譲れない!これはプライドの問題です
突発的な嵐のような師匠が立ち去って。静まり返る部屋には、私とセルヴィスの二人(一人と一匹?)だけ。
セルヴィスは脱力しちゃっています。あまり他人と話す機会のないセルヴィスにとっては、なかなかに疲れる時間だったようですね。
でも私が見てることに気が付いて、すぐに困ったように笑ってくれました。
「あー、その。改めて……、オレはセルヴィス。よろしく?」
まさに破壊的可愛さ! 完璧です。完璧な可愛さです、大好きです!
『はい! 私はあなたの可愛さの僕、あなただけのペット、スライムのリリィです! この命尽きるまで、絶対に傍から離れませんから!!』
「………え?」
あまりの可愛さにちょっとばかりテンションを間違えてしまった気もしますが、仕方ないですよね?
。 ゜ 。 〇 。 ゜ 。
『───ペットって、案外つらい立場なんですね。師匠……。』
「なんですか藪から棒に。邪魔ですから書類の上から退きなさい。」
スライム生、初のセルヴィスとの会話から2週間。
鬱陶しいとばかりに師匠に机の上から払い退けられました。落ち込む弟子が助けを求めているのに、なんて冷たい師匠なんでしょうか。
現在地は町にある冒険者ギルドの、ギルドマスターの執務室。『ヴェリアル・スライム』について教えてくれたギルドマスターさんにちょっと聞きたい事がありまして、セルヴィスに連れてきてもらったら。そこにいたのは濡羽色の髪をした人間の女性、
────に化けた、我が師匠。梛様。
噂に聞いたギルドマスターさん、なんと師匠でした。
師匠ってば何してるんですか!?と叫びかけたのを無理やり堪えて、ヘンな声でちゃいましたよ。おかげでセルヴィスに変な目で見られましたし。もちろん師匠が人間の中で生活してるのは知っていましたが、まさかギルドマスターなんて目立つ職についているなんて…。
まぁただの人間が、ドラゴン族も知らないようなスライムについて知ってるなんて、おかしいとは思っていましたが。
不思議そうな顔をするセルヴィスに必死で外に出ているようにお願いして、今は師匠と二人きり。今頃セルヴィスは偶然ギルドに来ていたディロックと猫獣人のリューラと、階下でお喋りでもしているでしょう。
そして今現在、師匠に軽くあしらわれているわけです。
『うぅぅ~。ひどいです、師匠。』
「酷くありません。ギルドマスターの仕事は多忙なのです。」
『長年会っていなかった弟子が悩んでいるんですよ?師匠として相談に乗ってくれてもいいじゃないですか。』
「はぁ、仕方ないですね。聞いてあげますから、さっさと話してとっとと去りなさい。」
そんな盛大に溜息をついて追い出そうとしなくても!
『むぅ……まぁいいです。あのですね、私の食事って魔物なんかから採れる魔石じゃないですか。幸い中級の水の魔法が使えるので、ユフィ―と共に自力で狩ってるのですが。』
「ドラゴンと一緒に狩りをするスライムとか、常識を無視してますね。」
『放っといてください。家にある魔石は、セルヴィスが街で暮らす時の為の大事な財産なんです。なのに〈ペットの世話をするのは飼い主の役目〉だって、危ないから狩りに行くなって言うんですよ。欲のないところも尊くて大好きだけど、セルヴィスの為の資金を食い潰すとかあり得ません!!』
「素敵な主人じゃないですか。ペットらしく養われていては?スライムなんですし。」
『そうですけど! スライムになっても、私はセルヴィスの庇護者なんです。』
ディロック達から聞いた話では、私が昔集めた魔石は大きいものだとキゾクのヤシキとかいう大きな大きなお家が建てれるんだそうです。人間なら大人数でも狩れるか怪しいレベルの魔物の魔石は、貴重で高価。余談ですが『スライムに食べさせていい代物じゃないだろ!』とディロックが嘆いてました。
でもセルヴィスの為の魔石を食い潰すなんて駄目、自分で採る!と言い張る私。
それに対し、悩んだ末にセルヴィスが出した答えは。
「どうせ肉を得るのに狩りをするから、冒険者ギルドに登録しよう。そうすれば肉はオレの食料に、魔石はリリィに、残りはギルドで売って魔石にすれば得た金銭で更に魔石が買える。だからリリィは危険なことはしないで。」
───まさかのお答え。
町にあまり出たがらなかったセルヴィスが、自ら町に、ギルドに関わるだなんて。それはつまり、一人寂しく森に閉じこもっていたセルヴィスが、森から町に出ていく第一歩? 他人と関わり、大切な人間を作ったりして幸せになる第一歩では?
しかもそこまでする理由は、私の身を案じての事!
庇護者としての私のプライドと、セルヴィスの幸せへの第一歩。でも犠牲になるのはセルヴィスの労力や稼いだ全て!
『セルヴィスが森から出る良い切っ掛けだとは思うんです。ですが! やっぱりセルヴィスが頑張って稼いだ魔石やお金を食い潰すのも嫌なんです! ……お互いに譲らず、今は間をとって狩りに行く回数を半減し、代わりにセルヴィスの魔石を半分だけ貰っているのですが、なんとかセルヴィスに諦めさせる方法はないでしょうか?』
何故か師匠から生暖かい視線を向けられました。「もう今の状態が一番良いのでは? 護るモノがあると人間はより成長が望めますよ。」と諭すように仰る師匠。
た、確かに師匠の仰る通りなのですが…っ
庇護者としてやっぱりどうしても譲りたくないんですよぉー!!!




