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第10話 王子に挟まれました

美月は1杯目を飲み干して2杯目のストローに口をつけた


「達也さんの話は分かったけど……」

「3億円はやりすぎよ、頭を冷やした方が良いわ」


「俺ら結構金あるんだぜ」

「現金はそんなにないけどよ」

「会社の株を売ればなんとかなるさ」


「それ、あなた達が頑張って稼いだお金でしょ」

「ハッキリ言うけど」

「私はありがた迷惑よ」


達也は振り返って美月の顔を覗き込んだ


そんな達也を美月は横目で見る


「なによ」


「美月さんって変な女だよな」


「私……」

「常識しか言ってないからね」


達也は第二王子のコースターを手に取り、美月に見せる


「なあ、美月さん」

「このキャラクターは好きじゃないのか?」


「え?」

「普通に二推しだけど」


「二推し?」

「要は好きってことか?」


「うん、好きだよ」


達也は第二王子のコースターを見る


それから、美月の顔を見た


「……そうか」


なぜか、その口元が少しだけ緩んだ


「なによ?」


「いや、別に」


その頃、怜司はというと――


店員を捕まえて根掘り葉掘り質問を続けた結果


とうとう業務の邪魔だと注意されていた


そしてなぜか、女性店員たちに囲まれ、エプロンをつけられている


さらにキッチンでは、急遽新しいコラボドリンクまで作られていた


『リアル第一王子ドリンク』


注文した客は、怜司と一緒に写真を一枚撮ることができるらしい


女性店員に教え込まれた営業用の台詞を、怜司は真顔で口にする


「俺のドリンクと第一王子のドリンク、どちらが君たちにふさわしいと思う?」


「怜司様、こっち向いてくださーい!」


「次、私です!」


店内にシャッター音が鳴り響く


リアル第一王子ドリンクは、大盛況だった



その日の夜


美月は十二枚のコースターを大きな額へ並べていた


「やっぱり、この二人は真ん中よね」


中央に置いたのは、一番人気の第一王子と二番人気の第二王子


並べて見ると、どうしても怜司と達也の顔が浮かんでくる


「……ほんと、似てるなあ」


美月は完成した額を満足そうに壁へ飾った



翌朝


美月は仕事へ向かうため、部屋を出た


鍵を閉めたところで、階下から大きな声が聞こえてくる


「それ、壁際に置いてくれ!」

「傷つけんなよ、高かったんだからな!」


階段の下には、大きなトラックが停まっていた


制服姿の引っ越し業者が、次々と段ボール箱を降ろしている


「誰か引っ越してきたのかな?」


このアパートの住人は、再開発の話が出てから次々と立ち退いていった


今残っているのは、美月と、昨日隣へ引っ越してきた怜司だけ


そして美月の部屋を挟んだ反対側にも、空室が一つあった


美月が階段を下りようとしたところで


紺色のジャケットを着た男が下から顔を上げた


短い茶色の髪


右耳のダイヤのピアス


「え……」


男も美月に気づいた


初めて会った時の鋭い表情ではない


達也は人懐っこい笑顔を浮かべ、大きく手を上げる


「おはよう、美月さん!」


嫌な予感がした


「どうして達也さんがここにいるの?」


「見りゃ分かるだろ」


達也はにっと笑った


「引っ越してきた」


「……は?」


そのとき、引っ越し業者が大きな段ボール箱を抱えて階段を上がってきた


美月の横を通り過ぎ、そのまま怜司とは反対側の空室へ入っていく


美月はゆっくりとそちらを見た


扉には、昨日までなかった真新しい表札が取りつけられている


『相馬』


美月は反対側を見る


そこには『御堂』


そして、その二つの扉に挟まれているのが――自分の部屋だった


「ちょっと待って……」


美月の顔が引きつる


「私、挟まれてる!?」


階下から達也の明るい声が返ってきた


「そういうことだな!」

「美月さん、これからよろしくな!」


「えええええええ!?」


住人が三人になった古いアパートに、美月の叫び声が響き渡った




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