第26話 怒り
翌朝。
私は、その男の元へ向かった。
足は、少しだけ重い。
理由は分かっている。
だが。
止まらない。
止めない。
それが、昨日決めたことだから。
簡易の休憩所。
そこに、彼はいた。
足に固定具が巻かれている。
横になっている。
その隣に。
昨日見た女性と、子供。
私は立ち止まる。
一瞬だけ。
そして。
歩く。
距離を詰める。
視線が、こちらに向く。
女性の目。
昨日と同じ。
だが。
少しだけ。
違う。
私はそれを認識する。
そして。
口を開く。
「状態を確認したい」
言う。
必要な行動として。
だが。
「……来ると思ってたよ」
女性が言う。
低い声。
感情が混ざっている。
私はそれを受け取る。
「責任がある」
私は答える。
事実として。
その瞬間。
空気が変わる。
「責任?」
彼女の声が、強くなる。
私は止まる。
だが。
逃げない。
「そう」
私は言う。
「今回の配置は、私の判断によるもの」
明確にする。
だが。
「それで終わりかい?」
彼女が言う。
一歩、前に出る。
目が鋭い。
「責任がある、って言って」
「それで終わりかい?」
同じ言葉。
だが。
重い。
私は思考する。
意味を。
彼女の感情を。
——怒り。
それを認識する。
そして。
理解する。
これは。
“説明”では足りない。
私は一瞬、言葉を探す。
だが。
見つからない。
彼女が続ける。
「あの人、しばらく働けないんだよ」
指す。
横たわる男を。
「その間、どうするの?」
問い。
私は答える。
「生活支援を——」
「どうやって?」
即座に遮られる。
「誰が?」
言葉が重なる。
私は止まる。
思考する。
だが。
遅い。
彼女の言葉は止まらない。
「うちは、あの人が働かないと食ってけない」
はっきりと。
「分かるかい?」
その問い。
私は受け取る。
理解する。
構造。
収入。
依存。
だが。
それだけではない。
彼女の声。
その中にあるもの。
私はそれを感じる。
——恐怖。
未来への。
私は一歩、前に出る。
そして。
初めて。
考える。
“どうするか”を。
自分の判断として。
私は言う。
「私が補填する」
言葉にする。
明確に。
彼女が止まる。
一瞬。
だが。
「金で済むと思ってるのかい」
低く言う。
私は首を振る。
「違う」
否定する。
「労働力としての代替も用意する」
続ける。
「必要な期間、別の人員を配置する」
具体的に。
彼女は黙る。
そして。
私を見る。
じっと。
評価するように。
測るように。
やがて。
「……できるのかい」
問い。
私は答える。
「やる」
短く。
だが。
はっきりと。
その瞬間。
空気が、少しだけ変わる。
怒りが。
完全ではないが。
緩む。
彼女はため息をつく。
「……あんた」
小さく言う。
「変わったね」
その言葉。
私は受け取る。
意味を考える。
だが。
完全には分からない。
それでも。
否定しない。
私は男を見る。
「回復までの期間を見積もる」
言う。
「必要な支援を計算する」
彼は苦笑する。
「……大げさだな」
言う。
だが。
拒絶ではない。
私はそれを理解する。
そして。
胸の奥で。
あの感覚が、動く。
昨日とは違う。
少しだけ。
軽い。
だが。
完全には消えない。
それでいい。
私はそう判断する。
そのまま。
もう一度、彼らを見る。
そして。
静かに、思う。
——これが。
“責任の続き”か。
私はそれを受け入れる。
そして。
動き出す。
今度は。
逃げずに。
最後まで。
第26話までお読みいただきありがとうございます。
ここで主人公は初めて、
「責任=結果への対応」まで踏み込みました。
これまでの“判断”だけではなく、
その後の“影響”まで背負う。
これが大きな変化です。
そして同時に、
周囲との関係も少しずつ変わり始めています。
次話では、カインからの評価がさらに変わります。
そして「信頼」というテーマが浮かび上がってきます。
少しでも続きが気になった方は、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです。
ここから主人公は、“人の中で生きる覚悟”を固めていきます。




