表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

理想の街 三日目の夜

 その日の夜、パパは、ママと長い電話をした後、ちょっと疲れたように長いため息をついた。

「ママはいいって?」

「もちろんだ。」

 それからパパは飲み物に口をつけた。私が思うに、たぶん気分転換をしたかったんだろう。ふいに私になぞなぞを出してきた。

「二人でいると喜びが倍になるっていうの分かる?」

「それってなあに?」

「例えば一人にいいことがあったとする。一人が喜ぶと、隣にいる相手もそれを見て自分のことのように喜ぶ。だから二倍だ。」

「自分が喜んで、相手も喜ぶ。だから二倍。うん、分かるよ。」

「相手が喜んだのを見て自分もさらに喜ぶ。それを見て相手もまた喜ぶ、それを見てまた自分も喜ぶ。じゃあ結局、喜びは何倍なんだろう。」

「こだまみたいにずっと続くんだね。」

「喜びの数はきっかけの一つ、それを二人が受け取るから二になって、それぞれの相手の喜びで倍、だから本質的には四倍だと思うんだ。」

 私は頭の中で喜びの数をイメージしてみようとしたけど、どうもパパのスピードに追いつかなかった。

「ふうん。」

「何か喜びがある。それで喜んだ相手を見て、自分もまた喜ぶ。それって繰り返しで喜びが増えているように思えるだろう。でも、そうじゃないんだよな。一つのいいことがあった喜びが二つ分、その喜びを手にした相手を見て新しい喜びで四つ分。そこまでさ。喜んでいる人っていうのは二人だし、喜びの種類は二つなんだから。」

「そうだね。」

 私がすでに理解するのをあきらめていて適当に聞き流す。私が興味を持たなかったことで、パパは何かを発見したように言い出した。

「ハナちゃん、あんまり理屈っぽいの好きじゃないだろう。」

 私はさんすう病なのに、と頭の中で思ったけど、私が何か言うより早くパパの話が続いた。

「わざと好きになろうとしてるのかな? 人の心とかが簡単な数字だったらどんなに楽だろうって、無理やり当てはめようとしているだけなんじゃないかな。」

「私、ママにはよく理屈っぽいって言われるわ。」

 そこでようやく私が口を挟んだけど、パパはお構いなしに話を続ける。

「人が嫌になったから数字を好きになったふりをする。でも、本当に数字が好きなやつもいるからさ。結局、何かにしっかり向かい合わないといけないんだよ。ちょっと視線を変えたくらいじゃ、一休みできるくらいさ。」

「なんの話か分かんない。」

「簡単さ。しっかり向き合えばいい。とことん嫌いなら嫌いになればいいさ。痛いのに痛くないふりしたらいけない。厄介ごとに立ち向かってもいいし、たいした話じゃないと本当に納得できれば、放っておいたらいいんだから。」

 パパが言っているのはきっと学校のことだ。学校での嫌なことを、私にもっと考えてほしいんだろうか。それとも、放っておいた方がいいってことだろうか。今日のパパの話はちょっと意味が分からない。

「例えば、あのおばあちゃん。あの人が不安定な理由があるはず。それを見つけてごらん。」

「・・うん、そう考えてみるのもいいかもね。」

  私はその場をごまかすためにそう言った。おばあちゃんが不安定な理由、それはアリジゴクの絵本が図書館にないからに決まっているのに。だけど、そのことをパパに言うのは勿体ないと私は思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ