02
緊急家族会議が初の野外で開かれ、決議の結果とりあえず現状把握を早急にすべきであるということになった。基本中の基本だね。ちなみに私の異世界トリップ説は保留になった。
姉ちゃん頭大丈夫?とほざいた弟には鉄拳制裁を。母はあらーといつも通り呑気。父は眉間にしわを寄せて考え込んでいる。
もし、わけのわからないこの状況において家族がおらず一人だったらと思うと寒気がする。もし一人だったらあの漫画のように王子様に噛みついてしまうほど錯乱していただろう。考えるだけで恐ろしい。
和やかに会話する母と弟とは対照的にやや険しい顔をしている父を見つめていると、目が合った。険しい顔が一変し、私を安心させるように微笑んだ。本当に、良かった。
「さて、早速行くか。」
「どこに行くの父ちゃん。」
呑気な声で問うのは弟だ。
「このまま森に居ても時間が過ぎていくだけだからな。森を出て、人を探そう。」
森には道があった。獣道、とも言えるがそこには私たち家族以外が歩いたと思われる足跡があることから、そう遠くないところに人がいるだろうと言うことで、道に沿ってあるいて行く。
しばらく歩くと明らかに木々が減り、森の終わりが見え始めた。テンションが上がって突っ走ろうとする体力が有り余っている弟を父が抑えて、周囲を万遍なく確認しながら進む。と、森の終わりの先に広がるのは広大な丘陵だった。緑が眩しく、ものすごく開放感がある。今まで閉塞感たっぷりな森に居たから余計そう感じるのかもしれないが。
それにしてもこの光景は、写真とかテレビとかあくまで何かの媒体を通してしか見たことのないような景色だ。日本でも北海道にある有名な観光地でしか見たことがないような、つまりは私たちが住んでいたところとは全く違う。
「あら綺麗な所ね。」
「すっげー走りてぇー!」
呑気組は取りあえず放っておいて、やはり考え込んでいる父に近づく。
「お父さん。」
「あぁ……お前の言っていたことも馬鹿にできないかもな。」
馬鹿にしていたのかと大人な私は突っ込まない。
「あ!人だ!」
間抜けな弟を見ると、大きく手を振りながらおーいと呼びかけている。その先には遙か遠くに黒い人影らしきものが見える。あいつは無駄に視力が良い。
「芒。」
父の声に反射的にピタリと挙動を止めるその姿は躾された犬そのものだ。
「ちょっと後ろに下がって待っていろよ。」
そう言って父は人影へと向かって行った。
徐々に大きくなる人影はどうやら若い男の子のようだ。顔立ちはアジア系と欧米系を混ぜたような、つまりはハーフっぽい。初見では同い年か一歳下ぐらいかと思ったが、線も細いしもしかしたら弟と同じくらいかもしれない。恰好はシンプルにシャツとズボンなのだが……作業着なのだろうか。少し薄汚れた印象を受ける。
父と彼が話しているようだが、ここから見る限り父の姿にすっかり隠れてしまっていて様子がわからない。
一体どんな会話をしているのか。……危険はないのか。
ドキドキと冷や汗をかきながらもその様子を見守っていると、不意に父が振り返った。そして軽快な走りでこちらに戻ってくる。
「みんな、安心していいぞ。」
明るい表情で告げられ、緊張が解けた。
「彼はすぐそこにある村の、村長の息子なんだが、村に空き家があってそこに住んで良いそうだ。しかもタダで!喜べ、憧れの庭付き一戸建てだぞ!」
えっ。
「まじで!?父ちゃんすげえ!」
「まあまあまあ!」
あれ。今喜ぶところだったの?乗り遅れた?空気読めてない?私、母と弟よりは空気読めると自負していたのだけれども。
「あ、ちなみに此処異世界みたいだぞ。撫子、正解だ!」
「さらっと大事なこと言わないで!」
私の反応はおかしいのでしょうか、いや絶対に周りがおかしい。