三「転機」
家に帰ったら、やけに興奮気味のお母さんから、すぐ庭に行くように言われた。
だけど、わたしは、まず二階へ上がり、汗臭い制服を着替えることにした。
セーラー服を脱いで襟と袖を外し、化繊で見た目ほど涼しくないスカートから解放された後、動きやすくて快適なティーシャツとハーフパンツに着替え、白い身ごろだけになったセーラー服と体操服を持って一階に降りる。
持っていた衣服を丸め、洗濯籠に華麗にスリーポイントシュートを決めてから、客間を通り抜け、網戸を開けて縁側へ出た。
庭には、ドーベルマンとラブラドルレトリバーを掛けて二で割ったような仔犬がいた。
前足で器用に頬杖をつき、秋桜の蜜を吸う紋白蝶を、尻尾を振りながら眺めていて、何とも優雅なものだと思った。
縁側の板の上に座り、両肘を太腿に乗せ、わたしも犬と同じように頬杖をついてボーッと眺めていたら、お母さんが櫛形に切って塩を振ったトマトを持って来て隣に座り、聞いてもいない犬の話をし始めた。
「あのワンちゃんのお母さんは、警察犬なのよ。警視総監賞を貰ったこともあってね」
「ヘェー。超エリートじゃない」
「そうなのよ。だから、彼も期待されてたの」
「あっ、オスなのね」
「なのに、警察犬の訓練所で五回も脱走するわ、教官を十回以上も咬むわで、適格不良になっちゃったのよ」
「フーン。それで?」
「血統は良いだけに、失望も大きくて、そのまま訓練所に置いとくわけにもいかないから、うちで引き取ることになったの。訓練所の動物調教師さんが、うちのお父さんと体育大学時代の先輩後輩の関係でね」
「なるほど。そこに繋がるわけね……」
どこまで行っても、父親の呪縛からは逃れられない運命らしい。
そして、あの犬も、母親の優れたディーエヌエーを、減数分裂の段階で胎内に置いてきてしまったのだろう。
ひょっとしたら、親のいいとこ引き継げなかった同士、引き寄せられるものがあるのかもしれない。





