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ふたり暮らし。~甘える彼に溶かされて~  作者: ぺんなす


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9/9

緩む口元を引き締めて

次の日。

出社して、仕事に取りかかり気がつけばお昼の時間になっていた。パソコンに向かっている間、頭の中は仕事のことだけ。けれど、お昼休みという仕事から離れた時間になった途端、顔が熱くなってしまった。

何気なく開いたスマホの画面には、冴島くんが表紙を飾っている雑誌の写真が表示されている。たまたま、目についてしまっただけだったけれど、熱くなった理由は写真ではない。昨日の夜のことを思い出してしまったからだった。

なんだか落ち着かないことが多かった昨日は、彼と一緒に寝ることによって、さらに落ち着かなくなってしまった。初日と同じように一緒に寝たいと言われ、また抱きしめられたらどうしようかと迷ったけれど、彼が連れてきたぬいぐるみたちのことを思い出し、大丈夫だろうと了承した。けれど、そんな考えはすぐに打ち砕かれることになる。ぬいぐるみを抱きしめながら、彼は私より先に眠りに落ちた。その姿を見て安心した私が目を閉じて眠ろうとした、その瞬間。寝返りを打った勢いで彼の腕が私へ伸びてきて、再び彼の腕の中へ閉じ込められてしまった。ぎゅっと抱き寄せられる。その状態は抱き枕と大差がないほど。彼と私の間にはぬいぐるみがあったけれど、彼の腕は確かに私ごと抱きしめていて、心臓が破裂しそうなほど音を鳴らしていた。それは、とてもうるさいもののはずなのに、彼の体温に包まれているうちに瞼は重くなり、気づけば眠りの中へと落ちていた。目が覚めた時には彼の姿はなく、私の腕の中には彼が抱きしめていたぬいぐるみがあった。スマホを開くと彼からのメッセージがあり

『おはよう。京香さんのおかげで昨日もぐっすり眠れたよ。ありがとう』

と共に送られてきたのは可愛らしいうさぎのスタンプ。昨夜の出来事が全て夢だったのではと思うほど、ふわふわとした朝。

「…ふふ」

空気の抜けたような心地に笑ってしまった。そのまま朝ごはんを食べ、支度をして出社、午前中の仕事を終え、今に至る。もう一度スタンプを見ると、頬の熱が少しだけ落ち着いてきた。

「ふぅ……」

今夜はそうならないように気をつけないと。毎晩なんて心臓がおかしくなりそう。…布団買った方がいいわよね。

なんてことを考えていると

「おつかれ。木乃恵」

久坂がやって来て、私の隣に座った。

「久坂。お疲れ様」

「木乃恵ってえらいよな」

隣に座った彼の視線が、私のお弁当へと映る。

「急になによ」

「いや、毎日弁当作ってるからさ。すごいなって」

「…あなたもたまには作ってみたら?買ったものばかりじゃ栄養が偏るわよ」

そう言いながら机の上に置かれているパンを見る。久坂っていつもコンビニで買ってるみたいなのよね。まぁ、いつも元気そうだから多分大丈夫なんでしょうけれど。

「俺は好きなもん食って適当に生きるくらいがちょうどいいんだよ」

「好きなものを沢山食べられるように健康に気をつけるんじゃないかしら?」

「……確かに」

パンに視線を落とした久坂が、顔を上げ私を見つめる。

「…てか、昨日見てたあいつ。木乃恵、興味あんの?」

「え?」

突然、冴島くんの話を出され、スマホから視線を逸らした。

「…あれは、ただ見てただけよ。たまたま出てきただけで、興味があるとかじゃないわ」

……大丈夫。嘘は言っていない。昨日は、ただどんな人なのか調べてただけだもの。興味があるとかじゃなくて、知る必要があっただけ。……一人でこんな言い訳みたいなことして、何してるのかしら…私は……。

「……ふーん」

久坂の返事はどこか素っ気ない。聞いてきた張本人なのに。そんな様子の久坂に、素朴な疑問を投げかける。

「…どうして久坂がそんなことを気にするの?」

そう首を傾げて聞くと、パンを食べようと近づけていた久坂の手がピタリ止まり、空いている手で頬杖をついた。そして

「……別に。何となく聞いただけ」

プイッとそっぽを向く。

「……そう」

久坂は時々よく分からない行動を取ることがあった。この前も私が近寄ったらなんだか様子がおかしくて、耳が赤くなっていたような気がする。それでも気のせいかもしれないと思って何も言わなかったけれど。じっと久坂を見ていると、こほんと咳払いをした久坂がこちらへ向き直った。パチリと目が合ってすぐに逸らされる。……やっぱり、変な気がするわ。でもなんて聞けばいいのかしら。一人で正解も無さそうなことを考えていると、一口水を飲んだ久坂が口を開いた。

「…そういや飲みの話どうなったんだよ。埋め合わせしてくれるんだろ」

「そうだったわね。……うーん、今週は二人とも忙しいわよね?来週空いてる日あるかしら」

「来週な、あー……金曜とかどう?」

「金曜ね。分かったわ。お店は私が─────」

良さそうなお店を探そうとした私のスマホに大きな手が覆い被さる。

「いや。俺が探しとく」

「え、でも」

「いいから。俺に任せとけって」

「そこまで言うなら…久坂に任せるわ」

「おう。任せろ」

いつの間にかいつもの久坂に戻っていて、さっきまでのは何だったのかなんて気にならなくなってしまう。

「それじゃあ私はそろそろ行くわ」

「あぁ。またな」

「えぇ」

席を立って、自分のデスクへ向かう。その間、私の頭の中は今日の夕飯を何にするかで埋まっていた。

昨日はお肉だったし…今日はお魚にしようかしら。あ、彼の苦手なもの聞いておくべきだったわ。帰ったら聞きましょう。そう考えていた時、自分の口元が緩んでいることに気づいた。一瞬だけ立ち止まって、仕事モードに入る。軽く深呼吸してから午後の仕事を再開した。

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