其ノ壱 むかしむかし
むかしむかし、あるところに、お爺さんとお婆さんが住んでいました。
ある日、お爺さんはパチンコに、お婆さんはヨガ教室へ出掛けました。お婆さんがヨガ教室へ行く途中、近所の公園から子供の泣き声が聞こえてきました。
気になり覗いてみるとそこに人影はありません。不思議に思い泣き声のする方へ行ってみると、公園のベンチの上に毛布で綺麗に包まれた小さな赤ん坊がおりました。
赤ん坊の横にはハートの紋章と一枚の紙切れが置かれています。お婆さんが紙切れを捲るとそこには、“桃太郎”と書かれています。お婆さんは赤ん坊を抱き抱えると一目散に家へと連れ帰りました。
お爺さんとお婆さんは子供に恵まれずずっと二人きりでしたから、お婆さんはこれは神様の贈り物だと思いました。一向に泣き止む気配の無い赤ん坊を抱き抱えたまま、お婆さんはパチンコに行っているお爺さんに電話しました。
「…あ、爺さん?」
『なんじゃい、今忙しいから後にしとくれ』
「ちょっと赤ん坊拾ってきたから、ミルク買ってきてくれない?あとオムツ」
『…ッ ゲホゴホ…え、お前それいいのか?誘拐じゃないのか?!』
「いいんだよ、拾ったんだから。早く買って来ておくれよ!」
『お、おう…』
程なくして買い物を終えたお爺さんは大急ぎで帰ってきました。するとそこには本当に赤ん坊が居ます。大急ぎでミルクを作り飲ませると赤ん坊は漸く泣きやみました。
「どうするんだい、この子。」
「育てるにきまってるでしょう、この子はきっと神様がくれた贈り物なんだよ。なぁ、桃太郎、もう大丈夫だからねぇ。」
お婆さんが赤ん坊を持ち上げると赤ん坊は嬉しそうに笑いました。持ち上げた反動で赤ん坊を包んでいた毛布がハラリと床に落ちました。
「婆さんや…今、桃太郎と言ったよな?」
「だって、この子と置かれていた紙切れにそう書いてありましたから。」
「しかし、どう見てもこりゃあ…女の子だろう。」
「あら本当に。」
こうして桃太郎はお爺さんとお婆さんに育てられ、すくすくと成長していきました。