四「円盤」
「たしか、この辺にあったはず……」
ドーベルマンだかラブラドルレトリバーだか知らないけど、イヌには狩猟本能があって、適度な運動をさせて欲求を満たしてあげないと、ストレスで毛が抜けたり身体を自傷したりするそうだ。
それに、飼い初めに明確な主従関係を構築しておかなければ、あとあと躾けられなくなって困ることになる。
ただ、先週ギックリ腰をやらかしたばかりのお母さんに散歩を頼めば、今度は捻挫や骨折をする可能性が極めて高い。
よって、ここは、わたしが犬を連れ出すことにした。
幸い、近所にはドッグラン代わりになりそうな河川敷があって、そこでは、たまにペットと戯れている飼い主さんを見かけることもある。
で、せっかくだから、一緒に遊べそうな道具を持って行こうと思い、工具箱やら釣り竿やらゴルフバッグやらが乱雑に詰め込まれた物置で、目欲しい玩具を探しているという次第。
「あっ。これ、まだ置いてあったんだ」
折り畳まれたスタイリーをどけると、ローラースケートやバドミントンと一緒に、埃の積もったフリスビーを発見した。
スタイリーを元通りに立て掛けてから、百人乗っても大丈夫な物置の扉を閉め、庭のホースでフリスビーに水を噴射した。
すると、埃の下には、見覚えのあるというより、見飽きて視界に入れるのも嫌になるくらいの五芒星のマークが現れた。
何を隠そう、これはまだわたしが自分にも円盤投げの才能が眠っているのではないかと、微かな希望を胸に練習に明け暮れていた時代に使っていた、いわば愛盤。
記録的な飛距離は出せなくても、犬と遊ぶのに使う分には、何も問題ないに違いない。
そう安易に考えたわたしは、洗ったフリスビーを片手に持ち、軽く振って水気を切ってから、玄関先でリードに繋いだままにしている犬のもとへと駆け寄った。
ものの十五分弱で河原に到着。青空には、積乱雲が立ち昇っている。
薄っすら青草が生える土手に降りると、わたしは首輪からリードを外し、ヘアッヘアッと舌を出して興奮している犬に五芒星の円盤をよ~く見せてから、叉焼麺の掛け声とともに、フリスビーを空へと投げた。
犬はキャンキャンと喜びながら、回転する五芒星を追い駆けて行ったので、これは良い調子だと手応えを感じた。
しかし、安堵するのは、まだ早かった。
なにせ相手は、適格不良と判断された問題犬だからだ。
そして、わたしも、フリスビーの女神に見放された問題児であるということを忘れてはいけなかった。





