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第一章 ぷろろーぐ 《つまらん生活》
[矢吹さん調子はどうですか?]
_毎日この声から俺の一日が始まる。
「昨日と変わらないです...。」
_毎日そう返す。
東京オリンピックに沸く今年、2020年。
冷たい病院のベットで横になっていると、変わったマスクをつけた看護師が
枕元に様子を見にやってくる。
体を起こして窓から外を覗けば、いつもまばらな人々が今日は黒く塗り潰されたかと
思うほどに大人数だ。
「つまんね...」
窓を覗く為に起こしていた体を、ドスンと音を立ててベットに落とすと
枕元にいた看護婦がため息をつくようにして俺の額に手を当てた。
[そんな事言っちゃだめよ。今は治療すれば治る病気も、昔は治らずに〔不治の病〕
なんて言われてたんだから!伊織君はあと二年もすれば病院出れるから、、ね?]
なだめる様にそのセリフを彼女が言ったのは、もう数えられない程だった。
俺が不機嫌そうに眉を寄せ、ベッドを飛び降りると困った様に俺の背中を目で追いかけた。
[どこに行くの?]
「トイレに行くだけ...です。」
朝が来て、夜が来て、、そしてまた当たり前の様に朝が来る。
今日は平穏すぎる生活にうんざりしていた俺の、最後の平穏な一日だった。




