終
たくさんの人でごった返す王都の街を、ミリィとレオは身を寄せ合って歩いていた。
「大丈夫か、ミリィ。」
「だ、大丈夫よ。・・・きゃっ。」
危うく転びかけたミリィの腕をぱっとレオがつかんだ。
「・・・大丈夫じゃないな。ほら。」
レオの左手が差し出される。
「え・・・」
何度かためらって・・・ミリィはそっと手を重ねた。暖かくてちょっと大きな手が、ミリィのて手を握る。少し力を込められて、ミリィはぴくりと肩を振るわせた。
「ミリィ・・・?」
「・・・誰かが見ていたらどうするの?」
思わず呟いた声は、思ったより弱々しくなってしまった。
「ミリィ、それでも俺は構わない。」
「レオ・・・でも。」
「いいんだ。」
有無を言わさぬ声音で、レオはまっすぐにミリィを見つめている。常にないレオの雰囲気に、ミリィは固まった。レオとミリィが一緒にいるということ。家同士の確執などが問題なのではない。もっと象徴的で、もっと人々の奥深い心の底を表してしまう・・・。
「・・・わかったわ。」
レオに手を引かれながら、ミリィは海辺まで近寄った。あちらこちらに、アルナト大祭の灯籠の光が灯っている。灯りを飛ばす準備は調っていた。
「・・・俺たちも灯りを持ってくればよかったな。」
「そうね・・・でも、見ているだけでも十分楽しいわ。とっても・・・とっても、綺麗。」
暮れていく空、灯っていくランプ。まさしく、常に変わっていく歴史のようで。
「ねぇ、レオ。あれを見てーーーー」
「何をしている、ミリセント。」
レオの腕を引いて、周りの騒がしさの中でも聞こえるように耳元に唇を近づけたとき、固い声がミリィをーーーミリセントの名を呼ぶものがいた。
「・・・お父さま。」
気付かないうちに、王族や貴族の席があるところまで来ていたようだった。レオも父親の姿を見つけたのか、身を固くした。お互いに、つないだ手に力がこもる。王侯貴族たちの視線が、ミリセントたちに注がれていた。
「レオナルド・・・リチャード殿下のお呼びを断るとは何事かと思ったが、まさかな・・・」
レオーーーレオナルドの父、ディファクター公爵がちらりとミリセントの方を見た。
「ミリセント、お前・・・ランドディアス家の娘とあろうものが、スチュアンティック家のそれもレオナルド卿と・・・」
父がミリセントを鬼の形相で睨んでいた。
レオナルドが反射的にミリセントを己の背にかばった。そのしぐさに、周りの者たちが表情を強張らせる。
「・・・関係ないだろ・・・関係ないだろ!俺たちには!レオナルド王とアディル女王のことなんて!」
「・・・レオ。レオ、やめましょう。」
ミリィはレオの袖を引いた。
「仕方がないわ。これは500年以上続く、アディル女王の呪い・・・その真実を知るために、わたしたちは・・・」
「あぁ・・・」
レオナルドは未だに父親たちを睨んでいた。
「分かってるよ。・・・俺たちの宿命なんて。」
国王陛下の一声で、一斉にランプが舞い上がった。人々の歓声に、レオナルドのつぶやきはかき消される。だが、ミリセントには聞こえていた。
ーーー絡み付く薔薇ような、鬱陶しい宿命なんだよ。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。とりあえずこのシリーズも半分が終わりました。そろそろ謎ときが始まりますね。
次は短編で、過去編を一つ。レオナルドとミリセントの運命を乱す、レオナルド王とアディル女王のお話しです。
では、まだまだよろしくお願いします。




