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ふたりだけのヤマアラシ

「やっぱり、ジレちゃんは強いね……」


 弱々しくエミールが笑っている。

 木刀を投げ捨て、エミールの傍へ駆ける。

 崩れ落ちる瞬間、抱き留めた。身体中傷だらけのエミール。身体だけではない、心も。

 私は強く抱きしめる。


「いたっ」


 エミールの顔が苦痛に歪んだ。

 すぐに力を弱め、エミールから離れようとした。

 だが、私の背に回った手が、私とエミールを離さない。


「離れないで……」


 背中に当たるエミールの手は、小刻みに震えている。

 私の一撃で、この手は折れているはずだ。けど、


「痛いの抱きしめられると、とても痛い……けど、抱きしめて」


 私はエミールを抱きしめる、強く。


「ジレちゃんのことが、本当は憎いよ。レメウス様を自分だけのものにしちゃったんだもん」

「エミール、私は……」

「まだ言いたりない。ジレちゃんを見てると、すごく痛い、苦しくなるの。だって、ジレちゃん、レメウスさまに似てるんだもん」


 エミールの手に力が入る。


「でも、私、笑うことにしたの。ジレちゃんを見て、にこにこするの。それがジレちゃんを苛立たせてたのは知ってた。でも、笑うの」

「どうしてだ?」

「ジレちゃんが、好きだから」

「……エミール」

「憎いのに、好きっておかしいよね……けど、本当にそうなんだよ。だから、ジレちゃんといると、憎いのと好きが混ざって痛いの……なんでかわかる?」


 ああ、分かる、分かっているよエミール。


「レメウスさまと、もう会うことが……できない……から」


 その言葉が私の鎧を壊した。


「ジレちゃん、私、一緒に泣きたかった! 悲しみたかった! 一人じゃ泣きたくなかったよぉ、痛くて、痛くて、死んじゃうくらい、痛かったんだから……」


 私の瞳から涙が零れ落ちた。


「すまないエミール……ごめんなさい、お兄様」


 ああ、こんなにも辛い、こんなにも――傷ついていたんだ。


「私も、痛い……」


 強く、強く、抱き合う。

 二匹のヤマアラシは寒空の下、お互いの身体を寄せ暖め合おうとするが、身体から生えた針で傷つけ合ってしまう。だから、ヤマアラシは針の無い頭を寄せ合い、傷つかないように寄り添って生きる。


 私には、そんな器用なことはできない。

 だから、きっと、これからも誰かを傷つけ、誰かに傷つけられてしまうのだろう。

 でも、痛みの中に気付いたこともあった。

 

 一人ではない。

 

 私、一人で、痛いんじゃない。

 寄り添い合い、その中に温もりがあることを知った。

 きっと近づけば近づくほど針の深さが増し、いつかその針に壊されてしまう日が来るかもしれない。

 私は、エミールをいつか失ってしまうかもしれない。

 けど、だけど、

 

 ――脚が絡まっても踊り続ければいいんだよ 

 あの時を思いだそう、兄様とエミールと私、三人でワルツを踊ったあの日を。


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