第22話 大雨
空気が、変わっていた。
朝から、重い。
風はない。
だが、空が低い。
雲が、沈んでいる。
私はそれを見上げる。
——降る。
確信に近い予測。
そして。
その通りになった。
昼を過ぎた頃。
最初の一滴が落ちる。
やがて。
それは、音になる。
地面を叩く音。
屋根を打つ音。
水が、増える。
急速に。
私は川を見る。
流量が上がる。
濁りも増す。
——早い。
想定よりも。
私は即座に判断する。
「上流の雨量が多い」
カインが隣で言う。
同じ結論。
私は頷く。
「対応が必要」
言う。
カインも頷く。
「全員集めろ」
短い指示。
人が動く。
声が飛ぶ。
先ほどまでとは違う。
空気が張り詰める。
私はそれを感じる。
——緊急。
状況が変わった。
私は思考を切り替える。
優先順位を再設定する。
生存。
被害最小化。
時間制約。
人が集まる。
雨は強くなる。
視界が悪くなる。
音が増える。
混ざる。
だが。
私は見る。
人を見る。
そして。
川を見る。
「下流が危険」
私は言う。
地形から判断する。
「ここが先に崩れる」
指す。
カインが視線を向ける。
そして。
「……当たりだ」
短く言う。
即座に動く。
「そっち行くぞ!」
声を上げる。
人が動く。
走る。
私はそれについていく。
足場が悪い。
滑る。
だが。
止まらない。
現場に着く。
すでに水が溢れ始めている。
地面が削られる。
音が大きい。
危険。
明確に。
「土嚢を!」
誰かが叫ぶ。
人が動く。
だが。
足りない。
明らかに。
私は状況を観察する。
計算する。
——不足。
このままでは。
崩れる。
私は判断する。
「一部を切り捨てる」
言う。
自然に。
これまでの思考の延長として。
「この区画は放棄し、流れを誘導する」
指示する。
合理的。
全体を守るための最適解。
だが。
空気が止まる。
一瞬。
雨音だけが響く。
そして。
「……何言ってんだ」
低い声。
振り向く。
住民の一人。
顔が強張っている。
「そこ、家があるんだぞ」
言う。
怒り。
明確な。
私はそれを受け取る。
だが。
判断は変わらない。
「全体を守るためには必要」
私は答える。
だが。
「ふざけんな!」
叫び。
他の声も重なる。
「見捨てる気か!」
「できるかそんなこと!」
混乱。
感情。
私はそれを認識する。
だが。
時間がない。
私は一歩前に出る。
「時間がない」
言う。
「選択が必要」
正しい。
だが。
誰も動かない。
拒絶。
完全な。
その時。
「どけ」
低い声。
カインだった。
前に出る。
「そこは守る」
短く言う。
断定。
「その代わり、上を削る」
別の方向を指す。
「流れを変える」
住民たちが動く。
迷いなく。
指示に従う。
私はそれを見る。
——なぜ。
私の案の方が効率的だ。
損失も少ない。
それなのに。
彼の案で、人が動く。
私は理解できない。
だが。
時間がない。
私は動く。
彼の指示に従う。
土を掘る。
流れを変える。
人が動く。
必死に。
雨はさらに強くなる。
水が増える。
流れが速くなる。
そして。
一瞬。
崩れる。
土が。
水が流れ込む。
だが。
完全ではない。
持ちこたえる。
ギリギリで。
やがて。
流れが安定する。
音が、少しだけ落ち着く。
人々の動きが止まる。
確認。
結果。
——持った。
被害は出た。
だが。
壊滅ではない。
私はその事実を認識する。
そして。
同時に理解する。
——私は。
また。
間違えた。
もし私の案を通していれば。
より安全だった。
だが。
人は動かなかった。
結果として。
実行されたのは、彼の案。
そして。
それが。
現実を救っている。
私は立ち尽くす。
雨の中で。
思考が回る。
だが。
結論は出ない。
その時。
「……大丈夫か」
声。
振り向く。
マルタだった。
私を見る。
その目。
そこにあるのは。
心配。
私はそれを理解する。
「問題ない」
答える。
だが。
彼女は首を振る。
「そういう顔してない」
短く言う。
私は止まる。
その言葉。
意味。
私は処理する。
——顔。
表情。
私は自分の顔を意識する。
どうなっているか。
分からない。
だが。
何かが。
違う。
私は雨の中に立つ。
動かない。
そして。
ゆっくりと。
思う。
——私は。
また。
“正しい”のに。
間違えた。
その事実。
それが。
これまでで一番。
重く。
深く。
胸の奥に、沈んでいった。
第22話までお読みいただきありがとうございます。
ここから物語は一気に加速します。
これまでの“学び”が試される場面で、
主人公は再び「正しさと現実のズレ」に直面しました。
次話では、この状況の中で主人公が「決断」を迫られます。
そして、その決断が——大きな結果を生みます。
ここからが第2章の核心です。
少しでも続きが気になった方は、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです。
次話「決断」——ここが、運命の分岐点です。




