第13話 日奈の迷い
「零くん、最近元気がないね」
撮影の休憩時間、日奈は隣に座る零へ声をかけた。
「そうですか?」
「うん。私と一緒にいるときも、ずっと何か考えてる」
零は返事をせず、手元の飲み物を見つめた。
日奈には分かっていた。零の心が自分に向いていないことくらい。
それでも、そばにいられるだけでうれしかった。最初は契約でも、いつか本当に好きになってもらえるかもしれない。そんな期待を捨てきれずにいた。
「……千秋さんのこと?」
日奈の質問に、零の肩がわずかに動いた。
「どうして分かるんですか」
「分かるよ。あなた、彼女の話をするときだけ表情が変わるもの」
日奈は笑おうとしたが、少しだけ声が震えた。
「私と一緒にいても、心はずっと彼女のところにあるんだね」
「……すみません」
「謝らないで。あなたが悪いわけじゃない」
日奈は膝の上で両手を握った。
自分から頼んだ契約だ。零が自分を好きではないことも、最初から分かっていたはずだった。
それなのに、彼が千秋を想う姿を見るたび、胸が苦しくなった。
「零くん。もし契約が終わったら、私たちはどうなるのかな」
「契約が終われば、元の関係に戻ります」
零の答えは迷いがなかった。
日奈は静かにうなずいた。
「……そうだよね」
その夜、帰宅した日奈は、部屋の明かりもつけずにソファへ座った。
恋をしているのに、相手の気持ちを自分へ向けることはできない。
それでも、今すぐ諦めることもできなかった。
日奈は窓の外を見つめながら、小さくつぶやいた。
「あと少しだけ……そばにいさせて」




