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悪魔乃恋愛芸舞  作者: 青紫 時雨
7/15

Dog Fight

激しい雨の降る夜、私は埋葬された

女の子が私の入った木の箱にしがみついて泣いて入る

「            」

びしょ濡れになるのも構わずに泣いている、親は困ったように抱き上げる

あの子はこれからあの家で一人となるのだろう

そう思うと私は悲しくなる

一人の辛さを知っている私は、あの子を悲しい思いにさせたくない

まして、彼女が歩いた時から知っているからであろう・・別れは、つらいな

我はもう、悲しさを拭うこともできないのか

「んー・・・おぉう」

何だ貴様は、私が感傷に浸っているというのに不躾な恥を知れ

「ご主人さま・・・この方じゃないですか?」

「む・・・・なるほど見つけられぬわけだ」

何が言いたい貴様ら、私の邪魔をするな

「そう、邪険にはしないでもらいたい・・・私は隣人、あなたにお勧めしたい遊びがあるのですが・・・御話でも聞いてくれませんか?」

・・・あぁ、見ろ・・貴様らに関わったが故にあの子も去ってしまった

どうせ、この場から動けぬ身・・いいだろう話すがよい、この亡霊にな

「はい、悪魔の恋愛芸舞といいまして・・あなたは亡霊ですので恋愛を行う体と特殊な力をこちらがご提供いたします、しかし悪魔の能力と体ゆえ真実の体は醜い・・その醜い体を愛してもらえたらそちらが勝てば人間の体を譲ります、負けたら・・私の部屋を飾る玩具になります」

なるほど、命をかけた遊びか

「そうだよぉ・・・」

どうせこのまま朽ちることなく残留するこの身だというのなら


いいだろう、その遊び楽しませてもらおう


Dog Fight


「安達さん、昨日はごめんなさい・・うっかりしてた」

教室で、安達という女子の隣に座る女子が謝罪する

「ううん・・・気にしないで、風邪ひいてたんじゃ仕方ないよ」

「そう・・でも、昨日の分やるから今日はしなくていいよ日直」

「あはは・・・・気にしないで、やってる方が、気がまぎれるから」

「そう?」

首を傾げる女子に微笑みを返す安達

騒がしい教室に急いで入ってきた男子がカバンを置くと安達たちに駆け寄る

「おはよう、風邪大丈夫?菊池」

「おはよう、うん・・・平気だよ」

「おはよう・・・鎌足くん、寒くなってきたね・・鎌足くん朝起きられないんじゃないの?」

「そうだけど、安達言わないでくれよ・・って、そうそう転校生来るから日直を職員室に呼べって言われたんだった」

それを、聞いた菊池は嫌そうな顔をする

それに気づいた安達はニコッと笑って鎌足を見る

「あ・・じゃぁ、行くよ・・菊池さんは、黒板お願い」

「いいよ・・・鎌足くん、手伝って」

「よっしゃ」

そういって黒板によっていく二人を眺めてから安達は、職員室に向かう

黒くて長い髪の毛を後ろで三つ編みにし、整った白い肌に濃紺の制服がとても似合っている

しかし、同世代の女の子と比べるとかなり地味で街の中に入れば風化して影を薄めてしまう

実際彼女の放つ雰囲気は、どこか達観した所があり落ち着いた雰囲気とどこか危なげな雰囲気の二者を放っている

「失礼します・・2年6組安達 真由美です、先生に呼ばれてきました」

「・・・お?・・・日直は、安達だったか・・なら、ちょうどよかった」

どことなく気の抜けた声を出す先生

その隣に見覚えのない男子が立っていた

黒い髪に白い肌と色素の薄い茶色の瞳

顔立ちがかなり整っていて一瞬息をのむ

「1限は、おれの授業だったろ?・・・宿題の答え合わせだけにするから、安達学校案内してやってくれ・・・紹介する、高橋 薫くんだ」

「よろしく」

透き通った声も見た目どうりで、反応が遅れそうになる

「安達 真由美です、よろしく」

「じゃぁ・・・今から頼んだ、2限から授業に参加してくれ・・出席扱いにするから」

「わかりました、では先生失礼します・・高橋くんついてきてください」

「はい・・・失礼します、先生」

コーヒーをすすり始めた先生は、声を出さずに手を振ってこたえた

二人はゆっくりと歩んで職員室を出て行った

「・・・・お似合いのカップルだよな・・・」

「あら、男性でも・・・思うんですね」

「そりゃそうだろう?・・・安達は、達観してる所あるけど顔整ってるし、あの子も顔整ってるもんなぁ」

「安達さんって人の言いなりになる所があるから、騒動にならなきゃいいですけど?」

「木下先生・・・そこまで、子供じゃないですよ」

「どうだか・・・恋愛に事関しては・・・女の子はいくつになっても盲目ですよ?加藤センセ」

そういわれて、また口に含む加藤は、苦い顔をせずにはいられなかった


1限の半分くらいで学校の紹介が終わって戻ると先生が、急いで答え合わせを終える

答え合わせは全然進んでいなかった

席に戻り、黒板に書かれた答えでまる付けを行う、安達に対し高橋は入り口に立ってじぃっと黒板を睨んでいた

「・・・で、ここがこうなるぅってお前ら宿題してない癖にお喋りをするな!!」

いきなりの珍客に内緒話をしていた生徒がたしなめられる

先生の方は、宿題をしていなかったせいであまりに授業が進まず顔にいら立ちが出ている

「まったく・・・最後の問題出来る人」

問題の公式をすばやく黒板に書き、ゆっくりと叩く

少し様子を見る、安達

もちろん、誰も手を上げようとしない

それを確認してから手を上げようと安達がゆっくりと手を挙げると入り口付近から声が教室に響いた

「・・・・高橋くん、出来るの?」

先生が、驚いて素っ頓狂な声を出しつつ高橋を見る

「たぶん・・・先生は、出来る人と言われました、それに上げる気配もないですので」

「あっそう、じゃぁお願い・・別に間違えてもいいからさ・・・」

その独特の喋り方に、首をかしげつつ少し下がる先生

会釈をしてから黒板に近づきチョークを握る高橋

チョークを少し見てから鉛筆の持ち方に変えて、書き始めた

すらすらと解かれる公式を、眺め見つつ先生は目が点になる

最後に答えを書くとゆっくりとチョークを置いて、手を払う

「いかがでしょうか?加藤先生」

「グゥッド・・・っと言うところで転校生の話」

加藤先生が、手を伸ばし高橋を隣に立たせる

「高橋 薫くんだ、みんな仲良くするように・・・・えっと、あれ・・安達の隣はあいてないのか」

「先生、安達ビイキしすぎっすよ!!」

「あぁイエス・・・・・・宿題をちゃんとする奴に俺は優しいのっと、あぁ、しょうがないからあの席、地頭所の隣にいって」

「しょうが・・・しょうがないは無くないですか・・・」

「はい、先生」

高橋は返事をすると席に着く

「はい・・じゃぁ・・次の宿題をだすからなぁ・・・やって無けりゃ期末の点数から引くぞぉ」

その言葉にクラス全員がブーイングを言う中で二人だけがカヤの外だった


「安達さん、食堂の使い方教えてくれませんか?」

「は・・・・えっとぉ・・・」

ちょうど、お弁当箱を出そうとした安達に対しさも当然のように言う高橋に動揺する

高橋もそれで気づいたのか、手で謝りながら下がっていった

「・・・・少し心配」

まだ、手を付けたわけではなかったので弁当箱を持って学食に移動する安達

廊下を出ると大急ぎで走っていく学生とぶつかりそうになる

高橋の後姿は見えない

「以外に早いんだ・・・・」

そう言うと、階下の学食に足を向ける


「・・・・案の上・・・ってやつですね」

入口で他の人たちがどのようにしているのかを眺めている高橋がいた

見覚えのない人が挙動不審な行動をしているので皆が皆訝しげに彼を見る

「・・・高橋さん」

「っ!?・・・・あぁ、安達さん」

こわばっていた表情が一変して柔らかな笑みに代わる

「お盆を取ってください、でカウンターの上に料理の名前が書いてあるでしょう?」

「あぁ・・はい」

そういうと、たどたどしくお盆をとりカウンターの上に付いた札を見る

「そこで注文してレジに持っていくだけです」

「値段は?」

「あぁ・・・・あれ!!・・私あまりこっちで食べないから」

「・・・あぁ、ありがとう・・・」

カウンターの横に値段表が置かれている

それを遠目から見てから人の少ないカレーの札のかかったカウンターに並び注文する

「今日だけご一緒していいですか?」

「むしろ、お願いします」

注文したカレーを受け取って、こちらに微笑みかけた顔がとても魅力的でドキッとしてしまう

「お弁当のお箸忘れちゃったから」

「それは、朝早くから頑張って作ったお弁当を食べられない所でしたね」

「え?」

レジにてお金を払いながら安達にそういう高橋

安達は、初めて会った彼が、何故これを私の手作りなのを知っているのかが疑問になった

それに気づいたのか水とスプーンと安達の箸をとりながらはっとした顔になった

「あぁ・・・ごめんなさい、母君のでしたか?それとも父君ですか?」

「いや、手作りだけど・・・・なんで、知ってるの」

「いや・・・前回の学校に安達さんそっくりの方がいらっしゃって手作りだったので、ついかぶせてしまって」

そういいながら、片手で頭をかく

それなら、納得したと安達は頷く

席は、不思議なことに一か所だけ空いておりそこに、向かい合って座る

「いただきます」

「いただきます」

カチャカチャと食事を開始する

「ありがとうございました・・・ワザとでしょう?」

「・・・?」

唐突に高橋の語りかけてきた言葉は、あまりに唐突過ぎて思考が止まる

「御蔭で助かりました・・・・明日から僕も作ってきますので、一緒に食べませんか?」

「・・・・・?」

「あぁ・・・ダメ・・ですか?」

しゅんっと萎れた表情が、少し可愛いと安達は不意に感じた

その思いを振り払い、向き合う

「いや、何で気づいたのかなって」

「あぁ・・・とぉ、心理学の本を読んでいてウソをつく人の目の動きをしっていまして、もしかしたら見たいに思って・・・かまをかけてしまいました、申し訳ありません」

「ふ・・・ふぅん、」

少し考える安達

「男性の方と仲良くされた方がよろしいと思いますよ?」

「そうなんで・・・すよね」

はははっと、やはり落ち込む

「何か嫌なことでも?」

「あぁ・・・実は、あまり世俗のことが分からなくて、私から話しかけると勉強の話ばっかしてしまうんですよ」

「・・・・あぁぁぁ」

安達はその言葉で理解した、今日あった授業のクラス態度は思いっきり勉強よりも体育や娯楽を優先する思考が多い

「だから、前回の学校でも孤立してしまって」

「あはは・・・」

「今日の数学でも上げようとされていたでしょう?」

「え・・・えぇ」

少しから返事を行う安達

どうやら気づいていたらしい

抜けているのか、ちゃんと気づいているのかわからない

「他の科目もちゃんと発表してたの安達さんですし・・・その、良かったらお友達になっていただけませんか?ご迷惑なら断っていただいてかまいませ――」

「っ!!・・・・くくく」

今の子なら、絶対に使わないであろうお友達という言葉に不意を突かれ、安達は危うく口の中のものを噴き出しそうになる

よくよく考えると、両親に君を付けていたことを思い出す

「ゴメ・・・・そうやって言う人もう、いないから」

不安そうな高橋に一言いって落ち着こうと深呼吸する

「はい・・・いいですよ」

「よかった・・・これからよろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げられて、安達は甘酸っぱい思いに浸っていた


授業を途中で参加した割に高橋は、スラスラっと問題を解いていて先生方を驚かせた

生徒たちも驚かせたが、男子は異端者を見る目で見て女性陣は面白いものをみつけたように高橋を囲む

このクラスに代わってから一度あったのだが、勉強を教えてくれと、言ってきて宿題を丸写しするのである

それを思い出し苦笑いする

帰りのHRも終えて帰り支度する

高橋は、安達に会釈するとすぅっと帰って行ってしまう

「・・・・・・・・・律儀・・・」

その行動があまりに自然だったため驚きで声が出てしまう安達に周囲の女子が冷やかしの目を安達に送る


学校の帰り道、今日の晩御飯と明日の朝ご飯、昼ご飯の献立を考えていた

すると、向かい側から高橋が歩いてくるのが見えた

黒い財布の中身を見ながら、スーパーの敷地をまたぐ

少し驚きつつも安達も敷地の中に入る

「・・・・近所なのかな?でも最近引っ越しなんて無かったし?」

「やぁ、安達さん」

突如かけられる声

振り返るとにこにことうれしそうな高橋がいた

「どうも、高橋君」

「あ・・・迷惑だった」

何が迷惑なのだろうと思いながらその思った言葉がおかしいので苦笑する安達

「いいえ、少し驚いただけ、家この近所なの?」

「んー・・・やまちゃんっていう駄菓子屋の近く」

「・・・・かなり近所ね?」

「ほら、亡くなった山下っておじいさんが住んでた家だけどあそこに一人で住んでるんだ」

ニコッと笑う高橋に一瞬見入ったが、言葉を思い返す安達

「一人?・・てか、隣の家ね」

「山下のおじいちゃんってうちの母方なんだけど、会長やってたんだで、父さんが社長に就任してあっちに行かなきゃならなくてさ・・・うん、学校も元々居づらくなってたし、ちょうどいいからってもとの家と土地を売却して、僕だけこっちに引っ越した、一人暮らし頑張れってさ」

「・・・・えぇっと」

「別に暗い話するつもりじゃなかったんだよ・・・暗くはないしね」

「だから、明日は作ってくる?」

「あ・・はい」

その独特の言葉使いに苦笑する安達

二人は、駐車場を抜けてスーパーの中に入りそれぞれ籠を手に取る

「えっと、お父さんとお母さん遅いんだけど良かったら一緒に食べない?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、血もつながらない男女が一つ屋根の下なんて――」

「っ!!・・どんな、想像してるのよ!!やましいこと考えないで!!」

「あ・・・いや、その・・・あなたの母君と父君に悪い気がして・・」

「あぁ・・ならいいです、私もお節介癖だしっちゃっただけですから」

高橋は、困ったようにおろおろとしていた

その反応が安達に数年前にいた、タロウを思い出させる

帰ってくると駆け寄ってくるのだが、安達が不機嫌なのに気付くと頭を下げて後ろに下がっていく、少し情けなくてでも憎めない老犬だった

「・・・・・・えと、そのお節介に甘えていいですか?」

「え・・・あ、はい・・・わかりました」

「じゃぁ、材料費は僕が持ちます!!」

安達が持っていた籠を近くにあった籠の塊に収めさせる

「え?」

にこにこと本当に幸せそうに笑う高橋を見て

面白いと思ってしまった安達がいた


「・・・おいしい」

「そう?ならよかった」

安達の家にて二人は向かい合いテーブルの上に並ぶ食事を食べていた

時刻は七時を過ぎている

「・・・・」

一口一口を幸せそうに食べる高橋を見ていると気分が良くなる

タロウが居なくなって、寂しい食事が続いていたから少し違和感が襲う

「おいしかった・・・えっと、食器類はどうしたらいいですか?」

「そうね・・・流しに持って行ってくれない?」

「わかりました」

そういうと、一皿ずつ丁寧に運ぶ

少しほほえましくて微笑が漏れる

自分に弟ができたらこんな風なのかなっとぼうっと考えてしまった

また、向かい側に座る高橋に気づき

はっとしてから、急いで食べ終えてしまい食器を運ぶ

「さぁって、洗わないと」

「僕がするから、母君と父君分の準備をしなよ」

すぅっと、仕事を自然に奪う高橋を眺める

たしかに、いつもしていることである

てきぱきと安達がいつもしている洗い方で洗う高橋に見入ってしまう安達

高橋が不意に安達の方を向き、首をかしげたので安達もすぐに準備に取り掛かる

準備を終えて、食器を洗い終えても高橋はいた

無理に突き放すこともできないので、そのまま流れるように二人は宿題を行う

「ただい・・・・・ま」

「あ!!お帰りなさい」

時刻は八時を過ぎて九時になろうとしている

「・・・真由美、その方は?」

「・・お邪魔させて頂いております、高橋といいます」

「お隣に越してきた人ね?・・・もう、九時になるわよ?」

はじめて聞く厳しい言葉に安達が母親から引く

「あ、はい・・・失礼しました」

「・・・さっさとかえりなさい、恋人でも友人でも特別視はしないし礼儀でしょ?」

「ちょ、お母さん・・私が一人ならってご飯に誘ったの」

「・・・関係ないわ・・・真由美も考えなさい」

ピシャっと厳しく言う母親の言葉に引く

高橋に悪い事をしたと高橋の顔を見ると、てきぱきと荷物をまとめてしまっている

「安達さんを責めないでください・・安達さんお母さんご指導ありがとうございます・・今後から気をつけます・・では、本日はありがとうございました」

ニコッと笑って出ていく高橋を二人で見送る

「お母さん!!あんな、突き放し方しなくてもいいでしょう!!」

「・・・・真由美、駄目よぉぉ・・・若い女の子が男の子と一つ屋根の下なんてぇ!!」

「うっわ!!」

高橋が見えなくなったのを確認してからいきなり抱きついてくる母親に困惑する安達

「男の子はオオカミなのよ・・そりゃ、母さんと父さんは母さんがオオカミさんだったけど・・・」

「もう!!・・・分かりました!!・・・でも、あんな突き放し方しなくても良いんじゃない・・それに、一人だって」

「八時前なら母さんは許すわよ?・・他の子たちより長いわよ・・でも、それ以後は駄目よ」

「母さんはって父さんにも聞かなきゃダメ?」

「父さんなんか、聞かなくてもヘタれでべたアマ何だから、大丈夫でしょう?」

「・・・・ごはん食べちゃって、私お風呂沸かすから」

「真由美・・・ごめんね・・・でも、ありがとうね」

ぎゅぅぅっと強く抱きしめられると見えない顔がどうなっているのかが安達には感じられる

「さぁ・・着替えてこよっと」

パタパタと移動する母を見送り風呂場に移動する安達

「・・・そういえば、あの子・・・あの独特の香り、あの時以来ね・・・」

母親は、鏡を眺めてほほ笑む


「あの、芸舞を始める準備に数年をかけるなんて貴方が初めてですよ」

高橋が家に入ると出迎えたのは藍色のスーツを着込んだ仮面の男

「隣人・・・なかなか、サービスが良いんだな」

「えぇ、しかし・・貴方様の潜在能力のおかげもありますよ」

「ふん・・・そうですか・・・」

頭をかきながら、家の中に入っていく

「片づけは、済ませています・・・ごゆっくり」

「今日はありがとう、場所取り」

「・・・いいえ」

すぅっと消える残像

「ふぅ・・・・」

一人暮らしの学生に渡すには、多すぎる家具と道具たち

「真由美・・・私は帰ってきたよ、数年の時を経て人としての知識を付けて」

暗い部屋で天に向かって力強く握る


「高橋君すっごいねぇ・・・ありがとう!!」

「ありがとう、安達さん」

二人の机には彼女らのノートに群がる生徒の人だかりが出来ていた

安達には、女性が高橋には男性が群がる

答えを写した女性や男性がさらに伝播させる

高橋の方に女性も混ざっているのは、たぶんその外見に興味を持ったからだろう

「・・・」

男性はさっぱりしていて答えを写すと興味を失ったように離れていくのに対し、高橋に近づいた女性たちは、猫なで声を出しつつ離れようとしない

「ちょっとごめん」

そういうと、女性たちから離れて安達に近づく

「やぁ、昨日はごめんなさい」

「いいえ・・・私も、うっかりしちゃったから」

「その・・・今日は、僕が作りに行きたいな」

「・・・・・・・・・友人に頼むことでは、無いですよ?」

少し不意を突くようなことをするので釘をさす

「いや・・そうですが・・昼一緒によろしいですか?」

「・・・どうぞご自由に、でも・・・」

「夜は駄目ですか・・・」

また、しゅんとなる高橋に苦笑する安達

「何が狙い?」

「・・・別に、ただ・・・・」

口を濁らせる高橋に、少しいらっとする

「・・うん、一人の食事より二人でとったほうがいいでしょ」

「高橋君、同情ならいりませんよ」

「うっ!!・・・ごめんなさい」

一歩下がりながら本当に申し訳なさそうに謝る

気が緩まってしまい、先程の怒りも下がってしまうのを、感じる安達

「・・・・そちらの家に遊びに行きます・・食べたらすぐに帰ります・・それでいいですね?」

「あ・・・ありがとう」

本当に幸せそうに笑うので、気が緩んでしまう


そんな、生活から一カ月がたつ

毎日が繰り返されるようだった、交互に相手の家で晩御飯を食べて

少ない時間を共にした、未だ肩書は友達で帰り道を一緒にして親がいないことと親が遅いので一緒に夕食を取る仲である

そんな、ある日いきなり高橋から一緒に帰れないことを告げられた

「ごめん・・・安達さん」

「別にいいよ・・・気にしないで」

そういうと、久々の一人の帰り道に着く安達の後姿を見送る高橋はポケットにねじ込んだ手紙を見るのだった


「・・・・そうよ、以前に戻っただけなんだから」

そう自分に言い聞かせた、それは自分がすごく動揺しているからである

先ほどから彼が追いついてこないかと後ろを何度も振り返ってしまう

意外に重い買い物袋もいつも持ってくれてる彼を思い出してしまう

「あぁ・・もう、あの人のせいです・・・あの顔が悪いんですあの甘え上手さんが」

そう愚痴る

その夜も、やはり彼は現れなかった


「大丈夫か真由美?」

「ん・・・大丈夫よ」

「本当に?」

安達は、すぐにこっちの家に現れるだろう高橋をまってしまったのである

気づくと夜の九時を過ぎてしまう両親が帰ってきた

いつもは、出来ている食事ができておらず両親は、あっけにとられてしまった

だが、一番驚いたのは安達本人である

自分自身は五分も待った気がしなかったのである

バタバタと準備してご飯を作ってしまう

父親が風呂を沸かし、母親がテーブルの準備を行う

「・・・」

あまりに予想外だったことが二人に不安を煽ったのである

「今日は、高橋君来なかったんだな」

母親が、叱ってから高橋は、必ず八時前に帰っていた

当然だが、安達も七時には帰っていた

「うん・・・・」

「・・・まぁ、おかげで家族一緒に食事ができるのだが」

「そうね・・・真由美は嬉しくないようね?」

両親がにやにやと真由美の顔をのぞく

自分がどんな顔をしていたのかそれで気づく

「くぅ・・恋人が寝取られる感じとは、こんな――ごめんなさい」

「うふふ、いいのよ?・・・まさか、自分の娘に私の蓮を取られるなんてね~」

妻の笑顔の裏に般若を感じた連という夫が肝を冷やして冷や汗を流す

「母さん・・怖い、怖い・・・ほらタロ――」

癖で反応してしまう安達を見て、二人が反応する

「あなた、お爺さんが死んだ時もすごかったけど・・タロウも忘れられない?」

「そんな、言い方するなよ・・・」

「うん・・母さんの言うとおりだよ」

安達の顔を自然と涙が流れる

「・・・ごめんなさいね、でもこればっかりは私たちにも」

「仕方ないよ・・・ごめんね」

久々に家族で食事を取ることが出来たのに、まったくうれしくなく、それどころかかなりつらいと思えてしまった安達は、自分にかなり負い目を感じていた


「ふぅ・・・全く」

夜中の十時を回ってやっと解放された高橋は、自宅に帰っていた

家の中に入ると電気もつけないで悪魔が二人ワインの瓶をテーブルに置き、グラスを傾けて晩酌をしていた

「おかえりなさい・・薫さん」

「ただいま、ユウリさん・・隣人さん」

「いや・・すみません、家主の許可も得ずに、今宵は心地よい月明かりでして我慢できませんでした」

「別にかまわないよ・・・本当にいい月明かりなのに、全く」

「・・・薫さまもいかがですか?」

「止めておくよ、この体は未成年だからな」

電気もつけずにテーブルに座るとユウリがコップとジュースを用意しお酌する

「これは、すまない」

「いいえ・・・晩ご飯は済ませたようですし」

「あぁ・・・一番最後のは、しつこかった・・・さんざん遊びにつきあわされた揚句に告白だからな・・丁重に断ってきたよ」

「ははは、丁重にですか?・・・それが引き金にならなければよろしいのですが」

とくとくとくっと音を立てながらユウリが隣人のグラスにワインを注ぐ

「・・・そういえば、ワイングラスを新調したいな?」

「ご主人さまったら~」

「俺は、笑えないな・・・下手したら、俺がワイングラスにされてしまいます」

「ふふふ・・・あなたは、駄目ですよ・・候補があるから・・あなたほどだと、ただ固めても飾りとしてうってつけだ」

そういうと、ワインを煽る隣人

苦笑いをしながら、高橋も注がれたジュースを口に含んだ


「ん・・・今度は、逆になったか」

苦い顔をしつつ一人で帰る高橋

放課後になったとき、教室には安達の姿がなかった

カバンもなく、本人も居ないので仕方なく、とぼとぼと帰ることになった高橋

「んー・・・なんか、気になるな」

本気を出せば、悪魔の能力と自信の能力を使って探し出すことができるが、本当にそんな事をして良いのかと不安になる高橋

突如背後から車のクラクションが鳴るので振り返ると、丸い軽自動車が横に並ぶ

窓をあけてくるのは、安達のおばさんである

「高橋君、真由美を知らない!?」

「・・・はい?」

いきなり、掴みかかるように胸倉を掴まれて引き寄せられる高橋

「真由美が、熱出したって言うから迎えに行ってみたら友達数人と帰ったって言われて!!」

「ちょ・・!!ちょっと!!」

ぶんぶんと前後に振られる高橋

「友達数人が分からないし、お父さんも探してるのよ!!」

「とりあえ――ず――落ち着いて!!」

そう言われて手を離す安達のおばさん

「はぁ・・・・一緒に探します、絶対見つけ出します・・ヤケになりますので、恐れないでください」

まっすぐに安達の母親を見るとニコッと笑ってきた

「うん・・・かっこいい」


「はぁぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・」

「結構効くっすね・・・この毒」

「あぁ・・・結構値がはったんだぜ?しかし、いいのかよこんな可愛い子をいじめちゃって」

タンクトップにダボダボのズボンを着込んだ男性が安達を指さす

安達は苦しそうに肩で息を繰り返している

不況のあおりによって、廃棄された工場である中は、廃棄されたばかりなのかまだ、使える機材がそこいら中に置かれている

「えぇ、構わないわ・・・そんな、雌豚・・・あなたの好きになさい」

「ひゃははは・・雌豚か・・まぁ、たしかに」

舐めるような視線で安達を見る男達

「久々の極上の獲物だよな?」

「極上は、当然だろうが・・・たかが一日に数時間の事しか学ばんガキどもには、おしいな」

全員が振り返ると、そこに高橋が立っていた

「・・・高橋なんでここに」

「・・・理由は説明できないな、わかったから来ただけだ・・知性を持ちながら理性を亡くすが故に、欲に溺れて獣に落ちるか外道・・元が獣の私から見ても外道と思える」

驚く男たちの中、タンクトップの男だけがいやらしい笑みをやめない

「おい、色男・・・これなんだかわかるか?」

「・・・・」

「解毒剤だよ・・解毒剤・・・彼女を助けたかったらそこで大人し~く、俺らが遊ぶのを見てな」

「・・・屑が」

「ははははは・・何とでもいいな・・お前はそこから動くことができな――」

数メートル離れていたはずの間を一瞬で埋めた高橋がタンクトップの腹部に深く拳を入れている

「ぐふぅ・・・」

「毒で俺を惑わそうとはいい度胸だが・・・もう、奪わせてもらう・・・私は気が短い」

「なぜ・・・?」

「なぜ?・・・さぁ、何を疑問に思ったのか分からないな、私には」

高橋がもう片方の手で思いっきり殴るとタンクトップは吹っ飛んで行く

「・・・」

安達に近づき抱きあげると入り口に歩いて行く

頭がやられたので全員がビビってしまう

「待ちなさいよ!!」

入り口に高橋が到着したとき女性が大声を出す

「なに・・・山下さん」

高橋の鋭い眼光が彼女を射る

「絶対に逃がさないから・・・みんな、何やってるの何のための武器よ、やっちゃいましょうよ」

自分も武器を持ち高橋に向けると全員が構えだす

それに、深い溜息を吐く高橋

「安達さん・・・」

「・・・バカ、何できたのよ!!」

「白馬には乗っていませんがピンチを助けましたよ、貴方の願ったとおりにね」

にこりと、笑う高橋

「ばか・・・何で知ってるの幼稚園の時の夢を・・・」

「知ってますよ、私は隣でずぅっと聞いてたのですから」

親が返ってくるのを待つ間、ずぅっと隣で聞いていた話し相手のタロウを思い出す

「え・・・・」

「お願いします、父君母君さま・・・さて」

奪い取る勢いで安達の両親が安達を受け取る

ひゅんっと最初に切りかかろうとした少年の腹部を高橋が蹴る

蹴った勢いが強すぎて吹っ飛んで行く少年

「さてさて・・・愚かな君たちには、先に私の姿を見ていただこうか」

ばさぁっと全身が白銀の毛に覆われる高橋は、身の丈が2メートルもある大きな犬となった

「ば・・・化け物」

「失礼だな・・・これでも、つい数年前まで貴様ら変わらない存在だったさ」

全員が一歩引きさがるそれにほほ笑むように高橋の口元がつりあがる

「さて、お灸をすえるとしようか・・君たちには」

高橋の遠吠えが廃工場一体に響いた


それから、三日がたつが安達は学校に来ない

高橋は、一人の登下校と食事を強要された

あの後、ボロボロになった彼らを眺めていると世界の改竄が始まったらしく

その体のまま家に帰ろうとしていた

隣人いわく、関係のない人間が見たって悪魔は忘れられてしまうらしい

ただし、直接関係のある安達の両親と安達は見てしまっているから覚えているとのことだった

ただし、隣人は首をかしげて、溜息を吐いていた

「ただね・・・あり得るんだけどさ、長く芸舞をやっているとさ“芸舞の理解者”ってのがさ」

隣人はこういうも、それは気休めにもならないあくまで高橋にとっては今回は今回なのである

「はぁぁ・・・どうしよっかな」

三日分のプリントを手に安達の家の前でうろうろとする

「うぅぅ・・まさか、私がこんなにも臆病な生き物だったとは不覚です」

「何私の家の前でブツブツ何を言っているのよ」

「どわぁ!!」

背後から予想外の声の主の登場に奇声を上げる高橋

「・・・安達さん大丈夫なんですか?」

「うん・・今日の朝から体調は良くなったんだけど、今日まで休ませてもらったのごめんね心配かけたね・・上がってく?」

「いいえ、元気ならよかったです・・・これ、休んでた時のプリント」

手際よく渡すとそそくさと去ろうとする高橋

「ねぇ・・・・・タロウ!!」

「はいっ!!」

音が鳴りそうなほどすばやく、安達の元に向かった高橋

「・・・いいこ」

「う・・・うむ」

頭をなでる、安達に対し高橋は顔を真っ赤にさせる

「・・・・・・・・?」

「真由美・・・」

ぼひゅぅっとあの時の姿となる

「これがおれの姿なのだが・・・どうだろう、こんな俺でも愛してくれるか?今は人間なんだ」

「・・・ぷっ・・・ははははは」

いきなり笑いだす安達

「な・・・・・・何がおかしいんだ!!」

「だって、タロウで反応したかと思ったら今度は告白だよ・・しかも犬の状態で・・・ねぇ、人間に戻ってよ」

「む?・・・うむ」

また、もとの人の姿となる

すると、ほほに手を当てて唇を交わす

「・・・・!!」

「・・・これでいい?あの姿でもよかったけど人間だって言うならこっちでしょう・・母さんと同じ恋愛しちゃったんだな・・・立場は逆だけどね」

「・・・・」

高橋の思考が固まってしまう、安達は顔を真っ赤にしながら高橋の腕を引き家の中に導いていく

二人が駆けたその後を金色の粉が飛翔する


「ハッピーエンド・・・アンド、バッドエンド」

隣人が向かい側の家の屋根から金色のワイングラスを手に二人が入っていったドアを眺めた

「ふふふ・・・念願のワイングラスも手に入りましたし、今度から月が歪な日はこれで飲むことにいたしましょう」

「ご主人さま・・欲張りですね」

「ふふふ・・まぁね」

そういうと、ワイングラスを太陽にかざす

金色だというのに輝きはせず、まるで髪のように繊維が走っている

「ねぇ、木下さんよかったですね・・・そのお年で悪魔のワインが楽しめるなんて、ご安心ください人間ごときの法律には引っかかりませんよ?」

そういうと、本当にうれしそうに肩を揺らす隣人とユウリはどんどんと薄くなり消えていった


「高橋君・・・助けてくれたのはありがたいんだけど」

夜の八時を過ぎて、九時になる一歩手前

母親が帰ってきてリビングにいる二人に詰め寄る

高橋は困った瞳を母親に向けつつ、安達を見る

安達が高橋の体に腕を巻きつけて離れようとしないのである

「やっ!!薫も七時に帰るって言ったけどあたしが放さないの!!」

「・・・真由美・・・」

「いつも道理でいいの!!我儘は駄目よ!!」

「じゃぁ・・・もう、ご飯作らないしお風呂も沸かさない!!」

「ぐぅ・・・真由美」

本当に泣きそうに眼尻に涙が溜まる母親を見た高橋が優しく真由美を引きはがす

高橋は、不安だったのだ安達だけが認めてくれて両親が認めてないのではないかと、しかし今の言葉を聞いて安心した、そう母親は高橋を認めていた

「真由美、やっぱ駄目だよ・・それに、礼儀は礼儀・・ちゃんと、社会のルールは守らないと、おばさんごめんなさい」

高橋が謝るので母親は苦笑する

「真由美、これからも、お手伝いはするようにお母さん達、頑張ってるんだから・・・八時半の門限は守ってね、高橋君」

「うん・・わかった」

「はい」

高橋は、安達の頭を撫でた

「いいこ・・・」

タロウだった時に、いつもされていてうれしかったことを返す

帰るとわかった母親は、足早に自室へと向かう

「・・・」

後ろを向こうとした高橋の頬に手を巻きつけてまた、安達が不意打ちを行う

高橋は、顔が真っ赤になり安達は得意げに笑っている

動物の勘をもってしても、無垢で純粋な不意打ちには気づけないものである


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