蜂蜜
蜂蜜は採れたてが美味しいの―そう言って彼女は手のひらほどある大きな蜂を握り潰す。針が手のひらを貫いていることなど気にしないように彼女は手のひらから溢れる蜂蜜を舐め、恍惚とした表情を浮かべる。
痛くないの―私がそう言うと、痛いから美味しいんじゃない―と笑顔で応えた。そして、あなたも舐めればわかるわよ―と言い大きな蜂を一匹投げてよこした。その頃には手のひらの穴は蜂蜜で覆われていた。
私はしばらく蜂を持っていた。否、持つことしか出来なかった。外殻が硬すぎて力を入れても握り潰せないのだ。そんな私を見て彼女は、頭が柔らかいよ―と言い蜂の頭を握り潰した。鋭い口器が彼女の指を落とす。そんな事は気にしないように彼女は蜂蜜を舐め、恍惚とした表情を浮かべる。
痛々しいから止めてくれ―私が言っても、痛いから美味しいんじゃない―と彼女は笑うだけだった。そして、早く舐めたらわかるわよ―と言った。その頃には蜂蜜が固まり指の代わりになっていた。
仕方がないから私は蜂を両手で思いっきり握り潰した。外殻の破片が手のひらを傷つけ、針は骨をも貫き、口器は指を落とした。その痛みに耐えながら蜂蜜を舐める。すると頭の中に広がった多幸感は彼女の言ったとおりであった。




