Menu 41 ~ エッグベネディクト ~
7時
「ふぁぁ……さてと、開店準備しようかねっと。」
スキルで建てたレストランに併設した2階の居住スペースから、階段を下りて1階のレストランへ移動。
厨房に入り、コンロや流し台などを見ていく。
「ん……冷蔵庫……電気で動くこれが、ちゃんと稼働しているのは魔法の一言で片づけられるとして……これその物が、この世界に存在していても良いんだろうか?」
俺は久しぶりに転生の女神様との念話を試みる。
『はぁ~い。こうしてお話しするのは久しぶりですね、拓斗くん。いつも、美味しい供物のお菓子、ありがとうございます。』
「まぁ、供物は感謝の気持ちなんで。ところで……転生の神様って、俺が今、どういう状況なのかって、見ることができたりします?」
『いえ。こうして神通力でお話することは可能ですが、その様子を見ることは、神界にある専用の場所へ行かないと無理ですね。』
「そうですか。じゃあ、簡単に説明しますと、昨日、この世界の今居る町で土地を購入して、【 創造 】のスキルでレストランを出したんです。」
『まぁ!まぁ!遂にですか!おめでとうございます!拓斗くん。』
「ありがとうございます。それで今、内装……主に厨房を確認していたんですけど、コンロや水道については以前説明を聞いたので問題無いんですが、冷蔵庫って……この世界にもあるんですか?無いのなら、お客さんの目を避けて使用することも……」
『冷蔵庫ですか。大丈夫です、問題無く使用できますよ。あまり数は出回っていませんが、タクトくんが居る大陸の東の方では、氷魔法や、冷気を発するモンスターの素材を使用して、同じような物が作られて販売されています。なので、お客さんに尋ねられても、『 東の方から取り寄せた 』と言えば、通用しますよ。』
「そっか。コンロや水道みたいに、似たような物が既に存在してるのか……ありがとう、女神様。その確認がしたかったんだ。」
『うふふ。どういたしまして。拓斗くん、レストラン経営、頑張ってくださいね。遥か空の上から応援していますよ。』
念話終了。
「じゃあ、冷蔵庫も問題無く使って大丈夫だな。冷凍庫も一緒のヤツだから、氷も多めに作って……」
「おはよう、タクトさん。」
「おう!おはよう、クロエ……」
2階から降りて来たクロエの方へ振り返り、思わず言葉を失った。
クロエは綺麗な長い茶髪をポニーテールにして結い
軍服を着ていた頃から使用している白いレオタードの上から、半そでの白ブラウスと黒のベスト。
ミニスカメイド服とでも言えば良いのだろうか?昨夜、クロエの要望を聞きながらブラウスとベストと一緒に【 創造 】のスキルで用意した
丈をギリギリまで詰めたオレンジ色のフレアスカートの上から、白いエプロンを着用。
頭にはメイドカチューシャを装着し、足元は白いソックスに黒い靴を履いている。
「ど……どうかしら?」
「えっと……すっげぇ、似合ってるよ。思わず言葉を失っちまったくらいだ。」
「うふふ。ありがとう。それで……まずは何からしましょうか?」
「ん……じゃあ、お客さんが利用するフロアの床掃除と、テーブル拭きをお願いして良いかな?俺は厨房の方の掃除をするから。」
「えぇ!分かったわ。」
とは言っても、そこまで広くないので、掃除は割とあっさり終わってしまった。
「タクトさん。掃除、終わったわよ。」
「おぅ、お疲れ。そんじゃ、朝飯にしようか。」
厨房奥の休憩スペースで、俺は【 創造 】のスキルを発動し、朝食を用意する。
「スープと……タクトさん、これは?」
「エッグベネディクトっていう、ちょっと洒落た料理だよ。とりあえず、食べようぜ。」
「えぇ。いただきます。」
クロエは上品にナイフで切り分け、一部をフォークに刺して口へと運ぶ。
「はむ……もぐ……んっ、ん!美味しい!卵がとってもまろやかで、下の少し塩気の強い燻製肉とパンの味と合わさって……この胡椒と柑橘の酸味のアクセントも良いわね!とっても美味しいわ!」
「ははっ、気に入ってもらえて良かったよ。」
「えぇ。まだタクトさんの居た世界の料理を全部知っているわけではないけれど、その……余程の物ではない限り、たぶん、嫌いな物は無いと思うわ。」
「そいつは、提供する側としても嬉しい限りだよ。」
たぶん、納豆なんか出した日には、卒倒するかもしれないけど……
「ねぇ、タクトさん。」
「ん?」
「このお店の名前と営業時間、どうしましょうか?」
「そうだな……店の開店時間は、余裕をもって朝の9時からにしよっか。閉店時間は……最終オーダーが23時、閉店が0時かなぁ。」
「確かに。他のお店が閉まっている中、タクトさんに夜食を提供してもらえたのは嬉しかったわ。えぇ!日付変更線まで頑張りましょう!」
「おぅ!食器洗いは最悪、次の日に回せばいいからな。あとは店の名前か……クロエ達は屋台を利用していた時、何て言ってたんだ?」
「え?えっと……普通に『 タクトさんのお店 』で通じていたわ。」
「そっか。じゃあ、無難に『 レストラン・タクト 』で良いか。常連さん達にはこれまで通り『 タクトさんのお店 』で通じるし、新規のお客さんに店の名前のことを訊かれたら、『 店主の名前です 』って答えるだけで良いからな。クロエは何か、良い案はあるか?あるなら、そっちでも……」
「ん~……いえ、私達の間では『 タクトさんのお店 』で通じているし、新規のお客さんにも説明しやすいから、『 レストラン・タクト 』で良いんじゃないかしら?」
「なら、店の名前と営業時間は決定ってことで。他に必要なのは……」
クロエと色々話しながら朝食を食べていると、出入り口に備え付けられているベルがチリン、チリンと音を立てて、客が来たことを知らせてくれた。
「あっ!タクトさん、私が行くわね。」
「おぅ、俺もすぐ行く。」
「いらっしゃいませ!ようこそ、【 レストラン・タクト 】へ!」
「あら?……うふふっ、随分と可愛らしい恰好ですね、クロエ。」
「そっ……ソニア……」
◇◇◇
「はい。お水とメニュー。」
クロエは水差しに入れておいた水をコップへ注ぎ、カウンター席に座ったソニアの前にメニューと一緒に置いた。
「ありがとうございます。ですが、そんな態度では接客業として、どうかと思いますよ?」
「貴女にだけよ、こんな態度で接するのは。あと、どうしてもお腹が空いて仕方がなくて、このお店に来てくれた人には随時対応するけど、一応の開店時間は朝の9時からに、ラストオーダーが23時までで、閉店時間は0時に決まったから、覚えておいてね。」
「まぁ、その辺の事を書いた看板や掛札も、後で用意しておくよ。」
「わかりました。……タクトさん。」
「ん?注文か?」
「それもありますが……私の方でもクロエが訓練中に賊に襲われたこと、その後、衛兵を辞めたということを噂好き……コホン。情報通の兵士から聞いていました。それで、今後はどうするのか……もし、行く宛が無いのなら、水軍の1員として受け入れるつもりでいたんですが……うふふっ。タクトさんと一緒なら、私も安心です。クロエの親友として、彼女を受け入れてくださったことにお礼を言わせてください。ありがとうございます。」
「ソニア……」
「まぁ、事情を聞いたらなぁ……困った時はお互い様ってヤツだよ。」
「そうですね。タクトさん、クロエのことをよろしくお願いします。見捨てないであげてくださいね。」
「おぅ!そんなつもりは微塵も無いから、安心してくれ。」
「はい!さてと……タクトさんにちゃんと伝えましたし、朝ご飯に何か注文したいのですが……そうですね……」
ソニアは笑顔でメニューを1ページずつ捲っていく。
「……そういえば、朝9時開店ということは……もしかして、2人共、まだ朝食の途中だったのでは?」
「ん?あぁ、そういえばそうだったな。クロエ、此処は俺1人で大丈夫だから、朝食を済ましちまってくれ。」
「えぇ。それじゃあ、御言葉に甘えさせてもらうわね。」
クロエは少し足を速めて、休憩スペースへ戻って行った。
「ちなみに、タクトさんとクロエは何を食べていたんですか?」
「ん?メニューに載ってたかな…………あぁ、載せてないか。エッグベネディクトっていう、卵を使った料理なんだけど、食べてみるか?」
「はい!お願いします!」
昨日店を構えて、1番最初に来店してくれたのが、俺がこの世界で1番最初に出会い、そしてクロエの親友であるソニアだったということに、どことなく縁を感じながら
丁寧に接客して、満足してもらうことができた。




