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248話~怪しいのはアメリカかロシアかな?~

翌日、早朝。

小雨が降りしきる曇天の中、フラフラと蛇行運転を繰り返す怪しい飛行物体があった。

それは、


「ぐっぁあ…無茶し過ぎたぁ…」


体中が筋肉痛で悲鳴を上げる、蔵人であった。

本日何度目になるか分からない愚痴を零しながらも、蔵人は朝練の為に、東京特区の空を飛び続けていた。


昨日は思いの外、体を酷使し過ぎていたみたいだ。

いきなり新しい技を使ったから、体を思っている以上に酷使してしまったのだろう。

加えて、昨日の相手は久しぶりの強者であり、今まで以上の激戦が繰り広げられた為に、より過激な動きをしていた。

なので、この痛みは筋肉痛だけでなく、打ち身や関節痛なども合併した物である。


「やり過ぎたなぁ…」


後悔あとに立たず。

これを教訓として、加減を知らなければならない。

もしくは、動いても大丈夫な改良を、龍鱗に施すかである。

その目星は、実は立っている。

昨日の試運転も、なかなか上手く行けていたので、近いうちに試合で使って見たいと思っている。

龍鱗タイプⅣの、改良版を。


「うん?」


蔵人の耳が、聞き覚えのある声を拾う。

音の方を見てみると、傘もささずに誰か歩いている。

その人は頭の上に水の塊を作り出し、それを傘替わりにしている様だった。


「傘をお忘れですか?」


蔵人は地上に降りてその人に近づき、そう声をかけた。

分かっている。多分忘れた訳じゃない。彼女の事だ。崇高なお考えの元で行っている筈。


そう思いながらも、蔵人は声を掛けずにいられなかった。

案の定、彼女は小さく首を振った。


「おはよう、蔵人ちゃん。違うのよ。雨の日は、こうしていると気持ちがいいの。何となく、水と一体になれた気がして」


そう言って微笑むのは、紺色の長い髪を後ろに纏めた鶴海さんだった。

彼女の答えに、蔵人は「なるほどな」と相槌を打つ。


水も滴る良き女性。鶴海さんは今日も麗しい。

蔵人が尊敬の念を抱いて鶴海さんを見ていると、彼女は小首を傾げて、大きな瞳をパチクリとさせた。


「蔵人ちゃん、なんだか歩き方が変ね。何かあったの?」

「おや?変ですか?」

「ええ。いつもよりも何か…そうね、右足を庇っているみたいに見えるわ」


なんと、鶴海さんはそんなことまで気付いてくれるのか。

蔵人は目を瞬かせた。


傍からは分からないよう、盾で歩行を補助して、普通通りの歩行を再現していた。

していた筈なのだが...。

彼女の洞察力は流石だな。

そう、蔵人が感心していると、鶴海さんは「違ったかしら?」と少し恥ずかしそうにはにかむ。

蔵人は急いで、首を振る。


「いえ、その通りだったので驚いていました。流石は鶴海さんですね。お察しの通り、昨日は激しい運動をしたので、今はかなりの筋肉痛が来ているところなんです」

「あら。いつも訓練している蔵人ちゃんが筋肉痛なんて、余程凄い運動だったのね?」

「ええ。実はですね…」


昨日の出来事、剣聖さんとの一騎打ちを繰り広げたことを伝えると、鶴海さんは大きなお目目をぱちくりさせた。


「そんな凄い人とも渡り合えるなんて、蔵人ちゃんは本当に強いわね」

「渡り合うなんて。相手が油断してくれていたお陰ですよ」


実際、蔵人が今まで上位者と戦った際は総じて、相手が蔵人を下に見てくれていたことが大きいと思う。

Cランクで、シールドで、男。

侮るに十分な要素がてんこ盛りなお陰で、油断した相手はまず現実を思い知るところから始まり、本来の実力を出せずして敗北しているのではないだろうか。


これが、蔵人の事を徹底的に調べ、対策を取っていた場合は話が変わってくる。

きっと、今の様には行かなくなり、かなりの苦戦を強いられるだろう。

それは、多分そう遠くない未来のお話。


「それも一理あるかも知れないわね。でも、蔵人ちゃんだって日々強くなっていると思うわ。相手の事をこちらもしっかり調べておけば、きっとこれからも、蔵人ちゃんが規格外な強さなのは変わらない筈よ」

「ははは…規格外ですか」


まぁ、正規品ではないだろうな。

蔵人と鶴海さんは、朝の済んだ空気の中を歩き続ける。

鶴海さんが、ちらりと蔵人を見上げる。


「そういえば蔵人ちゃん、朝早いのね。文化祭の練習?」

「いえ、今から異能力の朝練なんです」


蔵人は簡単に、若葉さん達との朝練事情を話す。

聞いてくれた鶴海さんは「さすがねぇ」と感心した風に言ってくれた。

なんなら、鶴海さんもやります?


「鶴海さんは、文化祭の練習なんですか?」

「ええ、そうなの。文化祭までもう日が無いでしょ?私のクラス、ミュージカルをやる予定なのだけれど、まだ練習不足で」

「おお、ミュージカル…。題目は何です?オペラ座の怪人ですか?」


流石は鶴海さんのクラスだなぁと、蔵人が1人で感心していると、彼女は手を振ってそれを否定した。


「そんな難しいのは無理よ。うちのクラスでやるのは人魚姫よ」

「人魚姫ですか」


確か、人魚が心優しい王子様に恋をして、声と引き換えに人間になって、王子と結ばれたり結ばれずに死んでしまう話だ。

恋愛ものだけど、声が出ない仕草や三角関係なんかの表現が難しそうな題材である。

桃太郎戦記とどっちが難しいかって?ベクトルの違う難しさだ。

でも、


「見てみたいですね。鶴海さんの人魚姫姿…」


すっごく似合いそうだ。録画必須。

蔵人が鶴海さんの人魚姫姿を思い浮かべていると、鶴海さんが慌てて、その妄想を蹴散らす。


「違うわ!蔵人ちゃん。私は人魚じゃないわ!そのお付きのカニさん役よ」

「なんですと!?」


蔵人は驚愕し、憤慨した。

鶴海さんという原石をもってして、甲殻類にその才を使おうとするなど、どうかしている。

鶴海さんのクラス全員、目が節穴なのか?


「…これは、5組の奴らに抗議する必要がありますねぇ」

「ないわよ!」


鶴海さんの強いツッコミ。


「人魚姫役は、久松さんって可愛いくて歌も上手い子がするのよ。私より断然適任だし、私はカニの役、結構気に入っているのよ?」


鶴海さんが満面の笑みで、蔵人を(たしな)める。


「鶴海さんは、カニが好きなんですか?」

「好きよ。カニも、お魚も、ペンギンも。海の生き物は大概好きよ」


それはいい情報だ。

鶴海さんの誕生日プレゼントは、ペンギンの何かにしよう。

今度、水族館でも行こうかな?


「どうしたの?蔵人ちゃん?」

「あ、いえ。鶴海さんの誕生日プレゼントが決まったなと思いまして」

「…私の誕生日、先月よ?」

「何ぃい!?」


2度目の驚愕。

蔵人は大きく肩を落とし、両手を両膝の上に置く。


「くそぉ…先月の俺、何をやっていたんだ…」


先月と言えば、体育祭ではっちゃけたり、文化砲に撃たれたりといったイベントがあった月である。

そんな事ばかりに気を取られてしまって、大事なイベントを逃すとは。


「不覚。何とかクロノキネシスで、1か月前に戻れたりしないのか?」

「く、蔵人ちゃん!?立って、お願いだから立ち直って!」


鶴海さんが、蔵人の肩を一生懸命に揺らすので、体を上げる。

しかし、どうしたものか…。

蔵人は考える。

そして、


「鶴海さん。今週末、水族館に行きませんか?」


こうなりゃ、今からでも祝うしかない。

誕生日に気付かなかった謝罪も含め、水族館で最大級の”おもてなし”をするしかない!

志を高く持った蔵人に、鶴海さんは静かに首を振る。


「蔵人ちゃん。今週末は文化祭よ」

「…文化祭めぇ」


とばっちりを受ける、桜城文化祭であった。



蔵人はその後も鶴海さんと雑談をしながら登校し、朝練の為に彼女と別れた。

水族館は無理だったが、その後に控えるツーマンセル戦の約束は取り付けることが出来た。

最初は凄く遠慮していて、お金も自分で払うからと言っていたが、首を縦に振らなかった蔵人。

こちらから出演依頼をしているのだから、そこは譲歩できない。

最終的には、納得してもらった。

でも、パスポートは早めに取得した方が良いとアドバイスを貰ったので、早速今日にでも取りに行くことにした。


朝練では、慶太も若葉さんも約束の集合時間よりも早く来てくれて、その分3人でのユニゾン練習をみっちりと行う事が出来た。

既にユニゾンはしっかりと形になっており、形状を維持したり、動いたりするのは朝飯前だ。

次のステップとしては、相手からの攻撃を何処まで受け切れるかのテストと、攻撃性能の確認である。

とは言え、ここは訓練棟の中なので、攻撃なんてしたら大変だ。今はバリアを張ってくれるような先輩も職員さんもいないのだから。

今は精々、作り上げた”龍”を羽ばたかせる程度の練習で収めるしかない。


なので、そろそろ新しい練習方法を編み出さねばならない。

ツーマンセル戦の練習という事で、他の人達も呼ぼうか?


それはそうと、練習以外にもしなけらばならない事があった。

蔵人は、ユニゾンで手を繋いでいる時に、若葉さんへ質問を投げかけた。

昨日の砦中文化祭の乱入事件についてだ。

それを質問すると、若葉さんは既に事件の概要を把握していた。

流石だ。


「日本やイギリスのアグリアが活性化しているって言うのは、軍や警察内部ではかなり危惧されているみたいだね。その大きな理由が、アメリカやロシアから武器を流しているからって言うのも本当みたいだけど、正しくはイギリスを経由して、日本に来ているみたいなんだ」

「うん?イギリスを経由?イギリスだって銃規制は厳しいでしょう?」


蔵人の疑問に、若葉さんは小さく頷く。


「確かにね。日本と同じで、イギリスでも銃器の使用はかなり制限されてはいるよ。でも、イギリスの政界には平等党があるからね」

「…平等党?」


はて?イギリスの政党と言えば、労働党や保守党などが有名だけど、平等党は聞いた覚えがないな?

蔵人が首を傾げていると、若葉さんが解説してくれた。

平等党とは、男女の差別的意識を無くし、男性が社会に進出できるようにしようと政治理念を掲げる政党だそうだ。

その勢力はなかなかの物で、議員数も4番目に多い政党であり、構成議員の殆どが男性とのこと。

この政党の影響もあって、イギリスでは男性優遇の政策が通りやすく、男性達も社会に進出して、元気に働いているのだとか。


「だから、イギリスのアグリアは、テロとかの過激な手段をあまり取らないみたい。デモとかは良くするし、ストライキで公共交通機関が止まることは珍しくないみたいだけど」


なるほど。

蔵人は頷く。

きっと、イギリスでテロ事件が少ないのは、アグレスの存在も関係しているだろう。アグレスが少ない、もしくは活発化していないから、テロと言う名の侵略も進んでいないと。

逆に言うとそれは、日本ではアグレスの侵攻が進んでいるという事じゃないか?

これは、林さんに聞かないといけないな。

そう、蔵人が難しい顔をしていると、若葉さんが心配そうにのぞき込んでくる。


「何か、気になるの?」

「あっ、ああ。日本もイギリスを真似て、男性優遇の政党を立てたら、アグリアの活動は大人しくなるのかと思ってね」

「それは難しいんじゃないかな?だって、アメリカでも同じような平等主義が広まっているけど、テロ行為は日に日に激しくなっているからね。やっぱり、テロはアグリアだけが起こしているんじゃないんだよ」


若葉さんの推測に、蔵人は激しく頭を上下させる。

箝口令(かんこうれい)を敷かれている訳ではないけど、明確に伝えられない情報だろうからね。これが彼女に出来る精一杯の情報提供だ。

そう思っていると、若葉さんは凄く嬉しそうな、小悪魔的な微笑みを返してきた。


「なるほどね。既に接触は出来たんだ」


激しく同意する。

ニンマリ笑う彼女。


「じゃあ、怪しいのはアメリカかロシアかな?」

「うん?そうなのかい?」


蔵人が首を傾げると、若葉さんも一緒に傾げる。


「ありゃ?まだそこまでは探れていない感じ?」

「ああ。まだ表層部分しか触れていない。だから、その原因やおばあ様の状況とかはまだなんだ」

「そっか。そりゃそうだよね」


うんうんと頷く若葉さん。

そして、先ほどの回答をくれる。


「ロシアとアメリカには、かなり不可解な事象が多いんだ。テロの事もそうだし、歴史に空白や矛盾点が多い」

「それは、この前の大会で頼んだ、オッペンハイマー先生の事を言っているのかい?」

「うん。それも有る」


若葉さん曰く、”やはり”先生は慈善活動家をする前に、何か大きな事業を行っていたらしい。そこで得た資金で、学校や訓練校を建てたのだ。

だが、それが何なのかは明記されていないとの事。

史実であれば、1942年から始まる〈マンハッタン計画〉に参加し、日本に投下された原子爆弾を作成した。

だが、この世界での先生は、丁度その頃の記録が抹消されているらしい。


「彼女だけじゃなくて、他の博士や先生にも、同じように空白の期間が多い。その殆どが1930年頃からの20年間なんだ」


なんだろうな。その期間に、異世界との召喚門が開かれたのか?

随分と長い期間だから、史実と同じように、何かの研究を行っていた線もあり得るか。

考える蔵人の横で、若葉さんは続ける。


「でもやっぱり、一番怪しいのはロシアかな?空白の期間が一番長いからね。冷戦をやっていたからって理由もあるかも知れないけど」

「そうだな。冷戦の期間中は情報戦になっていたから、歴史が空白になるのも…うん?冷戦?」


蔵人は驚き、聞き返してしまった。

何せ冷戦とは、第二次世界大戦後の戦後処理で生じた軋轢によって始まった戦争だ。

この世界では、敗戦国であるドイツや日本の領土分配問題が起きていないので、始まる筈のない戦争。

その筈なのに、この世界でも発生していると聞いて、蔵人は驚いた。

一体、なぜ?


「それが分からないんだよ。気付いたら、アメリカが一方的に対ソ連の関税を引き上げて、それに習って欧州もソ連に対する貿易を絞っていたんだ」


その冷戦だが、始まりも終わりも史実とほぼ同じ時期であり、終わった理由も、ソ連の衰退が主であった。

冷戦明け直ぐに、ソ連は崩壊してロシア共和国に改称しているからね。


「一説によると、当時異能力の発展が目覚ましかったソ連に対して、アメリカがそれを危険視していたのが原因じゃないかって言われているよ」

「まぁ、それはあるだろうな」


この世界で異能力とは、即ち武力だ。ロシアは高ランク異能力者の割合も高いと聞くから、それを危惧したアメリカが動くのはあり得る話だ。

史実で言うと、イランが濃縮ウランを作成しているのを、世界が危惧しているような物かな?

きっと、ロシアは高ランク同士の交配を進めて、高ランク異能力者を大量に生み出していたのではないだろうか。

それを見て、アグレスの活性化を危惧する欧米列強が、制裁に乗り出したという流れか。


だが、何故ソ連は崩壊するまで魔力絶対主義を貫き通した?制裁を受けても、軍拡化の流れを止められなかったのか?

その後に、アグレスの激しい侵攻を受けると知らなかったのか?

謎が多い。

こういう謎は、やはりあの人を頼るしかないな。

林さんという未来ノート(チート)を。



しかし。


「えっ!ロシアとアメリカの冷戦?う~ん…。そういうの、あんまり詳しくないんだよね…」


林さんは、とっても困った顔でそう言った。

どうも、原作の方では、冷戦などは記述が無かったし、オッペンハイマー先生や他の学者さんは出てこなかったとの事。

そこは、史実とゲームを繋げた世界だから、原作の方には無いのかも知れない。


という事で、

万事休すか。


蔵人が大きく肩を落とすと、林さんは慌てて取り繕う。


「あっ、でも、ゲームの中で言えば、ロシアに似た国【フロストブルグ】や中国に似た国【(ロン)】は援軍を送ってくれたよ。【トーキョー特区】がアグレスに襲撃された時に、その2国からSランクを含めた軍人さんがいっぱい駆けつけて、一緒に防衛するってイベントがあったんだ」

「そうなのか」


という事は、ロシアや中国は白か?それとも、援軍の代価を要求するためのマッチポンプ?

しかし、林さんの記憶では、フロストブルグとは少なくとも友好関係らしい。アグレスに襲われた際に、フロストブルグの援軍にと、日輪からも軍を出すイベントが存在するらしい。


「逆に、ゲームのストーリーでは、アメリカに似た国【ニューアース】は視察団を送り込んで来ただけだったよ。その使節団も、あんまり感じが良くなかったし」


なんと、ロシアや中国と言った史実では怪しい東側ではなく、アメリカの方が黒幕じみていたとは。


「ちなみに、その視察団が何を見に来たか分かる?」

「う~んと、なんだったかな?確か、特区の中心にある施設だったと思うよ。すっごく大きくて、白くて、機械ばっかりで、何かの研究所だったか、訓練所だったかって話だったと思うけれど…」


研究所か。

蔵人は唸る。


史実であれば、アメリカとの同盟が成立しているから、何らかの軍事技術を共同研究しているとでも考えられるのだが、この世界で日本はアメリカと同盟を結んでいない。友好国であるが、そんな中途半端な国の視察団を、国の中枢に入れるかは疑問である。

史実通り、日本はアメリカに、何か弱みでも握られているのか?


蔵人が考え込んでいると、林さんも暗い顔を見せる。

うん?何か心配事かい?


「う、うん。あのね、学校がアグリアに襲撃されたって言ってたでしょ?それって、ゲームで言うとメインストーリーが始まるより少し前の事なの。はっきりとどれくらい前かは分からないんだけど…」


林さんはそこで一旦言葉を切り、言おうか悩んでいる素振りだった。

そして、顔を上げた。


「もしかしたらだけど、ゲームよりも展開が早くなってるかも…」


それは、あり得るだろうな。

蔵人は、内心でため息を吐く。

この世界には、原作とは違う蔵人と言うイレギュラーが居る。その影響が出てしまっているのかも知れない。


「ありがとう、林さん。気を付けることにするよ」


蔵人は林さんにお礼を言って、この話を保留にした。

変わってしまった未来について、ここで論議したところで収集が付かないと判断したから。

また、他の理由として…。


「蔵人君、後ろ後ろ…」


林さんに促されて、蔵人は後ろを振り返る。

そこには、腕を組んでこちらを待つ吉留君達が居た。


「蔵人君。もういいかい?君の出番だよ」

「すみません!監督!」


蔵人達は、今週末に向けた劇の練習中であった。

休憩時間に教室のベランダで話し込んでいた蔵人達だったが、もう休みも終わって、蔵人の出番になってしまっていた。


「さぁ!本番まで時間が無いよ!集中していこう!」


吉留監督に促され、蔵人達のクラスは一気に文化祭モードに突入するのであった。

因みに、若葉さん達との会話中に慶太君が入って来なかったのは、難しい話過ぎて意識を飛ばしていたそうです。


「器用な奴め」


本当ですね。

それにしても、ロシアではなくアメリカの方が怪しいとは…。


「それは、原作で言えばと言うだけだ。史実と分岐したこの世界は、それまでの歴史が強く反映されている」


なるほど。

その点も、原作とは違うのですね。


イノセスメモ:

・冷戦…1945年から1989年まで続いた、直接戦火を交えない戦争。本来は経済戦争だけでなく、ベトナム戦争や朝鮮戦争などの代理戦争が多発した。しかし、この世界ではそこまでの対立は起きず、経済戦争と情報戦という、目に見えない戦闘が行われるだけであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あちゃ~、蔵人氏、鶴海嬢の誕生日を調べ損なってしまったんですね。別に教えてもらっていなかったのですから、そんなに気にしなくても…とは思いますけど、そこで悔いることができるからこそ、まわりに…
[一言] お、ラブコメ展開か?!と勝手に盛り上がっていたら思いのほか話がシリアスな方向に…
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