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毎日夜9時更新です。
話途中で、三人称視点からヒロイン視点に変わります。
婚礼を控え、シュネーベルク城は祝祭の白一色に染まりつつあった。
だが、その華やかさの裏で、閣下から下されたある密命が仕立て屋たちを戦慄させる。花嫁が纏うドレスの胸元に、首筋からデコルテまでを隙間なく覆う、重厚な純白レースをあしらうようにという異例の意匠変更。
初夏の陽光の下で、その過剰な布地が何を隠すためのものか――。
日に日に増えていく、ロゼリッタの白い肌に散らされた、花弁のような鮮紅の証。
侍女のサラは、詰襟の服で必死にそれを隠すロゼリッタの姿に、「全く、主君の独占欲も度を超すと毒ですこと」と呆れ顔で溜息をつく。
迎えた夏至の日。
北の大地に聳え立つ、荘厳なるシュネーベルク城。その尖塔が天を突く聖堂は、今日、至福の光に包まれていた。
北の守護要、シュネーベルク辺境伯の結婚式。先代同士が交わした十年前の約束が、今ここで果たされようとしている。だが、周囲が語り草にするそんな宿縁も、二人にとっては愛を育むための些細なきっかけに過ぎなかった。
冬を閉じ込めたような白銀の髪に、気高く澄んだ薄紫の瞳を持つ美丈夫。
春を閉じ込めたような蜂蜜色の髪に、陽光に煌めく金緑の瞳を持つ美しい少女。
揃いの純白に身を包み、慈しみ合うように見つめ合うその姿は、この世のものとは思えぬほど尊く、神々しい。
高らかに鐘が鳴り響き、平和の象徴である鳩が大空へと舞い上がる。
祝福の嵐とともに、鮮やかな紅薔薇の花びらが二人へと降り注いだ。雪のようなドレスの上に散るその紅は、まるで純白の布地に血が飛び散ったかのような、鮮烈な美しさを描き出す。それが、あどけないロゼリッタを妖艶に輝かせ、参列者たちは息を呑んでその光景に見入った。
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豪華なドレスの重みに、拙い私は少しだけ足がすくむ。でも、その先に彼が待っている。
リンドホルム家の庭で過ごした日々を思い出す。あの場所は、私にとって優しく穏やかな箱庭だった。小さな世界で、それなりに幸せで、けれど私はいつもどこか「籠の中の鳥」のようだと感じていた。
彼に連れられてやってきたこの北の大地は、そんな私の狭い世界を優しく壊し、広大な未来を見せてくれた。
(私は彼に、何を返せるだろう。今度は、私が彼を支えたい。私にしかできない何かで、彼の力になりたいわ)
朗らかな笑みを浮かべるお義父様に肩を抱かれ、お義母様が手巾を濡らしている。そして、離れた場所で見守る母様と兄様。
震える父様の腕を取り、一歩ずつゆっくりと進んでいく。聖堂の片隅では、レオがお利口に座ってこちらを見つめ、サラが顔を真っ赤にして号泣していた。
ハンス、バルト、そしてルカ。私達を支えてくれるすべての人に、私達以上の幸福が訪れますように。
祭壇を背にした彼が、薄絹の向こう側から慈しむように目を細めると、父様の手がゆっくりと離れた。
(もう、守られるだけの子供じゃないわ……)
そう背筋を伸ばしながらも、同時に、父様の腕の中であれば何度でも子供に戻れるのだわ、とも思う。
視界を遮る薄絹に指をかけた彼の白手袋の手が、永遠に引き延ばされたかのような緩やかさで、私の世界を拓いていく。
私は、神の前で、そして彼に、永遠の愛を誓う。
触れるだけの優しい、けれど確かな彼の体温を帯びた口づけ。唇が離れた瞬間、彼の瞳の奥に、私だけを映した深い愛の淵を見た。
ヴィオレル様がふっと愛しそうに微笑んだ。それを見ただけで、なぜだか泣きそうになってしまう。胸が締め付けられるほど、優しすぎる彼が愛おしい。
(……私は、いつの間にか、こんなにも彼を愛していたのね)
彼が真っ直ぐに私を愛してくれたから。そう、リンドホルム家の庭で出会う前から、彼は私を愛してくれていた。
夜を迎え、城内は豪華な晩餐会に沸いていた。
料理長が腕を振るった北の恵みが並び、至高の香りが広間を満たしている。賑やかな弦楽の音色に合わせて、色とりどりのドレスが軽やかに舞い、人々は祝杯を挙げて笑い合う。
窓の外には、蒼い月光に洗われ、仄白く浮き上がる白銀の山々が静かに横たわっている。開け放たれた窓から、涼しい初夏の夜風が舞い込み、火照る私の頬を優しく撫でた。
(リンドホルムで過ごした穏やかな日々も、学園での学びも、お義母様からの教えも。すべてが今の私の礎になっている。私の隣には彼がいて、私の世界はもう、彼の世界と溶け合っている。ここが、私たちの新しい世界の始まりなのだわ)
ふと横を見ると、彼が私の手を取り、指先にそっと唇を寄せた。
「疲れたかい、ロゼリッタ?」
「いいえ……とても幸せです」
彼は私の腰を引き寄せ、耳元で熱く囁いた。
「今日の君は、月光さえも霞むほどに美しい。誰の目にも触れさせたくないほどだが……ようやく、私たちが望んだ二人きりの時間だ」
その言葉に、顔が熱くなる。賑やかな音楽と、愛する人の囁き。この夢のような時間の向こう側に、私達の新しい生活が待っている。
長く、そして生涯で最も誇らしい一日が、今、静かに幕を下ろそうとしていた。
私を見つめる彼の瞳は、優しい朝焼けの色。
…どうか、朝まで私を離さないで。
ポチ応援ありがとうございました。
なろう版は完結しました。後日談はムーン版で更新いたします。どうぞよろしくお願いします。




