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Menu 10 ~ お子様ランチ ~

11時45分

アリアータ大通り


「さて……今日はタクトさんのお店で何を食べましょうか。まだまだ知らない料理が沢山あるので、悩んでしまいます。」

「あら?御機嫌ね、ソニア。」


ウキウキで大通りを歩いていたソニアを、1人の女性が呼び止めた。

茶色のロングヘアで、白いレオタードの上から立派な軍服と白銀の鎧、左右と後方だけを隠すミニスカートを着用。

腰に2本のロングソードを携えている。


「『 クロエ 』。えぇ、これから昼食を食べに行くんです。宜しければ、一緒にどうですか?」

「う~ん……そうね。久しぶりに一緒に食べましょう。それで、どこのお店に行くの?」

「ふっふっふ。行くお店は決まっているのです。私について来てください!」


◇◇◇


「美味いっ!ソニア殿から聞いていたけど、まさか本当にエビやイカが食べられるなんて、驚いたよ!タクトさん、今度漁に出た時に捕獲できたら、買い取ってくれるかい?」

「あぁ。鮮度の目利きはちょっと、できないけど……俺が知っていて、調理できる物なら買い取らせてもらうよ。」

「熱ッ!はふっ……もぐ……このハンバーグという料理、肉汁が溢れ出て……普通に焼いた肉を食べるより、凄いかもしれない。美味しい!」

「ははっ、気に入ってもらえて良かった。」


「こんにちは、タクトさん。」


セシルとヒルダに料理を提供していると、大通りの方からソニアが歩いて来た。

ただ、今日は初めて見る子が一緒に来ている。


「おぅ!いらっしゃい、ソニア。ん?そちらは?」

「彼女は私の親友で、このアリアータの町で衛兵部隊長を務めているクロエです。」

「初めまして。」

「クロエ。こちらは店主のタクトさん。とっても美味しい料理を提供してくださる方です。」

「ははっ!そいつは間違いないねぇ。いやぁ!ソニア殿に勧めてもらった、シーフードミックスフライ、すっかり気に入っちまったよ。」

「タクトの料理は美味しいが、お菓子の類も美味しいぞ。」

「……本当かしら?こんな古い木製のお店で、そんなに美味しい物が提供されるとは、思えないのだけど……」

「クロエ!?」

「ははっ、まぁ、屋台が古いのは確かだし、こればっかりは食べてもらわねぇことにはな。とりあえず、はい!このメニューに描いてある物なら、何でも出せるよ。」


俺はそう言ってまずはクロエに、続いてソニアにメニューを手渡す。


「そうですね…………あっ、じゃあ、私はこのオムライスというのを、お願いします。」

「あいよっ!」

「…………何コレ?どれも見たことが無い料理ばっかり……全然味の想像がつかないわ。あっ、あの!」

「ん?何だい?」

「えっと……」

「あっ、ごめんなさい。彼女は漁師のヒルダさん、その奥に座っているのが冒険者のセシルさんです。」

「ありがとう、ソニア。あの、ヒルダさんが食べている物は一体……?」

「あぁ!シーフードフライっていう、エビやイカ、貝に衣をつけて油で揚げた料理だよ。」

「えっ!?イカって……あのイカよね!?それにエビや貝って、食べられるの!?」

「アタイも注文する前は信じられなかったけど、実際食べてみたら美味いんだわ、これが。」

「そ……そうですか。セシルさんが食べている物は?」

「ん?あぁ、ハンバーグっていう挽き肉を丸めて焼いた物だ。ありえないくらい、美味しい。」

「あっ!ハンバーグ、美味しいですよね!」

「ソニアも食べたことがあるの?」

「えぇ。肉汁がたっぷり溢れてきて、とっても美味しいんですよ。」

「そう……」

「はいよっ!ソニア、オムライスだ。」


俺はソニアの前に、スキルで出現させたオムライスを置いた。


「ありがとうございます。うふふ、いただきます。」


ソニアはスプーンで一口掬い、口へと運ぶ。


「はふっ、もぐ……ん~!とっても美味しいです!薄焼きの卵もほのかに甘くて……中のコレは、以前稲荷寿司の時に頂いた、コメという物ですね。トマトの味がして、こちらも美味しいです!」

「…………」

「クロエ殿……だっけ?ゆっくり選んでくれていいぜ。それか、何かコレが食べたいっていう物があったら、こちらで何か用意するけど……」

「そうね。この後も警邏があるから、あまりゆっくりしていられないし……あのっ!ソニアとヒルダさん、セシルさんが食べている物を少量ずつ1つの皿で頂けることって、可能かしら?」

「オムライスとハンバーグ、フライを少量ずつ1皿に……あぁ、できるぜ!任せてくれ!フライはエビだけになるけど、構わないかな?」

「えぇ、お任せするわ。」


俺はクロエの要望を聞き、それが叶う1品をスキルで取り出し、彼女の前に置いた。


「はい、お待ち!お子様ランチだ。」

「おっ……お子様って……貴方、私を馬鹿にしているの!?」


顔を真っ赤にしたクロエが、腰の剣に手をかける。


「ちょっ、ちょっと!クロエ、落ち着いて!」

「悪い!悪い!決してクロエ殿を馬鹿にするために、出したんじゃないんだ!俺の前に居た世界では、オムライスもハンバーグもエビフライも、子どもの大好きなメニューでね、それ等を一纏めにしたこの料理を『 お子様ランチ 』っていうんだよ。」

「そ……そうだったの。ごめんなさい、早とちりをして……ん?前に居た世界?」

「その説明は後でするから。とりあえず一口、冷めないうちに食べてみてくれ。」

「え……えぇ。いただきます。」


クロエはまず、ハンバーグをフォークで切って口へと運んだ。


「熱っ……!んっ、もぐ……何コレ!?凄く美味しいっ!ソニアとセシルさんが言ってた通り、口の中で肉汁が溢れて……」


そう言いながら、今度は日の丸の旗が刺さったオムライスの下の方を一口掬い、口へと運ぶ。


「もぐ……んっ!甘い!卵の下の……ソニアが言っていたコメ、だったかしら?初めて食べたけど、トマトの味がして……これも美味しいわ!」

「このような料理があったのですね。」

「今度、私も頼んでみようかな……」

「あぁ。名前こそ『 お子様ランチ 』だけど、大人でも食べたくなる人が居たんだろうな……大人でも注文できて、提供してくれる店が増えてたみたいなんだ。だから、皆も食べたくなった時は、恥ずかしがらないで注文してくれて良いからな。」

「あぁ。今日はフライを堪能させてもらったからね。日を空けて、食べたくなった時は注文させてもらうよ。」

「そうだ!フライ。この尻尾……確かに、エビのそれね。見覚えがあるわ。」


クロエはエビフライにフォークを突き刺して口まで運び……半分のところで噛み切った。


「ん……もぐ……んんっ!?何コレ!?エビってこんなに美味しいの!?今食べた他の物よりは淡白な味なんだけど、プリップリして……」

「クロエ。そのタルタルソースという物をエビフライに付けて食べるのです。」

「タルタルソースって……薄い黄色のコレのこと?」


ソニアに言われた通り、クロエは残りのエビフライにタルタルソースを付けて、口へと運んだ。


「……っ!?信じられない!エビフライが、更に美味しくなったわ!あぁ……エビフライ、食べ終わっちゃった……」


少し残念そうにしていたクロエだったが、残っていたケチャップで味付けしたスパゲッティや、付け合わせのポテトサラダも上品に食べてくれる。


「このパスタ、オムライスの中のコメと卵にかかっていた物と同じ、トマト味のソースで味付けされてるのね。この白い食べ物も、ホクホクして……少し酸味の効いた味付けなのが良いわ。」

「そいつはポテトサラダ……えっと、茹でて皮を剥いたジャガイモに、このマヨネーズを混ぜて作った物だよ。」


俺は某天使の絵が描かれたマヨネーズの容器を、その場にいた全員に見せる。


「あ、それってもしかして、先日頂いたタコ焼きにかかっていた物ですか?」

「見たことが無い調味料だ……タクト。そのマヨネーズというのは、この世界でも作れるのか?」

「この世界に卵とお酢、油があればできるぞ。単純な話、白身を取り除いた卵黄の部分に、お酢と油を入れて、ひたすらに混ぜるだけだからな。固さの好みは、お酢や油をほんの少しずつ足して調整すれば良い。」

「へぇ!意外と簡単なんだね!」

「ただ、油を使っているからな……女性の前でこう言うのは失礼なんだろうけど、やっぱり太りやすい。皆が自分で作ったとして、過剰な摂取は控えておいた方が良いよ。」

「ふぅ……あら?この黄色い物は……」


お子様ランチの殆どを食べ終えたクロエが、最後に残った黄色い物体に気付く。


「あぁ、それはプリンっていう、卵と牛の乳を使ったデザートだ。食べてみな。」

「えぇ。いただきます。あら……このプルプル揺れ動く感じ、面白いわね。」


クロエはプリンを一匙掬い、口の中へと運んだ。


「……っ!?すぐに溶けちゃったけど、凄い!このプリンってお菓子、とんでもなく美味しいわ!卵に砂糖、牛の乳の優しい甘さが混ざり合って……この茶色い部分は!?ほろ苦くて、これも美味しいのだけれど!」

「カラメルっていってな、砂糖水をわざと焦がした物だよ。」

「そう……そんな調理方法が……んん~っ!たまらなく美味しいわ!」

「いいなぁ……タクトさん!私にもプリン、単体でお願いします!」

「私も!」

「アタイにも頼むよ!」

「お、おう。わかった、順番に出すよ。」


その後……


先に会計を済ませたセシルとヒルダが去り、ソニアとクロエが食休みしていた。


「ふぅ……さて、タクトさん。先程仰った『 俺の居た世界 』とは、どういうことですか?私が納得できる説明をしていただけない場合、私は自分の衛兵という職の下、貴方を連行しなければならないかもしれません。」

「クロエ!?」

「良いんだ、ソニア。クロエ殿は己の職務を全うしようとしてるだけなんだから。ただ……信じてもらえるかは判らないけど……」


俺はこの世界に来て4度目になる、自分がこの世界に来た理由から今日までのことを、クロエに正直に話した。


「なるほど、そのような事が……タクトさんの話はおそらく事実なのでしょう。この世界で見たことの無い料理が、それを証明しているわ。何より……どう見ても、悪人だなんてとても思えない顔ですもの。良いでしょう!タクトさんの話を信じます。」

「ははっ、信じてもらえて何よりだよ。ありがとう、クロエ殿。」

「……その、『殿』を付けて呼ぶの、やめて欲しいわ。タクトさん、ソニアにセシルさん、ヒルダさんに対しても呼び捨てだったじゃない。私だけそんな、呼称を付けて呼ばれたら壁を感じるわ。」

「わかった。じゃあ、呼び捨てで呼ばせてもらうよ、クロエ。」

「えぇ!それで良いわ。」

「うふふ。では、タクトさん。お会計をお願いします。」

「はいよ。えっと……ソニアはオムライス1皿で銅貨7枚に、プリン1皿で銅貨3枚だから、ちょうど銀貨1枚。クロエはお子様ランチ1皿で銅貨8枚な。」

「わかりました。」

「えっ!?嘘でしょ!あんなに沢山の料理が入っていたお子様ランチが、たったの銅貨8枚ですって!?」

「沢山の料理っていっても、少量ずつだっただろ?バカみてぇに山盛り入れてるわけじゃないんだし、これくらいがちょうど良いかなぁって……」

「信じられない……あんなに美味しかったのに……驚きの安さだわ。」

「初めてタクトさんのこのお店で料理を食べた人は、お会計の時に、そのお値段の安さに驚いてしまうんですよね。」

「店主のタクトさんが決めた値段なら、それに従うけど……」


クロエはまだ少し納得できない感じで、財布から銅貨8枚を取り出して支払ってくれた。


「はいよ!2人共、それぞれ丁度、いただきました。」

「あの……タクトさん。本日は、失礼な事ばかり言ってしまって、ごめんなさい。」

「失礼な事?いや、あんまりそんなこと言われた覚えは無いんだけど?」

「そ……そう?コホン!じゃあ、その件は置いておくとして……今日はごちそう様でした。凄く、凄く美味しかったわ!」

「ははっ、気に入ってもらえたようで良かった。」

「クロエ。タクトさんはいつも此処で店を出してくれています。確か、このアリアータを去る予定は無いのでしたよね?」

「あぁ。この世界に来た時はどうしようか考えたけど、今は3人の常連さんができて……また増えるかもしれねぇからな。この町から離れて余所で営業するつもりなんて、もうこれっぽっちも考えて無いよ。まぁ、此処にこの屋台が無い時は、市に出かけてるとでも思ってくれ。」

「とのことです。」

「そうなの!分かった。じゃあ、また、利用させてもらうわね!今度はメニューを見て、ちゃんと自分の意思で食べたい物を選んで注文させてもらうわ!」

「おう!またの御来店、お待ちしております。」


満面の笑みので小さく手を振るソニアとクロエを見送り、4人分の皿洗いを始める。


「あの感じだと、クロエもウチを利用してくれるようになるだろうな……ははっ、本当に、ありがたいって言葉しか出てこねぇや。」

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