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Menu 15 ~ ホットドッグ ~

8時。


「さてと!今日も気ままに頑張るとしますかね……っと。」


【 収納 】スキルでこの世界に来てから寝床として使用しているテントを片付けて屋台を出現させ、朝食はどうしようかと考えていると


「あら?このような所にお店が……」


ふっと声のした方を見ると、裏通りの方から1人の女性が歩いて来た。

銀色の長髪で、スカートの左右の部分がスリットになっている白い修道服を着ている。


「ん?あぁ、いらっしゃい。」

「コンロに……水道……?もしかして、こちらは食べ物を提供してくださるお店なのですか?」

「おぅ!腹が減ってるなら、何か食べていくかい?」

「宜しいのですか?あっ、申し遅れました。私は『 テレサ 』。えっと……あっ、少しだけ見えますね。あそこにある白い建物……教会なのですが、あそこで司祭として活動させていただいております。」


そう言いながら、テレサが指差した方を見ると、確かに白くて立派な塔のような建物が、少しだけ見えている。

それにしれも、司祭……あんまり聞いたことが無いけど、教会で活動してるってことは、神父様みたいな物だろうか?


「俺はタクト。見ての通り、此処で飲食店を営ませてもらってる。」

「うふふ。宜しくお願いしますね、タクトさん。」

「こちらこそ。さて……料理を提供するにあたって、確認したいことがあるんだけど……」

「はい。何でしょう?」

「俺は宗教……えっと、神様を崇める人達の生活に関して、あんまり詳しく知らねぇんだけど、えっと……食べられない物、食べてはいけない物とかありますか?」

「そうですね。私個人としましては、食べ物の好き嫌いはありません。ですが、我々の信仰する神様は、神託をくださる際に2匹の山羊に乗ってやって来ると云われています。なので、山羊の乳は神様からのお恵みとして口にすることは許されていますが、山羊のお肉を口にすることは禁じられていますね。」

「ヤギ肉……」


俺が居た世界でも、あんまり聞かないぞ。ヤギの肉って食べられるのか?

一応、似たような感じの動物であるヒツジの肉を使ったジンギスカンなんかは、テレサに提供しない方が良いかもしれない。


けど、逆に言えば、それ以外の動物のお肉を使った料理は、問題無く提供できるってことか。


「まぁ、ウチはヤギ肉を使った料理は出してないから、安心してくれ。ほら、このメニューに載ってる料理なら何でも出せるから、好きなのを選んでください。」

「えぇ。ありがとうございます。」


テレサは俺からメニューを受け取り、1枚ずつページを捲っていく。


「まぁ!見たことも無い、珍しい料理がたくさん……しかも、他のお店よりも随分と安いのですね。」

「他のお客様にもよく言われてる。値上げしても良いのかもしれないんだけど、できることなら、これくらいの値段で、気兼ね無く飯を食ってもらいたいんでね。個人的に、値上げをするつもりは微塵も無いよ。」

「うふふ。御優しいのですね。えっと……あっ、このお肉の腸詰は知っています。では、これとパンをお願いできますか?」

「腸詰……あぁ、ソーセージのことか。これとパンなら……テレサ殿。この2つを別々じゃなくて、1つの料理として食べる手段がありますよ。」

「えっ!?そのような方法があるのですか?」

「ただ、腸詰をそのまま焼いて出した物より、少しだけ値段が高くなるんだけど……」

「構いません。その料理を教えて頂けますか?」

「了解!それじゃ、サクッと作ってしまいますね……あっ、腸詰は焼くのと茹でるの、どっちがいいですか?」

「選ばせていただけるのですね。それでは、焼いた物をお願いします。」

「承りました。」


俺は【 創造 】のスキルで取り出したパンを温め、ソーセージを焼いている間に、キャベツを千切りにしていく。


「あっ、テレサ殿。辛い物は大丈夫かい?」

「物凄く辛い物でなければ、それなりには……」

「了解。」


テレサから確認を取った後、俺はパンに縦長の切り込みを入れ、そこにキャベツとソーセージを挟んで、ケチャップを多めに、マスタードを少量かける。


「はい!ホットドッグ、お待ちどぉ!」


そう言いながら、テレサの前に完成した料理と牛乳を提供する。


「まぁ!確かに!これでしたら、パンと腸詰が1度に食べられますね。えっと……タクトさん、切り分けるナイフとフォークは……?」

「あっ、ごめん。その考えには至らなかった。そのホットドッグは手に持ってかぶり付いて食べるのが基本だと思ってたからさ。でも、確かに、聖職者さんにはちょっと、はしたない食べ方だったかな?」

「いっ、いえ!なるほど、この料理はそうやって食べる物なのですね。では……」


テレサは上品に両手でホットドッグを持つと、小さな口で可能な限りかぶり付いた。


「はむ……んっ、もぐ……んっ!これは……っ!とっても美味しいです!腸詰、パン、葉野菜、その1つ1つの味は知っているのですが、それを1度に食べると、このようになるのですね!腸詰の油が染み込んだパンの味と、葉野菜の甘さが嬉しいです。」

「気に入ってくれたかな?」

「えぇ!とっても……んっ!?」


笑顔で食べていたテレサの表情が、少しだけ歪んだ。


「どうした!?」

「いえ、何やらピリッと辛い味が……この赤いソースはトマトの味がするので、黄色いソースの味なのでしょう。タクトさん、この黄色いソースは一体?」

「あぁ。それはマスタードだな。」

「マスタード?」

「えっと……」


俺は【 創造 】のスキルで植物図鑑を出現させる。


「えっと、あるかな…………あぁ、あった!マスタード……カラシは、このアブラナ科っていう種類の植物の種から作られている調味料なんだ。『 黄ガラシ 』『 白ガラシ 』『 黒ガラシ 』の3種類があってな、そのホットドックに使ったのは、白ガラシの種を粉にした物にお酢とか他の調味料を混ぜた物。調味料が混ざっている分、3つのカラシの中では1番辛みが弱いんだ。」

「ふむふむ。」

「次に辛みが弱いのが『 黒ガラシ 』を使った粒マスタード。テレサ殿が最初に頼もうとしたソーセージの盛り合わせに添える物なんだけど、これもやっぱりお酢とか他の調味料が混ざってるから、そんなに辛くない。1番強烈に辛いのは、『 黄ガラシ 』から作るカラシ。今あるメニューの中だと……あぁ、あった。この『 トンカツ 』や『 角煮 』っていう、豚肉を使った料理に添えることが多いんだけど、これは黄ガラシの粉に水を混ぜて練るだけだから、他の調味料が混ざってない分、1番辛いんだよ。」

「なるほど……これでも1番弱い辛さなのですね。」


「おはよう。今日も朝から営業してるんだな、タクト。」


そう言いながら、裏通りの方からセシルが歩いて来た。


「おぅ!おはよう、セシル。」

「ん?ソニアかヒルダ、クロエかと思ったら……初めて見る顔だな。」

「彼女はテレサ殿。あそこに見える教会で、司祭ってのをされているそうだ。」

「そうか……ふふっ、ついに聖職者までタクトの店を利用するようになったんだな。」

「あぁ。喜ばしいことだよ。」

「初めまして、司祭殿。私はセシル、冒険者だ。そして、それなりにこの店を利用している客でもある。よろしく。」

「えぇ、こちらこそ。あっ……ごめんなさい。握手するまえに手を拭かないと……」

「タクト。テレサ殿が食べてるのは……?見た感じ、パンに腸詰と葉野菜を挟んだ物のようだが……」

「見たまんまの通りだよ。ホットドッグっていってな、パンと腸詰を1度に食べることができるんだ。」

「へぇ!そんな便利な物があるんだな。他の店では大体、腸詰は酒のつまみとして、パンは別々に提供されるからな……それを1度に纏めて食べられるのなら、ありがたい話だよ。」

「セシルにも作ろうか?すぐにできるぞ。」

「そうか?なら、お願いしようかな。」

「ふぅ……ごちそう様でした。タクトさん、お会計をお願いします。」

「あぁ。ホットドッグ1皿で銅貨6枚、牛乳1杯で銅貨1枚だから、計銅貨7枚だな。」

「わかりました。今から、セシルさんの分をお作りになられるようですので、お皿の傍に置いておきますね。」

「おぅ!了解。」

「大変美味しく頂きました。それにしても……私も立場上、多くの人の相談を受けたり、教えを説いたりするのですが……世界には、まだまだ知らないことが沢山あるのですね。タクトさん、こちらのメニューに載っている料理や、マスタードという料理は、どこの国の料理なのですか?」

「ん?タクト、まだ話してなかったのか?」

「そういう流れにならなかったからな。」

「えっと……御二人共?一体、何の話を……」

「テレサ殿に信じてもらえるか判らないけど……実は俺……」


俺はこっちに来てから何度目にかになる、自分が異世界から転生したことから、この世界に来てから今日までの話をテレサに話した。


「まぁ!そうだったのですか!タクトさんがこちらに来る前の事情に関しては、大変御辛かったのですねとしか、言葉が出て来ません……ですが、神々の慈愛により、私達はこうして出会うことができました。タクトさんをこの世界へ遣わしてくださった転生の女神様と、異世界の料理を提供してくださるタクトさんに、最大限の感謝を!」


説明を終えると、テレサは思いの外、すんなりと信じてくれた。


「ははっ、そうまで言ってもらえると嬉しいね。テレサ殿。またいつでも来てくれ。仕事は忙しいんだろうけど、今日みたいな朝でも昼でも夜でも、俺が起きてる時は食事を提供できるんで。」

「はいっ!必ず!また利用させていただきますね。」


テレサは上品に一礼して、裏通り……教会がある方へ歩いて行った。


「あぁは言ってたけど、司祭殿は多忙だからな。教会を抜け出すのは、なかなか難しいと思う。」

「人から相談を受けたり、教えを説くとか言ってたもんな。まぁ、また会えるのを楽しみに、気長に待つさ。」


そう言いながら俺は、出来上がったホットドッグをセシルに提供した。

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