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128組の勇者達  作者: AAA
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エピローグ

「やったな」


 ようやくあの化け物を倒せた。そう思うと、充実感や達成感と共に、全身に堪え様のない倦怠感が襲ってきた。左手も思い出したように痛みを訴えてくる。


「だね。じゃなくて、その左手、すぐに治療しないと!」


「とり合えず止血はやった。後は、レティシア様に回復魔法をお願いしてみるさ」


 顔を真っ青にして慌てるコーズを宥める。

 確か、後一回回復魔法が使えるといっていた。最後、男の攻撃を防いで力を使ってるし、怪我が複雑だからそもそも治せるのか……あ、考えてたら、どんどん悪い未来しか思いつかない。

 うん、考えるのを止めよう。とにかく、レティシア様だ。

 空気を読まずにリシェルが大きく背を伸ばし、能天気な声を上げる。


「んー、とり合えず、全員無事ね。あー、疲れた。ちょっと寝るわ。後宜しく」


 文句を言う間もなく、リシェルはその場に倒れる。一瞬、やばいかと思ったが、すぐに寝息が聞こえ、ホッとする。

 俺とコーズが顔を見合わせて苦笑した。

 今日は死ぬほど、と言うか死んでないのが奇跡みたいな修羅場だったんだ。今ぐらいは寝かせてやるか。

 後処理は、俺がやるさ。


「カール悪いけど、ヒルデルカとレティシア様の様子が気になる。レティシア様の様子を見てくれないかな?」


「ああ、分かった」


 コーズはまだ体力があるみたいだ。助かる。流石にこの手で後処理を一人でやったら、死ぬかもしれない。いや、冗談抜きで。

 さて、それじゃレティシア様をお向かいに行きますか。

 俺がレティシア様の飛んで行った方向に歩き出そうとした時、突如、コーズが俺を突き飛ばした。


「何」


 するんだっ! とは言えなかった。

 コーズが刀身の折れた宝剣で、白と黒の螺旋を受けていたからだ。

 暫く、螺旋にあがらっていたコーズだが、もう、体力も力も限界だったんだろう。力を押しとどめることが出来ず、白と黒の螺旋にその身を貫かれる。


「コーズっ!」


 倒れたコーズの元に駆け寄る。

 よかった死んじゃいない。気を失ってるだけだ。暫くしたら、起きるだろう。

 もっとも、その暫くの時間を相手が許せばの話だ。


「今のは危なかったですよ。とっさに身を伏せなければ、死んでいました」


 暗闇の穴の下、地面の中から起き上がる人影か一つ。

 全身焼けただれた、化け物が居た。


「……駄目だ。もう、勝ち目がない」


 俺以外、全員意識がない。リシェルは起きるかもしれないが、そんな時間を化け物が許すはずがない。

 その上、左手を殴られた時に手放したのか。剣が、武器が手元になかった。

 ここまでか!

 くそ、くそ、くそ!

 後ろを見るが、まだ他の勇者が到着する気配はない。

 絶望的だ。

 皆が頑張ったんだ。頑張ってハッピーエンドまでもう少しだったのに、ここでバットエンドになるのかよ。

 何か? 何かないか?

 考えろ。

 必死に考える俺を尻目に、化け物が一歩また一歩と近づいて来る。その視線は俺を見ていなかった。俺の後ろで倒れている聖女様だけを見ている。

 聖女様からまだ力を吸い取るつもりだ。

 テント跡を見れば、あの魔方陣は無事だ。特殊な加工でもされているのか、それともただ運が良かったのかは分からない。ただ、化け物がパワーアップするお膳立ては出来上がっていた。

 何でも良い。俺の命くらいならくれてやる。だから、何か、この化け物に対抗する手段は、力はないのか?

 徐々に近づいて来る男から視線を外さずに、考える。

 考えて、考えて、一つ思いついた。


「あった」


 俺は両手を見る。

 あの化け物は聖女様と魔王の二種類の力で爆発的に強くなった。

 だったら、紋章と魔族の力は?

 思い出せ、思い出せ、思い出せ


 ――、一瞬、意識がなくなった


 ――頭がくらくらする


 ――体中がハンマーで殴られたように痛い


 そうだ。やれる。これなら勝てる。代償も大した事はない。

 俺一人の命だけ。

 俺が死ねば、皆助かる。


 死ぬ?


 あの暗くて冷たい場所へ行くのか。

 嫌だ! あんな所には戻りたくない。

 両手が震えていた。いや、両手だけじゃない。体中が震えている。

 勇者試験の終わり、ゴーレムの一撃を受けた俺は死にかけた。あの時の恐怖はまだ頭にこびりついている。

 傷つく事は怖くない。戦う事も怖くない。

 それは結果として死ぬ事があっても、絶対死ぬわけないからだ。

 でも、俺の思いついた策は違う。

 これは自殺と大した差はない。何故なら、俺が死ぬ事は確定条件だ。策が成功しても失敗しても、俺の命は尽きる。

 死にたくない。


 生きたい。


 生きたい。生きたい。


 生きたい。生きたい。生きたい。


 生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。


 俺は生を渇望する。この世界に一分でも一秒でも長く居たいと思う。

 浅ましい。

 だが、それがどうした。

 一度でも死に掛けた奴なら皆そう言うはずだ。あんな暗くて、冷たくて、救いのない場所に行きたいなんて、自殺志願者だって思わない。

 だから、この策はむ……


 じゃあ、皆を見捨てて逃げるか?


 軽い調子で出てきた自問に頭振る。

 そんなの無理だ。あいつらを見捨てる事なんて出来ない。

 ああ、そうだ。あいつらを見捨てられやしない。

 畜生、なら、やらないわけにはいかないじゃないか。

 ヒルデルカは俺がリシェルと協力しているのに、俺を信じてくれた。

 リシェルはただの荷物持ちの俺を裏切らなかった。それどころか、俺が人から爪弾きにされないように配慮してくれた。

 レティシア様にはいろいろ言われたけど、貴重な最後の回復魔法を俺に使おうとしてくれた。

 コーズはこの戦いで最後まで希望だった。あいつがいるから、あいつの一撃が必ず敵を倒すと信じているから、俺達は戦える。それはこれからも変わらないだろう。あいつは人間に必要な最強の勇者だ。

 聖女様を見捨てる? そんなのは論外。

 ここで躊躇っちゃ駄目だ。

 仲間の為? いや違う、これはただの商売だ。今まで皆から貰った分、対価を渡す。それだけの事だ。

 俺は荷物持ち、商人の一人だろう! だったら、商人の意地位は通して見せろ!

 自分に発破をかける。身体の震えは止まらない。だが、覚悟を通せる位、自分の心を騙す事は出来た。

 今はそれで十分だ。


「おい、待てよ、化け物」


 殆ど力が入らなくなった四肢に鞭打って立ち上がる。

 化け物が俺を睨む。憎悪に染まった瞳が、俺の心を射る。


「まだ戦いますか。虫けらどもが……」


 こ、こえぇぇ。死ぬほど、怖いが、それでもやるんだ。

 紋章、今まで欠陥だとかなんだとか言って悪かった。今だけは俺に力を貸してくれ。

 魔族の力、何で俺がそんなの持っているのかは知らない。これが最期で良い。その力を搾り出せ。

 俺の為じゃない。

 ここまで死ぬ気で戦ってきた皆の為に、皆が笑えるハッピーエンドの為に頼む。

 願い乞う。

 想い欲する。

 そして俺は紋章と魔族の力を意図的に、一緒に使った。

 圧倒的な力が全身を包む。

 まるで世界の外側まで見れるような全能感。

 これならいける。


「なぜ、貴様が!」


 驚き目を向く化け物。

 答えてやる義理はない。

 化け物が平常心を取り戻す前に地を掻ける。

 無事な右手を握りこみ、勢いをそのまま化け物の顔を思い切りぶん殴る。

 化け物の体を貼り付けたまま、俺の拳は真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ前に進み。


 それだけで終わった。


「その程度ですか」


 俺の拳は化け物に傷一つつけられなかった。勢いに負けた化け物が、後ろに押し返されただけだ。


「フン」


 化け物が軽い調子で拳を振るう。拳が俺の腹に突き刺さる。

 腹に大穴が開いたような激痛。

 俺は腹を押さえて倒れ込んだ。目の前に、あの忌々しい魔方陣が現われる。どうやら、テント跡まで押し返す事は出来たみたいだ。


「少々驚きましたが、力の量が違いましたね。私が持つ力を海原とするなら、あなたのそれは小さな池程度でしょう。その程度で私に立ち向かうとは、無謀が過ぎます」


 化け物の言う通りだ。

 そんな事は分かっていた。

 それでも他に方法はないんだ。

 だから、ここで諦めるわけにはいかない。

 俺は手を伸ばして、歩き出そうとする化け物の足を掴んだ。


「何の真似ですか。離しなさい」


 化け物が俺の手を振り放そうと、足を振る。

 くそ、ここで離されてたまるか!

 俺は痺れて握力がなくなりそうな事を隠し、余裕ぶった笑みを浮かべる。


「聖女様から二回も力を吸収した。完全に力を吸い取るには、まだ何回かやらなくちゃいけない様だな」


「それが、どうかしましたか?」


「俺もさ、左手が熱くなった後は、いつも眩暈がしたり、どっと疲れた。さっきなんて血まで吐いたんだ」


「何を言っている?」


 図星か。化け物の余裕がなくなってきている。


「最初はさ、体力がないのか、とか、威力を殺せなかったと思ってたけど、違うんじゃないか?」


「何が言いたい!」


 ああ、その荒げた声が、俺の考えを肯定してくれる。


「聖女様の力と魔王の力、二つを一つの体に取り込むのは本来やっちゃいけない事なんだろう。慣れるまで体に無茶苦茶な負担がかかる」


 そう、あの妙に余裕ぶった戦い方もそれが原因だろう。俺達を嘗めてた訳じゃない。体の負担を少なくし、力に慣れる為に必要な処置だったんだ。


「あんたも限界なんじゃないか? それ以上の力を手に入れて、体が保つのか? さっきも聖女を確保して、逃げるつもりだったんじゃないのか?」


 化け物は答えない。

 それだけで、賭けにでるには十分だった。


「魔方陣の使い方はあんたが見せてくれた。聖女の力に魔王の力、そこに紋章の力が入ったらどうなるかな」


 左手を魔方陣に乗せ、魔族の力を流し込む。予想通り、魔方陣は簡単に起動した。

 鎧の魔族やグリンの裏切りを警戒している事やこんな敵陣で使ってる事から、分かっていた事だ。複雑な手順や時間がかかるなら、裏切りを警戒する必要も、こんな場所で魔方陣を使おう何て発想もないはずだからな。

 俺の右手から力抜けていく。

 聖女様とは違い、抵抗しない俺の場合、力は急速に化け物の中に入っていった。

 右手に残っていた微かな力全てが化け物の中に吸収され、俺の中に紋章の力は一滴たりとも残っていない。

 これで、どうだ。

 俺が化け物を見上げる。


「この程度ですか」


 化け物が口元をゆがめるが、その端から血が一筋流れ落ちる。


「多少ダメージは負いましたが、まだまだ、許容範囲内ですよ」


「なぁ、紋章の力は他の生き物のを殺して手に入れるんだ。その時さ、自分の持つ力が吸収できる力の一部をふきとばしてしまう。その所為で、俺達紋章持ちが手に入れられる力は、その生き物が本来持つ命よりずっと小さいんだってさ」


 俺は化け物の足を掴む右手に力を込めると、もう一度魔方陣を起動させた。


「俺の命をくれてやる。それでもまだ許容範囲内か、化け物オオオォッォオォォッォ!!!!」


 一瞬で目の前が真っ暗になる。

 全身の皮を引き剥がされるような苦痛が襲う。


「ガガァァァァアァガガァガァァァアァッァァガガァガガァアァ」


「グヘッ、ガフッ、グフゥッ、ヘゲッ」


 俺と化け物の悲鳴のデュエットが子守唄の様に聞こえてきた。

 まだ、まだ、足りない。全部だ。全部、だせ!

 女の子の声が聞こえた。


『それだと死んじゃうよ?』


 構わない。ここでやらなきゃ、皆、皆、殺されるんだ。そんなの許せるか!


『でも、全部出しても、多分、届かないんじゃないかな? 相手は残って君は死ぬ。犬死だよ』


 それがどうした。いいから全部出せ!


『何言ってるの? もう、君は全部出したよ』


 気付けば、全身を襲っていた痛みは消えていた。

 体中の感覚がなく、右手が化け物を掴んでいるかどうかすら分からない。


「は、ハハハハハ、今のは焦りましたよ」


『ほら、殺せなかった』


「ですが、私を殺すには力が足りませんでしたね」


『そうそう、君程度の力で内部崩壊は無謀だったね』


 ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ


「なにが可笑しいっ!」


『何で笑ってるの?』


 化け物も女の子も検討違いな事を言ってやがる。

 最期の命を使って、俺は唇を動かす。これだけは、きちんと化け物にも言わなきゃいけない事だ。


「俺は、荷物持ちだぞ。魔族や化け物に勝てるわけがないだろう。

 とらわれたお姫様を助けるのは、勇者の役目だ。

 俺は精々、皆が戦えるように、準備するだけさ」


 遠くで勇者が立ち上がる気配を感じた。

 気配、何て言うと胡散臭いが、予感でも予想でも何でも良い、とにかく俺が言いたいのは、この状況、この場面で立ち上がれない奴を、俺は最強とは認めてない。


「カール、やっぱり君は最高だよっ!」


 コーズ、後は頼んだぞ。

 声にならない声で、最強に呼びかけると、俺は意識を手放した。


『ああ、また外れちゃった』


 女の子の残念そうな声が体の中を反響する。


~荷物持ちと魔族の力と欠陥紋章~   完



~エピローグ~


 一面に広がる草原に一本、北まで真っ直ぐ続く街道が伸びている。

 背中に荷物を大量に背負った俺は、時折流れる風を唯一の涼として、歩いていた。


「とり合えず、全面戦争は回避できたわね、カール」


 隣を歩くリシェルが言った。

 手ぶらで身軽そうな格好が恨めしい。畜生、こっちが荷物持ちだからって、全部持たせやがって。

 文句はあるが、代わりに護衛をやって貰っているので、言うわけにはいかない。襲ってくる野党や魔物の大半がリシェルの所為だという事は、この際、目をつぶっている。


「ああ、聖女様が俺達の働きを認めてくれたお陰だな」


「後は、レティシアも存外、義理堅く擁護してくれたしね」


 俺は黙って頷く。

 実際、聖女様を助けたはいいが、俺達は半死半生ばかりで、当てにしてた魔族の補給もなかった。俺の話した聖女様を六日以内に都市ソワールにお連れする案は、完全に失敗していた。

 レティシア様の取り成しがなければ、勇者と一緒に援軍に来た信徒の方々を説得できなかっただろう。

 それと援軍に来た勇者達が倒した魔族の補給を拝借していた事と、近隣の狩人を道案内役に連れてきていた事がラッキーだった。

 あの二つがなかったら、期日以内に聖女様を都市ソワールにお送りする目処が立たなかったからなぁ。


「それで良かったの? あのまま巡礼についていけば、それなりの賞金や地位をもらえたと思うわよ」


 確かに、聖女様とレティシア様は、俺に相応の礼をしたいと言って下さった。駆けつけてくれた勇者達に後を任せる最期まで、そう言って下さっていた。きっと望めば、一生遊んで暮らせる位の金が手に入っただろう。

 だが、それはやっちゃ駄目だろう。


「良いんだよ。魔族もどきになった俺が人間の中にいるのはまずいだろ?」


 そう、人間としての俺は死んだ。命を全部あの化け物にくれてやって、化け物を殺したのはコーズだ。俺のところに命が戻る道理はない。

 代わりに今、俺を生かしているのは左手に宿る魔族の力らしい。魔族の力によって生きる。正に魔族そのものだ。

 だけど、心も生まれも人間の俺は、人間としても魔族としても中途半端、魔族もどきが相応しい。

 そんな半端ものが人間の中にいていいわけがない。


「それじゃどうする気? このまま私と一緒に来る」


「いや、お前を魔族の勢力圏まで送り届けたら、人間に戻る方法を考えるさ。幸い当てはあるしな」


 リシェルの誘いを断る。

 そう、人間に戻る当てはあるんだ。一つづつ試してみるさ。


「ふーん、そっかー。その当て、て?」


「一つは紋章の力として命までも吸い取られたんだから、大量の力が紋章に入れば回復するかもしれない。

 もう一つは、前線に知り合いの僧侶がいるんだ。凄腕の僧侶だから、なにか知ってるかもしれない」


「なるほどね」


「お前を送り返す為にも、当てに会うためにも目指すは北だ」


「それじゃ、もう暫くの間よろしくね、カール」


「ああ」


 遠く、人が掠れて見えるよりも遠くまで伸びる街道。この道の先に目指すものはある。

 この魔族との付き合いはまだまだ長くなりそうだ。

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