第267話 もふもふダンジョン計画
工場の人工ダンジョン研究室。
机の上には分厚い資料が積まれていた、表紙には大きく『可愛い魔物図鑑』と書かれている。
ヒカリとリヒトは、その資料を真剣な表情で読み返していた。
「可愛いという概念は想像以上に奥が深いですね」リヒトが感心したように呟く。
「勉強になった」ヒカリも頷いた。
元ダンジョンコアだった二人にとって、利用者を楽しませるという発想はまだ新しい。
前回はカイルの監修が入った結果、初心者お断りどころか熟練冒険者でも嫌がるような地獄が完成した。
だから今回は違う。目指すのは初心者向け。安全。そして、可愛い。そんなダンジョンだった。
数日後。改良型人工ダンジョンが完成した。
試験参加者はもちろんリーナである。「やったー!」本人は大喜びだった。
ナルサは腕を組みながら苦笑する。「毎回思うけど、本当にこの子を審査員にして大丈夫?」
「基準が曖昧すぎるわよね」キキも同意する。
だがヒカリとリヒトは真顔だった。「リーナは利用者代表」とリヒト。
「重要です」とヒカリが語る、妙に説得力があった。
ダンジョンへ入る。最初のエリアは草原だった。明るい日差し。柔らかな草。
ぽよん。
小さなスライムが飛び跳ねた。丸い。小さい。瞳がやたらと愛らしい。
リーナの目が輝いた。「かわいい!」
スライムは嬉しそうに跳ねる。
ぽよん。
ぽよん。
まるで返事をしているようだった。
ヒカリは即座にメモを取る。「高評価」
リヒトも書き込む。「採用確定」
二人は仕事が早かった。
さらに進む、今度は白い毛並みのラビット系魔物が現れた。
長い耳がぴくぴく動く。ふわふわだ。
リーナは迷わず抱き上げた。「うわぁぁぁ……!」感動している。
ラビットも嫌がらない。
「キュッ♪」可愛い鳴き声まで付いていた。
ナルサも思わず頬が緩む。「これは反則じゃない?」
「ぬいぐるみより可愛いかもしれないわね」キキまで癒やされていた。
その先には子狐型の魔物がいた。ふわふわの尻尾。小さな体。つぶらな瞳。しかも、近付くと尻尾を振る。
リーナはしゃがみ込んだ。「可愛い……」
子狐がすり寄ってくる。リーナは抱き上げた。
しばらく撫でる。さらに撫でる。ずっと撫でる。そして、真顔で言った。
「倒したくない」
全員が固まった。
「え?なんで?」ナルサが聞き返す。
「だって可哀想だもん」リーナは子狐を抱き締めながら答えた。「こんなに可愛いのに」
ヒカリとリヒトは顔を見合わせる。
数秒後。
二人同時に頷いた。「攻撃機能削除と戦闘能力停止」
「早い!?」ナルサが叫ぶ。
研究者の決断は異様に速かった。その日のうちに調整が行われた。
スライムは襲わない。ラビットも襲わない。子狐も襲わない。ついでに噛みつきもしない。
完全に安全仕様だった。
リーナは大喜びで遊び回る。スライムを撫でる。ぽよぽよ。
ラビットを抱く。もふもふ。
子狐と転がる。ふわふわ。
もはやダンジョン攻略ではなかった。動物ふれあい広場である。
ヒカリが首を傾げる。「成功?」
リヒトも少し悩む。周囲を見る。リーナは満面の笑み。魔物たちも楽しそう。
そして二人は同時に結論を出した。
「成功」「大成功」
二人は手を握ってそっと抱き合い喜んだ。
こうして人工ダンジョン第二号。『もふもふダンジョン』が正式に誕生した。
後に大人気施設となる一方で冒険者ギルドからは「ダンジョンとしてはどうなんだ?」と真顔で問い合わせが来たという。




