが?また例の呼び出しか?」
「では、たしかにお伝えしましたので私はこれで…」
アルカイルさんからの本部への呼び出し…いつもなら手紙とかニライス支部とかを通して言ってくるのにわざわざ直接使者の人を寄越すなんて…よっぽど急な用事か?ちょっと急いで行った方が良さそうだな…
・・・・・
【冒険者ギルド本部 総ギルド長執務室】
「失礼します、アルカイルさん…俺です」
「ん?リョーガ君か…入りたまえ」
「失礼します」
「やぁ、リョーガ君…思ったよりも早かったな」
「えぇ、もしかしたら急を要することかと思いまして…転移術ですぐにきました」
「そうか、すまないな急に呼び出してしまって…」
「いえ、それで?今日は一体何の用ですか?」
「あぁ、そうだな…なぁリョーガ君、君はこれまでに幾多もの難しい任務をこなし、そして数多の強敵をも下してきた…正に誰しもが認める立派な冒険者だと言っても恥ずかしくない実力の持ち主だ、私も君を評価している」
「な、何ですか急に…?」
「単刀直入に言おう、リョーガ君…『Sランク昇格試験』を受けてみる気はないかね?」
「え、Sランク…ですか!?」
「あぁそうだ!私から君を推薦したいと思うのだが…どうだね?」
「んー、Sランクかぁ…」
たしか、Sランクの冒険者ってこの世界にほんの一握りしかいないらしいんだよな…きっと、それ相応に厳しい試験になるだろうな。
けど、Sランクとなればそれなりに貰える賃金も増える…『家族』も増えたことだし、ちょっとめんどくさいが金は稼げる間に稼いでおいた方が老後も安泰か…
「分かりました!その試験、受けましょう!」
「分かった!君ならそう言ってくれると思っていたよ…」
「ところで、試験って一体を…?」
「あぁ、説明しよう…」
Sランク昇格試験…それは、冒険者の最も高い階級『Sランク』になる為の試験
試験を受ける条件として、所属する冒険者ギルドの総ギルド長もしくは現役のSランク冒険者二名以上による推薦によって受験資格が与えられる。
試験の内容としては、まず現役のSランク冒険者立ち会いの元に三つのSランク任務に挑戦し、いずれも三つともクリアすること…そして三つともクリアしたら次の試験、総ギルド長と国王立ち会いの元に現役のSランク冒険者と一対一の模擬試合を行ない、力を見せつけることでSランク冒険者として承認される。
「というわけだ、何か質問はあるかね?」
「あの、最後のSランク冒険者との試合なんですけど…必ずしも勝つ必要はないってことですか?」
「そうだな、その試合の中で我々がSランクとして通ずる実力があると判断すれば試合の勝敗関係なく認めることになる…」
「なるほど、それと…国王も試合に立ち会うって言いましたけど女王様も俺の試合を見るんですか?」
「その通り、Sランクの資格とはつまり『国家資格』だからな…陛下と総ギルド長である私の承認を得て初めてその資格が与えられる」
「なるほど…」
「他に質問はあるかね?」
「いえ、もう大体分かりました」
「分かった、では諸々の手続きは私の方で進めていく…試験は一週間後に行うからそのつもりでいてくれたまえ」
「はい」
…ということで、俺は屋敷に戻ってみんなにも試験のことを話す。
「…ということだ」
「すごいっす!その試験に合格したら兄ちゃんは最強ってことっすか?」
「んー、まぁその解釈で概ね間違いないと思うぞ」
「でも、その試験旦那お一人で受けるつもりでやんすか?」
「その心配はない、俺みたいなテイマー系の職業の者が受ける場合は任務には三人まで、試合には一人までの同行が許可されている、また状況によってお前らにも協力を求めるからその時は力を貸してくれ」
「うぃっす!ウチ、兄ちゃんの為に頑張るっすよ!」
「オイラだって!全力でサポートするでやんす!」
「ガウッ!ガウガウ!」
「ぷよぉ!僕だって頑張るぷよ!」
「あちきも、精一杯気張らしていただきますえ」
「クァーハッハッハッ!この儂にどんと任せるがいい!」
「フン、腕が鳴るぜ…(ここでリョーガの役に立てばうんとリョーガに褒めてもらえる…へへへ)」
「自分も、全力でリョーガ隊長をお守りするであります!」
「メリッサも、ノリノリでいっちゃうのだー!」
「私も、戦闘とかでは役に立てませんが精一杯サポートします!」
「みんな、ありがとう…よぉし!昇格試験、絶対に合格するぞぉ!」
「おぉーーーー!!」
・・・・・
【一週間後】
ついに試験の当日がやってきた、俺は意を決して本部へ向かう
「来たか、リョーガ君…」
「はい、よろしくお願いします…」
「うむ、ではこれよりSランク昇格試験を開始する!では、先刻君に伝えた通りまずは君には三つの任務をクリアしてもらうよ」
「はい」
「まず、最初となる任務なんだが…『キングゴブリンの討伐』だ…」
「キングゴブリン?」
「ゴブリンの最上位種だ、モンスターの中には稀に『キング』と名のつく更なる進化を遂げる者も少なからずいる…こういった『キングモンスター』の討伐もSランク冒険者の大事な仕事の一つだ…」
「…分かりました、必ず成し遂げてみせますよ!」
「頼もしいな…それと、任務には現役のSランク冒険者が立ち会い人として見届けることとなっているのだが…」
と、そこへ扉をノックする音がする
「おっ?どうやら丁度来たようだな…入りたまえ!」
扉を開けて入ってきたのは黒いレザー風のロングコートを着た鉄仮面で顔を隠した人物、腰には片手剣を二振り、背中には身の丈ほどの大剣を背負っている。
「紹介しよう、彼の名は『イリア』…優秀な『魔導剣士』だ」
魔導剣士…魔術と剣術の両方を使う複合職か
「イリア君、彼が今日君が担当するリョーガ君だ…挨拶したまえ」
そう言われ、俺に向けて無言でペコリとお辞儀するイリア
「??」
「すまんな、彼は実力はたしかなのだが…他者とのコミュニケーションが不得手でな…慣れるまで暫しかかるが悪く思わないでくれ」
「…大丈夫なんですか?」
「実力と見る目はたしかだ、まぁ…仲良くやってくれ」
「はぁ…まぁ、よろしく頼む」
「………」
ちょっともじもじしながら恐る恐る手を差し出すイリア、これは…握手を求めているのか?
「よ、よろしくな…」
「…(コクコクっ)」
握手を交わす、イリアは小さく何回か頷いた…多分握手で正解だったらしい。
「では、リョーガ君…早速任務へ向かってもらえるか?連れていく配下の采配は君に一任するよ」
「はい、行ってきます!」
・・・・・
早速、キングゴブリン討伐へと向かう
今回俺が選んだ三人は、ミーニャ ぷよたん メリッサの三人
俺とミーニャが前に出て戦い、二人には諸々のサポートをしてもらう
尚、今回立ち会い人として同行するイリアはよほどの緊急時以外は手を出さないことになっているらしい。
…ということで、俺達はキングゴブリンが仕切っている群れが住むというダンジョンへやってきた。
「ゴブリン退治っすか、懐かしいっすね!」
「そういや、俺とお前の二人で初めて受けた任務がゴブリン退治だったな…」
「へぇ、そうだったんですかぷよ」
「あぁ、あん時はまさかゴブリンロードまで出てくるなんて思わなかったからヒヤヒヤしたぜ…」
「それで、倒したのだ?」
「あぁ、最後はたしかミーニャが野生解放ぶっ放して倒したっけな…」
「へぇ、すごいのだミーニャちん!」
「えへへ…」
「初めての任務でゴブリンロードを倒すなんて…驚きぷよ」
「……っ」
と、俺らの話を聞いていたイリアが後ろで小さく拍手しているのが見えた。
「…にゃっ!?」
「ミーニャ?」
「いるっすね…すごく強い奴の気配がするっす!」
「そうか…」
岩陰からこっそりと様子を伺うとそこにはゴブリンやゴブリンロードがうじゃうじゃいて、その奥には一際大きなゴブリンが寝そべっていた…恐らくあれがキングゴブリンなのだろう…。
「よし、じゃあ手筈通りにいくぞ!」
「うぃっす!」
「ぷよ!」
「はいは~い!ナウ・ミュージックタ~イム!」
ギターをかき鳴らすメリッサ、その音に反応したゴブリン達は一斉にこっちを向く
「よし、いくぞミーニャ!」
「うにゃあぁぁぁぁ!!」
メリッサの術でパワーアップした俺達はゴブリン軍団を蹴散らしていく、一方で他のゴブリン達がメリッサを狙って突撃してくる。
「ぷよーーー!!」
ぷよたんが巨大化してメリッサの前に立ちはだかり、自慢のぷよぷよボディでゴブリン達から守る
「ありがと!ぷよちん!」
「ぷよ!」
「よし!このままいくぞ!」
「うぃっす!」
ゴブリン軍団をどんどんと蹴散らしていき、そしてとうとうキングゴブリンが目を覚まし傍らにあった大きな棍棒を手に襲い掛かってきた。
「きたぞ!避けろ!」
「うぃっす!」
「グォォォォォ!!」
「フンッ、ただただデカいだけでノロマだな!これでSランクとか拍子抜けだな…」
すると、その時だった…
キングゴブリンが突然手のひらで火球を作り飛ばしてきた。
「なっ!?フ、『火球弾』だとっ!?」
「兄ちゃん!うにゃあぁぁぁぁ!!」
ガントレットの爪で火球を引き裂く
「サンキューミーニャ!…にしても、まさかゴブリンが魔術を…」
「ご主人様!キングモンスターの中には魔術を使う個体もいるぷよ!」
「…なるほどな、油断した…だが、魔術を使うって分かった以上、もう油断はしねぇ!全力でぶっ潰す!ミーニャ!」
「うぃっす!『野生解放』!!うにゃあぁぁぁぁ!!」
もう一度火球弾を放ってくるキングゴブリン
「遅い!『土壁』!!」
地魔術で火球弾を防ぐ
「ミーニャ!いけぇ!」
「うぃっす!くらうっす!『炎爪斬撃』!!」
“ザシュッ!”
ミーニャの強力な一撃でキングゴブリンの右腕が斬り落とされる
「兄ちゃん!」
「あぁ!いくぜぇ!『炎熱鉄拳』!!」
トドメの一撃をまともにくらい、地に伏すキングゴブリン
「やったぷよ!」
「おぉ!リョーガちんもミーニャちんもすごいのだぁ!」
「いや、お前達のサポートがなかったら正直きつかった…ふぅー」
“パチパチパチ!”
「ん?」
俺達の戦いぶりを拍手で称賛するイリア
「どうだった?文句ないだろ?」
「…(コクリッ)」
小さく頷いた後、グッと親指を立ててサムズアップポーズを見せる
「…とりあえず、一つ目の任務はクリアってことか?」
…こうして、俺達は無事に一つ目の任務をクリアしたのだった。
To be continued…
-----【To days Result】-----
ゴブリン ×100
ゴブリンロード ×30
キングゴブリン ×1




