第10話 壊れて狂って魂売って
「これを知っているのですか?」
詩織ちゃん先輩が嬉しそうな顔をする。
「知っているも何も、目立が今年出したばかりの最新鋭にして最高最強の加工機械じゃないですか! プログラム次第でありとあらゆる加工が可能! 超微細領域まで判断出来る5種のセンサーでありとあらゆる仕上げが自由自在! 小型部品製作から試作品の少量生産までお好み次第! しかも操作はCADから図面を送るだけ! こんなとんでもない物が魔技高専には入っているんですか。あなありがたやありがたや……」
緑山がいつもの状態を通り越して、暴走し始めた。
「そんなに大層なものなのか、これ?」
「これ1台で今までの工作機械の歴史が変わった、とまで言われる程の革命機だぞ! 強いて言えば1台あたりのコストが高すぎるのが欠点という位だ。確かマルチアーム2本の最小構成で2,000万弱だったと思うが……」
アームがうじゃうじゃついているよな、これ。
「へへへへへ、これは私と親父の私物なのですよ。フルオプション付けてアーム数最大にしてセンサも追加を全て付けたのです!」
「二十三区に一軒家が買えるじゃ無いですか、そんなの。個人で買える代物じゃ無いですよもう。まったくけしからん、でもうらやましい。こんなの使わせてくれるなら、もう死んでもいい……」
完全に緑山が壊れている。
大丈夫かこいつ。
「別に私や親父が使っていなければ、使ってもいいのですよ。工作機械など、使ってなんぼのものなのです」
「本当ですか!」
何かもう、緑山のテンションが怖い。
「ただここの工房の機械を使うのは、一応ここの会員でないとまずいのです。それでよければ問題ないのです」
「なら会員でもなんでもなります。フリーメーソンでもイルミナティでもゴールデン・ドーンでも何でもかまやしない。悪魔に魂を売ってもいい!」
「なら問題ないのです。1名確保なのです」
いいのか緑山、そんな工作機械で簡単に会員になって。
まだ活動も何も聞いていないだろ!
「そうだ、鋼材を見せて貰うんだった」
緑山、少し正気に戻ったらしい。
「そうでした、こっちなのですよ」
詩織ちゃん先輩が更に工房の奥に案内する。
そして昨日も使った棒状の鉄を手に取った
「この鋼材なのです。厳密に言えばこれは刃の部分用なのですが」
「持ってみていいですか」
「大丈夫なのですよ」
詩織ちゃん先輩は鋼材を緑山に渡す。
緑山は受け取ると、右手の人差し指でゆっくりと表面をなぞった。
「これは……どこの鋼材ですか。とんでもない代物です。マルテンサイトの何ミリだ、多分ナノメートル単位の超微細結晶になっている。とするとこっち側が刃になるよう作ればいいのか。でも熱加工でこの微細結晶が小さいままでいられるのか……」
「検定魔法を使えるですか。だとすれば大変助かるのですよ」
「使えるという程じゃないです。指で触った範囲がやっとという程度で」
「ならちょうどいい道具があるのですよ」
詩織ちゃん先輩は、金属製の登山ステッキっぽいのを取り出す。
例によって、どこに持っていたかは不明だ。
「ではお借りします……って何だこりゃ!」
また緑山が壊れた。
「何なんですかこの凶悪な増幅器は」
「増幅器って何だ、緑山」
訳がわからないので聞いてみる。
「この場合は魔法の増幅器だ。さっきまで吾輩の魔力で鋼材の材質を調べていた時の様子が百円ショップの懐中電灯の光なら、これを使えば球場のナイターを照らす巨大照明位になる。こんなものが特区にはあるんですか」
「残念ながらこれは、特区でも禁制品扱いなのですよ。なのでこっそり個人保管しているのです」
詩織ちゃん先輩はそう言って、いたずらっぽく笑った。




