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128組の勇者達  作者: AAA
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焚き火と進路とトイレ

 日が暮れる頃、雑草と小指ぐらいの干し肉の塩スープと幼虫の串焼きを食べ終え、食後の休憩を取っていた。

 意外にも、幼虫の串焼きや雑草のスープを、聖女様もレティシア様も文句一つ仰られずに、口にして頂けた。お二人とも、眉をしかめたり、涙目ではあったが。

 リシェルとコーズに掘ってもらった穴の中では、とって来た薪が勢い良く燃えており、その熱気が穴を囲む俺達の身体を優しく温める。穴の中にある為、光は殆ど漏れてこず、対面に座るレティシア様の顔をぼんやりと照らしていた。


「それで、ここからは真っ直ぐ東に進むのか?」


 レティシア様が幾分柔らかな口調で尋ねてきた。

 頬にも赤みが戻って来ている。体力は大分回復したようだ。


「その前に現状確認です。コーズ、魔族の数は何人位いた?」


「あー、多分、鎧が三十、奇襲した奴が二十位だよ」


 合計五十か。街道に残った勇者達が多少数を減らしてくれているかもしれないが、あまり期待は出来ない。

 それに魔族に予備戦力があるはずだ。これだけ用意周到な策を使ってきたんだ。何かあった時の為に、予備戦力を残しているはずだ。

 問題は予備戦力の量だが、荷物持ちが予想できる訳がない。ここは専門家達に聞こう。


「リシェル、ヒルデルカ。魔族の予備戦力はどれ位居ると思う?」


「十位かしらね。こんな前線から離れたところで戦うのに、出し惜しみしているはずがないわ」


「それは同意するよ。だけど人数は五から七、それも補助タイプだけ。それ以上は居ないさね」


 自分の意見にケチをつけられたリシェルが面白くなさそうに目を細める。


「へー、随分断定的だけど、理由は?」


「ん、理由かい。土砂で挟んで聖女様を連れ去るつもりなら、予備戦力を投下するタイミングが二回あった。あたい達が援軍に来た時、聖女様を荷台に乗せて逃げた時。そのどちらにも、戦力を投下していない」


 確かにヒルデルカの言う通りだ。

 策の破綻が見えていたんだ。あの時予備戦力を投入しないのは可笑しい。あそこで逃がした所為で、山の中を逃げる俺達を追いかける面倒くさい事になっているんだ。

 まぁ、そこは置いておいて。


「そうすると予備戦力は十、魔族が全員生き残っているとしたら六十も居るわけだな」


「ちょっ、カール!」


「落ち着け、ヒルデルカ。お前の言ってる事は正しいと思うけどさ。ここは最悪を考えようぜ。なにせ聖女様の身柄と、巡礼の成否がかかってるんだ」


「まぁ、確かにね」


 不承不承ながらもヒルデルカは矛を収めた。


「さて」


 軽く手を叩いて、場の空気を入れ替える。


「相手の事は分かった。今度はこっちの事だな」


 一同を見渡す。

 コーズとヒルデルカ、リシェルの三人はまだ元気だ。

 レティシア様は多少をお疲れになられているようだが、今日のペースであれば問題ないだろう。

 聖女様は最悪、縄でお体を固定して背負えば、何とかなる。

 問題は、グリンだな。疲労が激しい。何度も力を使った所為だろう、ゆっくり休ませないと途中で脱落しそうだ。今も一言も喋らないで、体力回復に勤しんでいる。


「皆、あの魔族とどれ位戦える? ちなみに俺は無理」


「僕は五人までなら一度に相手取れるよ」


「あたいは三人」


「わたしとグリンは一対一なら何とか」


 コーズ、ヒルデルカ、リシェルが答える。

 リシェルの奴、嘘つきやがって。

 最初の土砂崩れの時、ヒルデルカを倒せると言ってたんだ。三人までは相手に出来るはずだ。

 勇者と互角に戦える紋章持ちなんて居ないから、仕方がない嘘だが、良く追い詰められたこの状況でそこまで頭が回る。

 グリンも三人相手に出来るとすると、合計で十四人までは一度に戦っても何とかなりそうだ。

 まだ、戦力としては心もとない。こっちは足手まといが一人と聖女様がいるんだ。その護衛でヒルデルカかコーズは手一杯になる。

 理想はレティシア様が魔族一人位相手に出来ればいいんだが、無理だろうなぁ。

 駄目元で聞いてみるか。


「レティシア様は如何ですか?」


「私か。私も一人では無理だろうな」


 はい、足手まといが二名になりました。

 一人目? 俺だよ、畜生。

 これは仕方ない。勇者でも苦戦するような魔族が相手だ。比較対象が悪すぎる。

 小さく肩を落とした俺だったが、レティシア様の次の言葉で肩が跳ね上がった。


「しかし、回復魔法が使える。足手まといにはならん」


「本当ですか!」


 レティシア様の意外な特技に、思わず身を乗り出した。


「あ、ああ。私は剣より魔法の方が得意でな。特に回復魔法は勉強した。簡単な切り傷位なら一瞬で治せる」


 よっしゃ、ついてる。

 俺は思わず、拳を握った。

 補助魔法の次に難しく、最高位魔法とも呼ばれる回復魔法。治療魔法は回復魔法の中でも最も難しいとされてる。こんな所に居るなんて、まだ天に見放されていない。

 俺はレティシア様の手を握り締めると、深々と頭を下げた。


「ありがとうございます。お陰で生存率があがりました」


「な、なんだ。そんなに喜ぶ事なのか? 回復魔法なんぞ、近衛兵の必修科目だ。近衛兵ならば誰でも使えるぞ」


「はい、これで怪我や毒によるリタイアの可能性が格段に減りました。これで戦力が二倍、三倍に増えたも同然です」


「うむ、そう言うものか」


 これで味方の事も大体分かった。

 後は今後の事だな。聖女巡礼がソワールに到着する予定日は、確か一週間後だ。ここからソワールまで、真っ直ぐ進めば、今日の移動速度でも、大体四日で到着するだろう。

 無論、妨害がなければ、だ。

 妨害は、あるだろう。相手がこの状況を予想していないとは思えない。山の中に逃げられて姿を眩まされるのは、魔族側にとっては歓迎できない状況だろう。

 ここは前線から遠い。大部隊が展開できる場所じゃない。そうなれば、一気に山狩りできるだけの戦力はないだろう。カと言って、敵地のど真ん中で時間をかけた作戦なんて出来るわけがない。

 つまり、この状況でもどうにかなる、もしくはどうにかする策を考えているはずだ。

 心配しすぎかもしれないが、慎重に進めなくてはいけない。ここで間違えれば、聖女様が連れ去られ、魔族と人間の全面戦争が始まるかもしれないんだ。

 気付けば、手のひらが汗でグッショリと濡れていた。ズボンで手のひらを拭い、大きく息を吐いて不安を押し出す。

 聖女様に視線を合わせ、口を開く。


「それでは、味方の事も分かりましたので、今後の予定についてご説明します」


「頼むぞ」


 答えたのはレティシア様だ。聖女様は無言でこちらを見ている。


「まず魔族の追っ手をかわす為に二日間北上し、そこから東に進みソワールへ向います。六日後にはソワールに到着するつもりです」


 手にした枝で地面を引っかき、L字の進路を描く。


「ここから真っ直ぐ北上します道が険しくなり、凶悪な魔物や動物の縄張りになります。最も厳しいルートです。まさか相手もそんなところを通るとは思わないでしょう」


「つまり、相手の裏をかくわけね」


「ああ、そうだリシェル。東に真っ直ぐ行けば最短距離なんだが、そちらは比較的歩きやすいし、水も大量にある。魔族もそこに人員を配置しているはずだ」


 先ほど書いた進路に東へ直進する進路を書き加えて、途中でバツをつける。


「追っ手を振り払う為に、ご不便をお掛けしますが北上するルートをお許し下さい」


「好きになさい。此度の巡礼、指揮権は貴方が持っている。思うが侭に振るいなさい」


「はい」


 尊大に語る聖女様を前に、俺は深々と頭を下げた。

 レティシア様は何か文句を言いたそうな顔をしていたが、何も言ってこない。聖女様が許可した以上、口を挟めないんだろう。

 よし、暴れ馬を居るには将を射よ作戦成功! ここで、訳の分からない論理で拒否されたら、やばいからな。

 俺がにんまり笑っていると、突如、グリンが立ち上がった。

 敵襲か!

 さっきのルートは破棄か。正面に囮を置いて、強行突破に進路を変えるか?

 緊迫する俺達を前に、グリンが明後日の方をみる。


「すまん、すこし用を足してくる」


 そう言い残して、グリンは茂みの中に消えていった。

 なんだよ、脅かしやがって。

 皆、苦笑いを浮かべている。俺も同じ表情をしているだろう。


「そういえば、どうなんだろうね。魔族の狙いは?」


 弛緩した空気に押されてだろう。ヒルデルカの口から言葉が滑り落ちてきた。

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