1.問題児の初異世界
強烈な突風が頬をたたく。落ちているように風が体をうつ。
自分はベッドで寝ていたはずなのに、その違和感に気づき目をあける。
「寝起き早々のフリーフォールはきついんじゃないかな」
初めに目に入ったのは青くきらめく大海原。次に入るのは青々とした大陸。
今自分は大空を飛んで、否、落ちている。
「はぁぁ。なんだ今度は。誘拐されて空に落とされたか」
この男。突如大空に投げ出されたというのにこの冷静さ。狂っている。
段々と自分が落ちている地点がわかる。
街の様なものがあり、その周りは平原がある。
その一箇所に黒い点々が集まっている。よく見れば人間だとわかる。その中で一際存在感を放つものがあり、周りの人間と比べれば途轍もない大きさなのがわかる。
全長約12、3㍍はあり赤黒い鱗で覆われた蜥蜴によく似た、けれども蜥蜴からかけ離れた姿をする者。
所謂ドラゴンというものだろう。
「まさかここ異世界か?あんなもん地球じゃ見なかったよな。まぁそうだとしても転移早々のドラゴンとか……チュートリアル忘れてんぞ」
そんなことを言いながらも未だ落ちる。
「そうだな……飼うか、ドラゴン。赤黒いドラゴンかっこいいじゃん」
地面まで残り100メートル。七夜は体を起こし着地に備える。
「どっこいしょ!」
そんな気の抜けた声とともに地面に着地する。
直径13メートル程のクレーターができたが七夜にはダメージは一切ない。何故だ。
ドラゴンも人間たちも急に空から降ってきた七夜に驚き呆然とする。
まぁそんな中でも七夜には関係ない。
「なぁそこのドラゴン。お前ドラゴンであってるか?」
「………」
「もしかして喋れないのか?それとも俺の言葉の意味がわからないのか?おい、聞こえてんのかそこの赤黒いドラゴン」
「…あ、あぁ。我はドラゴンだが……」
「お、喋れんじゃん。なぁお前俺の物にならね?」
「お、俺の物?それは我と契約をするということか?」
「契約か…よくわからんがそんなとこだと思う」
「そうか……だが今はあいにく先客がいるのでな。奴等は我を殺したいらしい。だからその相手をしないといけないのだ」
「なんでだ?なんかしたのかお前?」
「我が人間などにちょっかいを出すはずがない。人間などに興味はないからな。大方名誉が欲しいのだろう。ドラゴンの討伐というな」
「はぁん、それd…」
ドラゴンと話していると鬱陶しい金切声が聞こえてきた。
「き、貴様ぁぁぁ!こ、この私がそいつに目をつけていたのだ!よ、よこ、横取りは許さんぞ!おい!お前ら!そ、そこのが、ガキをぶち殺せぇ!」
声のする方に目を向けると豚がいた。キンキラキンに輝く宝石をジャラジャラつけ、似合いもしないカラフルな服を着て頭髪に至っては、ほとんど無く残った髪をベトベトの油でなでつけている。
「なんだあの豚?」
「あの豚は我を殺そうとしたこの街の領主、ブータン・シュバインだ」
「きもっ。テカってて脂ぎってて……精神衛生上よろしくないな」
「お主面白いな。我に物怖じせず、領主と言うのに罵倒を浴びせる。ただの馬鹿なのかあるいわ」
「相手が領主だろうが王様だろうがどうでもいいさ。俺が不快になった、それで十分」
「どうするのだ?」
「ん?どうするって殺すって言われたんだからぶっ潰すよ」
「この数はきついのではないか?」
その場には100人程武装した奴がいて他には1,000人ほど農具を手にしたど素人とわかる男衆がいる。
「これだけでお前殺ろうとしてんだろあの豚は、馬鹿だろ。あと俺にはこれじゃ足らんぞ」
「我もそうとしか思えん」
そう言って1人と一体で豚を見る。未だキーキーうるさい声を上げている。
「こ、殺せぇぇぇ!こいつらは絶対ころすのだぁぁぁ!」
その声を合図に武装兵が農具兵を盾に前進する。農具兵は無理やりやらされている様だが武装兵は全員嬉々としてやっている様だ。
「見た限り農具兵を殺る意味は無さそうだ。んじゃ殺るのは武装兵とあの豚だけだな」
そう言った瞬間、七夜が消えた。七夜がいた所から空気が破裂する様な音と強風が吹く。
次に聞こえたのはドサドサっと何かが倒れる音。農具兵は驚き後ろを振り返る。其処には首が切り離された死体と武装兵が持っていた剣を持つ七夜だけだった。
「は?」
その気の抜けた声はドラゴンから発せられたものだった。
(な、なんなのだ!今の動きは。わ、我でも残像しか捉えることができなかっただとっ
……)
七夜がしたことは簡単だ。走って1番前の武装兵から剣を奪い武装兵全員の首を切っただけ。
その光景に誰もが思考を止めさせられた。が、その事をも理解できない馬鹿が1人いた。
「な、何をしておる貴様らぁぁ!さっさとそのガキと蜥蜴をぶち殺せぇぇ!」
その言葉に誰も動かない、動けない。ついさっき驚異の強さを見せた七夜に攻撃を仕掛けるなどただの自殺行為だ。
「な、なにを、なにをしているのだぁぁ!さっさと殺せ!さもないと貴様らの大切なものがどうなるかわかっているのか!」
あーね。
「どうなるってんだよ」
豚の腕を切り落とす。
「ギギャァァァアァァァァァァ‼︎‼︎‼︎」
豚は腕を押さえながら地面を転がる。
「いだいいだいいだぁぁい!だ、だえが!ぢゆ、ぢゆまじゅずをがげでくでぇぇ」
「うるせぇよ」
豚の足に剣を突き刺し地面と固定する
「ウギャァァァァアアアアァァァァァアァァァ!」
「うるせぇっつってんだ」
突き刺した剣をグリグリとする。
「グアッぎゃいやっ、や、やめでぎれぇ。いだいぃ、あじがぁぁ」
「てめぇもこう言うことしてんだろ。今までやってきたのが帰ってきただけだ。むしろこれで済んでんだから我慢しろ」
俺は豚を放置して農具兵の方に向く。
「おい、お前ら人質でも取られてんのか?」
「…そいつに3歳の娘を…」「私は妻を……」「病気の姉を…」などと最低にも程がある。子供から赤ん坊、病人や更に身籠っている人をも無理やり捕まえたりとまさに外道。
こいつを豚などといった事を謝りたい。豚に。
「おい汚物」
汚物で十分だ。
「貴様は……死刑な」
「え"?」
汚物の首が飛んだ。
「よしお前らついてこい」
農具兵に命令する。
「大事なもん取り返すぞ」
『お、おぉぉおおぉぉぉ!』
俺は農具兵1,000人を背後に引き連れ街に向け歩み出した。
「我のこと忘れてるだろう」
「……なわけねぇじゃん」




