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女尊男卑 ~女性ばかりが強いこの世界で、持たざる男が天を穿つ~  作者: イノセス
第13章~渇望篇~

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322話〜あっ、その手があるか〜

え~…。長らくお待たせしましたが…。

人物紹介を0話の前に入れました。

「漸くか」

プロトタイプです。

「試作品か…」

巻島本家に避難してから、数日が経った。

蔵人は空いている一室をお借りして、そこで寝起きをしている。部屋は頼人とも近く、また登校は一緒の車に乗せて貰っている。なので、彼との会話する機会が激増した。幼稚園児時代に戻った気分だ。

その点は良い事だが、車通学をしなければならないという事は、相変わらず黒騎士フィーバーが続いているという事。


巻島家に逃げ込んだから良いものの、相変わらず出待ちや記者らしき人の姿はよく見かける。

先日の様に、学校の周辺に押し掛ける人はいなくなったが、巻島家周辺や、学校の敷地外に一歩でも出ると、何処からか見張られている視線を感じる。

車通学だからか、そいつらは接触しようとはして来ないが、もしも1人で歩いて居ようものなら、確実に突っ込んで来ていただろう。

暫くは、水無瀬さん達のご厄介になるしかなさそうだ。


だが、そんな窮屈な時間は登校の時くらいなものだ。

学園に着いてしまえば、普段と変わらない日常が待っている。


「あっ!黒騎士様よ!」

「ブラックナイト様だ!」

「黒いネクタイが凛々しいわ!」


うん。少しは変わった所もある。それは、この首に巻かれた素晴らしいネクタイの存在である。

校長先生から貰ったネクタイを見て、周囲はいつの間にか「ブラックナイト」という名称を叫ぶようになっていた。

黒騎士の英語読み…というだけでなく、ランキングの騎士名として呼ばれているみたいだ。ゴールドナイトの上位、それがブラックナイトであると。

その呼び名がどうも中二臭くて、苦笑いが浮かんでしまう蔵人だったが、黒いネクタイに注目される事は喜ばしい事だった。


「見て見て。私、黒騎士様を真似て、黒いチョーカーを買ったの」

「わぁ、お洒落ね。でも、ちょっと幅広じゃない?なんか、首輪みたいになってる」

「良いのよ、これで。これを付けていると、黒騎士様に服従しているみたいで、凄く満足感があるの」

「それ良いね!私も試してみよ」


…うん。あまり、黒ネクタイを誇張しすぎるのもヤバそうだ。

こちらに危ない視線を投げかけている先輩達から視線を外し、蔵人は逃げる様に教室へと向かった。


教室でも、平和な日常が広がっていた。

若葉さんは黒騎士特集を発刊し、掲示板前を非常に賑わせていたし、桃花さんは次のテストに向けて猛勉強をしていた。

携帯電話を買ってもらえるかの瀬戸際だからね。


「ももかー。がんばれー!」


白井さんも、相変わらず気の抜けた声に、キラキラした目で桃花さんを応援している。

そんな不思議ちゃんな白井さんだが、やることはやっている。

頼人から聞いた話だが、彼の今年のクリスマスは、白井さんから直接プレゼントを貰ったのだとか。中身は手作りのチョコレートケーキだったみたいで、まだバレンタインには早いよと、2人で笑いながら食べたそうだ。

「素晴らしいクリスマスを送ってるじゃないか、リア充君」と蔵人が冷やかしたら「兄さんには負けるよ」なんて言い返されてしまった。

こちとらクリスマス当日は、危ないお姉さんと一晩中、冬山で鬼ごっこをしてたんだぞ?

そう言ってやりたい気持ちを、蔵人はなんとか押し留めた。


林さんも、吹奏楽部を頑張っているみたいだ。全日本でも応援してくれていて、タイプⅣ(ロゴ)が壁に激突した時も、1人だけ演奏を止めなかったと聞いている。

前世の記憶に苛まれていた少女は、しっかりと次の人生を歩んでいる様だ。


本田さんは…こちらを見る目が怖いので、触れないようにしよう。


「よっ!蔵人君」


蔵人がクラスを見回していると、吉留君達が近寄って来た。

何か良い事があったのか、随分と声も表情も明るい。


「やあ、監督。エピソードⅡなら勘弁してくれよ」

「よしてくれ。もう監督じゃないよ」


吉留君は手を振って否定するが、その笑顔は本気で拒否している様には見えない。

恐ろしい。


「いやね。蔵人君には、改めてお礼を言いたくてさ」

「お礼?何かしたっけ?」


蔵人が首を捻っていると、吉留君は蔵人の胸を、そこに掛かるネクタイを指さす。


「最近、女子生徒が挨拶してくれるようになったんだ。文化祭が終わった頃から、こっちの挨拶に返してはくれていたんだけど、今日は向こうから、それも先輩からしてくれてね。きっとこれも、黒騎士効果だ」


紺色はDランクの証。

それ故に疎まれてきた色だったが、今や黒は最高位の色となった。それもあって、紺色の男子に対する風当たりが弱くなったと、吉留君が嬉々と報告してくれた。

それを聞いて、蔵人は肩を上げる。


「それは吉留君が頑張ったからじゃないかな?あの文化祭でやりきったから、みんなの見方も変わったんだよ」

「おっ!なら、エピソードⅡも考えないとだね」

「前言撤回!俺のお陰だ!」


蔵人が叫ぶと、吉留君は肩を揺らして笑い、「でも」とこちらを真っ直ぐに見た。


「君のお陰だよ、蔵人君。君が天井を突き破ってくれたから、ランクが全てじゃないって証明してくれたから、僕らの未来が開けたんだ。だから、ありがとう」


吉留君の真剣な眼差しが、彼の思いを伝えてくる。

本当に、未来を見ている目。輝く瞳だ。

蔵人はニヤリと笑う。


「君の未来は、何処に向かっているんだい?」

「生徒会だよ」


生徒会?

蔵人は眉を上げて、吉留君を見上げる。

すると、彼は力強く頷いた。


「僕は、来年度の生徒会書記に立候補するつもりなんだ。Dランクが生徒会に入るなんて、初めての事だって聞いてる。でも、僕は挑戦するよ。Dランクでも出来るんだって突き進んでみる。君が開けてくれた、その穴に向かってね」

「おぉっ!それは凄い!」


蔵人は感動し、椅子から立ち上がる。自然と吉留君に右手を出していて、握手を求めていた。


「応援するよ!」

「ありがとう!」


吉留君が、少し照れくさそうに蔵人の手を握る。

その途端、クラス中から拍手が巻き起こった。

吉留君は、まだ当選した訳でもないのに「ありがとう、ありがとう」とみんなに手を挙げて頭を下げていた。



教室でも、黒騎士に影響を受けた人達が少しづつ変わろうとしていた。

それは、別の場所でも起きている。

ファランクス部、訓練棟。

3年生が抜けて2年生中心となった部活動も、3ヶ月が経った今では落ち着きを見せている。

だがそれは、部の体制についての話。ファランクス部の部員達は、新たなステージへの過渡期にあった。


「しゃぁ!行くぜ!」

「ウチらがこじ開けるんで、突っ込んで下さいよ、先輩!」

「「はいっ!」」


今、応用練習として行われているのは、攻撃側と防御側に別れた実践練習だ。その攻撃側のキーマンが、鈴華と伏見さんの2人。

本来なら、上級生の高ランクを中心に作戦を立てるのがセオリーなのだが、今の桜城ファランクス部はそのセオリーを覆している。上級生の遠距離主体であった戦法から、1年生を中心にしたスタイルに切り替わっていた。


この采配は勿論、鹿島部長によるものだ。

彼女は、ランクや学年ではなく、実力のみでレギュラーを決めようとしている。実力がなければ上級生でも補欠から外され、実力があればビッグゲーム未経験者でもレギュラー入りにしていた。

現に今、鈴華がこじ開けた前線に突っ込んだのは、ビッグゲームではベンチにすら入れなかった桃花さんだ。彼女は、手から吹き出す風を推進力に変え、敵味方入り乱れる戦場を駆け抜けていった。


「いいぞ!モモ。そのままファーストタッチだ!」

「遠距離役、弾幕を張って止めなさい!円柱役も、1人出なさい!」


フィールドの端で立つ蔵人の横で、鹿島部長が少し不機嫌な声を張り上げて、防御側に指示を飛ばしている。

防御側の動きが悪いのだ。円柱に座っている娘は、指示を出されてやっと動き出していた。

桃花さんが最終防衛ラインを越える前に動き出さないといけないのに。危機感が足りない。


案の定、桃花さんは迫って来た円柱役をスルリと躱し、難なくファーストタッチを決めてしまった。

隣の部長から、深いため息が漏れる。


「もうっ、まったく」

「シールドを増やしましょうか?」


蔵人はフィールドを指さして、部長に問いかける。

その指先には、蔵人の水晶盾達が最前線で活躍中であった。

近藤先輩が抜けてしまった為、盾役が足りないのだ。なので、蔵人の水晶盾達が、防御側の前線を半分程受け持っていた。

だが、出そうと思えばまだまだ出せる。なんなら、反撃能力として鉄盾でホーネットでも生成して、攻撃側を牽制することも出来る。それであれば、良い試合バランスになると思う。

しかし、鹿島部長は蔵人からの提案を、ゆっくりと首を振って断った。


「ダメ。ここで甘やかしたら、いつまでも君に頼っちゃう。まだ決まってない事だけど、今後君の出場に制限が掛かるかもしれないでしょ?」

「そうですねぇ」


蔵人は苦い顔をして頷く。

部長が言っているのは、昨日ニュースになった異能力戦の新たな基準についてだ。

今までは魔力のランクと年齢で分けてきたが、今後はこれに技巧ランクなるものが加味されるらしい。

まだ正式に決まった訳では無いが、魔力ランクと技巧ランクを合わせて評価していく方向で検討が進んでいるとの事。

つまり蔵人の場合、魔力ランクはCランクでも、技巧ランクがSランクとなり、総合でBとかAランクとなるかもしれないのだ。


これが正式決定となれば、蔵人は今まで通り出場する事が出来なくなる。ファランクスはランク毎に出場人数の制限があるので、もしも蔵人がAランクと判断されたら、Bランクは3人までしか出場できなくなる。シングル戦でも、Aランク戦で戦う事が当たり前になるだろう。


こう聞くと、覚醒者に不利な制度にも聞こえる。

今までは無双出来ていた戦いが、魔力ランクの高い世界で戦わねばならず、苦戦を強いられるのではと。

確かに、異能力戦で見ればそうだろう。

だが、社会的な視点で見れば利点も多い。異能力のランクが上がるとは即ち、社会的地位が上がるということ。就職だとか結婚だとかで、恩恵を受ける場面が圧倒的に多いのだ。


それに、異能力戦だって悪い事ばかりでは無い。

強い相手と戦い、より技術を発展させる事で、更なる力と地位を獲得できる。

これは、異能力がない世界の人間から見れば当たり前の事だ。だがこの世界の人間からしたら画期的な事。漸く、正常なシステムになってきたとも言える。


とはいえ、この新たな評価システムの実装はまだまだ先だろう。実装するには問題が山積している。

技巧ランクの評価基準をどうするか、海外基準との足並みをどう合わせるか。補助金などの制度・法律の見直しや、特区の在り方まで問われるかもしれない。


そう考えると、新制度が施行されるのはまだまだ先だ。

ならば、そこまで気にする必要も無いのでは?

蔵人がそう言うと、部長は再び首を振る。


「次のビッグゲーム、君がいる保証はないでしょ?蔵人君程の選手なら、シングル戦でオリンピック選手も目指せると思うし」

「あー。シングルは当分お休みしようと思っているんですよ」

「えっ?」


部長が驚いた顔を向けて来るが、当然ですよ?ファランクス部の副部長ですから。

蔵人からしたら、国内最強と言われた皇帝選手も、覚醒した海麗選手も倒した今、シングルにこだわる必要性を感じていなかった。

元々、ディさんとの約束でやっていた事だし。副部長を務めるここに戻るのが筋だろう。

蔵人がそう言うと、部長は少し困った顔で唸る。


「うーん、でも…ねぇ。なんて言ったらいいか。蔵人君が残ってくれるのは嬉しいんだけど」

「みんなのレベルが上がらないって事でしょうか?」


蔵人の言葉に、部長は少し考え、申し訳なさそうに頷く。

先程から、部長の厳しい視線がフィールドに向いているので、そんな所だろうと蔵人は察していた。

そして、彼女の考えには同意である。あまり手を出し過ぎるのは問題だからね。


「分かりました。その分、壁役や監督役を担いましょう」

「ごめんね。蔵人君にも骨のある練習をさせてあげたいとは思っているんだけど、ファランクス部じゃちょっと難しいかな?」

「大丈夫ですよ。シングル部でも物足りませんし」


海麗先輩達も、受験とか取材とかで忙しいから。

そう言うと、余計に苦い顔をする部長。


「他校から、練習試合の申し込みも来ているのよ。それはもう、全国の中学から来てるんじゃないかってくらいにね。でも、ビッグゲームレベルの学校は少なくて、君の相手にはならない所ばかりなの。だから今度、近畿の学校と試合が組めないかって、南先生に相談してみようと思っててね」


そうだろうな。

相手にして楽しめるのは、彩雲や獅子王、後は岩戸くらいなものだろう。

ビッグゲーム上位の彼女達と試合が組めたら楽しそうだ。

だが、そうじゃなくても…。


「部長。高校生とか大学生、社会人との試合なんてのは組めないのでしょうか?」


中学で敵が居ないなら、次のステップに進むまでだ。

そう思った蔵人の提案に、部長は目を見開いた。


「あっ、その手があるか」


おお。思いのほか、部長が乗り気だ。これは楽しくなりそうだぞ。

蔵人は、明るくなった部長の背を押す様に、力強く頷いた。



それから数日後。

ファランクス部の部室棟に来ると、部長がしたり顔で蔵人を待っていた。

それを見て、何となく察した。


「部長。その顔は行けたんですね?練習試合」

「バッチリよ。朽木先生の(つて)で、愛知の豊田国際大学ファランクス部と試合を組んだわ。時期は2月の頭。相手にとって不足なしよ」

「そりゃ、高校すっ飛ばして大学生相手だったら、不足はないでしょうね」


蔵人の呟きに、部長は弱々しく首を振る。


「私も、最初は高校を探すつもりだったの。でも、今の時期って高校の春選抜をやってて、中学生を相手にしてくれる所は殆どなかったのよ。あっても、桜城高等部のファランクス部とかだから」

「それじゃダメなんです?」


隣の建物だし、すぐにも戦えそうだと思うのだが?

そう思った蔵人に、部長はとんでもないと首を振る。


「ダメよ。きっと、相手にもならないから」


部長曰く、高校でもファランクスが強いのは西日本らしい。なので、桜城の高等部はそれなりに弱いとの事。

そこを相手にするくらいなら、今、練習試合を申し込んでくれている香川の尽善(じんぜん)学園中等部の方が強いそうだ。


「まぁ、桜城高等部のファランクスが弱いのも、今年度までだと思うわ。来年度からは櫻井先輩と美原先輩が入るから、一気に全国レベルになると思う」

「えっ?美原先輩もですか?」

「ええ。高校に入ったら、シングルはやめてファランクス1本で行くつもりだって、周りには言っているそうよ。聞いてない?」


聞いてなかった。てっきり、シングルで世界に羽ばたくのかと思っていた。今の彼女なら、ワールドクラスにも届くだろうから。

まぁ、Aランク世界ランカーの実力は知らんけど。


「とにかく、相手は大学生。それも中部の学校よ。地元でもそこそこ強いらしいから、きっといい練習相手になるわ」

「それは、楽しみですね」


蔵人が同意すると、部長は更に気合いを入れて、みんなに檄を飛ばした。

大学生を相手にするのだから、自ずと気合いが入るのだろう。

蔵人も心が浮き上がるのを感じ、何時もよりも多めに盾を出すのだった。



部活動が終わると、部員達は浮き足立った様子で帰路に着く。

夏場であれば夜遅くまで行われる部活だが、日が落ちるのも早い冬場では、比較的早い時間に終わる。

よって、先輩達の中には、これから夜の街に繰り出す人達も居るのだ。

その筆頭が、我らがお祭り男、サーミン先輩である。


「ワックに行く人、この指とーまれ!」

「行く行く!」

「私も!」

「私は塾だけど、サーちゃんの指だけ触りたい!」


練習で疲れている筈なのに、元気な人達だ。

そんな先輩達を、遠目で見ている2人がいる。

伏見さんと鈴華だ。


「先輩達、元気やな。そんなに元気余っとるんやったら、自主練して行きゃええんに」

「あたしらには関係ねぇよ。それより、ほら、やるぞ早紀」

「よっしゃ。今日こそ、吠え面かかしたるわ」

「先ずはあたしの体に触れてから言えっての」


2人はそんな言い合いをしながら、訓練塔の中へと戻っていく。

これから自主練をするらしい。部長に聞いたところ、文化祭が終わった頃からやり始めているとの事。

その頃から、2人の動きは良くなっていて、部長も彼女達を見て、実力主義に踏み切ったそうだ。

とてもいい流れだ。出来るなら、あの流れに乗りたい。

だが…。


「蔵人君は、自主練しないの?」

「ああ、迎えを待たせているからね」


不思議そうに見上げてくる桃花さんに、蔵人は顔を伏せながら頷く。

行き帰りを車通学にしたから、自由が制限されている。遅れたら、運転手と護衛の皆さんに迷惑が掛かるから。

暗い顔の蔵人に、鶴海さんも沈んだ声を掛けてくる。


「お(いえ)のことですものね。私達が何か力になれたら良いんだけど…」

「た、例えばだけど、さ。蔵人君が僕んちにお泊りしたりとか、とかだったら、遅くなっても、大丈夫だったり…しない?」


顔を真っ赤にしながら提案してくれる桃花さん。だが、鶴海さんが現実を突きつける。


「そんな事をして、蔵人ちゃんを狙う暴女が襲ってきたらどうするの?モモちゃん戦える?」

「うぅ…2人くらいなら、何とか…」

「それじゃ危ないわ。蔵人ちゃんを守るなら、100人のAランクが束になっても跳ね除ける気概がなくちゃ」


それは俺でも無理だな。

蔵人は真剣に考えてくれる2人を見て、気持ちが軽くなった。


「ありがとう2人共。これに関しては、俺が何とかするさ」

「おっ!さすが蔵人君だね」

「あまり、無茶はしないでね?」

「ええ。心配ご無用ですよ。自主練が出来る様になったら、2人も一緒にやりましょう」


蔵人が笑みを浮かべてそう言うと、2人は困った様に笑みを作り「考えとくよ」と言った。



そんな風に誤魔化した蔵人だったが、実際はどうしようもない状態だった。

巻島家で警護されている内は、大人しくしておく他ない。

大佐と連絡が取れたらいいのだが…。


「どうするべきか…」


車の中で、蔵人は独りごちる。

だが、いい案も浮かばないままに、本家に到着した。

蔵人が車から降りていると、背後に誰かが駆け寄る気配が。


「黒騎士さん!おかえりなさい!」


使用人の青年だ。何時も忙しない彼だが、今日は輪をかけてバタついている。

何かあったのか?


「黒騎士さんにお客さんが来てて!今、若の部屋に通してます!」


客人?

蔵人は、不安8割、期待2割を抱いて、彼の背中について行った。


そうして到着した瑞葉様の書斎には、4人の人物がソファーに座って対峙していた。

奥のソファーには、瑞葉様と流子さんが。そして、手前の席には2人の女性が座っていた。

その内の片方がこちらを振り返り、小さく笑みを作った。


「こんばんは、黒騎士選手」

「えっ?あぁ、こんばんは…」


黒髪を後ろで纏めた、20歳くらいの綺麗な女性。そんな人が気さくに挨拶してくれたというのに、蔵人は気もそぞろで返事をしてしまった。

気が気ではなかったのだ。

蔵人の視線は、もう片方のお客人に吸い寄せられていた。

背中を真っ直ぐに伸ばして、微動だにしない無表情の女性。

まるでマネキンの様な不気味な彼女に、しかし、蔵人は「ほっ」と息を吐いて、微笑みかけた。


「お久しぶりです、橙子(とうこ)さん」


蔵人の言葉で、その女性もこちらを向いた。

そして、いきなり立ち上がり、


「お久しぶりです!蔵人様!」


相変わらず、キビキビとした動作で敬礼を向けてきた。

サマーパーティーの後、ディさんにテレポートされる蔵人を見送った時と変わらない、見事な敬礼だった。

黒騎士に影響を受けて、前に進む人、留まる人の差が出てきましたね。


「Dランクで生徒会か。いずれは、生徒会長も目指すのだろう」


そして、お久しぶりの方がいらっしゃいましたが、用件はなんでしょうか?


「知れた事」

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― 新着の感想 ―
確かに蔵人が挙げた三校は「強いチーム」で、晴明と呉は「強い選手がいるチーム」だったなーと 技巧ランクに関しては蔵人の頑張り過ぎというか、シングルAランク全国チャンピオンでイギリスのコンビネーションカ…
バグ探しもそうだけど少しでも明るい未来へと進んでいったらいいな。
今日改めて読んでみると、黒ネクタイってお葬式じゃね。 リアルで黒ネクタイを生徒に渡す先生。うん、酷いイジメだわ(笑) 良かったね、いらぬツッコミが無い世界で。 あれ?でも蔵人は幾つも世界を渡り歩いてる…
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