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離れの若様  作者: 真木
2/7

文月

あれから一月経った。

今、私は熱にうなされている。

この病気にかかってから何度、熱が出たことか。私は熱が出ることにもすっかり慣れているのだが…。

医者は疲れたら熱が出やすくなると言っていたが、入院する前から比べて少しずつ間隔が短くなってきている。今日も智香子が甲斐甲斐しく氷嚢を取り替えるが、一向に熱は下がらない。

「今日もいつもの熱だ。そう氷を変えても下がるまい。だから入院したのだしな。」

心配そうに覗きこむ智香子を慰めようと私はできるだけ明るくそう言った。

「では、綾乃さんのお話を。今日はとっておきのお話を仕入れて来ました。」

智香子の言った綾乃とは巫女である。

智恵子は、一週間に2度ほど自分の食事の買い物やら私の細々とした用事ために街に出る。その時、私の病気平癒をついでに、この病院の近くの神社で必ずお祈りしているらしい。その神社にいる巫女である。無論、私は会ったことはない。しかし、智恵子と年が近いというその女性との会話は私の為に尽くす智恵子に断片的にではあるが外の様子を教え、何より気晴らしをさせてもらっている恩人だった。

熱が出ている時には、何をするのも億劫になる私のために智香子が気晴らしにとその神社の事を話すのがいつの間にか通例となっていた。

「平賀山の事、覚えていらっしゃいますか?」

私は、もちろんだと頷いた。平賀山。この病室の窓からも見える低山である。病気になる前、あれは智香子が私の家に来た頃だから三年前だったろうか、智香子と登ったことがあった。

「平賀山は、綾乃さんの神社のお社があるらしいのですが、一週間くらい前からそのお社からゴトゴトと音がしたのですって。」

智香子はそこまで話して思い出したように笑った。

要は平賀山のお社の奇怪な音の正体はタヌキの親子で、勘違いした綾乃が御札をベタベタと貼ってしまったという話だった。

「また、行けるといいな。」

一頻り笑ってから私はふとそう言った。少しだけ気が楽になった。

智香子はすっかり溶けた氷嚢を新しくしながらそうですね。きっと行きましょうと笑った。

その夜、私は夢を見た。

狭い部屋に私は寝ていた。智香子が私の手を取り涙目になって一所懸命何か叫んでいた。しばらくしてどこからか出てきた医者が残念そうに首を振って私の顔に白い布を掛けた。どうやら死んだらしい。手を放した智香子がため息を一つついて、背中に羽を生やして笑いながら飛んでいった。慌てて智香子の手を掴もうとするが、いきなり平賀山の『悪霊退散』の御札の貼られた社に閉じ込められた私は遠のいていく智香子を見ているしかなかった。

そこで目が覚めた。隣では智香子が団扇を持ったまま硬い椅子の上で寝ていた。

ふと、私にある疑念が湧いた。今まで湧かなかったことがどうかしている。

智香子は私から離れたがっているのではなかろうかと。誰も好き好んで病人の世話などしたくないはずなのだ。

「私の世話をしているのは、私の父の命があるからか。」

と私は今、見た夢の話をした。

智香子はそれは、お辛い夢でしたねといい、私の背中を擦った。

「もし、私に羽が生えたら平賀山に連れていって差し上げます。」

上手く逃げられたなと思ったが、智香子の手のぬくもりに私はすぐに眠りに落ちてしまっていた。


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