■5.キャラバン
「言っておくけど、オレあまり武術できないぜ。……剣と護身術ならほんの少し、チョットした応用ならできるけど」
街道を歩きながらオレはそんなことを言った。城で育ったから身を守る術は教えられている。……まぁ、サボってたりしてたけど。
サーネルとオレは話している内に打ち解けて仲良くなった。コグロといえば今はオレの中だ。騒がれると周りの人々に声を掛けられて目的地である彼女のキャラバンが待機している店へ行くのに時間が掛かるからだ。それに、少しウルサイし。
「そういやサーネルのキャラバンの名前って何?」
「ンと、私ん所は〝ストリークキャラバンズ″っていうんだ」
「へぇー。由来とかあるの?」
「うん、あるよ。ちょっとヘンかもしれないけど」
「なになに?教えて」
「えっと、『一筋の道のように堂々と、どんな時でも決して諦めない』っていうのが由来なんだ。というより、モットーかな」
「カッコイイ名前だなぁ」
「ありがと。でも、人に話すのは少し照れ臭いんだけどね」
オレは彼女の笑って細くなる眼を見た。妹以外で人の笑う顔を見るのは久しぶりな気がする。
風が緑を伝い木の葉を靡かせる。大地の、土の匂いがする。
(自然の匂い……外の世界にはこんな綺麗なモノや心地よいモノが沢山あるんだな……。オレが育った場所とは全然違う)
『何一人でたそがれてるガヤ?』
(うっウルサイ……)
そんな風に思いながらやり取りをして歩いて行くとサーネルが再び隣で声を掛けた。
「もうすぐだよ~。ほら、あそこ! あそこにキャラバンがいるんだ。ウーグに武術や守護の力の使い方とかも教えられる」
そう言いながらサーネルが指さした場所は一軒の店だった。
『お前、顔がニヤケてるガヤ。よかったな~、もうすぐでやりたいコトの1つが叶うんだからー』
冗談を含めた嫌味っぽく言うコグロにオレはつい大きな言い返した。
「お前みたいな変な生きモンにそんな言い方なんかされたくないッ」
……まずい。辺りの通行人がオレを変人を見るような視線を送ってきている――。どぎまぎしているオレを見てサーネルは「声、あまり大きく出さない方がいいよ」と促した。下手すればコッチが変な者に扱われてしまう……。
そうこうしている内にサーネルが先程言った店に辿り着いた。看板を見ると『イレプト』と書いてあった。サーネルに後から聞いたのだが、ここのオーナーがこの名前の動物が大好きなので、それ故に自分の店に名づけたらしい。
*
扉を開けると、温かな光景が広がっていた。外見からは石造りのように見えたこの店は、実際は木で造られているため、お客さんの話し声や雰囲気がより一層温かみを増していた。
あらゆるテーブルには、一般のお客さんだけでなく商人らしき人やキャラバンが三組いた。
「おーい、ただいまー。新入りを見つけたよ」
サーネルがオレをそう紹介するとキャラバンの皆さんたちは、
「よく来たな」
「歓迎するぜ!」
「共に旅しよう!」
となどなど口々にしながら温かく迎え入れてくれた。
「初めまして。オレは、ウーグ・ロアイストと申します。旅することと仲間を見付けることが目的で遠い場所から此処まで来ました」
と自己紹介すると少々大柄の男の人が、
「そんなに堅くなるなよ、これから一緒に冒険するんだからよ。んで、俺は〝ジン〟の民でレオ・パードってんだ、よろしく! それでもって、俺より小柄なこいつは―――」
「シオ・リャオン。私は〝コウ〟の民の者だ。知っての通り、人間(〝ジン〟)のとは外見は似ているけど、妖術やスピードには長けているんだ。えへへ。よろしく」
「よろしく」
オレは紹介された人たちに言った。
「―――あの、えっと、そちらの人は?」
「僕は、〝ミャオの民〟の者。名前はティル。ティルだけ。〝ミャオの民〟は名前だけだ。名字はないんだ」
へぇと思いながらオレは、
「よろしく」と言った。
初めオレがティルに曖昧な訊き方をしたのは容姿が猫と人が混ざった様な姿をしていたからだ。他にもこう言った民の人々がいるんだろうか。
「あ、そうだ。オレは使木族と〝掴〟を今日交わしたんだ。紹介するよ。コログ」
俺は言い終えた後、『樹送楝互』と唱えた。
「ガヤ! オイラの名前はコログだガヤ。ヨロシク!」
みんなは笑顔になりながら挨拶するとサーネルが「みんなも〝守護〟を出して!」
オウ! とみんなが声を出すと一斉に言葉を唱えだした。
テーブルの辺りに一直線に光を帯び、それが膨らんでその塊となり何かの形を形成した。
それぞれ、動物のような形をしている。鹿みたいのやら、上半身が犬で下半身が栗鼠で尚且つ鷹の翼を持ち魚の蛇の鱗を生やした生き物などが出現した。ナーラが初めに口を開いて、自分の〝守護〟を紹介した。
「私の〝守護〟はフィル族。このコの名前はルディラ。木術と火術が得意で私をサポートしてくれるの」
そう言い終えるとサーネルは鹿のような姿をしたルディラの喉元を人差し指と中指を使って優しく撫でてやった。ルディラはとても気持ち良さそうな顔をした。
「次に私の〝守護〟を紹介しよう」
シオはそう言って犬と栗鼠に鷹の翼と魚の鱗を持つ生き物を手招きした。
「こいつの名はティフ。グラスィアス族。水術が得意だ。その上とても賢い」
彼はそう言い終えると俺はニィッと笑いかけた。
「木術に火術に水術か……。とても強そうだな。ティフは逞しい感じで、サーネルのルディラも可愛いなぁ。あっ、その〝守護〟は誰のだ?」
オレが指さした〝守護〟は猫に蝙蝠の翼が生えていて魔法の杖を持っている。すると、サーネルが、
「そのコはレオの。ゴッツイ体格と顔には似合わない、こんな可愛い〝守護〟を連れているなんて……笑える」
サーネルがハハハと笑った。
「おいおい、そんなに笑わなくてもいいじゃないか。何一人笑いしているんだ」
レオは一言ツッコむと話を続けた。
「俺の〝守護〟は回復術が得意なんだ。見かけによらず頼もしいだろぉ……イッテ」
多分、見かけによらないの所でムカッとしたんだろなぁ、その〝守護〟はレオの指先に噛み付いた。レオはヒィーと言って「スマン見かけによらずは余計だったな」と詫びた。
小さなその〝守護〟は小さな首をカクンとした。どうやら許したみたいだ。
「そう言えばこのコの名前は?」
「あぁ、言い忘れていた。スマン。彌流族のキャメルだ。触るか?」
「うん」とオレは答えた。
レオの手に乗ったキャメルをオレは両手で受け止めた。
そっと撫でて「よろしく」と言うと「キルルッ」と嬉しそうに喉を鳴らした。感触はとてもふわふわしていた。
ふと前を見ると、1・2・3……あれ、人数はオレを抜いて4人なのに〝守護〟が3種しかいない。ティルのは?
「ティル、あの、〝守護〟は? ティルだけ居ないんだけど」
ティルはフッと笑いかけて、
「僕は〝ミャオ〟の民なんで〝守護〟は持たないんだ。この身一つで、て感じさ。……ウーグは知らなかったの?」
そう問われてオレはどう言おうか一瞬迷った。
「それは」と答えようとするとコログが、
「ウーグはいせ―――ガヤ……」
オレは慌ててコログの口を手で思いっ切り塞いだ。
異世界からやって来たなんて言えない。
「オレは名も知れない土地で育ったから、そう言ったものはあまり知らないもので」
「へぇ、それでなんだ。納得。じゃあ、僕がサーネルやレオのように〝ジン〟の民に姿を変えられることも知らないのかな?」
「えっ、変えられんの!?」
「うん、そう。後で変えた姿を見せてやるよ」
「うん、是非」
人が姿を変えることが出来るなんて夢のようだ。
みんなはオレの事を少し怪訝そうなにしたがすぐに微笑みかけてので自分も同じようにした。
少し間が空いてからサーネルが、
「よぉし、おいしい食べ物でも注文するとするか」
と告げた。全員が、「オウ!」、「イエーイ」や「あぁ」と言って応じた。
サーネルは店員を一人呼んで、ステーキやサラダやスープに、煮物やら揚げ物やらなどを注文した。オレは、「そんなに頼んで大丈夫なのか」と彼女に訊くと自信満々で「大丈夫、大丈夫」と踏ん反り返った。
数分後大きいテーブルの上には、豪華な料理が乗せられた。
サーネルが葡萄酒を全員に注ぐ。
そして全員が立ち上がって、サーネルが音頭を取る。
「それでは新たなるストークキャラバンズを祝して……」
「乾杯!」
みんな一斉にグラスをカンッと良い音を響かせぶつけ合った。
(やっと仲間が出来た。城の中じゃぁこんな事も、普通に喋り合う事も出来なかったのに。だけど今こうして、現実にある!)
オレはひっそりと下を向いて一人で感動していたらティルに、
「ほらほら、下を向かずにみんなと喋ろうぜ」
そう言って、手に持っていた皿の上にどっさりと物をつぎ、それをオレに渡した。
「ほい、どんどん食べて。会は始まったばかりだ」
「うん!」
ハハハとオレは笑い、渡された料理を手に取りフォークやナイフやスプーンを使っていつも通り丁寧に食べた。
みんなで笑い合い、騒いだりするのって本当に良いものだと意中で呟いた。
今度はティルが音頭を取って、オレ以外みんなで彼らの今までの冒険記やエピソードに笑い話しをした。
そう言えばと思いオレは彼らにとある質問をした。
「質問があるんだ。その話の女の子なんでこのキャラバンを去ったの?」
するとほろ酔いして来たティルはワインを片手に応えた。
「もともと居たその彼女はもっと強くなりたいという希望があったから僕達のストークキャラバンを抜けて一人旅に行ったんだ」
「一人って止めなかったの」
「声はかけたけど、彼女本人の意思が強くて。けれど、別れたとしても何時かまた何処かで逢えるだろう」
「そうなんだ」
それにしてもどんな人なんだろう?
「だからその埋め合わせに、と言うのは失礼だけど新たな仲間が必要だったんだ」
オレはその話に頷いた。
「仲間に入れてくれて嬉しい」
「うん、僕達もだよ」
シオが「質問」と手を挙げて言った。
「どうして〝使木族〟のコログと〝誓契〟出来たんだ? 使木族はめったに人目に姿を出さない上に、〝守護〟になりたいと思わなかったらしいのにどうして?」
「えっ」
オレは知らなかった。使木族ってそんなに珍しい生き物だったんだ。コログ本人は何も言ってなかったけれど。
「オレが野原で気を失っている時にコログが見てイタズラでオレに幻術を掛けてきて、まぁ。成り行きでというか、冒険するにも一人じゃあ心細かったし、それに助けてくれた恩人だから〝守護〟なったんだ。だから〝摑〟―――〝誓契〟を交わしたんだ」
「へぇ、そうなんだ」
シオは言った。また彼以外の人も同じようなことを口にした。
レオはコログに視線を向けた。
「じゃあ、〝守護〟になりたいと思ったんだ?」
「ガヤ、それは―――」
コログは何処から話を切り出そうかと迷った。
「それは、ウーグが単純におもしろいヤツだったからガヤ。それに、ウーグには他のヤツらには持っていないモノを持っていたからガヤ」
「そのモノというのは―――」
「それは―――」
コログの口が止まった。と言うよりオレが止めさせた。物凄い凝視で。
「あーいや、それはダナ、オイラは使木族だから目に見えないモノを食べたり、感じたりできる種族という事を知ってるガヤ? それでウーグが持つモノが他のと比べて良いモノだったからガヤ。もういいガヤか?」
コログはぬっと顔をレオに突き出して彼に近寄った。
「あ、うん。判った。ありがとな」
レオは一応納得したようだ・
オレは多分レオが意味を判ってないんだろうなと思った。
……それにしても、オレが異世界から来たものです。しかも『王子』ですと言える筈もない。第一信じないだろう。
その話を終えると、再び別の話を始めた。会が終える頃には、窓硝子から覗く外界は黄金色の光を帯び空一帯を反射していた。
「それでは会を終わりま~す。みんなお疲れ様~」
とサーネルが会を終えさせた。オレも含めてみんな拍手をした。
とても楽しかった。
テーブルでお会計している時に
「今日はもう遅いし近くの宿で泊まるとしますか」
とサーネルが言った。
「おう!」と言う声が上がった。
サーネルとオレが領収書を見ると25845ガルドと記されていた。その金額を見てサーネルは「みんなゴメン。注文しすぎたみたい」と笑いながら言った。
(だからオレが言ったのに)
とオレは意中で思った。
「で、足りるの?」
ティルがサーネルに訊いた。
「足りるには足りるけど宿泊日3泊分と食費が少しぐらいしか手元に残らない」
「まぁ、それぐらいあれば何とかなるだろう。会だったし、いいだろう」とレオが言った。
「明後日辺りに〝任務〟をこなして報酬金を貰えればOKだ。」
とシオが陽気な口調で言った。〝任務〟はクライアントを収集しキャラバン達に仕事提供する施設があってそこで仕事つまり〝任務〟出来るようになる。難易度は色々あって内容は多種多様。難しい程報酬が高いが報酬も高い。逆に易しいもの程報酬は高いが、左程危険ではない、とシオが補足した。
「サーネル、店員の方が困っているから取り敢えず代金の方を……」
「あっ、そうだ」
サーネルは店員に代金を支払った。
店員は綺麗な声で優しく、
「ありがとうございました。またのお越しを」
と言った。
オレ達は一度外へ出た。店のすぐ横に塊った。そしてその時〝守護〟達を元に戻した。またコログを腕に宿す時にコログから聞いたのだが〝守護を〟元に戻すことを〝帰還〟と呼ぶと教えてもらった。
「そう言えばティル、その容姿で街を歩くと目立たないかな」
とオレは訊いた。
「あぁ、そうだな。それじゃあ〝転身〟するとすっか」
とティルが言った直後彼の姿はやわらか光に包まれてゆっくりと背中、両足や両足が順に変化していき、顔と身体が同時に〝ジン〟の民の姿へと変わっていった。光がゆっくりと消える頃には、猫の様な姿をした者は居なかった。代わりにその場には白がかかった銀髪の短髪でスラリとした顔立ちで細身の身体つきをした男が立っていた。
オレは思わず目を疑った。
「どうだ、この姿を見て」
「わあー、凄い恰好良い! 本当にティル? すごい」
オレがそう言うとティルは笑いかけながら、
「ただこの姿だと本来の力が本領発揮できないし、ちょっと動き辛いんだ。それに〝転身〟には少し時間がかかるのが欠点なんだ。その代わり利点もあるんだけどね。あと別にこのままの姿でいるヤツもいるけれど個人的に僕は目立たないからこっちの姿の方が好きなんだけどね」
と説明した。
オレはティルの〝転身〟を見て〝ジン〟の民に変化するまで5秒程かかっていたな、と思った。
「良いなー、他の姿に変身出来るなんて」
「へへ、うん」
オレは彼に訊いてから身体を触らせてもらった。
優しさと安心さを感じるティルの雰囲気はオレのこれからに対して感じる不安を和ませてくれた。
さて、とサーネルが切り出して、
「今日の宿はここから500mの位置にある『ヴァーン』という店にするよ。前にも何回か止まったことがあるんだ」
「へー。どんな所?」
「外観がかまくらの様な形でね、色はパステルカラーのオレンジ色で和む宿なんだ。あと更にいいのが宿泊代と食費合わせても一人560ガルドで安い割にはかなり清潔の店なんだ。料理も美味しいし」
「いい所そうだ」
「うん。それじゃあみんな行こう!」
「おう!」
みんなは和やかな足取りで宿へと向かった。
道中歩きながら、「明日はウーグがどれだけ出来るかその力量を見せてもらってもいいかな?」
「はい、勿論」
まだ初日だけれど絶対いい冒険が出来る。と強くそう思った。




