#3 ネガ
酸性雨が過ぎ去って、ホログラムの鳥が朝を告げる。
ネオン街の上では重たい雲が空を支配している。
ネオンの輝きは耐えず演出されている。
白い部屋…点滴…遠い声…
そして痛み。
研究所で苦しんでいる夢を見た。
フィーリオは飛び起きた。
冷や汗が頬を伝い、毛布に落ちた。
…まただ。
フィーリオは窓の外を見た。
ネオンが建物の向こうで煌めいていて、人の声や広告の音が聞こえて来た。
(…綺麗。)
フィーリオは初めての朝を輝く目で見つめていた。
フィーリオは立ち上がり、
昨日の人達が居ないか確認しようとドアを開けた。
冷たい色をした廊下の壁が、人の過去が刻まれているからか暖かく感じる。
瞼が重い。 …眠い?
リビングに来た。
「フィーリオじゃん、おはよー!」
クリスが寝癖が付いた髪を下ろして、 挨拶した。
「おはよう…?」
朝の匂いや、軽い感じが新鮮だ。
「寝れたか?ガキんちょ。」
相変わらずなジェイスが無愛想に言う。
「うん...何回か起きたけど、元気。」
ノアが半分寝ているように壁にぶつかりながらリビングに辿り着くと...
ソファに倒れ込んでグーグーとまた寝始めた。
「傷が広がるんじゃねぇか...?寝て..」
ジェイスは言葉を途切らせた。
「は...?傷は...?」
ジェイスはフィーリオの腕を確かめた。
フィーリオの身体には、傷一つ付いていなかった。
昨日には、確かに酷い怪我をしていたはずなのに。
血塗れで倒れていたはずなのに。
「治った。」
フィーリオは真顔で答えた
「は!?」
一方、クリス、ジェイスは大声で驚いて言った。
「だって...治してくれたでしょ...?」
「...普通傷が治るのは遅ぇだろ?」
ジェイスは何か嫌な予感がした。
研究所...拘束衣...子供。
こいつは人じゃ無い。
「なるほどね」
無気力で落ち着いた口調でノアが言った。
「ノア...いつから起きてたんだよ...」
クリスが聞く。
「は?!って声でビクってなって起きた」
「...すまん。」
クリスが苦笑した。
「フィーリオ君...君、半ネガでしょ?」
フィーリオの顔が切なげに俯いた。
ノアの視線ががフィーリオを貫く。
「研究所が研究している、ネガ粒子の塊の生物兵器。それと人間を融合させて...完璧な兵器を作ろう、ってやつ...」
「クッソ...研究所...相変わらず気持ちわりぃことしやがって...」
クリスが眉を顰めた。
ああ...まただ。
結局どこに行っても僕は化け物なんだ。
ネガのままなんだ。
「ごめんなさい...気持ち悪いよね...人間でも...ネガでも無い...化け物なんて...嫌なら...出てくから...」
フィーリオの顔は辛そうだった。
「フィーリオが可哀想だろ!」
クリスがイライラした口調で頭を掻きむしった。
ジェイスが煙草を探すように
ポケットへ手を入れて、
何も入っていないことを思い出して
舌打ちした。
「フィーリオ...ネガでも人間でもないから何だ」
クリスがフィーリオに微笑んだ。
「つーかさ、ネオン街なんて変な奴しかいねぇよ?
今さら半ネガ一人増えたぐらいで驚かねーって!」
「いや私は驚いた。フィーリオ君、勘違いしてたらごめん。確認したかった。」
ノアが真顔で言う。
「半ネガで逃走してきた...ってことは、保護対象ってことだよなぁって思ってさ...仮説が正しいのか知りたくなっちゃって」
「え...?」
フィーリオは驚いていた。
「せっかく逃げて来て自由になったんだったら、ずっとこのままがいいでしょ?」
……怒鳴られない?
……気味悪がられない?
なんで...?
フィーリオはポカンとしていた。
ジェイスがフィーリオを見る。
「...フィーリオ。安心しろ」
「...この部屋に人間らしい奴居ねぇから。」
ジェイスが真顔のまま言った。
「みーんな何かしらの訳ありでここに居るんだ。だから...ネガが1人混じっててもおかしくねぇんだよ」
「じゃあ...ここにいてもいいの...?」
フィーリオは訊いた。目がネオンを反射して輝いたのを、誰にも気づかれなかった。
「当たり前だろ!」
クリスが笑った。
「可愛いフィーリオは私が守ってやるぜ!」
ノアがサムズアップした。
「...お前の部屋は...お前が寝てた所にするつもりだ」
ジェイスが無愛想に言った。
「みんな...ありがとう...」
フィーリオは嬉しそうに少しだけ微笑んだ気がした。




