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悪魔乃恋愛芸舞  作者: 青紫 時雨
5/15

Break daily

ゆっくりとした動作で、白いティーカップを四つ白いテラスの白い机の上に置く

―大丈夫だから―

「・・・・」

ふとした瞬間、彼は最後に聞いた言葉を思い出した、並べていたカップを持ったまま動きが止まる

あれから、2年が経ったがまだ同じ日常に居る

「・・・・・・」

四つのカップを並び終えてから、家の中に戻り音を立てて沸いているやかんに近づく

火を消してから、付近にあったティーポッドとお揃いのポッドに慣れた動作でお茶を入れた

砂時計をひっくり返して、向こうに運ぶ

「・・・・・・・」

鍋式の上においてから、砂時計の元に戻る

―お帰りなさい―

「・・・・・」

砂時計を取る寸前で手が止まる

そして、ゆっくりと砂時計と傍らに準備していたサンドイッチとプチフールの盛り合わせを乗せた皿を一緒に運ぶ

中央に、皿を置き手元にやかんを引き寄せる

ちょうど、砂時計の砂が落ちきったとき

空いていた席の一つに来賓客が立っている影が目に入った

「あぁ・・・・・お帰り」

彼は、静かにそういうのだった


Break daily


「どうも、私は・・・・」

「嘘の名ならもういらんよ・・・・あの時の黒鵜と呼ばせてくれ」

「そう・・・そうでしたね、私としたことがご無礼をお許しください」

「ふふ・・つくづく白々しい真似をする・・・この時間帯は、子供たちも来ないんだ座ってくれユウリさんもね」

にこりと笑うとしわが余計に濃くなる

鞄を隣に置くと、歪んで変化しカバンがユウリに変わる

「お久しぶりです、崇様」

「あぁ・・・君も、美しくなったね」

そういうと、彼は椅子に座るように促す

それに丁重に礼をしてから二人は座る

隆という男性は、ポッドの中に入っていた紅茶葉を捨てて、紅茶を人数分のカップに注いでいく

「・・・・お亡くなりになられた由利さんの、ご冥福を祈ります」

「あぁ、だが最期の最期まで幸せそうだったよ」

「それは、そうでしょう・・・天使の加護は、人間が持っているだけで幸せになる絶対神から授かる幸運のお守りです」

「そう・・・そうなんだがな」

悲しそうに溜息を吐きながら二人の前にそれぞれカップを差し出す崇

それを、黒鴉とユウリは会釈をしてからいただく

「如何なされました?」

黒鵜の言葉に沈黙が続く、苦笑しながらため息を吐いて、崇は口を開くのだった

「あぁ・・・だが、その幸運も神が、わが子を呼び戻すのは例外らしい」

「そう・・そうですね、しかし他の子は居るでしょう?」

「ご主人様・・・違うんですよ」

「そうだよ・・・君は、生物的な見地から言うからそうなるのだがね」

紅茶を口に含む崇の隣で黒鵜は首をかしげる

「代換え品にならないんだよ・・・あの子の替わりはいない、まして由利の替わりも」

「そうそう・・・ご主人の替わりも無いわけだし」

「替わりが無い?」

「ふふ・・君は、真実の愛を求める割にそのようなことを言うのだね」

「私も・・・王子や王とは呼ばれており、この世で堕落を貪りましたが、なまじ宗教や心に関するものは駄目ですね・・お恥ずかしい」

「分かりやすくて助かるよ・・・・だからこそ、私は君を呼ぶ条件をそろえたのだろうね」

「・・・お分かりのようですね」

「あぁ・・・その通りだよ、出来れば君の部屋で永遠にお茶会の準備をしたいものだな」

「永遠は・・・・苦痛のはずでしょう?」

黒鵜の言葉に、噴出してしまう崇

「ふふ・・・君は悪魔だろう・・・いや、ユウリと居ることで変わったのかな?」

「たしかに、沢山の人間を見てきて契約を行い弱ければ食い散らかした・・・ユウリはその中で一番弱い魂だが一番変わっていたのでしょう」

「絶対的弱者は痛いですよ」

「しょうがないでしょう・・・・食ってもまずそうだったのですし、仕えさせても楽しくは無いだろう・・むしろ望みを聞いていてもため息物だしたね」

「ぎゃー、ギャー、ギャー」

「ははは・・・外が見たいとかそんなでしょう?」

言い当てられて悪魔たち二人は沈黙し崇を見る

「そう・・景色が見たいとか、花の香りが知りたいとか体が体だったから一回一回治療を加えるのには骨が折れましたよ」

「うぅー」

ユウリが唸るのを横目に黒鵜はため息を吐く

「おまけに最後は・・・・」

「あぁ、そこまではお聞きしませんよ・・・でも、不思議だったのでは?」

「・・・確かにそうですね、動く体が欲しいとか全部治してくれとかそんなことを頼めば良いのにまさか一つ一つの行為を頼むなんて、考えもいた致しません」

「知らないが故に知りたい事を優先してしまったんだろうね」

崇の言葉に二人は、動きを止めてしまう

「知らないが故にとは?」

「貴方のことだ、願いの重さで命を奪う・・何を願うとかそんなことを言ったんでしょう?」

「それはそうですね」

「だから・・・医者に治らないとかを何処かで聞いてしまっていたのなら・・・少しの夢を見て潰れたかったんでは?」

「・・・・・夢か・・・・・」

「崇さん・・・ストップ」

「ユウリ、悪魔であっても知らないとならないんだよ・・むしろ知りたいんだろう」

「・・・・我々のような王を名乗る悪魔は、単純に魂を食い荒らすことよりも知識を優先することがあるでしょうからね」

紅茶を口に含む黒鵜

「だってよ・・ユウリ」

「むー・・・分かった、分かりましたご主人様」

「・・・では、身体を作り直さず一時の幸せを望んだ理由を聞かせてもらいましょう」

「ついでに、ユウリさんの過去話も、聞かせていただきたいですね」

「崇さん!!」

「ははは・・・・」

そう笑いながら空になったポットに紅茶を入れに行く崇

それを、眺めていた黒鵜がユウリに向き直る

「そうですね、話しなさいユウリ・・・ちゃんと聞いていてあげましょう」

ユウリは、俯いていたがやがて顔を上げて語り始めた

「わかりました、全てお話します・・・まぁ、私の過去を話したほうが話しやすいと思うし」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「有理さん、大丈夫ですよ」

白いベッドの上で横になった少女、ソレに対し話しかける看護婦は全てを知っているからだろう上手く笑えていない

「・・・・・・み・・・・・・ず・・・を・・・く・・」

「あぁ、お水ですね・・・・ちょっと待ってね」

掠れた声は、常人で聞こえるか聞こえないかである

「はい・・少し起しますよ」

看護婦は、戻ってくるとゆっくりと彼女をベッドから起こしその口に水を注いであげる

彼女は、舌で感じられた液体をゆっくりと飲み干す

「はぁ・・・はぁ・・・・」

「はい、戻しますよ・・・大丈夫ですか」

彼女は少し身体を上げるだけでも、低血圧を起しめまいや動機が激しくなる

「では、私も少し席を外しますね・・・またきます」

そういうと、彼女は去っていった

そう、これが毎日の繰り返しだった

見える景色といえば、霞んだ天井ぐらいなのである

「こ・・・ん・・な・・・・・・・・・・・の・・・」

無意識に指が何かの文様を描く

そして、彼が現れたのだった

藍色のスーツ姿に白い仮面をかぶった彼が・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

「おや、今宵呼び出した・・女性は、なんとも弱っておりますね」

酷く落胆したように気だるそうに言う彼に対し彼女は顔を向けて必死で声を出す

「だ・・・・・・・・・れ・・・・・?」

「あ?・・・・えっと、申し訳ございません言いなおしていただけますか?」

「・・・・だ・・・・・・・・・・れ・・・・・?」

この言葉に彼は、うなだれてしまう

「聞こえる声を出す気がないのですか、貴方は!!」

ガバッと抱き起こすと顔を近づける

「どうなのです!!全く生きる気力も努力も見受けられない、なぜ私を呼び込んだ!?・・・・・・・・・・・あの、大丈夫ですか?」

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・」

激しい息遣いに眼が白目を向き始める

顔色が見る見る悪くなり痙攣が起こる

「え・・・・ちょっと待ちなさい」

ブゥンっと手を振ると彼女の症状は一気に回復する

「あ・・・・・?」

「なんだ、呪いじゃないし・・・まったく、体が悪いのか」

溜息でも吐くように手を開く

「今のは、私が悪かったので別に命を食ったりしませんよ」

「?・・・・・貴方!!」

体がすごく楽になり声を出すと自分の声に驚いた

「あぁ・・・私の声が出せる・・喋れる・・・やった、これでママ――」

バタンっと派手に転げ落ちる彼女、それをただ眺める悪魔

突然動こうとした彼女の行為は、悪魔にも予想できずに硬直させてしまう

「お・・・おい?」

「有理さん!!」

看護婦がバタバタ入ってくる

部屋の中には、転げ落ちたユウリが居るだけだった

「有理さん・・大丈夫ですか!?」

「あ・・・・・・・・・・・・・・は・・い――」

そういうと、元の自分に戻っていて彼女の眼から自然と涙が流れ出た


それから、深夜の消灯時間になった

あれから、看護婦がたち代わり入って来ていたが深夜になるとソレも無くなった

「・・・・・・・あぁ・・・・・・・・あぁぁ・・・・・」

苦しげに声を出し続けるユウリ

「やっとでれる」

ベッドの下から滑り出てくる仮面の男

「全く・・何なんだお前は、今度は動くなよ」

ボウッとまた、光が当たる

「あぁ・・・・あぁ、やっと喋れる」

「お前・・一体何なんだ」

「・・・私は、なんでもないわ・・・単なる生れつき病気で瀕死な無様な人間」

布団に眼を落として話す彼女

青白い肌に痩せた体、長く延びた髪は色素が薄く綺麗な茶色をしている

「お前は、それでも私を呼び出した・・・本来なら単なる弱い存在に仕えるつもりは無いから食い散らかすのだが、これも一興でしょう願いを言いなさい」

「・・・願い?・・・・なんでも良いの?」

「私は、嘘はつかないよ・・・さぁ、何を望む?その器を捨てて――」

「花の香りを嗅ぎたい!!」

大きな声で言う、今までずっと話してきたことの無かった彼女だ、言葉のイントネーションは、ちぐはぐで違う言葉に聞こえてしまう

「・・・・・・これか?」

眼前に花瓶に供えられた花ということは、分かるが何の花か分からないものを一本抜きとり突きつけられる

元気のなかった萎れ気味だった花が突如として誇らしげに綺麗に咲きはじめる

悪魔は、こうすれば香りが強くなると考えたが、彼女は触覚と視覚で感じることはできるがそれ以外は何も感じることが出来なかった

「貴方は・・・感じないのですか?この強い香りを」

「え?・・・」

「少し待ちなさい・・・・・それは私の配慮不足だった、私の五感を渡そう」

ぼうっと彼の手が体に触れた瞬間様々な感覚が脳に送り込まれた

鼻空を通る甘い香り、冷たい空気の感触、肌に当たる服の感触、そして体中から送り込まれる強い激痛

「あ・・・・ぐぅぅ!!――!!」

「ど・・・どうした、何が起こった?」

苦しみながらも嬉しそうに花の香りをかぎはじめるが、初めての感覚に体が追いつかずむせてしまう

「う・・うれしい・・・・これが、香・・り・・・・」

気を失いそうになりながらも、彼女はその狭間で香りを楽しんでいた

「・・・・・・・・なんだ、この激痛は」

悪魔が指を鳴らすと、感覚が無くなっていくのが分かる

「あ・・・あぁ・・・・・・・・」

「これ以上は、危険だ・・・・花の香りのごときに、苦痛に耐えるなど馬鹿らしい」

「しょうがないのよ、私にはこれくらいしか望めないんだから」

冷や汗だらけになりながら彼女は上半身を持ち上げた

だが、その体は先ほどの激痛を耐え切れずに後ろに倒れてしまう

「しょうがないなどと、勝手に決められては困るな・・・その身体を作り直すことも可能なのだぞ」

「良いのよ・・・・軽く諦めちゃった、ごめん寝かせて・・・すごく、幸せで疲れ・・・ちゃったから・・・・・」

すぅっと、意識が遠のいていき暗くなった意識の中でなお、甘い香りがつづいていく

「・・・・・・・・・・・」

悪魔の手元で咲き誇っていた花は枯れて散っていく

「お前も本望だろう・・・・植物のくせに一人前にこの子の為などと身を投げるなど」

悪魔は、その花を窓から投げ捨てる

「植物では出来ぬ偉業だ・・・その身に敬意を表してもう少し見ていこう」

悪魔は、そう言うと彼女に近づいていくのだった


次の日の朝、やはり彼は傍らに居た

宙に浮き、地球にある数多くの言語とは、違う言語であろう本を持ち読んでいる

「おはよう・・・よく眠れたようだな、痛みだけを取り除いた勝手なことだとは思うがな」

「おはよう・・・・いいえ」

そう挨拶すると彼は、徐に立ち上がり本を懐に入れ近づいてくる

「さぁ、貴方は次に何を望む?」

「・・・・・始めて見た・・・・」

「・・・・はい?」

「私の部屋から見た外ってこんななんですね」

つぅっと零れた涙をみて悪魔は、ビルに殆ど閉ざされた外を見た

ビルの隙間から見える、青い空に彼女は見入る

「ぼやけてない風景ってこんななんだ」

「失礼だが、いつからここに?」

彼女は見入ったまま、暫し考えるようにして口を開いた

「わからない・・・気づいたらここに」

「ほう・・・・・そうか、こんな景色で」

遠くを見つめる彼の眼を見る

「?」

「・・・・・・・・・いや、なんでもないですよ」

彼は、ベッドの縁に座る

「さて、手を貸して貰おうか・・・呼び出したのだ契約くらいはきちっとしておこう」

「はい・・・・」

そういって、手を差し出すとその手に仮面の上からキスをされる

その部分に文様が刻まれる

「これでいい・・・・さて、ご主人様何か願いはございますか?」

「・・・・ねぇ、貴方から見て私はどれくらい生きられるの?」

「さぁ・・・私は、人間の体には精通していないが・・・二日か三日ではないか?」

「そう・・・なら、外の風景を見にいける?・・・海とか向日葵とかさ」

「また、そのようなことを・・・はぁ」

指を鳴らすと自分の体が浮く

その下に自分が居た

「その体は、私と会う前のあなたと同じ行動をする・・・心配は無いスイッチに反応するだけだ」

「スイッチ?」

「あぁ・・・一日を通して、同じ行為は、全員が持っていて違う、人間でも同じスイッチを押す・・それに違和感を持たせない作用を与えれば私には造作も無いこと」

そういうと、彼女をお姫様抱っこして壁をすり抜けていく

ゆっくりとした、流れで少しずつ景色が変わっていく

「うっわぁぁ・・・・外ってこんななんだ」

「はい・・・そうですよ」

首をかしげる彼に対し微笑むユウリ

「分からないでしょう、今まで外に居た人には」

「はい、そうですねぇ・・・色々と疚しい欲望を叶えてきましたが、この程度の欲望の人間は見たことが無かった」

「でも、このくらいしか出来ないの」

「?・・・私に、願えばどのようなことも、可能だと先ほどから仰っている」

「違うの、貴方が予想した通り私は二日か三日くらいしか生きられないの」

「・・・・何故?」

「私の従兄夫婦が私を殺そうと暗躍してるのを見てるから」

「この国で言う、サトリという妖怪か?」

「いいえ、ちゃんとした人間よ・・・むしろ千里眼とかそっちかな」

「今の時代では、無用の長物だな」

「でしょ・・・だからね、皆気味悪がるし信用されないの・・・まぁ、お父さんが多額の遺産を残して死んじゃったから、全部私のものになってるんだけど、むしろだからかな、この病院も従兄とグルになって私を殺そうとしている、検出されないギリギリの量の毒でね」

「・・・・・いつの時代も人間は愚かしい・・・な」

「あら、貴方は愚かじゃないの?」

「いいや、愚かさ・・・・私個人の娯楽など魂を食い散らかすことだけそう考えれば、私も大差ない・・・しかし」

すぅっとビルの屋上に着地する

「如何ですかな・・・この汚らわしい愚か者が我が物顔で徘徊する、君の生きている世界は!?」

「うん・・・もう、十分かな」

そういうと、屋上の縁に立つ

「止めておきなさい・・貴方は、過去に居た人に似ているそんなところに立っても――」

突如思い出される、過去の人間の異端者の言葉

―最後は、殺して―

ひゅぅっと風を切る音

彼女が落ちている

ベキィっと音が鳴って、男の醜いまるで虫のような腕が伸びたが届かない

彼は、信じられない速さで急降下し彼女を捕まえると反対側の屋上に上りあがる

上がった頃には、彼は普通の格好に戻ってしまっていた

「立ちくらみでもしたのでしょうか?」

「・・・・殺させてはくれないんだ」

「えぇ、命令されていませんので」

「ふぅーん・・・死んだほうが楽に食べられるんじゃないの?」

「あながち間違ってはいませんが・・・それでは、楽しみも減る」

「そう・・・・そうよね」

自分で立とうとしてその場に崩れ落ちる

「君の体力では、先ほど立つのが限界だったようですね」

「・・・そうみたいね・・うん、帰りましょう」

「分かりました」

そういうと、彼はユウリを抱きかかえ病院へ飛んでいくのだった


また、夜中になる

あたりは静けさが支配する、不気味な暗さだった

ただ1つの物音を覗いて

その物音は、彼女からしていた

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・・くっ!!」

彼女が必死に何度もナースコールを押すが鳴っていないことが分かるほど当たりは静けさを保っていた

「本日の料理が最後の晩餐だったんだな」

「がぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・」

「知っていたのなら、私に毒を消させたり食わなかったりすれば良かったであろう」

強い口調で言うのに対し、苦しそうに笑うユウリ

「お前は、本当に人間なのか!!薄汚い欲望を言わずにただただ、最後のひそかな望みだけを言いやがって!!・・・失敬」

「しょうがないじゃない・・・・私は、それくらいしか望んでないもの」

「望んでいない?・・・・嘘を言うな、お前は心の中でまだ、知りたいと思っているではないか!!」

「は・・・はぁ・・・・・?」

首を傾げるユウリに彼は続ける

「恋が知りたかったのだろう?この七つの大罪において暴食を司る悪魔たる私なら、貴様が望む知識を何不自由なく食わせられた、なぜ望まな――」

「あぁ・・・・・・・・」

「何故?最初はあんなに望んでいたのに・・・何故破棄できる!!」

大きく息を吸う彼女は、彼の襟に手を伸ばしてつかまる

「人並みの幸せってのを知りたかったの・・・・」

酷い量の汗と空ろな瞳、そして、苦しみから流れ出る雫

それらを、やさしい手つきでふき取る

「ねぇ、貴方は・・・・・・・・契約だから・・・こんな勝手を許すんだよね?」

「はい・・・・・・契約の代償はいただきますからね」

「いいな・・・・・その律儀な性格・・・人間なんか、代価を貰えるのに薄汚いんだもん」

「そうでしょうね・・・私共も、その欲望を食らいますがね」

「人間とは恋したくないな・・・・・・・」

「仰る意味が分かりません?」

そう首をかしげる彼は、彼女の体が痙攣を始めているのでベッドに寝かせようとする

「はぁ・・はぁ・・・これは、命令じゃないわ・・」

「なんでしょうか?」

耳を近づける彼は、人間の最後の灯火の願いを聞いてみたかった

しかし、言い放たれたのはそんな甘いものではなかった

「私が好きなら・・・この苦しみから解き放つ・・・・為にも食い荒らして・・・でなかったら、もう魂をとって・・・ねぇ」

彼の五感を分け与えただけではもうどうにもならない、むしろ五感を分け与えられてる今だからこそこんなに命を長引かせているに過ぎない

本当なら、会ったその日に死んでいた命である

人生の歯車を歪ませてしまったからこその苦しみである

最初はソレを笑おうとしたが、しかし彼は笑えなくなった

こんなにも、愉快な出来事であるにもかかわらず、まるで自分がすべて負けてしまったかのように化かされたかのように空しくなった

今日彼女を助けたのは、もっとコイツの欲が見たいもっとこいつの幸せを知りたいモットコイツを・・・知りたいと思ってしまったからであった

―彼女を助けたい―

植物の声が悪魔の耳にダイレクトに聞こえる

悪魔は思案する

思案して思案して、答えを導き出した

「・・・すみません、私にはどちらもお選びすることが出来ない・・・好きという感情・・・恋愛が分かりませんので」

「はぁ・・・そう・・・・・・・」

「なので・・・こうします」

仮面を外し、見えない顔で唇をそっと合わせる

そして、その息を送り込ませる

次の瞬間彼女の体が変色していく

悪魔ユウリの誕生だった


「てな、かんじ・・・・」

「私の質問は分かりませんでしたね」

「私のほうは、そんな出会いでびっくりだよ」

「話した私は、すっごく疲れましたよ」

ユウリは、ぐったりと前のめりになる

「ふん・・・結局、崇さんに最後の言葉まで聞かれたじゃないか、私のほうはまったく解決してない」

「うぅ・・・・ご主人さま、けっこうサドです」

「契約者に対してでも嫌味を並べるのに・・・貴方ならもっとすごい虐めを行って差し上げますよ?」

そういうと、ユウリの顎を掴み自分の方に向かせる

「・・・ただ刺激がほしかっただけ」

「ならば、身体を作り直せばよかったではないですか・・健康な体を」

「なんど、聴いても自分が新しい体で暮らすってイメージが無かったなぁ・・・ただその一個一個の刺激がほしかっただけだし」

「はぁ・・・まぁ、その願いをしていたら一時間後に食われてなくなっていましたでしょうがね」

「・・・・へっ?」

「器の作り直しなんてかなり、高等な交換ですからね」

「黒鵜さんもお人が悪い」

「人じゃありませんよ・・・これでも、私は悪魔ですから」

「ふぅ・・・・さて、まだこんな時間か、新しい紅茶を入れなおすことにしよう」

「そうですか・・私たちはここでお開きにします」

そういうと、ユウリと黒鴉は立ち上がる

崇は、お茶の用意をしに奥に入っていく

「じゃぁねぇ、崇さん、由利さんまたいつかお茶しましょうねぇ」

そういわれて、はっと後ろを振り返る

空いていた席に、もう冷たくなった紅茶をすする由利という生前の姿がぼやけて見えなくなる

気がつくと悪魔たち二人の姿も消えていた

「・・・・・・・・まったく、お前のおかげで私は二回もあの芸舞を行ったのだぞ、由利」

オーブンを開くとプチフールが焼かれている

冷蔵庫を開けばサンドイッチの材料がもう用意されている

お湯を沸騰させている間にプチフールとサンドイッチを補充しふきんをかける

「いってらっしゃい二人とも、そしてお帰り由利」

静かにそういう崇

「・・・全然大丈夫じゃなかったじゃないか、手間をかけさせる嘘つきめが」

その眼から雫が流れ落ちていく

時間は、止まっていた時を戻すかのように進み始める

使われていないきれいなカップが二つと中身の減ったカップが二つテーブルの上に置かれていた

崇は、それを片づける

「四時か・・そろそろ、子どもたちが来るかな?」

「お義父さん、ただいまぁ!!」

彼が過ごす家に子供たちが帰ってくる

広い敷地に明るい声が木霊するのだった


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